78 / 95
77.国境警備隊からの知らせ
しおりを挟む
亜空間ベース『レオン』の自室で目覚めた響は、着替えを済ませて食堂へと向かう。
昨夜は、魔王ベルランスとの話し合いが朝まで続き、意識の統合による知識では、補えない部分の話が出来たと思う。
食堂に入ると、そこには長らく会っていなかった。
ティス・メイリンとア-リン・リドルの二人が、食事をしていた。
「「おはようございます」」
二人の挨拶を告げる声は、清々しく見事にハモっていた。
「あっ………おはよう」
先日、自分の思いを強制的に言わされた響は、気恥ずかしい。
ここから逃げたい気持ちが、足のつま先に出ている。右足のつま先が、出口の方に向いているのだ。
お前、あの娘達と何かあったのか?
どちらかの娘が、お前の女だとか?
いや、何にもないよ………
魔王ベルランスは、響の脈拍が上がった事で、『コイツは嘘を付いている』と悟った。
響は、体内に魔王ベルランスを抱える事で、ポリグラフにかけられているのと同じく、魔王ベルランスには、嘘が通用しなかったのだ。
「響さん、和食でよろしいですか?」
「はい、お願いします」
エプロン姿のティスの問い掛けに、ぎこちない返事を返す響であった。
そして、その向こうでは、エプロン姿のア-リンが、お茶を入れていた。
異世界の女にエルフか、どちらもいい女だ。そうか、あの二人にリングを渡したのだな………。
リングの能力が使える者は、多い方がいいからな。
「はい、お茶です。熱いから気を付けて下さいね」
「ああ、ありがとう!」
この前のア-リンとは違い、どこか落ち着いた感じがするのは、ティスとアリシアとの話し合いのせいなのだろうか。
朝一番の熱いお茶は、頭を目覚めさせるのに最適である。
「お待たせいたしました。響様」
「ありがとう、バイオレット」
響の前に、食事を乗せたトレ-を置いた女性は、ティス付きのメイドロイドの一人、バイオレットである。後、もう一人のメイドロイドのブル-は、今王都アルンに居る。
前は、メイドロイドに名前は無かったが、呼ぶ時に不便なので、赤毛ロングをバイオレット、シルバ-ショ-トをブル-と名付けていた。
「わー、シジミの味噌汁か! これ好きなんだよな~」
本日のメニュ-は、赤だしシジミの味噌汁、ベーコンエッグ、野菜サラダにご飯だ。
響は、シジミの味噌汁を一口飲んだ後、シジミを貝から一つ一つ外して行く。
そして、味噌汁の椀の中にご飯を入れると、一気にかっ込む。『深川めし』ならぬ『シジミめし』だ。
ご飯を味噌汁の椀に入れるのは、父の教えで『飯を味噌汁の具にする』と言う考え方だそうだ。
昔から日本で、米を大切にしていた事から、父はそうしていたのかもしれない。
響が食べた物は、魔王ベルランスの所でも再現される。
これは何処の国の料理だ! 美味い! 我の知らない料理が、まだこの世にあるとはな。
これは俺の国の料理だよ! まだまだ他にもあるから、楽しみにするといい。
そうか………。クロエの居た部屋に、食い物が無い訳だ。
クロエがいつも、リングの外で食事をしていたのに、魔王ベルランスも気付いたようだ。
だけど、元々クロエは、料理を自分で作った事が無い事を、魔王ベルランスは知らない。
「ふぅ~、ご馳走さま!」
響は、シジミの味噌汁を、汁だけお代わりして一気に飲み干す。
「味噌汁は、どうでしたか? ア-リンさんが、作ったんですよ」
ティスは、響の湯飲みにお茶を注ぎながら伝える。
「………美味しかったよ!」
ティスの言葉に驚いた響は、ティスの後ろで心配そうに、響を見つめるア-リンを見て、笑顔で答えるのであった。
ティス達三人は、毎日互いの知っている料理を教え合い。棚に並んだ料理本を参考に、レパ-トリ-を増やしていたのだ。
「よかった………」
かも
エプロンを握りしめながら、はにかむア-リンの姿は、ハイエルフの美しさを存分に醸し出していた。
「………………」
そんな姿を見せられると、響の心臓もバクバクである。
そうか! お前は二人共好きなのだな。
うるさい!
脈拍の異様な速さで、魔王ベルランスは確信したのであった。
「オクタ-ビア大公! 国境警備隊からの知らせでは、ガズール帝国の軍勢が国境に集結中との事です。現在、確認出来た兵の数、およそ一万二千との事です」
オクタ-ビア大公の執務室に入ると、近衛部隊長は国境警備隊からの報告を、カ-ル・オクタ-ビア大公に報告する。
「何だと………何故だ! 協定を結んでいたではないか」
オクタ-ビア大公は、頭を抱える。
七年前に、ランベル王国とガズール帝国は、『和平協定』を結んでいた。それなのに、前触れなく兵を進めようとしているのだ。
しかし、今はそんな事を、考えている時間が無いのである。このまま手をこまねいていれば、一気に攻め込まれてしまうだろう。
今、直ぐに動かせる兵は、近衛部隊千、王国警備隊二千、後は、ム-ス公爵の五千が、王都に居る兵である。
野人討伐に、向わせた王国警備隊六千を呼び戻し、貴族達を招集するのに少なくとも五日はかかる。
その間、この八千の兵で、ガズール帝国の軍隊を押さえなければいけないのだ。
そしてもう一つ、ム-ス公爵が信用出来ないでいたのである。
「直ぐに、王国警備隊を呼び戻せ! 貴族諸侯にも出陣の使者を送るのだ」
「民兵の招集も行いますか?」
「致し方あるまい………………」
「畏まりました」
オクタ-ビア大公の命を受けた近衛部隊長は、急ぎ兵の編成作業に向かう。
ランベル王国では、ガズール帝国と『和平協定』を締結して以来、民兵を集めての軍事演習を行っていない。
民兵を集めた所で、頭数を揃えるだけなのであった。
昨夜は、魔王ベルランスとの話し合いが朝まで続き、意識の統合による知識では、補えない部分の話が出来たと思う。
食堂に入ると、そこには長らく会っていなかった。
ティス・メイリンとア-リン・リドルの二人が、食事をしていた。
「「おはようございます」」
二人の挨拶を告げる声は、清々しく見事にハモっていた。
「あっ………おはよう」
先日、自分の思いを強制的に言わされた響は、気恥ずかしい。
ここから逃げたい気持ちが、足のつま先に出ている。右足のつま先が、出口の方に向いているのだ。
お前、あの娘達と何かあったのか?
どちらかの娘が、お前の女だとか?
いや、何にもないよ………
魔王ベルランスは、響の脈拍が上がった事で、『コイツは嘘を付いている』と悟った。
響は、体内に魔王ベルランスを抱える事で、ポリグラフにかけられているのと同じく、魔王ベルランスには、嘘が通用しなかったのだ。
「響さん、和食でよろしいですか?」
「はい、お願いします」
エプロン姿のティスの問い掛けに、ぎこちない返事を返す響であった。
そして、その向こうでは、エプロン姿のア-リンが、お茶を入れていた。
異世界の女にエルフか、どちらもいい女だ。そうか、あの二人にリングを渡したのだな………。
リングの能力が使える者は、多い方がいいからな。
「はい、お茶です。熱いから気を付けて下さいね」
「ああ、ありがとう!」
この前のア-リンとは違い、どこか落ち着いた感じがするのは、ティスとアリシアとの話し合いのせいなのだろうか。
朝一番の熱いお茶は、頭を目覚めさせるのに最適である。
「お待たせいたしました。響様」
「ありがとう、バイオレット」
響の前に、食事を乗せたトレ-を置いた女性は、ティス付きのメイドロイドの一人、バイオレットである。後、もう一人のメイドロイドのブル-は、今王都アルンに居る。
前は、メイドロイドに名前は無かったが、呼ぶ時に不便なので、赤毛ロングをバイオレット、シルバ-ショ-トをブル-と名付けていた。
「わー、シジミの味噌汁か! これ好きなんだよな~」
本日のメニュ-は、赤だしシジミの味噌汁、ベーコンエッグ、野菜サラダにご飯だ。
響は、シジミの味噌汁を一口飲んだ後、シジミを貝から一つ一つ外して行く。
そして、味噌汁の椀の中にご飯を入れると、一気にかっ込む。『深川めし』ならぬ『シジミめし』だ。
ご飯を味噌汁の椀に入れるのは、父の教えで『飯を味噌汁の具にする』と言う考え方だそうだ。
昔から日本で、米を大切にしていた事から、父はそうしていたのかもしれない。
響が食べた物は、魔王ベルランスの所でも再現される。
これは何処の国の料理だ! 美味い! 我の知らない料理が、まだこの世にあるとはな。
これは俺の国の料理だよ! まだまだ他にもあるから、楽しみにするといい。
そうか………。クロエの居た部屋に、食い物が無い訳だ。
クロエがいつも、リングの外で食事をしていたのに、魔王ベルランスも気付いたようだ。
だけど、元々クロエは、料理を自分で作った事が無い事を、魔王ベルランスは知らない。
「ふぅ~、ご馳走さま!」
響は、シジミの味噌汁を、汁だけお代わりして一気に飲み干す。
「味噌汁は、どうでしたか? ア-リンさんが、作ったんですよ」
ティスは、響の湯飲みにお茶を注ぎながら伝える。
「………美味しかったよ!」
ティスの言葉に驚いた響は、ティスの後ろで心配そうに、響を見つめるア-リンを見て、笑顔で答えるのであった。
ティス達三人は、毎日互いの知っている料理を教え合い。棚に並んだ料理本を参考に、レパ-トリ-を増やしていたのだ。
「よかった………」
かも
エプロンを握りしめながら、はにかむア-リンの姿は、ハイエルフの美しさを存分に醸し出していた。
「………………」
そんな姿を見せられると、響の心臓もバクバクである。
そうか! お前は二人共好きなのだな。
うるさい!
脈拍の異様な速さで、魔王ベルランスは確信したのであった。
「オクタ-ビア大公! 国境警備隊からの知らせでは、ガズール帝国の軍勢が国境に集結中との事です。現在、確認出来た兵の数、およそ一万二千との事です」
オクタ-ビア大公の執務室に入ると、近衛部隊長は国境警備隊からの報告を、カ-ル・オクタ-ビア大公に報告する。
「何だと………何故だ! 協定を結んでいたではないか」
オクタ-ビア大公は、頭を抱える。
七年前に、ランベル王国とガズール帝国は、『和平協定』を結んでいた。それなのに、前触れなく兵を進めようとしているのだ。
しかし、今はそんな事を、考えている時間が無いのである。このまま手をこまねいていれば、一気に攻め込まれてしまうだろう。
今、直ぐに動かせる兵は、近衛部隊千、王国警備隊二千、後は、ム-ス公爵の五千が、王都に居る兵である。
野人討伐に、向わせた王国警備隊六千を呼び戻し、貴族達を招集するのに少なくとも五日はかかる。
その間、この八千の兵で、ガズール帝国の軍隊を押さえなければいけないのだ。
そしてもう一つ、ム-ス公爵が信用出来ないでいたのである。
「直ぐに、王国警備隊を呼び戻せ! 貴族諸侯にも出陣の使者を送るのだ」
「民兵の招集も行いますか?」
「致し方あるまい………………」
「畏まりました」
オクタ-ビア大公の命を受けた近衛部隊長は、急ぎ兵の編成作業に向かう。
ランベル王国では、ガズール帝国と『和平協定』を締結して以来、民兵を集めての軍事演習を行っていない。
民兵を集めた所で、頭数を揃えるだけなのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる