夕陽を映すあなたの瞳

葉月 まい

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1年ぶりの同窓会

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 「片桐さん、ご無沙汰しています」
 「こちらこそ。またお会い出来て光栄です。本日もご来店、誠にありがとうございます」

 にこやかな片桐の変わらぬ笑顔に迎えられ、心達は4人席に案内される。

 春の暖かさを感じられるようになってきた頃、心は愛理や昴、慎也と一緒に、例の同窓会のレストランに来ていた。

 今年もまた同じ時期に同じ会場で同窓会を開くことが決まり、打ち合わせを兼ねて食事に来たのだった。

 「では、今回も前回と同じ料金プランでよろしいでしょうか?お料理の内容は、前回とは出来る限り変えてご用意いたします」
 「はい、よろしくお願いします」

 打ち合わせはすんなりとまとまる。
 今回の幹事は慎也と愛理、昴と心は"手伝う幹事"と、去年と入れ替わる立場で進めることになった。

 美味しい料理を味わったあと、心と愛理はオープンテラスで写真を撮っている。

 はしゃぐ女子二人を見ながら、慎也が昴に話しかけた。

 「それで?随分時間が経ったけど、心とは二人で食事に行けたのか?」
 「いや。でももういいんだ。告白出来たから」
 「え?!じゃあ、つき合い始めたのか?」
 「いや。俺が久住に好きだと伝えただけだ。別に返事を求めた訳じゃない」

 は?と、慎也は思わず裏声になる

 「好きだと伝えて、それで満足なのか?え、どういう心境だ?キスしたいとか、抱きしめたいとか思うのが普通だろ?」

 昴はふっと笑って、心に目を向ける。

 「俺は久住が笑顔でいてくれたらそれでいい。そして困った時は俺を頼って欲しい。それだけで充分なんだ」
 「お前…。もはや仙人か?師匠どころか、仙人の域にまで達したのか?」
 「ははっ、何だよそれ」

 ビールを飲みながら、昴はもう一度心に目をやり、その笑顔に微笑んだ。

*****

 「それでは、今年もみんなとの再会を祝して。かんぱーい!」
 「かんぱーい!!」

 河合先生の音頭で、1年ぶりの同窓会は幕を開けた。

 あれから1年。
 長いようで短い。

 独身だった女の子が何人か結婚し、既婚者だった女の子は出産して赤ちゃんを連れて来ていた。

 「おいおいー、孫抱いてる心境だぞ」

 未だに独身の河合先生は、教え子の赤ちゃんを恐る恐る抱いて、嬉しそうに笑う。

 慎也と愛理は、去年の同窓会の様子を動画に編集してくれており、それを鑑賞しながら皆で盛り上がった。

 ビンゴ大会では、去年皆が心と昴の為に集めてくれたお金を使って、慎也が豪華な景品を用意していた。

 景品を狙う皆の表情は真剣そのもの。
 今年も大いに盛り上がった。

 ビンゴのあとは、それぞれ歓談とデザートタイムとなり、心は二次会のお店の地図を手に、テラスの入り口にいる昴のもとへ行く。

 「伊吹くん、このあとの移動なんだけど…」

 そう言って顔を上げた時、昴に話しかける声が聞こえてきた。

 「伊吹くん、私、高校時代からずっと伊吹くんのことが好きだったの」

 思わず心は、近くの観葉植物の後ろに身を潜める。
 そっと覗いてみると、真紀が昴に話しかけていた。

 「去年の同窓会でまた会えて、嬉しかったけど勇気がなくて…。今年こそは告白しようって決めてたの。伊吹くん、私とつき合ってくれませんか?」

 心は、悪いとは思いつつ気になって仕方なく、固唾を呑んで聞き耳を立てる。

 すると、いつもと変わらない口調の昴の言葉が聞こえてきた。

 「ありがとう。気持ちは嬉しいけど、俺、つき合ってる人がいるんだ」
 「え、そうだったんだ」
 「ああ。だからごめん。じゃあ」

 そう言って昴は去って行く。

 (伊吹くん…。いつの間に?)

 心は呆然としながらその場に立ち尽くしていた。

*****

 「いえーい!今日も朝まで盛り上がっちゃうぜー!」

 二次会はカラオケに場所を移し、早速慎也が張り切ってマイクを握る。

 去年と同じように、心は昴とお金を計算し、皆から集めて回った。

 「久住、明日も仕事だろ?時間大丈夫か?」

 昴の問いに心は頷く。

 「うん。明日は遅番だから、朝もゆっくり出来るの。あ!でも、終電の時間よね。今年は間違えないようにするね」
 「ああ。早めに出よう」

 集めた会費を愛理に預け、心は昴と外に出た。

 二人で肩を並べて駅へと向かう。

 「あれから1年か。なんかあっと言う間だったな」
 「うん、そうだね」
 「また来年も、あっと言う間にやって来るのかな」
 「うん、そうかもね」

 昴は、そっと隣の心を見る。
 さっきから、どうにも元気がないのが気になっていた。

 「久住、何かあった?」
 「え?どうして?」
 「んー、なんか途中から元気なくなったから。同窓会で、何かあったのか?」

 すると心は押し黙ってうつむく。

 「久住、俺には何でも本音で話してって言ったよな?」
 「あ、うん」
 「考え込まなくていいから、思ってること言ってみて?」
 「えっと、じゃあ…」
 「うん。何?」

 心は歩きながら、そっと上目遣いに昴の顔をうかがう。

 「さっき、伊吹くんが真紀に告白されてたのを、偶然聞いちゃって…。それで、その。伊吹くん、つき合ってる人がいるって言ってて…」
 「…うん。それで?」
 「いや、その。あー、そうなんだって思って」
 「それで?そこから元気がなくなったの?」
 「うーん、そうなの、かな?」

 昴は足を止めた。
 心も立ち止まり、二人で向かい合う。

 「久住、正直に思ったことを答えてね」
 「え?う、うん」

 心は昴の言葉に頷く。

 「俺が、つき合ってる人がいるって言った時、久住、どう思ったの?」
 「どうって…。何か思ったのかなー。ただ、そうなんだって」
 「ふーん。あのね、俺、つき合ってる人いないよ」
 「え、そうなの?!」

 思わず顔を上げて昴を見る。

 「うん。告白されたらそう言って断るのが一番いいと思って」
 「あ、確かに。それが一番傷つかないし、諦めつくね。そっか、なるほど」

 心が感心していると、昴がふっと笑う。

 「じゃあ今、俺がつき合ってる人いないよって言った時、久住どう思った?」
 「え?あ、そうなんだって」
 「嘘だね」
 「え?」

 思わぬセリフに、心は驚いて昴を見る。

 「久住の顔、パッと明るくなったよ」
 「え、そ、そうかな?」
 「じゃあ今、俺が久住に好きだって言ったら?どう思う?」
 「そ、それは、その…。そうなのねって」
 「…ふーん」

 昴は何かを考え込むように黙る。
 沈黙に耐えかね、心はそっと昴を見上げた。

 「あの…伊吹くん?」
 「じゃあ、俺が今、久住にキスしようとしたら?」
 「は?!な、何言って…」
 「嫌だって思う?やめてって、思わず引っぱたく?」
 「そ、そうかな?うん。そうかも」
 「じゃあ、確かめさせて」
 「え、な、何を…」

 思わず昴を仰ぎ見た心は、じっと自分を見つめる昴の瞳に息を呑む。

 切なげにゆらっと揺れる深い色の瞳。
 その瞳の奥に、あの夕陽のような温かさを感じ、心はまばたきを忘れて見とれた。

 やがてゆっくりと目を閉じた昴が、心の肩に手を置いてそっとキスをする。

 唇が触れた瞬間、心の胸がキュッと傷んだ。

 柔らかく温かい昴の唇から、たくさんの優しさや愛情が注ぎ込まれる気がして、思わず涙が込み上げる。

 名残惜しむようにそっと昴が唇を離すと、心は、もっと触れていたかったのにと、寂しささえ覚えた。

 「あれ?引っぱたくんじゃなかったの?」

 昴のいたずらっぽい声がして、心は一気に赤くなる。

 「え、そ、それは。そんな暇がなくて…」
 「ふーん。じゃあ、キスされてどう思った?」
 「どうって、な、何も…」
 「はあ、もう…。ほんとに嘘つき」

 昴はため息混じりに言う。

 「本音で話してくれるって言ったのに、どうして嘘つくの?」
 「え、嘘なんてついてないし…」
 「じゃあなんで、キスされて何とも思ってないのにそんなに真っ赤になるの?何とも思ってないのに、どうしてそんなに目を潤ませてるの?」

 うっ…と思わず、両手で頬を隠す。
 すると昴はいきなり心を腕に抱きしめた。

 「い、伊吹くん、何を…」
 「顔見ないから、正直に答えて。久住、今、俺に抱きしめられて嫌?」
 「う、…ううん」
 「じゃあ、キスされて嫌だった?」
 「…ううん」
 「俺に好きだって言われて、嫌だった?」 
 「ううん」
 「じゃあ、俺のこと、好き?」
 「………うん」

 昴はふっと笑って心の顔を覗き込んだ。

 「ようやく本音が聞けた」

 そしてもう一度、優しくそっとキスをする。

 「久住は俺が好きなんだよね?」
 「うん」
 「俺も。久住のことが大好きだよ」

 心は潤んだ瞳で昴を見上げる。
 自分の中で、私はこの人が大好きなんだと納得した。

 「私、伊吹くんのことが好きなの」
 「ふふ、知ってる」

 二人は微笑み合い、3度目のキスをする。
 それは優しく温かく、涙が出るほど幸せな瞬間だった。
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