恋は秘密のその先に

葉月 まい

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プロジェクトの成功

 ゆっくりと目を覚ました二人は、枕元の時計を見て思わず笑う。

「もう11時だ」
「ホント。寝すぎましたね」
「真里亜、初夢見た?」
「えーっと、文哉さんの夢を見ました。でも現実なのか夢なのか…」

 なにせ、いつ眠りについたのか分からないほど、ずっと二人で抱きしめ合っていたのだから…。

「俺も真里亜の夢を見たよ。一富士、二鷹、三真里亜、だな」
「ええ?私、なすびと一緒?」
「そう。これから真里亜のこと、なすびちゃんって呼ぼうかな」
「ひどーい!」

 むーっと真里亜は膨れてみせる。

「あはは!可愛いな、真里亜なすびちゃん」
「もう、文哉さん!」
「ごめんって。ほら、そろそろ起きよう」
「はい。あ、私、少しだけおせち料理作ってきたんです」
「ええ?!そうなの?」
「はい。着替えたら食べましょう」

 真里亜はシャワーを浴びて着替えると、副社長室の横の給湯室でお雑煮を温める。

 重箱と一緒にソファテーブルに並べ、用意しておいた祝箸も置いた。

「では、改めて。明けましておめでとう、真里亜」
「明けましておめでとうございます、文哉さん」

 二人で乾杯すると、真里亜は重箱の蓋を開けた。

「うわー、すごい!これ、全部真里亜が作ったの?」
「はい。でも三段重じゃなくて二段でごめんなさい」
「いや、充分だよ。すごいなー」

 二人して「まめまめしく働きます」と言っては黒豆を食べ、「先行き明るくなりますように」と言ってはれんこんを食べる。

「昆布って、何でしたっけ?」
「昆布はね、喜んぶ」

 ええー?!と真里亜は眉間にしわを寄せて文哉を見る。

「文哉さん、それ親父ギャグ?」
「違うわ!本当だってば」
「嘘だー!おせち料理にそんなウケ狙いな意味合いなんて…」
「語呂合わせだよ。ほら、食べるぞ。ヨロコンブー!」

 あはは!と真里亜はお腹を抱えて笑い出した。

「この栗きんとん、絶品だな!俺、この甘さすごく好きだわ。あ、真里亜!数の子食べて」
「え、数の子?」

 ようやく笑いを収めて、真里亜は数の子に手を伸ばす。

 パクっと食べると、文哉は、よし、と頷いた。

「これで子だくさんになるぞ、真里亜」

 真里亜は一気に顔を赤くした。

 おせち料理を全て食べ終え、二人は支度をして副社長室を出る。

 近くの神社で初詣を済ませると、それぞれ自宅に帰ることにした。

「じゃあ、真里亜。お正月はご家族と一緒にゆっくり過ごしてね」 
「はい、ありがとうございます。副社長の初出勤は、いつですか?私もその日から出勤します」
「いや、俺に合わせなくていいよ。真里亜は他の社員と一緒に、6日から来てくれれば」

 はい、と真里亜は小さく答えてうつむく。

 そんな真里亜に、文哉は、でも…と続ける。

「会いたくなったらいつでもおいで。待ってるから」

 真里亜はパッと顔を上げて、満面の笑みで、はい!と頷いた。

「ホントに可愛いな、真里亜。離れたくなくなる」

 人影がまばらな路地の一角で、文哉は真里亜を抱きしめる。

「じゃあ、充電しておこう」

 そう言って文哉は優しく真里亜にキスをした。

 *****

 年始の休暇明けから、AMAGIは一気に忙しくなった。

 まずはシステムエンジニアの増員。

 理由は明言出来ないが、人員を増やす必要があるからと、まずは社内で募集をかける。

 何人かが名乗りを挙げ、その中にはもちろん藤田もいた。

 システムエンジニアとしてやっていく為の技量、知識、そして熱意などを、実技、筆記、面接を重ねて選考していく。

 数回に渡る選考試験を経て、7人が社内から選出された。

「えー、それでは新たに加わるシステムエンジニアの紹介と、今後取り組む仕事の内容についてのミーティングを始めます」

 2月に入り、会議室には、キュリアス ジャパンの時のチームメンバーが顔を揃えていた。

 住谷の進行で、まずは新メンバーの自己紹介から始まる。

「人事部から異動してきました、藤田 雅人と申します。システムエンジニアになりたいという夢を捨て切れず、今回の募集に全てを賭けてチャレンジしました。採用していただけたことに感謝し、必ず戦力になれるよう、日々懸命に努力して参ります。どうぞよろしくお願いいたします」

 深々と頭を下げる藤田を、皆が拍手で温かく迎え入れる。
 もちろん真里亜も。

 顔を上げた藤田は、真里亜を見て頷く。 
 真里亜も笑顔で頷いてみせた。

 キュリアス USAとの仕事は、主にオンラインミーティングで進められた。

 それぞれ会議室に集まり、パソコンで互いの国を繋ぐ。

 AMAGIの為に、ミーティング中は常にカレンが同時通訳してくれたが、文哉は疑問点などがあると自ら英語でやり取りしていた。

 CEOのジョンが参加する際は、雑談や近況なども直接英語で交わす。

 マリアが選んでくれたプレゼント、とても気に入ったよ。あのペアグラスで、毎晩お酒を楽しんでいる。奥さんも、桜のストールを毎日愛用しているよ、と言われ、
 真里亜は、
「It's my pleasure. I'm so glad to hear that」
 と答えるのが精一杯だった。

 (もっと英語を勉強しよう!)
  
 文哉をサポートする為にも、と真里亜は心に決める。

 藤田も慣れない環境の中必死で努力し、新メンバーの中から唯一、社内のキュリアスのチームメンバーに選ばれていた。

 オンラインミーティングの準備の度に、真里亜は皆に資料を配って回る。

「はい、藤田くん」
「ありがとう!阿部 真里亜」

 何気ないこのやり取りが、二人にとってはかけがえのないもの。

 真里亜は、今回の大きな仕事も、このメンバーで力を合わせて必ず成功させる!と固く誓った。

 *****

 色々な国のメンバーと話し合いながら、一つのプロジェクトを進めていく…。
 それが如何に大変なことであるかを、皆はヒシヒシと感じていた。

 言葉が上手く伝わらないだけでなく、感覚や文化の違い、そして見え隠れする互いのプライドや思惑。

 技術面でも、精神面でも厳しい毎日が続いた。

 文哉は、チームメンバーの様子を見ながら、励ましたり労ったり、あるいは鼓舞したりと、常に最善の声かけをしていく。

 そしてジョンも、国同士の雰囲気が悪くなりかけると明るくジョークを言ったり、このプロジェクトが終わったら、君達は世界から一気に賞賛を浴びるよ。盛大なパーティーを開こう!と盛り上げた。

 真里亜も、出来る限りのことはやる!と、毎日分かりやすく資料を作り、カレンとやり取りしてアメリカのメンバーの本音を聞き出したりした。

 文哉も真里亜も、住谷も藤田も、チームメンバーの全員が心を一つにしてひたむきに努力した。

 時は過ぎ、気がつけば真夏の8月。

 対外的には何も発表されないまま、水面下で進められていた国際的なプロジェクト。

 それが遂に、キュリアス USAのCEOであるジョンから発表される日がやって来た。

 マスコミを呼んで記者会見を開き、全世界にインターネットで配信される。

「時代は今、デジタルの世界だ。コンピュータテクノロジーがビジネスの中心だ。我々がもっとも警戒しなければならないのは、現金を盗む泥棒ではない。コンピュータをハッキングするハッカーだ。だが、その存在に怯える日々も終わる。我々は国際的なプロジェクトを進め、各国のトップ企業とチームを組んで新しいセキュリティシステムを開発した。現時点でこのシステムをハッキング出来る者はいないと断言しよう。そしてこれからも、我々は日々改善を重ね、対抗するハッカーに立ち向かっていく。それを今日、ここに宣言する」

 まるで大統領のような堂々と力強い演説に、一斉に拍手が起こった。

「それでは、このプロジェクトに加わってくれた我々の信頼する仲間を紹介する。まずは、イギリスから」

 ジョンの後ろにあった大きなモニター画面がパッと切り替わり、イギリスチームのメンバーが映し出される。

 皆、晴れやかな笑顔で手を振っていた。
 他の国も、次々と紹介される。

「そして日本から。AMAGIコーポレーション!」

 最後に日本が紹介され、AMAGIの会議室に集まったチームメンバーが映し出された。

 皆で、うわー、映ってる!とテンション高く笑顔で手を振る。

「我々はこれからも、この最高のチームメンバーと共に、最強のシステムを常にアップデートしていく。どうぞご期待ください」

 自信に満ち溢れた笑みを浮かべながら、ジョンは最後の言葉で締めた。

 *****

「みんな、本当にお疲れ様!そしてありがとう。私は君達を誇りに思うよ。これからも世界中の企業の先頭に立って、新しい道を一緒に切り拓いていこう!」

 記者会見を終えたジョンが、オンラインで各国のチームメンバーに呼びかける。

「とにかく今は乾杯だ。みんな、準備はいいか?」

 イエス!と、それぞれが用意したグラスを手に持つ。

「それでは、我々の成功と友情に。乾杯!」
「かんぱーい!」

 AMAGIの会議室でも、たくさん用意されたお酒と食べ物でパーティーが始まる。

 オンラインは繋いだまま、時折他の国のメンバーとも、グラスを合わせる真似をして笑い合った。

 あれだけ揉めて、悩んで、頭を抱えた日々が嘘のように、誰もがフレンドリーに笑顔で互いを労う。

「諸君。もう一つお知らせがあるよ」

 宴もたけなわな頃、ジョンが画面越しに皆に呼び掛けた。

「来月、君達全員をニューヨークに招いてパーティーを開く。実際に顔を合わせて握手を交わそうじゃないか。是非、予定を空けておいてくれ」

 ワー!と皆は一気に盛り上がる。

 (パーティー?ニューヨークで?)

 真里亜もジワジワと喜びが込み上げてきた。

 (また行けるの?ニューヨークに…)

 すると、こちらを振り返った文哉と目が合う。

 文哉は真里亜を見てにっこりと笑い、大きく頷いた。

 (行けるんだ!文哉さんとまた、ニューヨークに!)

 真里亜も満面の笑みで文哉に頷いた。
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