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72.ナイン同盟

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 「ガルニア様、アジトで亡くなったものと思っておりましたが、あ奴ら戻って参りました。あ奴に付けた男達に、始末を言い付けていたのですが………私の失敗です」

 執事は、お茶のセットを乗せたトレ-を持って部屋に入るなり、悪魔ガルニアに状況報告をする。
 男達とは、アジトで響が気絶させた男達の事である。

 「まあ良い。ここへ呼べ」

 悪魔ガルニアは、もう一人無能な執事が目の前に居る事を、確認するのであった。

 「はい、畏まりました」

 執事は、別室で待たせていた紳士風の男とヘン・タイリンを、呼びに行く。
 二人は、執事が来るのを待っていたかのように部屋を飛び出して、悪魔ガルニアの待つ部屋へと向かう。

 「やはり、あのアリシアなる者はクロエが、化けておりました! ガルニア様が、おっしゃられた通りでございます」

 紳士風の男は、自分が犯した失敗の言い訳でもするかのように、早口で報告をし始める。

 「そうですか………では、クロエはそのスキルを、どのようにして取得したのでしょうか? 町や村、人が消えた事も、気掛りですね~」

 「そう言えば、あの覆面の男が急に現れなければ、クロエを逃がす事は無かったのです」

 「覆面の男………? それで、クロエ達は、どうなりました?」

 悪魔ガルニアは、覆面の男に引っ掛かる。
 魔王が死に、その復活までのには、最低でも後、数百年は必要なはずである。
 しかし、クロエの後ろで揺れ動く謎の男、魔王との関係が気になるのであった。

 「あれだけの火災です。生きているはずがございません」

 「貴方は、死体を確認したのですか?」

 「………………」

 下から睨み上げる悪魔ガルニアの目には、紳士風の男を震え上がらせるのに、十分な力を持っていた。
 
 「………………戦の時期を早める必要がありますね。………………お前達には、使者としてガズール帝国へ行ってもらいます。ム-ス公爵を、呼びなさい」

 悪魔ガルニアは、長年に渡り進めて来た。
 ランベル王国乗っ取りの為の作戦を、急ぐ事にした。
 このままでは、いつ横やりが入り、作戦に支障を来たすか分からないからだ。
 ガズール帝国には、紳士風の男とヘン・タイリン男爵を、それぞれの部下と共に送る。
 この二人には話していないが、この二人を送る事で、戦の火ぶたが切られる事となるのであった。





 「あぁ~~~あ! ひどい目にあった」

 亜空間ベース『レオン』に戻った響の服は、びしょ濡れであったが、ナノ加工された服や装備は、通常の数十倍の早さで、乾燥と汚れなどが落ちる仕組みになっている。
 しかし、下着の方は響のこだわりで、綿を含んだ下着を付けていた。
 ナノ加工された下着は、体にピタリとくっ付き気持ち悪いらしい。
 だが、濡れると綿の下着の方がより気持ち悪い事を、この時、響は気付くのであった。
 
 「響さん、これをどうぞ」

 「あっ! ありがとう………お帰り」

 「はい」

 響にタオルを渡してくれた女性は、茶色いベルトをアクセントに、鮮やかなオレンジ色のワンピ-スを着たティス・メイリンであった。
 ながらくアリシアの所で、羽をのばしていたせいか、何かが吹っ切れたような本来の雰囲気が、ティスの体中から感じられた。

 「アリシアさんと、ちゃんと話は出来た?」

 「はい、もう大丈夫です! 色々と取り決めもして来ましたし、お互いの気持ちも確認しましたから」

 「お互いの気持ち?………って何の事?」

 「それは、まだ秘密です。………女性は秘密を、持つものですよ!」

 響が見るティスのその笑顔は、今まで見て来た笑顔の中でも一番輝いていた。
 そのティス越しに、後ろのテ-ブルから、様子を伺うジュリアン達の中に、こちらを睨み付けるア-リン・リドルの姿が響の視線の中に入って来た。
 
 「………………ティス様、ご相談したい事がございますので、お時間を頂けないでしょうか?」

 「はい?」

 響の畏まった姿に、いやな予感しかしないティスであった。

その後、刺さるようなア-リンの視線を避けるかのように、ティスを連れて部屋を出た響は、自室に連れて行き、ア-リンに風属性のリングを渡した経緯いきさつを説明した。
 ティスは当初、ドキドキしながら話を聞いていたが、話を聞き進めるうちに、何故か感情的に響を問い詰める。

 「響さんは、ア-リンさんの事を、どう思っているんですか! それに私達の………」

 ティスは、思わず自分とアリシアの事を、ア-リンと重ねて聞こうとしてしまう。
 アリシアとはお互いに、響に対する気持ちを確認し合い。
 『抜け駆けなしで、二人で頑張ろう』と、『ナイン同盟』を結成したばかりであった。
 そして、『レオン』に帰って来て、最初の出来事がこれなのである。
 ティス達が考えたこの同盟、『ナインリング』からの『ナイン同盟』なのであろうが、その同盟員が二人だけとは限らない事を、今は考えてもいない。

 「私達?」

 「………それは、いいですから。ア-リンさんの事を、ハッキリしてください!」

 「はい!」

 ティスの剣幕に押され気味の響は、ゆっくりと後ずさりする。

 ティスって、こんな感じだったけ~。ただ、相談したかっただけなのに。
 ここから逃げ出したい………

 逃がしませんよ。響さん!

 「えっ!」

 声を出し驚く響は見た。ティスの後ろで、響を睨んでいるアリシアの姿を………
 アストラル体となったアリシアは、薄ぼけた姿で響の前に現れた。

 「「それで、どうなんですか! ハッキリして下さい!」」

 「勘違いとは言え。したってくれている事は、嬉しいです!」

 「「好きなんですか!」」

 「好きか嫌いかと言えば、二人と同じくらい好きです! あっ。………………」

 ティスとアリシアの噛みつきそうな権幕に、思わず言わなくてもいい事まで、言ってしまった響であった。
 その言葉に、ティスとアリシアは、思わぬ収穫にほくそ笑むのであった。

 「「よろしい! 後の事は、私達に任せて下さい! よろしいですね!」」

 「………………はい!」

 サラウンド放送で念を押された響は、何を任せたのかも分からずに、返事をするのであった。
 ティスとアリシアは、ご機嫌な様子で響の部屋から出て行った。
 そして、そこには響とティスの後を追って来た。ア-リンが、中の様子を伺いながら立っていた。

 「「あぁ、ちょうどよかった」」

 「えっ、幽霊………」

 アリシアの姿を見たア-リンは、二人に連れられてティスの部屋に入って行く。
 『ナイン同盟』のメンバ-が、三人になった瞬間である。

 その後、この三人は当分の間、響の前に姿を見せる事は無かった。
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