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74.タ-ニャは何処へ
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「トリニド殿下。エスタニア侯爵を、お連れ致しました」
ガズール帝国の近衛兵の案内で、玉座の間に入って来たその男は、一人の供を連れてトリニド・ガズールの前に来ると、膝まずき頭を下げる。
「エスタニア侯、よく参った。タ-ニャの行方は、今、我が手の者が捜索している。父と兄が病から回復するまで、我に手を貸してくれ」
「はい。殿下、我が娘の為に、ご尽力頂き感謝致します。我とブラッド騎士団三個大隊総勢三千。何なりとご明示下さい」
ゾンネル・エスタニア侯爵は、ガズール帝国上級貴族の中でも、ブラッド騎士団を率いる軍事力に長けた貴族で、雷属性の精霊魔法を操り、他国からは『雷のゾンネル』と呼ばれ恐れられていた。
そんなゾンネル・エスタニア侯爵の長女タ-ニャ・エスタニアは、ここ帝都ガズールの近衛として皇帝に仕えていたが、ひと月前警備中に突如その姿を消した。
その報を聞いたゾンネルは、直ぐにでも帝都に向かいたかったが、自領の村が野人の襲撃に見舞われ、これを撃退するのに時がかかり、帝都に今着いたのである。
「うん、それは心強い。ナルミその方も、美しくなったな。そのような出で立ちは、その方には似合わんぞ」
「殿下、姉の代わりに非力ではありますが、父と共にお仕え致します」
ナルミ・エスタニアは、父譲りの魔素量の多さから、幼い頃より父に雷属性の精霊魔法を習っていた。
それとは反対に、姉タ-ニャ・エスタニアは剣技に長けていたため、帝国近衛騎士として、皇帝に仕えていた。
「そうか………。それでは、エスタニア侯。最近、ランベル王国との国境線に近い村々が、謎の騎士達によって襲われている。この騎士達の身元を明らかにし、これを殲滅してもらいたい」
「「………………」」
帝都に着いて間もないゾンネル達は、タ-ニャの事が心配でならなかった。そんなゾンネル達を追い出すかのように、トリニドは、命令を下すのであった。
「タ-ニャの事なら、世に任せよ! 必ず探して見せる」
「畏まりました。殿下、これより探索に向かいます」
「んっ」
後ろ髪を引かれる思いを断ち切り、ゾンネル親子は玉座の間を後にする。
その後ろ姿を見送るトリニドに、近づく男がいた。ズルガ侯爵である。
「これで厄介なゾンネルも、ランベル王国との戦に巻き込めますな」
「ズルガ侯爵か! タ-ニャは、どんな様子だ?」
「大人しくしております。兄上の怪我が、思いのほか酷いですからなぁ~。今少しかかりますが、兄上の代わりになるかと思います」
「そうか。タ-ニャも父と兄の事を、探るような真似をしなければ、世の妃にでもしたものを」
タ-ニャとナルミは、ガズール帝国内でも知られた、母親似の美人姉妹であった。
その母も帝国内では、貴族達が競って花嫁に向かえようとする程の美しさであったが、ナルミが幼い頃に病で亡くなっていた。
そんな姉妹であるため、トリニドもタ-ニャを妃にと考えていたのだ。
「ズルガ侯爵、各地の貴族共と兵を集めよ。ゾンネルが遭遇戦に入り次第、ランベル王国へ宣戦布告だ」
「既に、準備は整っております」
「フン!」
トリニドの野望は、着々と進んで行くのであった。
「父上、よろしいのですか。野人討伐から帝都に着いてすぐに、謎の騎士殲滅だなんて………我々を帝都から遠ざけるような命令、兵達にも休息が必要です。それに、姉様の事が心配です」
「今は、トリニド殿下には逆らえん………トリニド殿下に従わなかった貴族の殆どが、改易になっている。これから向かう国境に近い村も、貴族が改易になり守る者がいないのだ。タ-ニャの事も心配だが、行くしかあるまい。陛下が病から回復するまでは、仕方あるまい」
この時、トリニドによる悪政は、ガズール帝国内を疲弊させていた。
それに異を唱える者は、ことごとくが投獄され、貴族の身分は剥奪、領地、屋敷は没収され、家臣たちは流浪の身となったのだ。幾らゾンネルが、軍事に長けていると言っても、国家を相手にするほどの力は持っていなかった。
城を出たゾンネル達は、兵を率いて西の国境に向けて進み始める。
騎兵三千ともなれば、その隊列の長さは、四列縦隊でもおよそ千五百メ-トルと言った長さになる。
「タイニ-は居るか?」
「はい、こちらに」
ゾンネルに付き従う指揮官達の後ろより、タイニ-・ギャレイ小隊長が、馬を前に進めてゾンネルに近づく。
「タイニ-、その方は小隊を連れ、帝都で武器・食料などの物資を調達して、我らの後を追ってまいれ。特に食料は、余分に集めるのだ。これから行く場所で、調達出来るとも限らんからな………それと、分かっているとは思うが………タ-ニャの事を頼む」
「はっ、畏まりました」
タイニ-は、馬の手綱を引き寄せ、自分の小隊の元へと馬を走らせる。現代の軍に於いては、武器弾薬・食料・燃料などの物資補給・輸送や兵器、馬などのメンテナンスを担う、『兵站』を専門に受け持つ部隊が存在するが。この世界では、手持ちの物資以外は、現地調達が当たり前なのである。
この『兵站』ラインを絶たれて、負けた戦は古今東西幾らでも存在する。それ程、『兵站』は、重要なのであった。
そして、もう一つ、タ-ニャの安否をトリニドに任せる程、ゾンネルはトリニドを信用していなかった。
帝都に戻るタイニ-の小隊六十名の中には、元秘密機関タンバのメンバ-も含まれている。
そして、タイニ-・ギャレイ小隊長も、そのタンバの一人であった。
ガズール帝国の近衛兵の案内で、玉座の間に入って来たその男は、一人の供を連れてトリニド・ガズールの前に来ると、膝まずき頭を下げる。
「エスタニア侯、よく参った。タ-ニャの行方は、今、我が手の者が捜索している。父と兄が病から回復するまで、我に手を貸してくれ」
「はい。殿下、我が娘の為に、ご尽力頂き感謝致します。我とブラッド騎士団三個大隊総勢三千。何なりとご明示下さい」
ゾンネル・エスタニア侯爵は、ガズール帝国上級貴族の中でも、ブラッド騎士団を率いる軍事力に長けた貴族で、雷属性の精霊魔法を操り、他国からは『雷のゾンネル』と呼ばれ恐れられていた。
そんなゾンネル・エスタニア侯爵の長女タ-ニャ・エスタニアは、ここ帝都ガズールの近衛として皇帝に仕えていたが、ひと月前警備中に突如その姿を消した。
その報を聞いたゾンネルは、直ぐにでも帝都に向かいたかったが、自領の村が野人の襲撃に見舞われ、これを撃退するのに時がかかり、帝都に今着いたのである。
「うん、それは心強い。ナルミその方も、美しくなったな。そのような出で立ちは、その方には似合わんぞ」
「殿下、姉の代わりに非力ではありますが、父と共にお仕え致します」
ナルミ・エスタニアは、父譲りの魔素量の多さから、幼い頃より父に雷属性の精霊魔法を習っていた。
それとは反対に、姉タ-ニャ・エスタニアは剣技に長けていたため、帝国近衛騎士として、皇帝に仕えていた。
「そうか………。それでは、エスタニア侯。最近、ランベル王国との国境線に近い村々が、謎の騎士達によって襲われている。この騎士達の身元を明らかにし、これを殲滅してもらいたい」
「「………………」」
帝都に着いて間もないゾンネル達は、タ-ニャの事が心配でならなかった。そんなゾンネル達を追い出すかのように、トリニドは、命令を下すのであった。
「タ-ニャの事なら、世に任せよ! 必ず探して見せる」
「畏まりました。殿下、これより探索に向かいます」
「んっ」
後ろ髪を引かれる思いを断ち切り、ゾンネル親子は玉座の間を後にする。
その後ろ姿を見送るトリニドに、近づく男がいた。ズルガ侯爵である。
「これで厄介なゾンネルも、ランベル王国との戦に巻き込めますな」
「ズルガ侯爵か! タ-ニャは、どんな様子だ?」
「大人しくしております。兄上の怪我が、思いのほか酷いですからなぁ~。今少しかかりますが、兄上の代わりになるかと思います」
「そうか。タ-ニャも父と兄の事を、探るような真似をしなければ、世の妃にでもしたものを」
タ-ニャとナルミは、ガズール帝国内でも知られた、母親似の美人姉妹であった。
その母も帝国内では、貴族達が競って花嫁に向かえようとする程の美しさであったが、ナルミが幼い頃に病で亡くなっていた。
そんな姉妹であるため、トリニドもタ-ニャを妃にと考えていたのだ。
「ズルガ侯爵、各地の貴族共と兵を集めよ。ゾンネルが遭遇戦に入り次第、ランベル王国へ宣戦布告だ」
「既に、準備は整っております」
「フン!」
トリニドの野望は、着々と進んで行くのであった。
「父上、よろしいのですか。野人討伐から帝都に着いてすぐに、謎の騎士殲滅だなんて………我々を帝都から遠ざけるような命令、兵達にも休息が必要です。それに、姉様の事が心配です」
「今は、トリニド殿下には逆らえん………トリニド殿下に従わなかった貴族の殆どが、改易になっている。これから向かう国境に近い村も、貴族が改易になり守る者がいないのだ。タ-ニャの事も心配だが、行くしかあるまい。陛下が病から回復するまでは、仕方あるまい」
この時、トリニドによる悪政は、ガズール帝国内を疲弊させていた。
それに異を唱える者は、ことごとくが投獄され、貴族の身分は剥奪、領地、屋敷は没収され、家臣たちは流浪の身となったのだ。幾らゾンネルが、軍事に長けていると言っても、国家を相手にするほどの力は持っていなかった。
城を出たゾンネル達は、兵を率いて西の国境に向けて進み始める。
騎兵三千ともなれば、その隊列の長さは、四列縦隊でもおよそ千五百メ-トルと言った長さになる。
「タイニ-は居るか?」
「はい、こちらに」
ゾンネルに付き従う指揮官達の後ろより、タイニ-・ギャレイ小隊長が、馬を前に進めてゾンネルに近づく。
「タイニ-、その方は小隊を連れ、帝都で武器・食料などの物資を調達して、我らの後を追ってまいれ。特に食料は、余分に集めるのだ。これから行く場所で、調達出来るとも限らんからな………それと、分かっているとは思うが………タ-ニャの事を頼む」
「はっ、畏まりました」
タイニ-は、馬の手綱を引き寄せ、自分の小隊の元へと馬を走らせる。現代の軍に於いては、武器弾薬・食料・燃料などの物資補給・輸送や兵器、馬などのメンテナンスを担う、『兵站』を専門に受け持つ部隊が存在するが。この世界では、手持ちの物資以外は、現地調達が当たり前なのである。
この『兵站』ラインを絶たれて、負けた戦は古今東西幾らでも存在する。それ程、『兵站』は、重要なのであった。
そして、もう一つ、タ-ニャの安否をトリニドに任せる程、ゾンネルはトリニドを信用していなかった。
帝都に戻るタイニ-の小隊六十名の中には、元秘密機関タンバのメンバ-も含まれている。
そして、タイニ-・ギャレイ小隊長も、そのタンバの一人であった。
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