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84.恋心

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 「このス-プは、何だ? スパイスが効いて………」

 「この平べったいパンと一緒に食べると、すごくうまいぞ!」

 『レオン』のホール隔離スペースに転送されたナルミ達は、傷の治療を受けた後、シャワ―で汚れた体を洗い、食事の提供を受ける。
 そこで提供された食事が、始めて口にする『カレ-』と『ナン』だった。

 「何じゃこのパンは! お嬢さん、このパンは何じゃな?」

 「はい。そのパンは、ナンでございます」

 「………だから、何じゃな?」
 
 「ナンでございます」

 「………………」

 給仕役のバイオレットと老騎士の、漫才の掛け合いの様な会話を、理解出来た者はいなかった。
 
 「姫、ここは何処なのでしょうか? アクラ殿は、隠れ家と言っておりましたが………我らを隔離する為に、ここに連れて来たように感じます。それに、この天井の灯りや、お湯の出るシャワ―と言う物等、初めて見る物ばかりです。これは裏に、何かありますぞ」

 「アンリ小隊長、私達は彼らに助けられたのです。今は、信じましょう。それに、父がアクラ族長に従えと言ったのです」

 「………分かりました」

 ナルミは、父ゾンネルから託された雷属性のリングを指にハメると、父と姉の事を考えるのであった。



 響は、食堂でナルミ達と同じ、『カレ-』と『ナン』を食べていた。
 そして、その響の両脇にティスとア-リンが座り、無言で食事をしていた。
 この様な時に、女性との会話に慣れている男なら、気の利いた一言を口にするのだろうが、響にそのようなスキルはない。
 だから今は、無言で食事を食べるだけだ。

 響、お前はこの二人に、何かしたのか?

 何かって、なんだよ~。何もする訳ないだろ。 

 そうか………

 魔王と話した所で、何が解決する訳も無く、ただ気まずい雰囲気が続くだけであった。

 「響! クロエから聞いたんだけど。ガズール帝国の、騎士を助けたそうだな。今、ランベル王国がどんな状況か、分かっているのか? この後どうする気なんだ?」

 「魔物に襲われていたんだから………仕方ないでしょ~」

 「彼らは、ガズール帝国の精鋭だと言うじゃないか。彼らが前面に出てくれば、王都の民兵に多くの死者がでるんだぞ! 多くの死者が………」
 
 ジュリアンは、誰かの死を恐れるかのように、響に訴えかけて来る。
 余程気に掛かる人がいるのだろう。
 響も、アクラ族長の事が無ければ、助けていなかったかもしれない。
 心情的には、ジュリアンと思いは同じなのである。

 「ティタニアさんのお父さんに、民兵の招集があったから、リ-ダ-も気が気じゃないよね~」

 「ティタニアさん?」

 いつの間にかジュリアンの横に座り、『カレ-』と『ナン』を頬張るモカ・ピンチが、響に教えてくれる。

 「モカ! なぁ、何を言い出すんだ!」

 「だってリ-ダ-、ティタニアさんに頼まれて、武器を探し回ってたじゃん」

 響は、モカの話で思い出していた。
 ロックフェル商会のマ-クに呼び出された時に、町でジュリアンと出くわした時、武器を持っていた事を………。 
 しかし、ジュリアンのティタニアに対する気持ちには、まだ気づいていない。
 
 「あぁ~、花屋のティタニアさんですか」

 「えっ、ア-リンさん知ってるの?」

 「はい、いつもリ-ダ-が花を買っていましたから………ふ~ん、そう言う事だったんですね」

 ジュリアンを見るア-リンの目は、何かを察したように半眼で、口の口角は上がり、ジュリアンを追い詰めるのであった。

 「何だア-リン! その目は! まだ何もしてないぞ!」

 「何かするつもりだったんですか?」

 ここに来て、ティスも話に参戦して来る。ア-リンを見て、『ナイン同盟』の一員としては、ジュリアンを追い詰めづには居られなかったようである。
 要するに、楽しんでいるのだった。

 へぇ~、なんか最近ティスも変わったなぁ~。前は、あまり人の話に入って来なかったのに。

 響、お主はまだ、分かっていないようだな。

 魔王。何の事だ。

 そこのジュリアンとやらは、ティタニアの事が好きだと言う事をだよ。

 「ジュリアンは、ティタニアが好きなのかぁ~?」

 魔王ベルランスが、口にした言葉に驚いた響は、思わず叫んでしまうのだった。

 「ひっひっ、響~! お前は急に何を言い出すんだ~。俺は、そんな事一言も言ってないぞ~!」

 「だから~。うむっ。その………態度が、うむっ。そう言ってるんだって」

 「………………」

 モカは、『ナン』を口に放り込みながら、ジュリアンにトドメを指すのであった。

 「もうその話はいいから! 響、本当にどうするつもりなんだ?」

 ジュリアンは、気を取り直して話をもとに戻す。
 モカ達も、これ以上追及して決着を付けるよりも、後々まで引きずった方が良いと踏んだのか、それ以上ジュリアンを問いただそうとはしなかった。

 「今は、傷の治療を優先しようと思っています。全員が動けるようになったら、ガズール帝国へ送り届けます」

 「そうか………分かった。ただし、出来るだけ帰すのを遅らせるんだぞ。出来れば、今回の戦が終わるまで、このまま引き留めておくんだ。三十一人とは言え精鋭だからな」

 響は、ジュリアンを見て一つ頷くと、『カレ-』を再び食べ始める。
 響も王都サリュースに住む、人々への思いは一緒なのであった。
 そして、その二人を見る。
 ティス、ア-リン、モカの三人も思いは同じであった。
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