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サバサバ女
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「おはようございます!」
心は、オフィスに入って来る桑田や先輩達に明るく挨拶する。
「おはよう、久住」
「早いな、もう来てたのか?」
「気合い入ってんなー」
名前のマグネットを貼りながら、先輩達が心に声をかけてくる。
「はい!今日もがんばります!」
心は元気にガッツポーズしてみせた。
「よし、じゃあ朝礼始めるぞ。明日からいよいよ世の中はゴールデンウィークに入る」
「あはは、世の中は、ですね」
「そう、俺達にとっては、怒涛のサバイバルウィークだ。がんばって生き抜いてくれ」
「はーい、がんばりまーす!」
皆の笑顔に頷いたあと、桑田は真顔に戻った。
「それと、今日の遅番から佐伯が復帰する」
「えっ!佐伯さん、もう大丈夫なんですか?」
「ああ。お医者さんから仕事の許可も下りたらしい。ただ、もちろんジャンプは飛ばないし、しばらくは裏方の作業をメインにやってもらう。体調と、あとは佐伯のメンタルも考慮しながら、徐々に戻してもらえたらと。みんなもフォロー頼む」
「はい!」
返事をしてから、桑田の言葉が引っかかり心は視線を落とした。
(佐伯さんの、メンタル…)
昨日、昴のマンションで夕陽を見ながら、ふいに涙が込み上げてきたことを思い出す。
自分ですらあんな状態だったのだ。
当事者の佐伯は、きっともっと…。
「おーい、どうした?久住。調餌行くぞ」
「あ、はい!」
先輩に声をかけられ、心は慌てて後を追った。
*****
今日も大量の魚を、皆で手際良く捌いていく。
並んで作業するこの時間に、他愛もない話をしたり、冗談を言って笑ったり、時には愚痴をこぼし合ったりと、皆とコミュニケーションを取るのが心は好きだった。
今も数人が、ゴールデンウィークの愚痴をこぼしている。
「俺、ニュースのアレ見るのが嫌なんだ。空港でインタビューしてるやつ」
「あー、あれな。これからどこへ行くんですか?ハワイですぅー、とっても楽しみですぅーってやつ」
妙にぶりっこな口調に、皆で笑う。
「まあまあ。そんな中、うちに来るのを楽しみにしてくれる人もいる訳だしさ。俺らのショーを見てくれるのだって、その人にとっては人生で1度切りになるかもしれない。毎回、しっかりがんばろうな」
桑田の言葉に、はい!と皆で返事をする。
「でも…佐伯さん、大丈夫ですかね?」
ポツリと、心の隣に立つ先輩が呟く。
「その、あの時のことがトラウマになってたり、怖くて飛べなくなったり…なんてことは」
皆は一様に押し黙り、静けさの中、包丁で捌く音だけがする。
「それは俺も注意深く見守る。だが、復帰はいつになるかは分からない。みんなも、しばらくは佐伯抜きでショーが出来るよう、協力してくれ」
「はい」
皆で返事はしたものの、雰囲気は暗いままだ。
しばらく続く沈黙の中、心はゆっくり口を開いた。
「私は、佐伯さんを信じます。今は心も身体も大きなダメージを受けていると思うし、決して無理はして欲しくないですけど。でも、佐伯さんは必ずいつかまた飛べるようになる。だってあの難しい技を、ルークと一緒に何度も練習して習得したんだもの。その時の感覚や喜びを、佐伯さんは忘れるはずありません。それに何より、きっと佐伯さんもルークも、また一緒に飛びたいと思っていると思います。だから私は、佐伯さんとルークをサポートします。少しずつ少しずつ、また練習を積み重ねていって欲しいです」
黙って聞いていた桑田が、ああ、そうだなと呟き、他の皆も頷いた。
*****
「そう言えば久住さ、同窓会の日にちは決まったのか?」
しばらくして桑田が、思い出したように心に聞く。
「あ、はい。5月11日の土曜日です」
「その日、お前のシフトどうなってたっけ?」
「早番で17時上がりです。同窓会は19時からなので、充分間に合います」
すると桑田は、うーん、と手を止めて考え込んだ。
「いや、お前その日休みにしろ。せっかくの同窓会に魚臭さを気にしたくないだろ」
「え?でも、土曜日なのに。大丈夫ですか?」
「大丈夫、俺がシフト代わるよ」
ふいに聞こえてきた声に、皆は驚いて入り口を振り返る。
「佐伯さん!もう大丈夫なんですか?」
いつの間に来たのだろう、照れくさそうに笑う佐伯が立っていた。
「ああ、もう大丈夫だ。みんな、迷惑かけて悪かった」
「そんな!迷惑だなんてとんでもない」
「そうですよ。佐伯さんが無事で本当に良かったです」
「でも佐伯さんがいない間は、なんか心細くて」
「確かに。俺達、佐伯さんに頼り過ぎてました。これからはもっとがんばります!」
佐伯は、周りを取り囲む皆の言葉を笑顔で聞いていた。
(良かった、佐伯さん元気そう。それにほんと、いてくれるだけで安心する)
心も微笑んで、皆の様子を嬉しそうに見つめた。
*****
「久住。お前、イカ捌くのは下手だけど、サバはめっちゃ速いな」
隣に並ぶ佐伯が、横目で心の手つきを見ながら言う。
他のメンバーがショーの準備や練習に向かったあと、佐伯は調餌を手伝ってくれていた。
「そうなんですよー。桑田さんにも言われました。サバを捌くのが上手いから、サバサバ女だって」
ブハハ!と佐伯は盛大に笑う。
「確かに、それは言えるな。色んな意味でサバサバ女だ」
「ちょっと!色んな意味ってなんですか?」
「まあ、ハッキリ言うと性格もサバサバ。髪型はボサボサ」
「えー、ひどーい!サバサバのボサボサ女ってこと?!」
アハハと佐伯はおもしろそうに笑っている。
(まあ、いいや。佐伯さん、元気そうだし)
心がそう思っていると、ふいに佐伯が真顔で言った。
「久住、ありがとな」
「え?何がですか?」
「いや、うん。俺さ、やっぱりちょっと怖いんだ。多分、今は飛べない。無理にやったら、俺もルークも怪我をすると思う。それに、あの時のヒヤッとした感覚が消えないんだ。だけど…」
佐伯は、包丁を持つ手を止めて心を見る。
「俺、お前の言うように、またいつかルークと飛びたいんだ。必ず、いつかまた。だから焦らず少しずつ、1からがんばってみるよ」
「佐伯さん…」
心は目を潤ませる
さっきの話を、ドアの横で聞いていたのだろう。
佐伯の決意に満ちた瞳を、心はじっと見つめて頷いた。
「佐伯さんなら必ずまた飛べます。ルークも絶対そう思ってます。だから、少しずつ少しずつ、二人で感覚を取り戻していってください。そしてまたいつか、あの美しいジャンプをみんなに見せてくださいね」
「ああ、分かった」
心はふっと頬を緩め、佐伯と微笑み合った。
*****
(えーっと、サンフランシスコって今何時だ?朝?夜?)
帰宅して食事を済ませたあと、昴にメッセージを送ろうとして、こんにちは!なのか、こんばんは!なのかと、書き出しのセリフを迷っていた。
(ま、いいや。じゃあいつ読んでもいいように…)
心は、
"おはこんばんちは!"
と書き始めた。
"無事にサンフランシスコに着きましたか?お疲れ様でした。あれから慎也くんが河合先生に連絡してくれて、同窓会に参加してもらえることになりました。クラスのみんなも、喜んでます。あ、人数が36人になったこと、レストランに電話して片桐さんにも伝えました。多少の増減は当日でも大丈夫だそうです。取り急ぎお知らせまで…。お仕事がんばってね!"
送信すると、うーん…と伸びをする。
「さてと!お風呂に入ろーっと」
明日からのゴールデンウィークに備えて、心は早めに寝ることにした。
心は、オフィスに入って来る桑田や先輩達に明るく挨拶する。
「おはよう、久住」
「早いな、もう来てたのか?」
「気合い入ってんなー」
名前のマグネットを貼りながら、先輩達が心に声をかけてくる。
「はい!今日もがんばります!」
心は元気にガッツポーズしてみせた。
「よし、じゃあ朝礼始めるぞ。明日からいよいよ世の中はゴールデンウィークに入る」
「あはは、世の中は、ですね」
「そう、俺達にとっては、怒涛のサバイバルウィークだ。がんばって生き抜いてくれ」
「はーい、がんばりまーす!」
皆の笑顔に頷いたあと、桑田は真顔に戻った。
「それと、今日の遅番から佐伯が復帰する」
「えっ!佐伯さん、もう大丈夫なんですか?」
「ああ。お医者さんから仕事の許可も下りたらしい。ただ、もちろんジャンプは飛ばないし、しばらくは裏方の作業をメインにやってもらう。体調と、あとは佐伯のメンタルも考慮しながら、徐々に戻してもらえたらと。みんなもフォロー頼む」
「はい!」
返事をしてから、桑田の言葉が引っかかり心は視線を落とした。
(佐伯さんの、メンタル…)
昨日、昴のマンションで夕陽を見ながら、ふいに涙が込み上げてきたことを思い出す。
自分ですらあんな状態だったのだ。
当事者の佐伯は、きっともっと…。
「おーい、どうした?久住。調餌行くぞ」
「あ、はい!」
先輩に声をかけられ、心は慌てて後を追った。
*****
今日も大量の魚を、皆で手際良く捌いていく。
並んで作業するこの時間に、他愛もない話をしたり、冗談を言って笑ったり、時には愚痴をこぼし合ったりと、皆とコミュニケーションを取るのが心は好きだった。
今も数人が、ゴールデンウィークの愚痴をこぼしている。
「俺、ニュースのアレ見るのが嫌なんだ。空港でインタビューしてるやつ」
「あー、あれな。これからどこへ行くんですか?ハワイですぅー、とっても楽しみですぅーってやつ」
妙にぶりっこな口調に、皆で笑う。
「まあまあ。そんな中、うちに来るのを楽しみにしてくれる人もいる訳だしさ。俺らのショーを見てくれるのだって、その人にとっては人生で1度切りになるかもしれない。毎回、しっかりがんばろうな」
桑田の言葉に、はい!と皆で返事をする。
「でも…佐伯さん、大丈夫ですかね?」
ポツリと、心の隣に立つ先輩が呟く。
「その、あの時のことがトラウマになってたり、怖くて飛べなくなったり…なんてことは」
皆は一様に押し黙り、静けさの中、包丁で捌く音だけがする。
「それは俺も注意深く見守る。だが、復帰はいつになるかは分からない。みんなも、しばらくは佐伯抜きでショーが出来るよう、協力してくれ」
「はい」
皆で返事はしたものの、雰囲気は暗いままだ。
しばらく続く沈黙の中、心はゆっくり口を開いた。
「私は、佐伯さんを信じます。今は心も身体も大きなダメージを受けていると思うし、決して無理はして欲しくないですけど。でも、佐伯さんは必ずいつかまた飛べるようになる。だってあの難しい技を、ルークと一緒に何度も練習して習得したんだもの。その時の感覚や喜びを、佐伯さんは忘れるはずありません。それに何より、きっと佐伯さんもルークも、また一緒に飛びたいと思っていると思います。だから私は、佐伯さんとルークをサポートします。少しずつ少しずつ、また練習を積み重ねていって欲しいです」
黙って聞いていた桑田が、ああ、そうだなと呟き、他の皆も頷いた。
*****
「そう言えば久住さ、同窓会の日にちは決まったのか?」
しばらくして桑田が、思い出したように心に聞く。
「あ、はい。5月11日の土曜日です」
「その日、お前のシフトどうなってたっけ?」
「早番で17時上がりです。同窓会は19時からなので、充分間に合います」
すると桑田は、うーん、と手を止めて考え込んだ。
「いや、お前その日休みにしろ。せっかくの同窓会に魚臭さを気にしたくないだろ」
「え?でも、土曜日なのに。大丈夫ですか?」
「大丈夫、俺がシフト代わるよ」
ふいに聞こえてきた声に、皆は驚いて入り口を振り返る。
「佐伯さん!もう大丈夫なんですか?」
いつの間に来たのだろう、照れくさそうに笑う佐伯が立っていた。
「ああ、もう大丈夫だ。みんな、迷惑かけて悪かった」
「そんな!迷惑だなんてとんでもない」
「そうですよ。佐伯さんが無事で本当に良かったです」
「でも佐伯さんがいない間は、なんか心細くて」
「確かに。俺達、佐伯さんに頼り過ぎてました。これからはもっとがんばります!」
佐伯は、周りを取り囲む皆の言葉を笑顔で聞いていた。
(良かった、佐伯さん元気そう。それにほんと、いてくれるだけで安心する)
心も微笑んで、皆の様子を嬉しそうに見つめた。
*****
「久住。お前、イカ捌くのは下手だけど、サバはめっちゃ速いな」
隣に並ぶ佐伯が、横目で心の手つきを見ながら言う。
他のメンバーがショーの準備や練習に向かったあと、佐伯は調餌を手伝ってくれていた。
「そうなんですよー。桑田さんにも言われました。サバを捌くのが上手いから、サバサバ女だって」
ブハハ!と佐伯は盛大に笑う。
「確かに、それは言えるな。色んな意味でサバサバ女だ」
「ちょっと!色んな意味ってなんですか?」
「まあ、ハッキリ言うと性格もサバサバ。髪型はボサボサ」
「えー、ひどーい!サバサバのボサボサ女ってこと?!」
アハハと佐伯はおもしろそうに笑っている。
(まあ、いいや。佐伯さん、元気そうだし)
心がそう思っていると、ふいに佐伯が真顔で言った。
「久住、ありがとな」
「え?何がですか?」
「いや、うん。俺さ、やっぱりちょっと怖いんだ。多分、今は飛べない。無理にやったら、俺もルークも怪我をすると思う。それに、あの時のヒヤッとした感覚が消えないんだ。だけど…」
佐伯は、包丁を持つ手を止めて心を見る。
「俺、お前の言うように、またいつかルークと飛びたいんだ。必ず、いつかまた。だから焦らず少しずつ、1からがんばってみるよ」
「佐伯さん…」
心は目を潤ませる
さっきの話を、ドアの横で聞いていたのだろう。
佐伯の決意に満ちた瞳を、心はじっと見つめて頷いた。
「佐伯さんなら必ずまた飛べます。ルークも絶対そう思ってます。だから、少しずつ少しずつ、二人で感覚を取り戻していってください。そしてまたいつか、あの美しいジャンプをみんなに見せてくださいね」
「ああ、分かった」
心はふっと頬を緩め、佐伯と微笑み合った。
*****
(えーっと、サンフランシスコって今何時だ?朝?夜?)
帰宅して食事を済ませたあと、昴にメッセージを送ろうとして、こんにちは!なのか、こんばんは!なのかと、書き出しのセリフを迷っていた。
(ま、いいや。じゃあいつ読んでもいいように…)
心は、
"おはこんばんちは!"
と書き始めた。
"無事にサンフランシスコに着きましたか?お疲れ様でした。あれから慎也くんが河合先生に連絡してくれて、同窓会に参加してもらえることになりました。クラスのみんなも、喜んでます。あ、人数が36人になったこと、レストランに電話して片桐さんにも伝えました。多少の増減は当日でも大丈夫だそうです。取り急ぎお知らせまで…。お仕事がんばってね!"
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