夕陽を映すあなたの瞳

葉月 まい

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優しい世界

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 「師匠ー!いや、仙人様ー!人間界へウェルカムバーック!!」

 慎也が昴に抱きつく。

 「やだ!もう、慎也ったら。何よそれ。ねえ?心」

 愛理が心に苦笑いしてみせる。
 心もふふっと笑い返した。

 「しっかしもう、何がなんだかよ。二人とも、一体どうやって今に辿り着いたの?」

 心と昴がつき合い始めたことを知った愛理と慎也は、すぐに4人で会おうと心達を呼び出したのだった。

 「どうって…。それはまあ、色々あって」

 心が言葉を濁すと、愛理はますます感心する。

 「凄いわねー。まさか心が、あの心が!しかもあの昴と!こんな大人な恋愛するなんてねー。でも良かった。一時は私の知らない心になっちゃった気がしてたけど、やっといつもの心に戻った気がする。あー、嬉しい!」

 そう言って愛理も心に抱きつく。

 「だよな!俺もようやくいつもの昴が戻ってきて、嬉しいぞ!」

 愛理と慎也に抱きつかれながら、心と昴は微笑み合った。

 また別の日。
 同じように心に抱きついてきた人がもう一人…。

 「いやーん!心ちゃーん!!もうもう、私、嬉しくって!」

 久しぶりに会うなり、沙良は心を力いっぱい抱きしめる。

 「ああ!良かった。何が良かったって、伊吹くんよ!やっと、やっと報われたのね!私には、あなたの一途さが良く分かる。よくぞここまでがんばってくれたわ!どんなに辛く険しい道のりだったことでしょう。でもあなたは決して諦めなかった。偉いわ!鈍感な人に立ち向かうのは、並大抵のことではないものね。おめでとう!そして、ありがとう!伊吹くん!」
 「いや、あの、私、心ですけど…」

 握った手をブンブンと振られながら、心は沙良の勢いにタジタジになる。

 とにもかくにも、こんなにも自分達の交際を喜んでくれる人達に、心は胸が熱くなった。

 もちろん、アメリカのサラも。

 おめでとう!のあとに、一体いつまでかかったのよ?!遅すぎるわ!と小言を言われたけれど…。

 そして、結婚式は早く挙げなさい!必ず呼んでね!と念を押された。

*****

 「クララ、おはよう!チャーリーも元気?」

 いつもと変わらず、心はイルカ達に明るく声をかける。

 ルークは?と探していると、スーッと水面の下を横切る姿が目に入る。

 (…来たわね)

 心はじっとタイミングを計り、ルークが飛び上がった瞬間、大きく後ろに飛び退いた。

 パシャン!と水しぶきが上がるが、心までは届かない。

 「へっへーんだ!どうよ?ルーク。今日は私の勝ちだもんね!」

 すると後ろから、桑田の呆れたような声がした。

 「久住、お前なあ。そんなこと言ってる時点でルークと同レベルだってば」
 「そんなことないですよ。だって私、ルークの動きに気付いて見事に回避!私の方が知能指数上ですよねー」
 「はあ、やれやれ。お前、彼氏が出来たっていうのに、全然成長してないのな」
 「……桑田さん。いいんですか?私にそんな口きいて。あんなことやこんなこと、みんなにバラしますよ?」

 心の冷たい口調に、桑田は急に焦り出す。

 「な、なんだよ?あんなことって…」
 「その1。沙良さんの妊娠が分かった時、ワンワン男泣きしたこと。その2。今では毎日、沙良さんのお腹に向かって、赤ちゃーん、パパでしゅよーって…」
 「わーーー!バカ!やめろ!それ以上言うな!」

 ふふん!と心は、得意げに反り返る。

 「まだまだネタは上がってるんですからね。桑田さん、私を怒らせたらどうなるか…」
 「分かった、分かったから!いいか、絶対誰にも言うなよ?」
 「はーい、分かってますって。あ、佐伯さん!おはようございまーす!」
 「く、久住ーー!絶対言うなよー!」

 そんな心と桑田を、イルカ達がケケケケ!と笑って見ていた。

*****

 「お帰りなさい!」
 「ただいま」

 玄関で出迎えた心の頬に、昴は優しくキスをする。

 結婚を控え、心は昴のマンションに引っ越してきた。

 そしてもちろん、心は毎日窓からの景色を眺める。

 「夕陽も素敵だけど、星空も本当に綺麗…」

 そうだね、という昴の声は、隣ではなくやや後ろから聞こえてきた。

 「ふふっ、そこが限界なの?もう少し窓に近づいたら、もっと空が良く見えるのに」

 心が昴を振り返って笑う。

 「いや、ここからでも充分良く見えますよ」

 心はもう一度クスッと笑うと、昴の隣に戻った。

 二人でソファに並んで座る。
 ローテーブルには、サラからもらったあのグラスが並んでいた。

 「ちゃんとペアグラスになれたね。良かったねー、ここに引っ越せて」

 心はふふっと微笑みながら、綺麗なグラスでアイスティーを飲む。

 「久住はここに越してきて、毎日俺と一緒にいられることより、景色が見られることの方が嬉しそうだね」
 「うん、そうかも」

 心が真顔で答えると、昴はえっ!とショックを受ける。

 「ふふっ、嘘だよ。伊吹くんと一緒にいられることが何より幸せ。それに、伊吹くんのあったかい目を見てると、夕陽を見ているみたいに落ち着くの」

 昴は一気に顔を赤らめた。

 「そ、そんなストレートに言われると…。俺、慣れてなくて…」
 「え、なーに?伊吹くんが正直に本音を言えって言ったんでしょ?」
 「そ、そうだけど。うん、そうだよな」

 そう言って心をじっと見つめる。

 「でも、一番正直なのは久住の目だよ。何を考えてるのか、すぐ分かる。口で嘘言ってもすぐ分かるからね」
 「え、何よそれー?もう、怒った」
 「ほんと?俺のこと、嫌いになった?」
 「うん、なった」

 昴は心の目をじっと見つめる。

 「嘘だね。俺のこと、好きって気持ちが溢れてる」

 今度は心が真っ赤になる。

 「ちょっ、よくそんな恥ずかしいこと言えるね?」
 「俺が言ってるんじゃないよ。久住の目が言ってる」
 「言ってなーい!もう、本当に嫌いになっちゃうよ?」
 「ごめんって!じゃあ、お互い本当のこと言おう」

 昴は心を優しく見つめる。

 「大好きだよ、久住」

 心も微笑んで昴を見つめた。

 「私も。伊吹くんが大好き」

 窓の外の星空に見守られ、二人はそっとキスをした。
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