NineRing~捕らわれし者たち~

吉備津 慶

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77.国境警備隊からの知らせ

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 亜空間ベース『レオン』の自室で目覚めた響は、着替えを済ませて食堂へと向かう。
昨夜は、魔王ベルランスとの話し合いが朝まで続き、意識の統合による知識では、補えない部分の話が出来たと思う。
 食堂に入ると、そこには長らく会っていなかった。
 ティス・メイリンとア-リン・リドルの二人が、食事をしていた。

 「「おはようございます」」

 二人の挨拶を告げる声は、清々しく見事にハモっていた。

 「あっ………おはよう」

 先日、自分の思いを強制的に言わされた響は、気恥ずかしい。
 ここから逃げたい気持ちが、足のつま先に出ている。右足のつま先が、出口の方に向いているのだ。

 お前、あの娘達と何かあったのか?
 どちらかの娘が、お前の女だとか?

 いや、何にもないよ………

 魔王ベルランスは、響の脈拍が上がった事で、『コイツは嘘を付いている』と悟った。
 響は、体内に魔王ベルランスを抱える事で、ポリグラフにかけられているのと同じく、魔王ベルランスには、嘘が通用しなかったのだ。

 「響さん、和食でよろしいですか?」

 「はい、お願いします」

 エプロン姿のティスの問い掛けに、ぎこちない返事を返す響であった。
 そして、その向こうでは、エプロン姿のア-リンが、お茶を入れていた。

 異世界の女にエルフか、どちらもいい女だ。そうか、あの二人にリングを渡したのだな………。

 リングの能力が使える者は、多い方がいいからな。

 「はい、お茶です。熱いから気を付けて下さいね」

 「ああ、ありがとう!」

 この前のア-リンとは違い、どこか落ち着いた感じがするのは、ティスとアリシアとの話し合いのせいなのだろうか。
 朝一番の熱いお茶は、頭を目覚めさせるのに最適である。

 「お待たせいたしました。響様」

 「ありがとう、バイオレット」

 響の前に、食事を乗せたトレ-を置いた女性は、ティス付きのメイドロイドの一人、バイオレットである。後、もう一人のメイドロイドのブル-は、今王都アルンに居る。
 前は、メイドロイドに名前は無かったが、呼ぶ時に不便なので、赤毛ロングをバイオレット、シルバ-ショ-トをブル-と名付けていた。

 「わー、シジミの味噌汁か! これ好きなんだよな~」

 本日のメニュ-は、赤だしシジミの味噌汁、ベーコンエッグ、野菜サラダにご飯だ。
 響は、シジミの味噌汁を一口飲んだ後、シジミを貝から一つ一つ外して行く。
 そして、味噌汁の椀の中にご飯を入れると、一気にかっ込む。『深川めし』ならぬ『シジミめし』だ。
 ご飯を味噌汁の椀に入れるのは、父の教えで『飯を味噌汁の具にする』と言う考え方だそうだ。
 昔から日本で、米を大切にしていた事から、父はそうしていたのかもしれない。
 響が食べた物は、魔王ベルランスの所でも再現される。

 これは何処の国の料理だ! 美味い! 我の知らない料理が、まだこの世にあるとはな。

 これは俺の国の料理だよ! まだまだ他にもあるから、楽しみにするといい。

 そうか………。クロエの居た部屋に、食い物が無い訳だ。

 クロエがいつも、リングの外で食事をしていたのに、魔王ベルランスも気付いたようだ。
 だけど、元々クロエは、料理を自分で作った事が無い事を、魔王ベルランスは知らない。

 「ふぅ~、ご馳走さま!」

 響は、シジミの味噌汁を、汁だけお代わりして一気に飲み干す。

 「味噌汁は、どうでしたか? ア-リンさんが、作ったんですよ」

 ティスは、響の湯飲みにお茶を注ぎながら伝える。

 「………美味しかったよ!」

 ティスの言葉に驚いた響は、ティスの後ろで心配そうに、響を見つめるア-リンを見て、笑顔で答えるのであった。
 ティス達三人は、毎日互いの知っている料理を教え合い。棚に並んだ料理本を参考に、レパ-トリ-を増やしていたのだ。

 「よかった………」
かも
 エプロンを握りしめながら、はにかむア-リンの姿は、ハイエルフの美しさを存分にかもし出していた。

 「………………」

 そんな姿を見せられると、響の心臓もバクバクである。

 そうか! お前は二人共好きなのだな。

 うるさい!

 脈拍の異様な速さで、魔王ベルランスは確信したのであった。





 「オクタ-ビア大公! 国境警備隊からの知らせでは、ガズール帝国の軍勢が国境に集結中との事です。現在、確認出来た兵の数、およそ一万二千との事です」

 オクタ-ビア大公の執務室に入ると、近衛部隊長は国境警備隊からの報告を、カ-ル・オクタ-ビア大公に報告する。

 「何だと………何故だ! 協定を結んでいたではないか」

 オクタ-ビア大公は、頭を抱える。
 七年前に、ランベル王国とガズール帝国は、『和平協定』を結んでいた。それなのに、前触れなく兵を進めようとしているのだ。
 しかし、今はそんな事を、考えている時間が無いのである。このまま手をこまねいていれば、一気に攻め込まれてしまうだろう。
 今、直ぐに動かせる兵は、近衛部隊千、王国警備隊二千、後は、ム-ス公爵の五千が、王都に居る兵である。
 野人討伐に、向わせた王国警備隊六千を呼び戻し、貴族達を招集するのに少なくとも五日はかかる。
 その間、この八千の兵で、ガズール帝国の軍隊を押さえなければいけないのだ。
 そしてもう一つ、ム-ス公爵が信用出来ないでいたのである。

 「直ぐに、王国警備隊を呼び戻せ! 貴族諸侯にも出陣の使者を送るのだ」

 「民兵の招集も行いますか?」

 「致し方あるまい………………」

 「畏まりました」

 オクタ-ビア大公の命を受けた近衛部隊長は、急ぎ兵の編成作業に向かう。
 ランベル王国では、ガズール帝国と『和平協定』を締結して以来、民兵を集めての軍事演習を行っていない。
 民兵を集めた所で、頭数を揃えるだけなのであった。
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