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ヤキモチ大魔王
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結婚してからも、変わらず真里亜は旧姓の阿部のまま、文哉の秘書を務めている。
そしていよいよAMAGIコーポレーションの海外進出も本格化していた。
それまでも欧米やアジア諸国に支店を展開していたが、キュリアスUSAとのセキュリティシステム開発が今後もずっと続くとあって、新たにニューヨーク支社を立ち上げることになったのだ。
これまでの支店とは違い、いずれは日本の本社に継ぐ規模になるのを見越している。
「真里亜、カレンさんと連絡は取れたか?」
「はい。CEOのジョンのスケジュールを確認して、ミーティングの日程を設定していただけました。こちらの希望通り、来月の15日で構わないそうです」
「了解。うちから同行するメンバーにも改めて周知してくれ」
「かしこまりました」
真里亜は15人のキュリアスチームメンバーに、一斉メールを送る。
その中には、同期で人事部からシステムエンジニアに認められた藤田もいた。
ニューヨーク支社には、まずこの15人のメンバーが在籍することが決まっている。
つまり藤田も含めた皆が、ニューヨークに移り住むことになるのだ。
文哉は、もちろんこれまで通り日本の本社からプロジェクトに参加してくれても構わない、と前置きしてから打診したが、メンバー全員がニューヨーク支社に移ると快諾してくれた。
そのことに感謝しつつ、彼らが何不自由なくニューヨークで暮らせるように、来月メンバーを連れて滞在先のアパートとオフィスを下見に行くことになっている。
物件探しや賃貸の契約など、キュリアスUSAのカレンにはお世話になりっぱなしで、CEOのジョンも色々と口添えしてくれた。
今回の渡米は、そのお礼を伝える目的もある。
「現地では、メンバーたちの生活基盤を整える準備も始める。今は智史がビザの手続きを進めてくれているが、メンバー移住の際にも智史にはしばらく残ってサポートしてもらう」
「承知しました。現地での手続きのリストはこちらにまとめてあります」
そう言って真里亜は、文哉に書類を手渡す。
「在留届の提出、アパートの水道や電気などの開設、ソーシャルセキュリティーナンバーの取得、銀行口座の開設、携帯電話や、必要であれば運転免許証の取得などです。それから近隣のスーパーマーケットなどの情報も記載しておきました」
「頼もしいな、ありがとう。よし、午後から智史も交えて下見のスケジュールを確認しよう」
「はい。住谷さんに伝えておきます」
真里亜は早速、住谷に内線電話で連絡した。
◇
「下見の準備は滞りなく。飛行機とホテルの予約もリコンファーム済みです。人数はキュリアスチームメンバー15人と、副社長と真里亜ちゃん、そして私の合計18人で変更ありませんか?」
午後になると、副社長室にやって来た住谷とソファに向かい合って座り、スケジュールを確認する。
「ああ、変更ない。日程もこれで確定だ。滞在中、2日ほどフリータイムも取れると思う。メンバーに伝えて、もし行きたいところややりたいことがあれば、手配してやってほしい」
「承知しました。CEOへのお礼の品や、キュリアスの社員の皆様へのお土産も手配しておきます」
「頼む」
最後に住谷は、真里亜に尋ねた。
「真里亜ちゃん。今回特にお世話になった女性には、何を贈ればいいと思う?」
「カレンさんにですか? うーん、そうですね……。それに関しては、私より住谷さんの方が詳しいかもしれません」
どういうこと?と住谷は眉間にしわを寄せる。
「俺、彼女に会ったこともないけど?」
「カレンさんは仕事ができる、ハイソサエティな大人の女性なんです。私とは住む世界が違うし、きっと住谷さんと同じ界隈に住んでそうだから」
「え、ちょっと、真里亜ちゃん? 俺のこと、どこに住んでると思ってるの?」
「んー、セレブバレーに住んでいる、とか?」
「俺、谷に住んでないし! 住谷の名字から連想するのやめて」
「あ、分かりました?」
あはは!と二人で笑い合っていると、文哉がギロリと住谷を睨んだ。
「智史、それくらい自分で考えろ。打ち合わせは終わりだ。とっとと去れ」
「うわー、出ましたよ。奥様大好き、ヤキモチ大魔王が」
「なんだと!?」
「ひー、怖い怖い。じゃあね、真里亜ちゃん」
そそくさと住谷が部屋を出て行き、パタンとドアが閉まる。
真里亜は文哉から離れるように、そっと立ち上がった。
「えーっと、あ! 私も秘書課で作業を……」
すると文哉が呼び止める。
「真里亜」
「は、はい。なんでしょう」
「今夜は早く帰る。覚悟しろ。ひと晩中、離してやらないからな」
ニヤリと口元に不敵な笑みを浮かべる文哉に、真里亜は言葉を失っておののいた。
そしていよいよAMAGIコーポレーションの海外進出も本格化していた。
それまでも欧米やアジア諸国に支店を展開していたが、キュリアスUSAとのセキュリティシステム開発が今後もずっと続くとあって、新たにニューヨーク支社を立ち上げることになったのだ。
これまでの支店とは違い、いずれは日本の本社に継ぐ規模になるのを見越している。
「真里亜、カレンさんと連絡は取れたか?」
「はい。CEOのジョンのスケジュールを確認して、ミーティングの日程を設定していただけました。こちらの希望通り、来月の15日で構わないそうです」
「了解。うちから同行するメンバーにも改めて周知してくれ」
「かしこまりました」
真里亜は15人のキュリアスチームメンバーに、一斉メールを送る。
その中には、同期で人事部からシステムエンジニアに認められた藤田もいた。
ニューヨーク支社には、まずこの15人のメンバーが在籍することが決まっている。
つまり藤田も含めた皆が、ニューヨークに移り住むことになるのだ。
文哉は、もちろんこれまで通り日本の本社からプロジェクトに参加してくれても構わない、と前置きしてから打診したが、メンバー全員がニューヨーク支社に移ると快諾してくれた。
そのことに感謝しつつ、彼らが何不自由なくニューヨークで暮らせるように、来月メンバーを連れて滞在先のアパートとオフィスを下見に行くことになっている。
物件探しや賃貸の契約など、キュリアスUSAのカレンにはお世話になりっぱなしで、CEOのジョンも色々と口添えしてくれた。
今回の渡米は、そのお礼を伝える目的もある。
「現地では、メンバーたちの生活基盤を整える準備も始める。今は智史がビザの手続きを進めてくれているが、メンバー移住の際にも智史にはしばらく残ってサポートしてもらう」
「承知しました。現地での手続きのリストはこちらにまとめてあります」
そう言って真里亜は、文哉に書類を手渡す。
「在留届の提出、アパートの水道や電気などの開設、ソーシャルセキュリティーナンバーの取得、銀行口座の開設、携帯電話や、必要であれば運転免許証の取得などです。それから近隣のスーパーマーケットなどの情報も記載しておきました」
「頼もしいな、ありがとう。よし、午後から智史も交えて下見のスケジュールを確認しよう」
「はい。住谷さんに伝えておきます」
真里亜は早速、住谷に内線電話で連絡した。
◇
「下見の準備は滞りなく。飛行機とホテルの予約もリコンファーム済みです。人数はキュリアスチームメンバー15人と、副社長と真里亜ちゃん、そして私の合計18人で変更ありませんか?」
午後になると、副社長室にやって来た住谷とソファに向かい合って座り、スケジュールを確認する。
「ああ、変更ない。日程もこれで確定だ。滞在中、2日ほどフリータイムも取れると思う。メンバーに伝えて、もし行きたいところややりたいことがあれば、手配してやってほしい」
「承知しました。CEOへのお礼の品や、キュリアスの社員の皆様へのお土産も手配しておきます」
「頼む」
最後に住谷は、真里亜に尋ねた。
「真里亜ちゃん。今回特にお世話になった女性には、何を贈ればいいと思う?」
「カレンさんにですか? うーん、そうですね……。それに関しては、私より住谷さんの方が詳しいかもしれません」
どういうこと?と住谷は眉間にしわを寄せる。
「俺、彼女に会ったこともないけど?」
「カレンさんは仕事ができる、ハイソサエティな大人の女性なんです。私とは住む世界が違うし、きっと住谷さんと同じ界隈に住んでそうだから」
「え、ちょっと、真里亜ちゃん? 俺のこと、どこに住んでると思ってるの?」
「んー、セレブバレーに住んでいる、とか?」
「俺、谷に住んでないし! 住谷の名字から連想するのやめて」
「あ、分かりました?」
あはは!と二人で笑い合っていると、文哉がギロリと住谷を睨んだ。
「智史、それくらい自分で考えろ。打ち合わせは終わりだ。とっとと去れ」
「うわー、出ましたよ。奥様大好き、ヤキモチ大魔王が」
「なんだと!?」
「ひー、怖い怖い。じゃあね、真里亜ちゃん」
そそくさと住谷が部屋を出て行き、パタンとドアが閉まる。
真里亜は文哉から離れるように、そっと立ち上がった。
「えーっと、あ! 私も秘書課で作業を……」
すると文哉が呼び止める。
「真里亜」
「は、はい。なんでしょう」
「今夜は早く帰る。覚悟しろ。ひと晩中、離してやらないからな」
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