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菜の花畑で微笑んで
年が明けて、新しい一年が始まった。
颯真にとっては年末年始も関係ない。
多忙を極める中、菜乃花がマンションで待ってくれていることもあった。
疲れ果てて帰ってくると、お帰りなさい!と菜乃花が笑顔で出迎えてくれる。
その瞬間、颯真の心はスイッチが切り替わったように明るくなった。
なかなか二人の休みが合わず、デートに行けないまま時間だけが過ぎていく。
菜乃花は、颯真のマンションで一緒に過ごすだけで楽しいと言ってくれ、いつも美味しい食事を作ってくれた。
なんとしてもこの日だけは…と、颯真は菜乃花の誕生日に休みを申請する。
そして小さな箱をジャケットのポケットに忍ばせてから、菜乃花の職場の図書館へと向かった。
◇
『お昼ご飯一緒に食べよう。菜の花畑で待ってる』
昼休みに入り、スマートフォンのメッセージを見た菜乃花は、パッと笑顔になる。
お弁当を手にすると、急いで図書館の隣の公園に向かった。
「颯真さん!」
菜乃花がプレゼントしたマフラーと手袋を着け、ベンチで本を読んでいた颯真が顔を上げる。
菜乃花を見ると、にっこり笑いかけた。
「お疲れ様、菜乃花。温かいスープとホットサンド買ってきたんだ。一緒に食べよう」
「はい!」
二人でベンチに並んで座り、仲良く分け合う。
「菜乃花の手作りのお弁当ももらっていい?」
「もちろん、どうぞ」
「ありがとう!」
菜の花を眺めながら、ポカポカと温かい陽射しの中、のんびりと二人で過ごす。
食べ終わると、颯真は菜の花畑に目をやりながら口を開いた。
「子どもの頃、一緒に住んでいた祖父が一人で散歩に出かけて倒れたんだ。救急車で運ばれたけど助からなかった。医師になってから、あと少し発見が早ければ祖父は助かっていたかもしれないと気づいて、救急医を志したんだ。救える命を救いたい、そう思っていた。だけどちょうど1年前の今日、俺はどうしようもない程、打ちのめされていた。怒りや悲しみ、やるせなさ、色んな感情が混ざり合って押しつぶされそうだった。医師としてやっていく自信も失くしかけていた」
菜乃花はそっと颯真の横顔を見つめる。
「気持ちのやり場がなくて、図書館に来て、菜乃花と子ども達を見ていた。別世界のようだったよ。命がキラキラ輝いて見えた。自分とは住む世界が違う、そんなふうに感じていた俺に、菜乃花は手を差し伸べてくれたんだ。抱きしめて、だいじょうぶって言い聞かせてくれた。その時、俺がどんなに救われたか…。そして知らない間に背負い込んでいた重荷も、君が気づかせてくれた。この先も医師として、色んな困難や試練が待ち受けていると思う。でも、菜乃花の温もりと言葉を思い出せば、俺はきっとまた乗り越えられる、そう思うんだ」
静かに耳を傾けていた菜乃花も、ゆっくりと話し出した。
「私もあの日のことは忘れません。心理士の道を挫折して、何年もずっと暗い気持ちを抱えていた私を、颯真さんは優しく抱きしめてくれました。資格とか職業なんか関係ない。私は私自身で立派に志を果たしているんだって言われた時、心の中のわだかまりが溶けていくのを感じました。私の方こそ、颯真さんにどんなに救われたか…。1年前の誕生日に、私は新しく生まれ変わった気持ちで前に進めるようになったんです。本当にありがとうございました」
颯真は、菜乃花に優しく微笑みかける。
「俺達は互いに互いを必要としているんだ。一緒にいれば、必ず幸せになれる。一人では困難な道も、二人なら乗り越えられる。そして俺は、菜乃花の為なら強くなれる。君を守る為なら、どんな事だってやってのけるよ。君がいつも笑顔でいてくれるように、俺は君をそばで守り、必ず幸せにする。だから菜乃花、どうか俺と結婚して欲しい」
菜乃花の綺麗な瞳から涙がこぼれ落ちた。
「颯真さん。私はずっと前からあなたに守られていた気がします。あなたが抱きしめてくれる温もりを、私は何度も感じていたから。優しく、温かく、頼もしく、明るく、いつもあなたは私を支えてくれました。そんなあなたが何かに悩んだ時、私は誰よりも近くで支えたい。あなたの心に寄り添って、少しでも癒やしたい。私もあなたを幸せにしたいです。颯真さん、どうか私と結婚してください」
颯真は頷くと、指でそっと菜乃花の涙を拭う。
「結婚しよう、菜乃花」
「はい。颯真さん」
ふわりと風が舞う中、二人は優しく微笑み合った。
颯真がポケットからリングケースを取り出して、菜乃花の左手薬指にそっと指輪をはめる。
「わあ、可愛い!」
中央には煌めくダイヤモンド。
そしてその左右に、小さなダイヤモンドもいくつか並んでいた。
菜乃花は左手を顔の前に掲げて、その輝きにうっとりする。
「よく似合ってる、菜乃花。君のイメージで選んだんだ。たくさんの菜の花が並んで咲くように、人の心に寄り添うことが出来る君へ」
「ありがとうございます、颯真さん。嬉しい…」
風に揺れる菜の花のように優しい微笑みを浮かべる菜乃花に、颯真はそっと口づけた。
颯真にとっては年末年始も関係ない。
多忙を極める中、菜乃花がマンションで待ってくれていることもあった。
疲れ果てて帰ってくると、お帰りなさい!と菜乃花が笑顔で出迎えてくれる。
その瞬間、颯真の心はスイッチが切り替わったように明るくなった。
なかなか二人の休みが合わず、デートに行けないまま時間だけが過ぎていく。
菜乃花は、颯真のマンションで一緒に過ごすだけで楽しいと言ってくれ、いつも美味しい食事を作ってくれた。
なんとしてもこの日だけは…と、颯真は菜乃花の誕生日に休みを申請する。
そして小さな箱をジャケットのポケットに忍ばせてから、菜乃花の職場の図書館へと向かった。
◇
『お昼ご飯一緒に食べよう。菜の花畑で待ってる』
昼休みに入り、スマートフォンのメッセージを見た菜乃花は、パッと笑顔になる。
お弁当を手にすると、急いで図書館の隣の公園に向かった。
「颯真さん!」
菜乃花がプレゼントしたマフラーと手袋を着け、ベンチで本を読んでいた颯真が顔を上げる。
菜乃花を見ると、にっこり笑いかけた。
「お疲れ様、菜乃花。温かいスープとホットサンド買ってきたんだ。一緒に食べよう」
「はい!」
二人でベンチに並んで座り、仲良く分け合う。
「菜乃花の手作りのお弁当ももらっていい?」
「もちろん、どうぞ」
「ありがとう!」
菜の花を眺めながら、ポカポカと温かい陽射しの中、のんびりと二人で過ごす。
食べ終わると、颯真は菜の花畑に目をやりながら口を開いた。
「子どもの頃、一緒に住んでいた祖父が一人で散歩に出かけて倒れたんだ。救急車で運ばれたけど助からなかった。医師になってから、あと少し発見が早ければ祖父は助かっていたかもしれないと気づいて、救急医を志したんだ。救える命を救いたい、そう思っていた。だけどちょうど1年前の今日、俺はどうしようもない程、打ちのめされていた。怒りや悲しみ、やるせなさ、色んな感情が混ざり合って押しつぶされそうだった。医師としてやっていく自信も失くしかけていた」
菜乃花はそっと颯真の横顔を見つめる。
「気持ちのやり場がなくて、図書館に来て、菜乃花と子ども達を見ていた。別世界のようだったよ。命がキラキラ輝いて見えた。自分とは住む世界が違う、そんなふうに感じていた俺に、菜乃花は手を差し伸べてくれたんだ。抱きしめて、だいじょうぶって言い聞かせてくれた。その時、俺がどんなに救われたか…。そして知らない間に背負い込んでいた重荷も、君が気づかせてくれた。この先も医師として、色んな困難や試練が待ち受けていると思う。でも、菜乃花の温もりと言葉を思い出せば、俺はきっとまた乗り越えられる、そう思うんだ」
静かに耳を傾けていた菜乃花も、ゆっくりと話し出した。
「私もあの日のことは忘れません。心理士の道を挫折して、何年もずっと暗い気持ちを抱えていた私を、颯真さんは優しく抱きしめてくれました。資格とか職業なんか関係ない。私は私自身で立派に志を果たしているんだって言われた時、心の中のわだかまりが溶けていくのを感じました。私の方こそ、颯真さんにどんなに救われたか…。1年前の誕生日に、私は新しく生まれ変わった気持ちで前に進めるようになったんです。本当にありがとうございました」
颯真は、菜乃花に優しく微笑みかける。
「俺達は互いに互いを必要としているんだ。一緒にいれば、必ず幸せになれる。一人では困難な道も、二人なら乗り越えられる。そして俺は、菜乃花の為なら強くなれる。君を守る為なら、どんな事だってやってのけるよ。君がいつも笑顔でいてくれるように、俺は君をそばで守り、必ず幸せにする。だから菜乃花、どうか俺と結婚して欲しい」
菜乃花の綺麗な瞳から涙がこぼれ落ちた。
「颯真さん。私はずっと前からあなたに守られていた気がします。あなたが抱きしめてくれる温もりを、私は何度も感じていたから。優しく、温かく、頼もしく、明るく、いつもあなたは私を支えてくれました。そんなあなたが何かに悩んだ時、私は誰よりも近くで支えたい。あなたの心に寄り添って、少しでも癒やしたい。私もあなたを幸せにしたいです。颯真さん、どうか私と結婚してください」
颯真は頷くと、指でそっと菜乃花の涙を拭う。
「結婚しよう、菜乃花」
「はい。颯真さん」
ふわりと風が舞う中、二人は優しく微笑み合った。
颯真がポケットからリングケースを取り出して、菜乃花の左手薬指にそっと指輪をはめる。
「わあ、可愛い!」
中央には煌めくダイヤモンド。
そしてその左右に、小さなダイヤモンドもいくつか並んでいた。
菜乃花は左手を顔の前に掲げて、その輝きにうっとりする。
「よく似合ってる、菜乃花。君のイメージで選んだんだ。たくさんの菜の花が並んで咲くように、人の心に寄り添うことが出来る君へ」
「ありがとうございます、颯真さん。嬉しい…」
風に揺れる菜の花のように優しい微笑みを浮かべる菜乃花に、颯真はそっと口づけた。
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