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90.どうしてそうなんですか

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 夜になり響は、携帯用コンロで湯を沸かし、メインディシュのビーフシチューを温める。
 レ-ションには、水と石灰石で温めるヒーターも付いているが、冷えて来たので暖を取るため、携帯用コンロを使う。
 響の着ているコンバットスーツには、体温調節機能があるので寒さは感じない。
 グロ-ブを外した手が、冷たさを感じるくらいだ。
 そして、メインが温まる間に、ローストナッツをつまみながら、クラッカーにチーズスプレッドを付けて食べて行く。
 デザ-トのチョコレートは、モンタナの娘コハクにやったので、今回はお預けだ。
 しかし、このセットにはココアが付いているので、クラッカーと一緒に楽しめる。
 クラッカー等を食べ終わる頃には、ビーフシチューも食べごろに温まっている。
 全て食べ終わったら、粉末レモンティーでしめとなる。

 今日は、寂しい食事だなぁ。
 
 「ほっといてくれ」

 敵地とは言え、久しぶりに一人でのんびりしていた響は、魔王ベルランスの事を忘れていた。

 響、お主も罪な奴よのぉ~。

 「何が罪なんだ?」

 それは、直接聞いてみるとよい。

 「何言ってんだ?」

 響は、魔王ベルランスが言っている事の意味が、まったく理解できなかった。
 しかし、そんな響の後ろから、近づく一つの影があった。

 「………………!」

 響は、振り向きざま刀を引き抜き、後の何者かに切先を向ける。

 「ティス? どうしてここに………」

 ティスに向けられた刀からは、メラメラと黒炎が燃え上がる。
 そんな、刀を突き付けられたティスは、驚く事もなく悲しげな眼差しで、響を見つめているのだった。
 響が、刀を鞘に納めると、ティスは響の隣に座わり、響が飲んでいたレモンティーの入ったカップを、手に取るとゆっくりと飲み始める。
 重苦しい空気が、何も言葉を交わさない二人のいる部屋に充満して行く。

 「あの~ティスさん………。どうか、なさったんですか?」

 この雰囲気に、居たたまれなくなった響は、自分からティスに言葉を掛ける、

 「響さん! どうしていつもそうなんですか! いつも心配ばかりさせて………もっと私達の事も考えて下さい!」

 「ふぁぁい!」

 ティスのあまりの剣幕に、驚いた響の声も裏返る。

 あの女、貫禄が出て来たのぉ。

 そんな事言ってる場合か~。

 魔王の相手などしている暇のない響は、ティスの様子を横目で伺うのだった。

 「んっ? ティス、お前飲んでるのか?」

 ティスから、うっすらと酒の匂いがする。

 「飲んでちゃ、行けないんですかぁ~」

 「だってお前、まだ未成年だろう」

 「飲まなきゃ言えない事も、ありましゅ………」

 「………………」

 ティスは、響にもたれ掛かると、すやすやと寝入ってしまう。

 「………まったく、どっちが心配させるんだか」

 響は、ティスの寝顔を見ながら思うのだった。
 いつも冷静で大人びたティスだが、その寝顔は愛らしく、幼さすら感じられるものだった。
 それもそうである、ティスと響は同い年なのだから。

 
 暗がりの中ティスが目を覚ますと、暖かい何かに包まれてとても心地が良いい。
 頭の下には響の腕があり、耳を澄ますとティスの頭の上から、微かな寝息が感じられる。
 ティスは、ドキドキしながら毛布にくるまり、もう一度目を閉じて、幸せを感じるのだった。



 ティスの吐く息が白い。
 窓からは薄っすらと、木漏れ日が入ってくる。

 「響さん。起きて下さい。食事の用意が出来ましたよ」

 「おはよぉ~!」

 「おはようございます」

 ティスの優しい声に起こされた響は、体を起こし毛布から出ると、コンバットスーツの上から、エプロンを着たティスが立っていた。
 アンバランスな取り合わせだが、エプロン姿は最強だ。
 テ-ブルの上には、ハムエッグとコ-ンス-プが置かれ、中央にパンの山が出来ていた。

 パンこんなに、食べられないよなぁ~。

 『出された物は残さない』響の父、大地真人の口癖であった。

 響とティスが食事を済ませて、食後のコ-ヒ-を飲んでいると、朝っぱらから外が騒がしくなって来る。

 「外が騒がしいな」

 響は、コ-ヒ-カップをテ-ブルに置くと、窓に掛けより戸の隙間から外の様子をうかがう。
 そこには、家々に押し入り嫌がる住民達を連行して行く、城の兵達が押し寄せていた。

 「ティス!」
 
 響は、ティスに駆け寄り抱き抱えると、『テレポート』で姿を消した。
 それと入れ替わるように、兵達が扉を破り響達の居た家の中に、押し入って来る。
 しかし、家の中に人の居た痕跡はあるものの、何処を探しても誰もいないため、辺りの捜索が始まった。

 「危なかったな。城に入る前に、見付かるとこだった」

 「そうですね………」

 響に、お姫様抱っこされたティスは、響の首に回した手を放し、恥ずかしそうにしていた。
 響達は、帝都を離れ、帝都が見える森の中へ移動した。

 「何で町の人達を連れて行くんだろうな~? そうだ!」

 響は、ティスを下すとその場に座り込み、リストコントロールのモニタ-で、衛星を使い帝都の様子を確認して行くのだった。
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