魔法のいらないシンデレラ

葉月 まい

文字の大きさ
24 / 25

ずっと一緒に

しおりを挟む
「おはようございます」
「おはよう」

クリスマスの朝、いつもと変わりない挨拶。

早瀬はチラッと一生の様子をうかがう。

(どうだったんだ?夕べは…)

気になりつつも冷静をよそおう。

「昨日は定時で上がらせて頂き、ありがとうございました。大丈夫でしたか?あのあと」
「ああ、何も問題ない。お前、今日も定時で上がれ。今日だって大事なクリスマスだからな」
「いえ、大丈夫です。総支配人だってお仕事ですし」

すると一生は、ニヤッと笑った。

「俺、お前との約束、守ったからな」
「え、約束…って、クリスマスまでに…?」
「ああ。ギリギリだけどな」
「そっかー!ついに、一生さんが!」

早瀬は、まるで自分の事のように喜びを抑えきれなかった。

「いやー、心配してたんですよ。一生さん、顔面偏差値の高さに反比例して、恋愛偏差値からっきしだし。なんなら中学生以下。女の子口説くなんて、絶対無理だろうって。でも、そっかー。良かったなあ、サンタクロース頑張って」
「…は?お前、何言ってんの?それにちょいちょい俺の悪口挟んだだろ」
「喜んでるんですよ!これでも。あ、そうだ。今度紹介してくださいね、彼女」

一生は、飲みかけのコーヒーにむせ返った。

(これくらいの意地悪、許されて当然だ!なんたって俺は、失恋するのが分かってて恋のキューピッド、いや、サンタクロースを買って出たんだからな)

コートを掛けて席に着いた早瀬は、ふとデスクの上の花瓶に目をやった。

昨日までとは違い、クリスマスカラーの花がきれいに生けられている。

(瑠璃さん…)

不覚にも涙が出そうになる。

(いや、俺にはこの優しさだけで充分だ)

早瀬は頷くと、もう一度花を見て微笑んだ。

***

年が明け、桜の咲く季節がやってきた。

ホテル フォルトゥーナ東京では、総支配人就任3年目に入った記念式典の場で、一生と瑠璃の婚約が発表された。

週刊誌に書かれる前に、正式にプレスリリースされる。

総支配人の結婚相手が営業部の社員とあって、まさにシンデレラストーリーだと、ホテルはまた大きな注目を浴びた。

結婚式は6月。

瑠璃は、仕事のかたわら、式の準備で忙しい毎日を送っていた。

式場はもちろん、ホテル フォルトゥーナ東京。

ブライダルコーナーでドレスを選び、当日のヘアメイクは、杉下にお願いすることにした。

そして古谷は、当日付きっきりで写真撮影してくれるという。

清河にも報告し、招待状を送ると、喜んで参列すると言ってくれた。

いよいよ、6月の良き日。

瑠璃は晴れてジューンブライドとなった。

***

朝からきれいな青空が広がっていた。

花嫁の控え室で杉下は、
いやーん、もう、腕が鳴りまくっちゃう
と笑いながら、瑠璃にとびきりすてきなメイクを施してくれた。

髪もきれいにアップでまとめ、仕上げに煌めくティアラを載せると、杉下はうっとりと両手で頬を押さえる。

「すてき過ぎる…なんてお美しいの」

瑠璃は微笑んでお礼を言う。

そんな控え室でのひとコマも、古谷は何枚も撮影してくれた。

「いやーもう、シャッター押す指が止まりませんよ」
「あら、これからお式も披露宴もあるのに、枚数大丈夫ですか?」
「大丈夫!予備のカメラも2台持ってきましたから!」

杉下と古谷のやり取りに、瑠璃も思わず笑顔になる。

その時、ドアがノックされた。

「はーい、どうぞー」

杉下が返事をすると、失礼致しますと言って、早瀬が入って来た。

「早瀬さん」

瑠璃が声をかけると、ふと顔を上げた早瀬が驚いて目を見開く。

怪訝そうな瑠璃と早瀬を見比べ、杉下が頷く。

「そりゃそうなりますよねー。こんなおきれいな花嫁様、初めてですもの」

早瀬は、必死でいつもの顔を作り、瑠璃に声をかける。

「あ、そ、その、そろそろお時間ですので、チャペルの方へ」
「はい。承知しました」

***

閉ざされたチャペルの扉の前、父と並んだ瑠璃は、傍らの早瀬に向き直る。

「早瀬さん、色々と本当にありがとうございました。私がこの日を迎えられるのも、早瀬さんのおかげです。どうぞこれからも、よろしくお願い致します」
「はっ、こ、こちらこそ」

そう言ってガチガチに緊張していた早瀬は、ふっと肩の力を抜いた。

「私にとっても夢のような日です。私の大切なお二人が結ばれるなんて。私はこれからも、一生さんと瑠璃さんを全力でお守りします」

チャペルから、かすかにオルガンの音色が流れてきた。

「それでは、いってらっしゃいませ」

早瀬と杉下が、扉を開けてくれる。

「瑠璃さん、どうぞお幸せに」
「ありがとう、早瀬さん」

二人は微笑んで頷き合った。

父の腕に引かれ、チャペルの入口まで進むと、二人で深々とお辞儀をする。

こちらを振り返った列席者は、大きな拍手で迎えてくれた。

瑠璃は、バージンロードを1歩ずつ踏みしめる。

「瑠璃ちゃーん!きれいだー!」

加藤や山下、企画広報課のみんな。

「瑠璃ちゃん、きれい、とってもきれいよ…」

そう言って涙を拭う奈々と、隣で彼女の頭を優しくなでる青木。

「瑠璃ちゃん、ほんまきれいやでー。幸せになりや」

遠くから来てくれた清河。

「良かったわー、先に結婚してくれて。これで私もあなたに続けるわ」

いつもの口調でそう言う麗華。

「瑠璃ちゃん、幸せにね」
「瑠璃、良かったわね」
「あー!」

優しく笑いかけてくれる高志と藍、そして嬉しそうに手を伸ばしてくる篤志。

「幸せになれよ、瑠璃」

子どもの頃のかずきお兄ちゃんを思い出させる和樹の笑顔。

「瑠璃ちゃん、きれい、きれいよ。ああ、私の娘、瑠璃ちゃん」
「ちょっと佐知さん、私より泣いてどうするの」

ハンカチをぐしょぐしょにしている佐知と、苦笑いする母。

「瑠璃、良かったわね。幸せにね」
「ありがとう、お母様」

皆の祝福を受けて、すでに涙で潤んだ瞳の瑠璃は、やがて父とともに一生の前に歩み出た。

そっと顔を上げると、一生は優しい笑顔で瑠璃に頷く。

「一生くん。あー、瑠璃はかなりの頑固者で、ひと筋縄ではいかない、扱いづらい娘ですが…」
「ちょ、ちょっと、お父様」

涙が引っ込んでしまった瑠璃が、慌てて父を止める。

「それでも、あなたと出会って娘は変わりました。親では、どうやっても助けてやれない場面がある。そこを乗り越えられたのは、あなたのおかげです。どうぞこれからも、娘をよろしくお願いします」
「こちらこそ。今の自分があるのは瑠璃さんのおかげです。彼女の優しさ、強さ、温かさ、全てが私の支えであり、そんな彼女を生涯かけてお守りするのが私の使命です。必ず瑠璃さんを幸せに致します。こんな私に大切なお嬢様を託してくださって、本当にありがとうございます」

二人は互いに、深々と頭を下げた。

父はそっと腕をほどき、瑠璃の手を一生に託す。

「幸せにな、瑠璃」
「ありがとう、お父様」

涙を堪えながら声を震わせてそう言う娘に、父は優しく頷いた。

やがて一生は、瑠璃の手を自分の腕に掴まらせると、しっかり手のひらで包み込んだ。

二人で正面を向き、牧師の前に歩み出る。

「新郎、神崎 一生。あなたは、早乙女 瑠璃を妻とし、健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、妻を愛し、敬い、ともに助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

一生は、張りのある声で力強く答える。

「はい、誓います」

頷いた牧師は、瑠璃に向き合う。

「新婦、早乙女 瑠璃。あなたは、神崎 一生を夫とし、健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、夫を愛し、敬い、ともに助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

瑠璃は、しっかり顔を上げて答えた。

「はい、誓います」

胸がいっぱいになり、思わず涙が出そうになるのを堪えていると、一生が優しく右手を重ねてくれた。

指輪を交換し、一生は、うつむいた瑠璃のベールをゆっくりと上げた。

瑠璃は、一生を見上げて微笑む。

息をするのも忘れるくらい、一生は瑠璃の美しさに見とれた。

その両手を握り、瑠璃、と優しく名前を呼ぶ。

「必ず幸せにする。ずっと一緒にいよう」
「はい」

涙で潤んだ瑠璃の瞳に笑いかけ、両手を肩に置くと、一生は瑠璃に優しく口づけた。

二人を見守る人達から、温かい拍手が起こる。

たくさんの祝福を受け、幸せを噛みしめ、瑠璃は一生の優しい眼差しに、明るい未来を感じた。

これから先も、たくさんの人達に感謝しながら、自分の足でしっかり歩いていこう。

大丈夫、私はもう1人じゃない。

瑠璃は一生と微笑み合う。

これから先も、ずっとずっと一緒にいられますように…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アンコール マリアージュ

葉月 まい
恋愛
理想の恋って、ありますか? ファーストキスは、どんな場所で? プロポーズのシチュエーションは? ウェディングドレスはどんなものを? 誰よりも理想を思い描き、 いつの日かやってくる結婚式を夢見ていたのに、 ある日いきなり全てを奪われてしまい… そこから始まる恋の行方とは? そして本当の恋とはいったい? 古風な女の子の、泣き笑いの恋物語が始まります。 ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ 恋に恋する純情な真菜は、 会ったばかりの見ず知らずの相手と 結婚式を挙げるはめに… 夢に描いていたファーストキス 人生でたった一度の結婚式 憧れていたウェディングドレス 全ての理想を奪われて、落ち込む真菜に 果たして本当の恋はやってくるのか?

Bravissima!

葉月 まい
恋愛
トラウマに悩む天才ピアニストと 俺様キャラの御曹司 かつ若きコンサートマスター 過去を乗り越え 互いに寄り添い いつしか最高のパートナーとなる 『Bravissima!俺の女神』 ゚・*:.。♡。.:*・゜゚・*:.。♡。.:*・゜ 過去のトラウマから舞台に立つのが怖い芽衣は如月フィルのコンマス、聖の伴奏ピアニストを務めることに。 互いの音に寄り添い、支え合い、いつしか芽衣は過去を乗り超えていく。 ✧♫•・*¨*•.♡。.:登場人物:.。♡.•*¨*・•♫✧ 木村 芽衣(22歳) …音大ピアノ科4年生 如月 聖(27歳) …ヴァイオリニスト・如月フィルコンサートマスター 高瀬 公平(27歳) …如月フィル事務局長

愛してやまないこの想いを

さとう涼
恋愛
ある日、恋人でない男性から結婚を申し込まれてしまった。 「覚悟して。断られても何度でもプロポーズするよ」 その日から、わたしの毎日は甘くとろけていく。 ライティングデザイン会社勤務の平凡なOLと建設会社勤務のやり手の設計課長のあまあまなストーリーです。

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

桜のティアラ〜はじまりの六日間〜

葉月 まい
恋愛
ー大好きな人とは、住む世界が違うー たとえ好きになっても 気持ちを打ち明けるわけにはいかない それは相手を想うからこそ… 純粋な二人の恋物語 永遠に続く六日間が、今、はじまる…

君に恋していいですか?

櫻井音衣
恋愛
卯月 薫、30歳。 仕事の出来すぎる女。 大食いで大酒飲みでヘビースモーカー。 女としての自信、全くなし。 過去の社内恋愛の苦い経験から、 もう二度と恋愛はしないと決めている。 そんな薫に近付く、同期の笠松 志信。 志信に惹かれて行く気持ちを否定して 『同期以上の事は期待しないで』と 志信を突き放す薫の前に、 かつての恋人・浩樹が現れて……。 こんな社内恋愛は、アリですか?

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

処理中です...