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65.アイスウォ-カ-

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 亜空間ベース『レオン』の食堂では、メンバ-の紹介が始まっていた。
 集まったメンバ-は、響、クロエ、チ-ム『ファルコン』のメンバ-、ジュリアン・コ-ン、ア-リン・リドル、モカ・ピンチ、冒険者組合組合長マリア・レジ-ナ、フェスタ-騎士団アリス・ノートン団長、ヒビキアイランド・王都アルンのウルム・ダイチ公爵、アルン村のウルム村長は、響の名字を受け継いで、今では公爵となっていた。
 そして、コタン村のアクラ、キリク、モンタナ、パ-ソンの四人が集まっていた。
 マエラは、出血が多く片足を無くしたものの命は取り止め、今はメディカルポッドで治療中だ。

 「響様、まずは村の者達を救っていただき、ありがとうございました。」

 「いいえ、敵があそこまでとは、思っていなかったので………もっと早く助け出せていれば」

 アクラ族長の言葉を聞き、響は自分の考えの甘さを痛感していた。
 助け出せたコタン村の住人は、百九十七名。
 戦闘で八十五名が亡くなっていた。
 「敵が山を越えて来る事は無い」と聞かされて、警戒していなかったこと。
 魔王の能力を得て、自分の力を過信していたこと。
 味方を気遣いながら敵と戦う難しさ等、今後考えないといけない事が多くあった。

 「響殿、ところでここは、何処なのでしょうか? 窓一つ無いようですが………」

 「モンタナさん、あなた達の今後が確定するまでは、詳しい話は出来ませんが、安全な俺達のアジトだと思って下さい」

 アクラ族長達が行く行くは、またガズール帝国に戻るのであれば、余り詳しく説明する必要がないと、響達は考えていた。
 現在『ヒビキアイランド』に住む人達は、全員が故郷を無くした者達だったからだ。
 ちなみに、『ファルコン』のメンバ-とマリア組合長は、成り行き上仕方なくである。
 
 「それじゃまず。今後の事を決める前に、響くん、その二体のアイスウォ-カ-の映像を見せて貰えますか」

 「はい、組合長。琴祢、モニタ-に出してくれ」

 「了解!」

 当初、モニタ-に映る映像を見て驚いていたマリア組合長も、恋愛ドラマのとりことなってからは、夜な夜な毎日のように来ては、酒を飲みながらドラマ談議に花を咲かせていた。
 モニタ-が現れ映像が映し出されると、アクラ族長達も驚いていたが、それよりも増して驚くべき内容が映像にあり、アクラ族長達を驚嘆させる。
 映像には、突如現れた響がブロードソードで、アイスウォ-カ-に斬りかかり、アイスウォ-カ-の槍の穂先で跳ね返されると、ブロードソードは氷付き粉々になっていた。
 響が、コートから新たに二振りのブロードソードを両手に取出し、斬りかかるとまた二振り共に粉砕されてしまう。
 その時、映し出されたアイスウォ-カ-の姿を見た、アクラ族長達は凍り付く。
 王族風の鎧をまとうアイスウォ-カ-の、ミイラの様に肌の張りが無い顔は、目だけが青く異様に輝いていた。
 その顔を見たアクラ族長達は、目を丸くして映像を見入っていた。

 「王と第一王子ではないのか?」

 パ-ソンは、モンタナに確認する。
 パ-ソンよりも、警護担当のモンタナの方が、王や王子達の元で働く事が多かったからだ。

 「………間違いない………やはり、病ではなかったか」

 「トリニド王子、ここまでむごい事をするとは………許せん!」

 王や王子である事を確認したパ-ソンは、その悔しさを怒りへと変えて行く。

 「この後は、どうなったんだ響」

 ジュリアンは、クロエと二人いつの間にか酒を片手に、つまみを食べていた。
 緊張感のない二人を見て、申し訳なさそうに響は、話の続きを話し始める。

 「この後は………剣ではアイスウォ-カ-に太刀打ち出来なかったので、モンタナさん達を逃がす為に、砦に引いたんですが………」

 「そこは私から話そう。響殿が戻る前に炎の壁の勢いが消えて来た。そこに魔物が押し寄せて来たのだ。私が目を離している内に、それを食い止めようと第一小隊が、砦の外に出て行ってしまった。その後、響殿が戻って来て、残った者を後退させたんだが、その時には………第一小隊の奴らは、魔物の渦に飲み込まれて、助け出しようが無かった………そして我らが後退して直ぐ、あの隕石が落ちて来たのだ」
 
 この時の映像もあったのだが、内容が内容なだけに、響は皆に見せなかった。
 
 「その隕石は、やはり………」

 アクラ族長は、響に「隕石を落としたのは貴方か」と、確認するかのように悲しい目で、響を見る。
 響は、ゆっくりと頷く事しか出来なかった。

 「仕方ありませんね。あの者達も悔いは無いでしょう。村の者達が百九十七名も生き残ったのですから」

 「そうじゃな………」

 キリクの言葉に、現実を受け入れようとするアクラ族長は、頭を二度縦に振り、キリクの顔を見つめるのであった。

 「あの隕石でも、アイスウォ-カ-は倒せなかったんだろ。どうするんだい?」

 クロエも、アイスウォ-カ-に付いては、知らないようだった。
 
 「この映像を見て欲しい」

 響はモニタ-を指さして、最後にアイスウォ-カ-の姿を捉えた映像を映し出す。そこには、馬に乗る王と片腕を失くした王子が、王の横に立っていた。

 「なるほど、アイスウォ-カ-も無敵ではないと言う事ね! 王子の馬と左腕を、奪ったんだから」

 響でも太刀打ちできない奴が王都サリュースに現れたら、どうすべきか考えていたマリア組合長は、内心胸を撫で下ろしていた。

 「響様、アイスウォ-カ-に対抗する武器が必要ですね………そう言えば、アイスウォ-カ-の持っていた槍は、どのような物だったんですか?」

 「アリス団長、それに付いては琴祢が解析中なので、もう少し時間がかかりそうです」

 アックス持ちだったアリス団長は、前に悪魔ガルニアに襲撃を受けた時に、シ-ドル公爵夫婦と自分の左腕を失っていた。しかし、現在アリス団長の左腕は、ガ-ディアンのパ-ツから作られた義手が付けられ、なんの不自由もなく過ごしている。

 「あの二人が王と王子なら、二人を助け出して政権を取り戻すのは、もう無理ですね………」

 「………………」

 キリクの言葉に、アクラはどう答えていいか分からなかった。
 考えていた計画が、全て無に帰したのだ。
 帰るべき村が無くなり、頼みの綱の王と王子も敵の仲間にされていた。
 このまま、村の者を連れてガズール帝国に戻っても、追われるだけである。

 響がウルム公爵を見ると、響の方に向かってウルム公爵は、『うんうん』と頷いていた。
 自分達が味わった状況と、まったく同じ境遇の者達を見て、響の考えが分かったようだった。

 「アクラさん、我が国『ヒビキアイランド』に来ませんか?」

 アクラ達は、響が何を言い出したのか、理解出来なかった。
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