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64.コタン村崩壊

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 暗がりの中、村人達が持つ松明の灯りは、平野で待ち受ける敵の目にも鮮やかな炎の列を作り、襲い掛かる時期が近い事を知らせていた。
 アクラ族長とキリク族長夫人は、村人達を引き連れてふもとを目指していた。
 その足取りは、逃げ急いではいるものの、その中には老人や子供達も多く、彼らにとっては辛いものであった。



 ガズール帝国の重装歩兵の一団が、灯りも付けずに村人達の列を目指して進んで行く。

 「うぁ!」

 「助けてくれ! 地面が沈む! ぐっあぁぁ………」

 「待ち伏せか! 松明に火を点けろ! 状況が分からん」

 「地面に隠れているぞ! 気を付けろ!」

 「隊列を崩すな!」

 闇にまぎれて進んでいたガズール帝国の重装歩兵も、地の利を活かした元秘密機関タンバの待ち伏せを、避ける事は出来なかった。
 近づく重装歩兵の鎧の隙間を狙いナイフを刺し、姿をわざと見せて底なしの砂場に誘い込む。
 中には、落とし穴にはまり、杭に串刺しになって絶命する者もいた。
 しかし、松明の灯りにさらされた元タンバのメンバ-にとって、鎧と盾に守られた重装歩兵の連携の取れた攻撃には、成す術もなく槍の餌食となって行く。
 
 「第二第三小隊は、山へに向かえ!」

 部隊長の命により重装歩兵五百の内、二百名の重装歩兵が五列縦隊で、一歩ずつ地面を踏みしめながら村人達の方へと向かって行く。

 「マエラ隊長、敵の一部が村への道を登り始めました」

 「………………あれは………村の者達が危ない!」

 部下に教えられて上り道を見ると、山を登る重装歩兵の松明の灯りと、山を下る村人達の松明の列を見付ける。
 しかし、三百名もの重装歩兵の囲みを破り、村人達を助けに行くには、マエラの手勢は三十名程しかいなかった。
 そして、山を下る村人達の先頭に居たパ-ソン達も、重装歩兵二百と戦闘状態に入っていった。.

 「アクラ様、前方で帝国軍の重装歩兵と、パ-ソン隊長が戦っております。その数およそ二百。そして、麓でもマエラ隊長の部隊が戦っているもようです」

 「謀られたか………」

 パ-ソンの部下から報告を受けたアクラは、策を成した敵が魔物や死人を操る程の力を持ち、秘密機関タンバに係る者達を、根絶やしにしようとしている事を、改めて思い知らされるのであった。

 その時、辺り一帯を照らし、ごう音と共に天を引き裂いて、飛来する一つの隕石が村へと落ちた。
 その隕石の爆風は、アクラ達の頭上を通りぬけて、地面が地震のごとく揺さぶられて、立っている事が出来ない程であった。

 「アクラ族長! 皆、その場を動かないで!」

 アクラが後方を見ると、八十名程いた村人達が消え、村に残っていたはずの響が叫びながら走って来る。
 
 「響様、村の者達は………」

 「安全な所に送りました。話は後で! 族長達も直ぐに送りますから、琴祢! 終わったら直ぐ次たのむ!」

 「行くよ!」

 琴祢の返事と共に、アクラ族長他村の者達の姿は消えて行く。
 響は直ぐに、前方で重装歩兵と戦うパ-ソンの元に走り出す。
 
 敵との距離を開けないと転送は無理だな。

 響は、両手にブロードソードを持ち、パ-ソン達の肩に駆け上がると、交戦中の重装歩兵の最前列に斬り込んで行く。
 重装歩兵の装甲も、響のブロードソードの刃を防ぐ事は出来ず、アッと言う間に十人程を倒して行く。
 
 人を斬るのは、好きじゃない………けど、守る為には仕方ない………
 響よ。人でなければ良いのか? 都合のいい事を言う。そうやって人間どもは、遊び半分に多くの者を殺す。
 ベルランス、お前が言うな。今まで何人の人を殺して来た!
 フン。敵対する者に容赦はせん! 思い悩む事もない。

 銃で人を撃つのと、刃で人を斬るのでは感覚が違うように、初めて野人を斬った時と、重装歩兵を甲冑ごと斬った時の感覚に違いがある事に、響は気付く………斬る時の迷いが無くなっていたのだ。
 野人の時には、手や足を狙い動きを止めようとしていたが、重装歩兵を斬った時には、倒すべく体を狙っていた。

 「パ-ソンさん! 後退して!」

 響は、魔王ベルランスの声を断ち切るかのように、パ-ソンに指示を出す。
 重装歩兵を倒して行く、響の剣さばきの鋭さに驚いていたパ-ソンは、慌てて部下を引き連れて後退して行く。
 それを横目で確認した響は、重装歩兵から離れて『ダ-クショット』を放つと、パ-ソンの元に走る。

 「響殿、村の者達は?」

 「琴祢、回収。次に行く」

 「りょうかぁ~い」

 時間がないので、パ-ソンの問いかけを無視して、パ-ソン達を転送後、空間移動でマエラの元に移動する。
 
 そこは一番の激戦となっていた。
 正面切っての戦いでは、三十六対三百の重装歩兵その後ろには、騎兵が三百と多勢に無勢の戦いとるため。
 マエラ達は、少人数でのタッチアンドゴー作戦に徹していた。 
 要するに、一撃を加えて直ぐに後退し、後退の瞬間他のチ-ムが別な方向から攻撃して、また逃げると言う作戦だった。
 そんなマエラ達に近づいた響は、重装歩兵の目の前に『ダ-クショット』を放ち、重装歩兵の足止めをする。

 「マエラさん、後方に退避して皆を集めて下さい!」

 覆面をしたマエラは、頷くと後方に引いて行く。暗部のメンバ-は、仲間内にも顔を見せる事は無い。
 響は念のため、火を点けた火炎瓶も投げておく。
 重装歩兵の歩みが止まり、これで十分と確信した響は、マエラの後を追うのだった。
 
 後方に引くと、十二人程の集団が岩陰に隠れていた。
 驚かさない様に、その手前で走るのを止め歩いて近づく。
 その時、山頂から青白い閃光が飛んで来る。

 「危ない!」

 不意に響は抱き付かれ後ろに倒れ込む。
 その時、胸に当たる感覚は、女性のふくよかな胸その物であった。
 この様な時でも、そんな所に気付くのが男なのである。
 響が、抱き付く女性に目をやると、その人物は覆面姿のマエラであった。
 
 「足を! 私の足を切り離して!」

 叫ぶマエラの左足を見ると、アイスウォ-カ-が持っていた槍が、マエラのふくらはぎを貫き凍結し始めていた。
 響は、立ち上がるとブロードソードで、マエラの左足を膝の所で切り離す。
 槍の刺さった左足は、あっと言う間に氷付き、響が槍を地面から抜くと、マエラの左足は粉々になってしまった。

 「クソッ、奴ら生きていやがったのか! 琴祢、撤収だ!」

 マエラの部下達が集まるのを確認して、琴祢は響達を転送するのだった。
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