夕陽を映すあなたの瞳

葉月 まい

文字の大きさ
18 / 24

昴の影の応援隊

しおりを挟む
 「きゃー、ついに来た!嬉しい!楽しみ!」

 すっかり秋も深まった10月下旬。
 心は、ポストに届いた綺麗なカードを見ながら笑みをこぼす。

 拝啓 
 紅葉の鮮やかな季節になりました
 皆様におかれましてはお健やかにお過ごしのことと お慶び申し上げます
 このたび
 私たちは結婚式を挙げる運びとなりました
 つきましては 末長くご懇情をいただきたく
 心ばかりの祝宴を催したいと存じます
 ご多用中まことに恐縮ではございますが
 ぜひご出席賜りますようお願い申し上げます
 敬具

 2024年10月吉日
 桑田 恭平
 秋月 沙良

 「ひゃーー!名前が!お二人の名前が並んでる!」

 たったそれだけなのに、すでにニヤニヤが止まらない。

 カードを両手で持ったまま、ベッドの上をゴロゴロする。

 「早速、出席の返信ハガキ書こうーっと。あ、そうだ!」

 心は思い立って沙良にメッセージを送った。

 "沙良さーん!招待状届きました!素敵なカードをありがとうございます。もちろん出席させていただきます!今からもう楽しみでたまりません。返信ハガキ、送りますね。桑田さんにもよろしくお伝えください"

 すると、しばらくしてから返信が届く。

 "心ちゃーん!ありがとう!心ちゃんに式に来てもらえること、凄く嬉しいです。本当にありがとう!それまでに、また心ちゃんとランチに行きたいよー"

 「あー、確かに。私も沙良さんとランチに行きたい」

 心もそう返信し、早速二人で会う日を決めた。

*****

 「久しぶりー!心ちゃん!」
 「お久しぶりです、沙良さん!」

 待ち合わせした以前と同じカフェ。
 二人は抱き合って再会を喜ぶ。

 席に着いてラザニアを注文するやいなや、すぐさま話は盛り上がる。

 「心ちゃん、髪ばっさり切ったんだね」
 「そうなんですよー。私、切る時はいつもばっさりなんです。同じ値段だから、その方がお得かなって」
 「えー?あはは!心ちゃんって、やっぱり独特」
 「そうですか?って、沙良さん!その指
 輪!」

 沙良の左手薬指に光るダイヤの指輪を見て、心は目を丸くする。
  
 「うわー、綺麗!素敵ですねー」
 「うふふ、ありがとう!」
 「もちろん桑田さんからですよね?ひゃー!なんか私、関係ないのに照れちゃう」

 両手で頬を押さえる心に、沙良は、あはは!と笑う。

 「私ね、別に婚約指輪なくても良かったの。そんな話題になったこともないのに、ある日いきなり、はいって渡されて」
 「ええー?!桑田さんが?」
 「そう。何これって箱を開けたら、この指輪でしょ?もう、頭の中ハテナでいっぱいよ」
 「そうなんですか?キャッ♡ってならなかったんですか?」 
 「それはさー、なんとなくそんな雰囲気になってたら、私もキュンってなったと思うわよ。でもね、夕飯のあと、食器洗い終わってソファに座ったら、はいって。私、エプロンで手を拭いてた途中よ?」

 想像して、心も思わず笑ってしまう。

 「それは、確かに固まりますね」
 「でしょ?何これ、まさか婚約指輪?え?なぜ今?って」
 「うんうん」
 「しかもさ、そのあとのフォローもないのよ。私がポカーンとしてると、サイズ合うか?ってひと言。それで私がはめてみて、うん、大丈夫って言ったら、そうかって」
 「えっ?それで終わり?」 
 「そうよ。それで今日に至るって感じ」

 ひょえー!と心は仰け反る。

 「いやでも、桑田さんっぽいと言えば桑田さんぽいなあ。精一杯のがんばりだったのかも。だって、その指輪を一人で買いに行ってくれたんですよね?」
 「あー、そっか。そう言われてみればそうね。やだ!想像したら笑っちゃう!どんな顔でお店に入って行ったのかしら」
 「そうですよね。あの強面で…。店員さん、きっとやりづらかったでしょうね」
 「絶対そうよー。なんなのこの人?みたいな」

 想像して散々二人で笑ったあと、ふと沙良は小さく呟く。

 「そっか。私の為に勇気出して買いに行ってくれたんだな。改めてちゃんとお礼言わなきゃね」 
 「そうですよ。きっと顔を真っ赤にしながら、沙良さんの為にって。愛されてますね、沙良さん」
 「ふふふ、ありがとう!心ちゃん」

 美味しいラザニアを食べながら、今度は沙良が心に聞く。

 「心ちゃんはどうなの?ほら、この間このお店で会ったイケメンビジネスマンとは」
 「あー、特に変わりないですよ」
 「会ったりしないの?」
 「時々会ってました。そうそう、ここでばったり会った時に一緒にいた外国人の女性、沙良さんと同じ名前なんです」

 へえー、偶然ね、と沙良が言う。

 「そうなんです。それで、私もあのあとそのサラと仲良くなって。伊吹くんと3人で遊んだりしました。伊吹くんのうちで花火見たり」

 えっ!と沙良が声を上げる。

 「心ちゃん、その伊吹くんのおうちに行ったの?」
 「ええ。前からちょくちょく行ってましたよ」
 「そ、そうなんだ!へえー。それで?なんにもないの?」
 「なんにも…とは?サラと3人でおしゃべりしたりしましたけど」

 そうなんだ…と言って、沙良は何かを考え込む。

 「ねえ、心ちゃんから見て、その伊吹くんってどんな人なの?」
 「伊吹くんですか?頭が良くて、優等生って感じです。昔からずっとそんなイメージですね。今はバリバリの商社マンみたいですけど、別に偉そうな、近寄りがたい雰囲気でもないですし。そうそう、この間会った時は…」

 そこまで言って、ククッと笑いを堪える心を、沙良が促す。

 「うんうん、なーに?」
 「仲のいい4人で飲んだ帰り道に、伊吹くんと話してたんです。そしたら、じーっと私を見てくる目がうるうるしてて、もうイルカそっくりで!私、いつもの癖で、頭なでそうになりましたよ」

 あはは!と笑う心と対照的に、沙良は真顔で手元に視線を落とす。

 「ん?沙良さん、どうかしました?」
 「心ちゃん。私ね、その時の伊吹くんの気持ちが手に取るように分かるの」

 え、どういうこと?と、心は首をかしげる。

 「だって、私も全く同じこと言われたことがあるから。まだ彼とちゃんとつき合い始めてない時にね、何気なく会話してて、楽しそうに笑う彼に見とれたの。思わずじっと見つめてたら、彼も私を見つめ返してきて…。なんとなくいい雰囲気で、思い切って好きですって言っちゃおうかなと思ったら、彼がふっと笑って言ったの。お前の目、イルカみたいだなって。しかもそのあと、頭をクシャッとなでられたの」
 「へえー、桑田さんも?じゃあ、あれかしら。一種の職業病ってやつ?」

 心の呑気な言葉に、沙良は思わず身を乗り出す。

 「そうじゃなくて!あーもう、心ちゃん。その時の伊吹くんの気持ちが分からない?」 
 「え?うーん、特に何も?いつもと同じ会話でしたよ」

 沙良はがっくりとうつむく。

 (伊吹くん!しゃべったことはないけど、私はあなたの味方よ!がんばって!)

 拳を握り、沙良は心の中でエールを送った。

*****

 だんだんと寒さが増し、季節はゆっくりと冬へ移り変わる。

 水仕事が辛くなる時期だが、心はイルカ達と触れ合える日々を大切に過ごしていた。

 昴はまた2週間ほど海外出張に行っており、今回は出発前に会う機会がなく、特に部屋のキーを預かることもなかった。

 なんとなく連絡も疎遠になり、心はどこか寂しさを感じていた。

 (あーあ、夏は楽しかったな。サラと3人でまた遊びたいな)

 休日に、スマートフォンを片手にベッドの上でゴロゴロしながら、花火大会の時に撮った写真を眺める。

 (懐かしいな。サラ、元気かしら。そうだ!)

 心はガバッと起き上がるとパーカーを羽織り、街に出かけた。

 スマートフォンの中に保存してある写真を印刷すると、クリスマスカードを買う。

 (ふふっ、サラ喜んでくれるかな)

 日が暮れた帰り道は寒かったが、心は気持ちがポカポカと温かくなるのを感じた。

*****

 花火大会の写真と一緒にクリスマスカードを送ってしばらくすると、サラから小包が届いた。

 「えっ、何これ?!」

 開けてみると、綺麗なブルーのペアグラスが出てきた。

 光にかざしてみると、ブルーのグラデーションがまるで揺れる波のように美しい。

 「素敵…」

 思わずため息をつくと、ふと、下の方に小さく描かれたイルカを見つける。
 そしてその横には Cocoの文字。

 「も、もしかして、オーダーメイド?!」

 もしかしなくてもそうだろう。

 心はハッとしてもう片方のグラスを手に取る。

 同じように描かれたイルカとその横には、Subaruの文字。

 「いやいや、サラ。私に渡されても…」

 苦笑いしつつ、心はもう一度グラスを眺め、嬉しさに微笑んだ。

 「ありがとう、サラ。ずっと大切にするね!」

 そしてようやく、同封してあったカードを開く。

 中には1枚の写真が挟んであった。

 「わー、サラ!素敵」

 そこに写っていたのは、あの黄色の浴衣を着て微笑むサラと、家族と思われる人達。

 「サラ、上手に浴衣着られてるね。隣のおじいさんが有名な、なんとかオーだっけ?って、ここどこ?家なの?凄いんだけど!」

 よく見ると、後ろには暖炉、天井からはシャンデリア、そして座っているソファや写っている家具も、高級感が溢れている。

 「サラ、ほんとに超お嬢様だったんだー。なんだか遠くの人に感じちゃう」

 それでもきっと、また会った時には一瞬で仲良しの友人に戻れるだろう。  

 そんな日を想像して、心はまた笑顔になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ウインタータイム ~恋い焦がれて、その後~

さとう涼
恋愛
カレに愛されている間だけ、 自分が特別な存在だと錯覚できる…… ◇◇◇ 『恋い焦がれて』の4年後のお話(短編)です。 主人公は大学生→社会人となりました! ※先に『恋い焦がれて』をお読みください。 ※1話目から『恋い焦がれて』のネタバレになっておりますのでご注意ください! ※女性視点・男性視点の交互に話が進みます

ヤクザのせいで結婚できない!

山吹
恋愛
【毎週月・木更新】 「俺ァ、あと三か月の命らしい。だから志麻――お前ェ、三か月以内に嫁に行け」 雲竜志麻は極道・雲竜組の組長を祖父に持つ女子高生。 家柄のせいで彼氏も友達もろくにいない人生を送っていた。 ある日、祖父・雲竜銀蔵が倒れる。 「死ぬ前に花嫁姿が見たい」という祖父の願いをかなえるため、見合いをすることになった志麻だが 「ヤクザの家の娘」との見合い相手は、一癖も二癖もある相手ばかりで…… はたして雲竜志麻は、三か月以内に運命に相手に巡り合えるのか!?

宮花物語

日下奈緒
恋愛
国の外れにある小さな村に暮らす黄杏は、お忍びで来ていた信寧王と恋に落ち、新しい側室に迎えられる。だが王宮は、一人の男を数人の女で争うと言う狂乱の巣となっていた。

【完結】1日1回のキスをしよう 〜対価はチョコレートで 〜

田沢みん
恋愛
ハナとコタローは、 お隣同士の幼馴染。 親から甘いもの禁止令を出されたハナがコタローにチョコレートをせがんだら、 コタローがその対価として望んだのは、 なんとキス。 えっ、 どういうこと?! そして今日もハナはチョコを受け取りキスをする。 このキスは対価交換。 それ以外に意味はない…… はずだけど……。 理想の幼馴染み発見! これは、 ちょっとツンデレで素直じゃないヒロインが、イケメンモテ男、しかも一途で尽くし属性の幼馴染みと恋人に変わるまでの王道もの青春ラブストーリーです。 *本編完結済み。今後は不定期で番外編を追加していきます。 *本作は『小説家になろう』でも『沙和子』名義で掲載しています。 *イラストはミカスケ様です。

Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜

葉月 まい
恋愛
ーー私はあの夜、一生分の恋をしたーー あなたとの思い出さえあれば、この先も生きていける。 見ると幸せになれるという 珍しい月 ブルームーン。 月の光に照らされた、たったひと晩の それは奇跡みたいな恋だった。 ‧₊˚✧ 登場人物 ✩˚。⋆ 藤原 小夜(23歳) …楽器店勤務、夜はバーのピアニスト 来栖 想(26歳) …新進気鋭のシンガーソングライター 想のファンにケガをさせられた小夜は、 責任を感じた想にバーでのピアノ演奏の代役を頼む。 それは数年に一度の、ブルームーンの夜だった。 ひと晩だけの思い出のはずだったが……

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

Marry Me?

美凪ましろ
恋愛
 ――あの日、王子様があたしの目の前に現れた。  仕事が忙しいアパレル店員の彼女と、王子系美青年の恋物語。  不定期更新。たぶん、全年齢でいけるはず。 ※ダイレクトな性描写はありませんが、ややそっち系のトークをする場面があります。 ※彼の過去だけ、ダークな描写があります。 ■画像は、イトノコさまの作品です。 https://www.pixiv.net/artworks/85809405

【完結】京都若旦那の恋愛事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

藍生蕗
恋愛
大学二年生、二十歳の千田 史織は内気な性格を直したくて京都へと一人旅を決行。そこで見舞われたアクシデントで出会った男性に感銘を受け、改めて変わりたいと奮起する。 それから四年後、従姉のお見合い相手に探りを入れて欲しいと頼まれて再び京都へ。 訳あり跡取り息子と、少し惚けた箱入り娘のすれ違い恋物語

処理中です...