この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜

葉月 まい

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捜査

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「社長、おはようございます。深月です。お休みの日に申し訳ありません」

翌朝、土曜日の十時。
凛香は社長の仕事用のスマートフォンに電話をかけていた。

『おはよう、深月さん。昨日はお疲れ様。珍しいね、休みの日に。なにかあったんだね?』
「はい」
『よくないニュースなのは覚悟しよう。どうした?』

凛香は社長の気づかうような雰囲気に背中を押され、思い切って話し始める。

「昨夜、懇親会を終えて社長をお見送りしたあと、ホテルのロビーで黒岩副社長をお見かけしました。見知らぬ女性とご一緒で……」

言葉を濁すと、小さくため息が聞こえてきた。

『もしや、客室を使われた?』
「はい、そのようです。張り込んでいた刑事さんたちが、二人が部屋に入る映像を防犯カメラから記録したそうです」
『そうか。これまで疑念はあったんだが、問い正すだけの証拠はなくてね。それで、警察の方はなんと?』
「今後は不正アクセスの件と合わせて、副社長を横領の容疑で調べたいと。近いうちにオフィスを訪れて、鮎川社長に事情をお聞きしたいとのことでした」
『なるほど、わかった。スケジュールを調整して、先方に連絡してくれるかな? 私もなるべく早いうちに、お話しをさせてもらいたい』

承知しましたと答えると、社長は申し訳なさそうに続ける。

『悪いね、深月さん。私が不甲斐ないばかりに、君にまでこんな迷惑をかけてしまって』
「いえ! とんでもない。私は少しでも社長をお支えしたいと思っております」
『ありがとう。若い世代の君に、親子ほど歳の離れた役員がみっともない姿をさらすなんて。社長として情けなく、申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。少しでも早く事態を収束させる。会社と社員を守るためにも』
「はい。私もできる限り尽力いたします」
『君にはいつも感謝しているよ。本当にありがとう。警察とのやり取り、よろしく頼む』
「かしこまりました。日程が調整でき次第、ご連絡いたします」



社長との電話を終えると、タブレットでスケジュールを確認してから、矢島の携帯電話にかけてみた。

(夕べ遅かったし、まだお休み中かな?)

そう思ったが、ワンコールですぐに応答があった。

『はい、矢島です』
「おはようございます。ワンアクトテクノロジーズの深月です」
『深月さん! おはようございます。昨日はありがとうございました』
「こちらこそ。矢島さん、ゆっくりお休みになれましたか?」
『ああ、まあ、二日前に』

は?と聞き返すと、ははっと軽く笑いながらかわされる。

『それより、どうかしましたか? 深月さん』
「あ、はい。社長の鮎川に昨夜のことを報告いたしました。鮎川も、なるべく早く矢島さんたちとお話しさせていただきたいと申しております」
『そうですか。では月曜日の朝イチでお伺いできますか?』

え、そんなに早く?と思いつつ、凛香は「大丈夫です」と頷く。

『よかった。じゃあ、始業時間に合わせて伺いますね。できれば警察だということは伏せておきたいのですが』
「かしこまりました。わたくしが直々にお出迎えいたします。では明後日の月曜日、朝九時にメインエントランスでお待ちしております。なにかありましたら、わたくしの名刺に記載してある携帯電話にご連絡いただけますか?」
『はい、ありがとうございます。えーっと、朝比奈検事からは? 深月さんに伝言ないですか?』

振り返って尋ねているような矢島の声に、凛香はまたしても驚いた。

(矢島さん、朝比奈さんと一緒にいるの? それって、まだ勤務中ってこと? まさか、夕べからずっと?)

するとやや遠くから「いや、特にない」という礼央の声が聞こえてきた。

『わかりました。じゃあ深月さん、月曜日に』
「あ、はい。よろしくお願いいたします」

慌てて返事をして通話を終える。

(お二人とも、うちの会社の捜査のために徹夜したってことなのね……)

二日前に休んだ、という矢島の言葉からすると、そのあとはずっと働き詰めだということだろう。
凛香は申し訳なさでいっぱいになる。

(私も少しでも役に立てるよう、がんばろう)

気を引き締めると、早速社長に日程の連絡をしてから、資料の準備を始めた。



月曜日に出社すると、凛香は社長を出迎えたあと、九時五分前にオフィスのロビーに下りた。
受付の準備をしている制服姿のスタッフに声をかける。

「おはようございます。これからお客様をお迎えするので、ビジター用の入館証を二枚お借りできますか?」
「あら、深月さん。かしこまりました。えっと、ゲストカードの記入はどうしましょう?」

本来なら訪問者に会社名と氏名、要件と訪問部署を書いてもらうのだが、今回は特別に凛香が書くことにした。
《深月凛香を訪問のお客様》と記入し、入館証を二枚借りる。
そのままエントランスの外に出て待っていると、大通りからスーツ姿の矢島と礼央が、ビジネスバッグを持って現れた。
いつもはワイシャツの袖を無造作にまくり、髪もナチュラルに下ろしている二人が、今は髪型をきちんと整え、爽やかな色のネクタイを締めている。

(わあ、お二人とも見違えちゃった。なんだかかっこいい)

矢島は凛香に気づくと、笑顔で足早に近づいてきた。

「深月さん、おはようございます。お待たせしました」
「おはようございます。本日はわざわざお越しくださって、ありがとうございます」

礼央にも挨拶すると、よろしく、と短く返される。

「深月さん、俺たち大丈夫ですか? ちゃんとカタギのサラリーマンに見えます?」

矢島が自分の姿を見下ろしながら、小声で尋ねた。

「ふふっ、はい。仕事ができるやり手のビジネスマンみたいです」
「よかった。朝比奈さんなんて、いつもの格好で行こうとしたんですよ? だから俺が髪の毛固めて、ネクタイも貸してあげたんです。こんな爽やかな水色のネクタイ、俺に似合うか! って拒否されたんですけどね」
「そうだったんですね。とてもお似合いだと思います」
「ですって! 朝比奈検事」

嬉しそうに振り返った矢島に、礼央はドスッとボディブローを入れた。

「しっ! 誰かに聞かれるだろう」
「あ、そっか。今日は俺たちビジネスマンですもんね。すみません、えーっと朝比奈部長」
「いちいち名前を出すな。さっさと歩け」
「ちょっと、ビジネスマンがそんなこと言ったら、パワハラで訴えられますよ?」
「うるさい! つべこべ言うな」

止まらないやり取りに苦笑いしてから、凛香は二人をエントランスへと促す。

「この入館証をセキュリティーゲートにタッチしてお通りください」

受付スタッフがカウンター越しに「いらっしゃいませ」とにこやかに頭を下げると、矢島もようやくキリッと表情を変えた。
凛香は、なるべく社員の目に触れないよう、ひと気のない通路を通ってエレベーターホールに向かった。
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