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76.ゾンネル・エスタニア侯爵謀反
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ゾンネル・エスタニア侯爵は、帝都に戻って来て驚いた。
帝都を出てから、この十日の間に帝都近辺に、三万近くの将兵が集結していたからだ。
ゾンネル達が、謎の襲撃犯討伐に向かい。タイリン男爵達を捕らえるまで、ランベル王国が係わっている事は、分からなかった筈である。
なのに戦の支度が、もう進められているのだ。
「ゾンネル様! ご無事でしたか」
タイニ-・ギャレイ小隊長は、部下五名を連れてゾンネルの元に駆け寄って来る。
タイニ-の小隊は、帝都で物資補給のため駆け回っていた。だが、タイニ-とこの五名は、密かにゾンネルの長女タ-ニャ・エスタニアの消息を、この帝都で探っていた。
「タイニ-、これはどう言う事だ? この様な数の軍勢を、いつ招集したのだ?」
「はい、それが聞く所によりますと、ゾンネル様達が帝都を出て直ぐに、使者が出されたようです」
「それは、おかしくないか。あの時、襲撃犯が誰かも分からなかったんだぞ。それなのに………」
「トリニド殿下は、知っておられたと言う事ではありませんか」
「そうだな………。ところで、タ-ニャの消息は掴めたか?」
トリニド殿下が知っていたとしても、ゾンネル達が、今何をどうすると言う事もない。これ以上考えた所で、無駄と言う事だ。
ゾンネルは、頭を切り替えてタ-ニャについて、報告を聞くのだった。
「それが、不思議なのです。タ-ニャ様は、第一王子の警護についていたそうなのですが、陛下と王子が病で引き込まれた時を境に、タ-ニャ様の消息が全く掴めません」
「やはり、トリニド殿下はタ-ニャの消息を、知っていると言う事か………タイニ-、引き続きタ-ニャの事を頼む」
「はっ、お任せを!」
ゾンネルは、タイニ-達に一分の望みを託し、帝都に戻る姿を見送るのであった。
そのタイニ-達が向かう方向から、トリニド殿下の旗を掲げた伝令が、馬で此方に向っているのが確認される。
「ゾンネル侯爵! トリニド殿下が、お召しでございます」
「うむ、直ぐに参る。………ナルミ」
使者が立ち去るのを確認して、ゾンネルはナルミを呼び付ける。
「はい、父上。」
「其方に、やってもらいたい事がある。兵百を連れて、コタン村に行ってくれ。そして、族長のアクラに,この箱と手紙を渡して欲しい。その後は、アクラの指図で動くのだ」
「父上は、どうなされるのですか?」
箱と手紙を渡されたナルミは、自分が父の側から追いやられるようで、不安になるのだった。
「今回、ランベル王国との戦になるだろう。それに、タ-ニャの事もある………トリニド殿下には、当面逆らえん! 従うだけだ。もしも、私に何かあれば、お前がエスタニア家を継ぐのだ。良いな」
貴族の娘に生まれて来たナルミにとって、父親の言う事は絶対である。ナルミは、涙を浮かべ父に抱き付くと、何も言わずに兵を連れてコタン村に向かうのだった。
「ゾンネル侯爵、よくやってくれた。ランベル王国め、この償いは必ずして貰う。証人もいる事だしなぁ~」
トリニドは、薄笑いを浮かべながら、何か企みでもあるのだろう。ゾンネルの顔を見入っていた。
「殿下、これからどうなされるのですか?」
ゾンネルは、トリニドの思惑を探るかのように、聞くのだった。
「ランベル王国に攻め入り、領地を増やす。その先方は………お前だ!」
トリニドが手で合図すると、兵士がゾンネルの前に、兜を治める箱を持ってくる。
「これは?」
「今回の褒美だ! 受け取るがよい」
ゾンネルは、トリニドの様子が気になった。
この第二王子は、誰であろうと褒美など渡すような男ではないのだ。
幼い頃より第一王子の後を、睨むように何処に行くにも付いて回り、何処に行っても蚊帳の外に居る。そんな王子を、気に掛ける者など誰もいなかった。
「………………! これは………どう言う事だ~!」
ゾンネルが箱に手を掛けゆっくりと開けると、その中には、先程別れたタイニ-の血まみれの首が入っていた。
ゾンネルは、トリニドを睨み付けると、腰のロングソ-ドに手を掛ける。
「ひぃっ!」
気が小さいトリニドは、玉座深くに身を引き逃げ場を探す。
「ゾンネル侯爵、それはいけませんなぁ~」
玉座の後ろの扉から、ズルガ侯爵と鎖に繋がれ兵達に連れられたタ-ニャ・エスタニアが入って来る。
「タ-ニャ………」
ゾンネルは、タ-ニャに駆け寄ろうとするが、タ-ニャを見てその動きを止める。
その目は虚ろで、肌は青白く、人としての精気が感じられない。
ゾンネルの知るタ-ニャとは、大きくかけ離れた姿だったのだ。
「娘に何をした~!」
ゾンネルは、怒りに震える。
だが、娘のタ-ニャを見ると、力が抜けて崩れ去り、その場に倒れ込むのであった。
「大人しく従って貰いますよ!」
ズルガ侯爵が兵に合図をすると、ゾンネル侯爵に近づき、武器を取り上げると、鎖に繋がれるのであった。
ゾンネルとタ-ニャが、兵達によって連行されて行く。
「ズルガ侯爵。アイスウォ-カ-の核は、後いくつ残っている?」
「後、二つでございます」
「そうか。兄上も使い物にならないからな~。勿体ないが、あの二人に使え!」
「ゾンネルの兵は、私の直轄として使ってよろしいですな?」
「ああ、構わん。ズルガ侯爵、国境まで兵を進めよ」
「御意!」
ゾンネル侯爵謀反の知らせが、国中に出される。
ブラッド騎士団の兵達には、ズルガ侯爵の指揮下に入るか、同じく謀反人として捕らえられるかの、選択を迫られた。
しかし、ゾンネル侯爵が捕らえられている以上、逆らう者は一人としていなかった。
ガズール帝国とランベル王国の、戦が近づいている事など何も知らない響は、あれ以来まったく音沙汰の無い魔王ベルランスの事が気になり、魔王の部屋の前に立っていた。
何を話すか長らく考えた響は、意を決して部屋のドアを叩き中に入って行く。
「お前は、何時まで我を放っておけば気が済むのじゃ!」
魔王ベルランスは、怒っていた。
響が、シ-ルドを引いた時に、魔王ベルランスをクロエが居た部屋に、閉じ込める形になって、表に出て来れなかったようだ。
「ごめん気付かなくて」
「お前が結界を張ったせいで、何も出せないし、この汚くて趣味の悪い部屋の中を、変える事も出来なかったのだぞ。それに、ここには酒しか置いていない………これは、拷問か?」
前に会った時の魔王ベルランスと違い、そのボヤキは、響に親しみを感じさせるものであった。
そして、その夜は互いの事に付いて話あった。
当面は、互いの目的を成すために、互いを必要とするからだ。
帝都を出てから、この十日の間に帝都近辺に、三万近くの将兵が集結していたからだ。
ゾンネル達が、謎の襲撃犯討伐に向かい。タイリン男爵達を捕らえるまで、ランベル王国が係わっている事は、分からなかった筈である。
なのに戦の支度が、もう進められているのだ。
「ゾンネル様! ご無事でしたか」
タイニ-・ギャレイ小隊長は、部下五名を連れてゾンネルの元に駆け寄って来る。
タイニ-の小隊は、帝都で物資補給のため駆け回っていた。だが、タイニ-とこの五名は、密かにゾンネルの長女タ-ニャ・エスタニアの消息を、この帝都で探っていた。
「タイニ-、これはどう言う事だ? この様な数の軍勢を、いつ招集したのだ?」
「はい、それが聞く所によりますと、ゾンネル様達が帝都を出て直ぐに、使者が出されたようです」
「それは、おかしくないか。あの時、襲撃犯が誰かも分からなかったんだぞ。それなのに………」
「トリニド殿下は、知っておられたと言う事ではありませんか」
「そうだな………。ところで、タ-ニャの消息は掴めたか?」
トリニド殿下が知っていたとしても、ゾンネル達が、今何をどうすると言う事もない。これ以上考えた所で、無駄と言う事だ。
ゾンネルは、頭を切り替えてタ-ニャについて、報告を聞くのだった。
「それが、不思議なのです。タ-ニャ様は、第一王子の警護についていたそうなのですが、陛下と王子が病で引き込まれた時を境に、タ-ニャ様の消息が全く掴めません」
「やはり、トリニド殿下はタ-ニャの消息を、知っていると言う事か………タイニ-、引き続きタ-ニャの事を頼む」
「はっ、お任せを!」
ゾンネルは、タイニ-達に一分の望みを託し、帝都に戻る姿を見送るのであった。
そのタイニ-達が向かう方向から、トリニド殿下の旗を掲げた伝令が、馬で此方に向っているのが確認される。
「ゾンネル侯爵! トリニド殿下が、お召しでございます」
「うむ、直ぐに参る。………ナルミ」
使者が立ち去るのを確認して、ゾンネルはナルミを呼び付ける。
「はい、父上。」
「其方に、やってもらいたい事がある。兵百を連れて、コタン村に行ってくれ。そして、族長のアクラに,この箱と手紙を渡して欲しい。その後は、アクラの指図で動くのだ」
「父上は、どうなされるのですか?」
箱と手紙を渡されたナルミは、自分が父の側から追いやられるようで、不安になるのだった。
「今回、ランベル王国との戦になるだろう。それに、タ-ニャの事もある………トリニド殿下には、当面逆らえん! 従うだけだ。もしも、私に何かあれば、お前がエスタニア家を継ぐのだ。良いな」
貴族の娘に生まれて来たナルミにとって、父親の言う事は絶対である。ナルミは、涙を浮かべ父に抱き付くと、何も言わずに兵を連れてコタン村に向かうのだった。
「ゾンネル侯爵、よくやってくれた。ランベル王国め、この償いは必ずして貰う。証人もいる事だしなぁ~」
トリニドは、薄笑いを浮かべながら、何か企みでもあるのだろう。ゾンネルの顔を見入っていた。
「殿下、これからどうなされるのですか?」
ゾンネルは、トリニドの思惑を探るかのように、聞くのだった。
「ランベル王国に攻め入り、領地を増やす。その先方は………お前だ!」
トリニドが手で合図すると、兵士がゾンネルの前に、兜を治める箱を持ってくる。
「これは?」
「今回の褒美だ! 受け取るがよい」
ゾンネルは、トリニドの様子が気になった。
この第二王子は、誰であろうと褒美など渡すような男ではないのだ。
幼い頃より第一王子の後を、睨むように何処に行くにも付いて回り、何処に行っても蚊帳の外に居る。そんな王子を、気に掛ける者など誰もいなかった。
「………………! これは………どう言う事だ~!」
ゾンネルが箱に手を掛けゆっくりと開けると、その中には、先程別れたタイニ-の血まみれの首が入っていた。
ゾンネルは、トリニドを睨み付けると、腰のロングソ-ドに手を掛ける。
「ひぃっ!」
気が小さいトリニドは、玉座深くに身を引き逃げ場を探す。
「ゾンネル侯爵、それはいけませんなぁ~」
玉座の後ろの扉から、ズルガ侯爵と鎖に繋がれ兵達に連れられたタ-ニャ・エスタニアが入って来る。
「タ-ニャ………」
ゾンネルは、タ-ニャに駆け寄ろうとするが、タ-ニャを見てその動きを止める。
その目は虚ろで、肌は青白く、人としての精気が感じられない。
ゾンネルの知るタ-ニャとは、大きくかけ離れた姿だったのだ。
「娘に何をした~!」
ゾンネルは、怒りに震える。
だが、娘のタ-ニャを見ると、力が抜けて崩れ去り、その場に倒れ込むのであった。
「大人しく従って貰いますよ!」
ズルガ侯爵が兵に合図をすると、ゾンネル侯爵に近づき、武器を取り上げると、鎖に繋がれるのであった。
ゾンネルとタ-ニャが、兵達によって連行されて行く。
「ズルガ侯爵。アイスウォ-カ-の核は、後いくつ残っている?」
「後、二つでございます」
「そうか。兄上も使い物にならないからな~。勿体ないが、あの二人に使え!」
「ゾンネルの兵は、私の直轄として使ってよろしいですな?」
「ああ、構わん。ズルガ侯爵、国境まで兵を進めよ」
「御意!」
ゾンネル侯爵謀反の知らせが、国中に出される。
ブラッド騎士団の兵達には、ズルガ侯爵の指揮下に入るか、同じく謀反人として捕らえられるかの、選択を迫られた。
しかし、ゾンネル侯爵が捕らえられている以上、逆らう者は一人としていなかった。
ガズール帝国とランベル王国の、戦が近づいている事など何も知らない響は、あれ以来まったく音沙汰の無い魔王ベルランスの事が気になり、魔王の部屋の前に立っていた。
何を話すか長らく考えた響は、意を決して部屋のドアを叩き中に入って行く。
「お前は、何時まで我を放っておけば気が済むのじゃ!」
魔王ベルランスは、怒っていた。
響が、シ-ルドを引いた時に、魔王ベルランスをクロエが居た部屋に、閉じ込める形になって、表に出て来れなかったようだ。
「ごめん気付かなくて」
「お前が結界を張ったせいで、何も出せないし、この汚くて趣味の悪い部屋の中を、変える事も出来なかったのだぞ。それに、ここには酒しか置いていない………これは、拷問か?」
前に会った時の魔王ベルランスと違い、そのボヤキは、響に親しみを感じさせるものであった。
そして、その夜は互いの事に付いて話あった。
当面は、互いの目的を成すために、互いを必要とするからだ。
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