魔法のいらないシンデレラ

葉月 まい

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提携

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後日…

清河から、一生宛に大きな荷物が届いた。

開けてみると、丁寧に梱包された大きなガラスの花瓶が入っている。

添えられた手紙には、
今回お世話になったお礼に…
ホテルのどこか片隅にでも、お役立て頂けたら幸いです
とある。

一生は、梱包材から慎重に花瓶を取り出す。

1枚の小さなカードが載せられていた。

     【幸運】
ガラス工房 清河

筆で書かれた味のある字、きっと清河の直筆だろう。

一生は、早速早瀬に指示を出した。

*

ロビーの真ん中、大きなテーブルに載せられた清河の花瓶に、フラワーアーティストが豪華に花を生ける。

「うわー、なんて素晴らしいの」

その存在感に圧倒されるように、瑠璃は目を見張った。

なにも知識のない素人でも、これは芸術だと感じる。

瑠璃は、花瓶の横にあるガラスのプレートに目を向けた。

ガラスには、清河の直筆カードが挟んである。

(幸運…まさにこのホテルのためだけの、清河さんの作品)

瑠璃は、何度も角度を変えながら写真を撮る。

季節のお便りや、SNSで発信するつもりだった。

(…違う。これは、もっとちゃんと撮るべき)

小さな画面と実物とを見比べた瑠璃は、古谷に撮影を依頼しようと思った。

(パンフレットの写真も、差し替えた方がいいかもしれない。これは、ホテルの顔になる)

瑠璃は、早足でオフィス棟へと戻った。

*

「そ、それはつまり、どういったことでしょうか?」

一生は、受話器を持つ手に力を込めながら、相手の声に集中する。

「そやから、わしの作品、そちらさんで取り扱ってもらわれへんかと。よかったら、どっか隅っこにでも置かせてもらわれへんか?」

聞こえてきた清河のセリフを、頭の中で反復する。

「つ、つまり、清河様の作品を、当ホテルで販売させて頂けると?」
「まあ、そういうこっちゃ。そちらの、アーケードやったか?ええ品ばっかり置いてあったわ。こだわって選んどるのが分かった。それにおたくらは、人がええ。あんたらやったら、わしの作品任せられる。構わへんか?」
「そ、それはもちろんです。こちらこそ、よろしくお願い致します」

一生は立ち上がり、しきりに頭を下げる。

「よかったわ。あれからな、どんどん作る意欲が湧いて、止まらんのや。うちの狭い店には並べ切れん。ほな、早速いくつか送らせてもらうわな」
「ありがとうございます!近々京都にうかがって、改めて詳しいお話をさせて頂きたいと思います」

花瓶のお礼を言うために電話をかけたが、思いもよらない話の流れに、一生は気持ちが高ぶるのを抑えられなかった。

*

ガラス工房 清河が、ホテル フォルトゥーナ東京と提携を結んだことは、予想以上に大きくニュースで取り上げられた。

記事を読んで瑠璃達は驚いた。

これまで清河は、ホテルやデパート、通販サイトのバイヤーはもちろんのこと、なんと美術館の誘いも断っていたのだ。

どんなに良い条件や高い金額を提示しても、決して首を縦に振らなかったあの清河が、いったいどうやって、しかも東京のホテルに?

マスコミはこぞって総支配人にインタビューしたがり、清河の作品を見ようと多くのお客様がホテルを訪れる。

しばらくの間ホテルは、ガラス工房 清河に関する対応でてんやわんやだった。

そして事態が少し落ち着いた頃、営業部企画広報課は、総支配人から功労賞を贈られることになった。

「実質、瑠璃ちゃんと奈々ちゃん二人の賞だよ」

青木の言葉に、他の男性社員も頷く。

「おめでとう!そしてありがとうー!」

ヒューヒューと口笛まで吹きながら、瑠璃達に大きな拍手を送る。

瑠璃と奈々は、照れ笑いを浮かべて顔を見合わせた。

そんな瑠璃の身に大きな危険が迫ったのは、それからしばらくしてのことだった。
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