Good day ! 3

葉月 まい

文字の大きさ
18 / 24

妻として、母として

しおりを挟む
「恵真。天気もいいし、少しベビーカーで散歩しない?」
 
今日も大和はオフ。
12月にしてはポカポカと温かい陽気で、なかなか寝ない双子を見て、大和が提案する。

「いいですね。二人とも、外の空気に触れさせてあげたいし」
「じゃあ、授乳終わったら行こうか」
「はい」

暖かい服を着せ、ベビーカーに乗せてからブランケットをかける。

二人とも、外に出た途端に眩しそうに目を細め、手をパタパタさせた。

「お外は気持ちいいねー」

双子に声をかけながら、のんびりと近所を歩く。

「恵真。ここで待ってるから、好きな物買っておいで」

カフェの前で、大和が立ち止まる。

「あ、はい。じゃあすぐ戻ります」

恵真は店内のカウンターに行くと、ディカフェのモカと、オリジナルブレンドをテイクアウトした。

「はい、大和さん」
「お、ありがとう」

温かい飲み物を片手にまた歩き始めると、ポツポツと並ぶショップは、どこもきれいにクリスマスの飾り付けがされていた。

近くの公園のベンチに座って、ドリンクを飲む。

「はあー、なんかいいな。こんなふうに時間をのんびり使うのって」
「そうですね。のどかでゆったりしてて、なんだかおばあちゃんになった気分」
「おいおい、勘弁してくれよ」  

ふふっと恵真は笑う。

「そうですよね。これから双子が大きくなったら、一緒にブランコに乗ったり、滑り台滑ったりしないといけませんよね」
「ああ、そうだよ。俺達、子ども時代をもう一度やり直す感じだな」
「確かに。体力つけておかないと!」

恵真は張り切ってガッツポーズをする。

「楽しみだな。この子達の成長」
「ええ」

二人で双子の顔を覗き込む。

元気いっぱいに手足を動かす双子に、大和と恵真は顔を見合わせて微笑んだ。



「大和さん。今夜は寝室で寝てください」

お風呂上がりに白湯を飲ませていると、ふいに恵真が声をかけてきた。

「え?寝室って、俺が?」
「はい。明日フライトですよね?キャプテンが寝不足で飛ぶ訳にはいきません。双子のお世話は私一人で大丈夫なので、大和さんは寝室でしっかり睡眠を取ってください」

でも…と大和はためらう。

「私はパイロットの妻です。きちんとその役目も果たさなければいけません。それに寝不足で乗務するのが、どんなに危険な事かも理解しています。大和さん、しっかり身体を休めてください。もしどうしても私一人では無理だったら、その時は少しお願いさせてください」

真剣な恵真の表情に、大和も最後は頷いた。

「分かった。いつでも呼んでね」

夜、双子は一度眠ってから、23時に泣き始めた。

二人に授乳し、寝かしつけてから大和は寝室へ向かう。

「じゃあ、恵真。いつでも声かけてね」
「はい、おやすなさい」
「おやすみ」

大和は優しく恵真にキスをしてから、リビングをあとにした。



翼の泣き声が聞こえてきて、恵真は目を覚ます。

「はーい、今ミルク作るね」

翼にミルクをあげながら時計を見ると、明け方の4時だった。

(4時間はまとめて寝てくれるようになったかな)

すると舞も、ホワーホワーと泣き始める。

(うっ、手が足りない…)

恵真は授乳クッションに寝かせた翼にミルクを上げながら、もう一つの授乳クッションを腰にはめ、舞を寝かせて母乳をあげる。

(一人でもなんとかなるもんよね、ふふ)

なんだか自分が逞しくなったような気がして、恵真は嬉しくなった。



「おはよう、恵真」

翌朝、目が覚めると大和が舞にミルクをあげていた。

「おはようございます。今何時ですか?」
「7時だよ。俺がこっちに来たら、舞も目を開けたから、ミルクあげてたんだ」
「そうなんですね、ありがとうございます」

恵真は洗顔と着替えをしてから、キッチンに行き朝食の支度をする。

ついでに翼のミルクも作っていると、タイミング良く泣き始めた。

「俺がやるよ。舞も飲み終えたし」

大和にミルクを渡し、恵真はソファのローテーブルに朝食を並べた。

ベビーキャリーをソファのそばに置き、双子を寝かせて顔を見ながら朝食を食べる。

「恵真、夜中は大丈夫だった?」
「ええ。一度起きただけだったの。大和さんも、良く眠れましたか?」
「ああ、お陰でぐっすり。でもなんだか寂しかったよ。いつもなら目が覚めてすぐ、隣に寝てる翼が変顔してくれて、朝から楽しかったのに」

変顔?!と恵真は笑い出す。

「確かに。翼ってなんだかこう、アピールが凄いですよね」
「そう。ねえねえ、見て見てー!って」

あはは!と恵真は笑いながら翼を見る。

翼は、キョトンとした目で手足をばたつかせた。

「楽しみだなあ。どんな子になるんだろう、翼も舞も」
「そうですね。早く大きくなって欲しい気もするけど、まだまだ赤ちゃんのままでいて欲しい気もします」
「そうだね。一日一日が宝物だな」
「はい」

日に日に家族の絆が深まっていく。
その事を恵真はしみじみと感じていた。



双子にとって、初めてのクリスマスとお正月を迎えた。

双方の祖父母から、たくさんのクリスマスプレゼントをもらい、ツリーの前で写真を撮る。

お正月には、両家の両親がマンションに来て、皆で賑やかに新年を迎えた。

母親達は手作りのおせち料理を持って来てくれ、父親達は代わる代わる翼と舞にミルクをあげてくれる。

お陰で恵真も大和も、ゆっくり休む事が出来た。

すくすくと大きくなっていく翼と舞。

身体もしっかりしてきて、うつ伏せにすると、両手を広げてブーンと飛行機のポーズをする。

「おっ、翼も舞も上手いぞ!Fly heading 180. Climb and maintain 3000」

一緒にうつ伏せになった大和が、隣で興奮気味に声をかける。

そんな大和に苦笑いしながら、恵真は三人の写真を撮った。

ある日、恵真が手に持ったガラガラを振って見せていると、手を伸ばした翼がコロンと寝返りを打った。

「あっ!翼、寝返り出来たね!やったー!凄い凄い」

コツを掴んだのか、仰向けに戻すと、すぐまたコロンとうつ伏せになる。

隣の舞に手が当たりそうで、恵真は二人の間に大きなイルカのぬいぐるみを置いた。

すると今度は、イルカに手を伸ばした舞が、コロンと寝返りを打つ。

「わー!舞も出来たね!二人とも凄い!」

恵真は早速、乗務に行っている大和に動画を送った。
 
「ふふ、パパびっくりするよー、きっと」

翼と舞は、自分で動けるのが楽しいようで、寝返りを打ってはおもちゃを手に遊んでいる。

恵真がスノードームを逆さにしてオルゴールのネジを巻くと、うつ伏せの二人は頭を寄せ合って見入っていた。

「あー」「うー」と、おしゃべりしながらスノードームを見ている二人の後ろ姿を、恵真は微笑みながら写真に収めた。



二人の成長を、毎日育児日記に書き留めていた恵真は、最近二人が夜は6時間連続で寝ている事に気づく。

「大和さん」 
「ん?どうしたの」

恵真は、ダイニングテーブルで夕食を食べながら大和に話し出す。

「翼も舞も、離乳食を始めて夜は6時間寝るようになったの。だからもう大丈夫。大和さん、短日数乗務ではなく、通常のシフトに戻してもらってください」
「え…、もう?1歳の誕生日を過ぎてからでいいと思うけど」

恵真は首を振る。

「それだと、海外のフライトは1年以上飛ばない事になります」
「ああ、確かに。でも、また訓練してから少しずつ戻ってもいいんだし」
「いえ、もう戻ってください。でないと私、気がかりで…。大和さんが復帰してくれた方が、私の気持ちとしても安心なんです」

大和はじっと考え込んでから、もう一度恵真の顔を見る。

考えを変える気がないのを感じ取ると、ふうと小さく息をついてから頷いた。

「分かった。そうするよ」
「ほんとですか?良かった!」
「恵真の頑固さには適わないからな。ありがとう、恵真。でも、大変だったらすぐに教えてね」
「はい」

そして大和は、国内ステイや海外のフライトも担当するようになった。

数日間、大和が帰って来ない日もあるが、恵真はもう不安にはならなかった。

(だって、翼と舞がいてくれるんだもん。ちっとも寂しくない)

いつの間にか恵真は、双子のお世話をする立場から、双子に励まされる側になっていた。

育児の合間に、彩乃やこずえと電話で話すのも良い息抜きになった。

彩乃とは、お互いの子どもの成長具合を報告し合う。

誕生日も5日違いなので、離乳食や母乳の回数に関しても、とても良い相談相手だった。

また、こずえは4月に結婚式を挙げた事を報告してくれた。

送ってくれた写真には、マーメイドラインの大人っぽいドレスを着こなすこずえと、シックなタキシード姿の伊沢がかっこ良く写っていた。

「こずえちゃん、とってもきれい!良かったね、結婚式挙げられて」
 
恵真が電話でそう言うと、こずえはいつもと変わらない口調で言う。

「まあねー、うるさいんだもん。どうしても式挙げたいって、ゆう…あっ」

急に言葉を止めたこずえに、恵真は、ん?と首をひねる。

「ゆう…って?あ!もしや優太ってこと?!」

大きな声を出してしまい、慌てて寝ている双子を振り返る。

幸い二人ともぐっすり眠ったままだった。

恵真は改めて声のトーンを落として聞く。

「ふふっ、こずえちゃん、ついに伊沢くんのこと、名前で呼び始めたのね」
「ちょっと、そこはスルーしてよー」
「えー?だって気になるんだもん。で、どうだった?初めて名前で呼んであげた時の反応は?」
「んー、恵真が言ってた通りの反応だった」
「あ、ドキュン?」 
「そう。まさにそんな感じ」

あはは!と恵真は明るく笑う。

「嬉しかっただろうなあ、伊沢くん」
「て言うか、しつこかった。もう一回!とかせがんできて」
「やだー!もう、なんか聞いてるだけで照れちゃう。ラブラブだね!」

とにもかくにも、幸せそうな二人の様子に、恵真も嬉しくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。 「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。 小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。 若くしてプロジェクトチームを任される彼は、 かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、 遠く、眩しい存在になっていた。 優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。 もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。 それでも—— 8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。 これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜

みかん桜
恋愛
身長172センチ。 高身長であること以外ごく普通のアラサーOL、佐伯花音。 婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。 「名前からしてもっと可愛らしい人かと……」ってどういうこと? そんな男、こっちから願い下げ! ——でもだからって、イケメンで仕事もできる副社長……こんなハイスペ男子も求めてないっ! って思ってたんだけどな。気が付いた時には既に副社長の手の内にいた。

処理中です...