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幸せを上書きしよう
「やあやあ優吾くん。ご機嫌いかがかな?」
翌日出社した優吾に、光太郎が嬉しそうに近づいて来て肩を抱く。
「久しぶりだが、君に言っておきたいことがある。男、立川 光太郎 29歳」
「あ、そう言えばお前の名字、立川だったっけ?」
「おい、話の腰を折るな。俺はついに人生の大きな決断を下したんだ」
「結婚おめでとう」
「ありがとう。って、なんで先に言う!?」
「前置きが長すぎて」
「言わせろよ!」
優吾は改めて光太郎に向き直った。
「おめでとう。良かったな、本当に」
「おう! ありがとう。お先にゴールを決めさせてもらったぜ」
「そうとも限らんぞ。まあ、同点ゴールかな」
「は? どういう意味だ?」
光太郎は虚を突かれたようにポカンとしてから、ハッと目を見開く。
「お前、まさか、つきちゃんと?」
「光太郎。美空ちゃんと結婚したら、美月はお前の義理の姉になるんだぞ? ついでに言うと、美月の夫は義理の兄だ。とくと覚えておくがいい」
「ちょっ、それって、おい、待て、優吾!」
優吾は涼しい顔でデスクに着き、早速仕事を始めた。
◇
「美月。今度休みが合う時に、旅行に行かないか?」
夕方になると帰宅し、美月と夕食を食べてから、オンラインミーティングまでの時間をゆったりと過ごしていた。
「旅行、ですか?」
「ああ。美月の誕生日もちゃんとお祝い出来なかったから」
「そんな、どうぞお気になさらず」
「俺が行きたいんだ。つき合ってくれる?」
美月は照れたような笑顔で頷く。
「はい、私も行きたいです」
「良かった。どこがいい? 美月の好きなところに行こう」
「じゃあ、またあの箱根の温泉宿は?」
「同じところでいいのか?」
「うん。だってあの時私は周りの目が気になってたし、あなたとも、その、まだこういう関係にはなってなかったから」
「そうか、分かった。じゃあ今度は恋人同士として、もっと楽しい思い出を上書きしよう」
はい、と美月は嬉しそうに微笑む。
早速二人で予定を見比べ、2週間後の平日に優吾が有給休暇を取って、美月の休みに合わせることになった。
無事に宿も予約を済ませ、楽しみ!と笑顔を浮かべる美月に優吾も目を細める。
そして優吾は、ある決意を固めた。
◇
「おはようございます。お待たせしました」
旅行の日。
マンションまで迎えに行くと、美月は珍しくワンピース姿でタタッと優吾に駆け寄って来た。
「おはよう。可愛いな、美月」
美月は照れくさそうにワンピースを見下ろす。
クラシカルなシルエットのネイビーのワンピースは、襟と袖口と腰のベルトがオフホワイトで、美月の雰囲気によく合っていた。
「ついうっかり、新しく買ってしまったの。あまりに楽しみで仕方なくて」
「ははは! そんな可愛いうっかりなんてあるのか」
笑いながら美月のバッグを受け取り、助手席のドアを開ける。
「ありがとう」
にこっと笑う美月は可憐で、箱根までの車内もおしゃべりしながら、前回よりも更に楽しいドライブになった。
「やったー、着いた! 私の心のオアシス」
「ははっ。ほら、早く中に入ろう」
優吾はさり気なく美月の手を繋いで歩き出す。
(そう言えば、デートらしいデートはこれが初めてか)
恥ずかしそうに視線を伏せて笑みを浮かべる美月に、優吾も思わず頬を緩めた。
(楽しい旅行になりそうだ。そして必ず美月にイエスの返事をもらう)
気持ちを込めて、美月と繋いだ手にキュッと力を込めた。
◇
「前は雲隠れ中だったから控えてたけど、今回はあちこち見て回りたいの」
「いいよ、そうしよう」
チェックインを済ませると、早速二人で館内を散策する。
「内装も和風で、ちょっとモダンなところもあって、素敵ですね」
「そうだな。前回は箱根の寄木細工を体験したけど、今回は別のイベントに参加しようか」
「はい!」
二人は茶室で、茶道と和菓子作りの体験に参加した。
日本庭園を眺めながら、作ったばかりの和菓子を味わい、また館内を見て回る。
「そうだ、お土産買わなきゃ。館長と桑原さんと、あと詩音ちゃん達にもお菓子と、タキさんには寄木細工の手鏡にしようかな。美空と光太郎さんには、このペアのぐい呑みとかどうですか?」
「へえ、寄木細工のぐい呑みなんてあるんだ。いいな。俺達もお揃いで買おうか」
「うん!」
無邪気な美月の笑顔に、優吾の表情もほころぶ。
「美月、寄木細工の栞もあるぞ?」
「わあ、綺麗! この小寄木の柄、素敵。柄違いで3種類買おうかな」
両手いっぱいにお土産を抱えて、二人は満足気に部屋に戻った。
◇
夕食は館内の洋食レストランに行くことにした。
斜めにデザインされた高い天井と、壁一面のガラス窓。
月の光が射し込む中、キャンドルの灯りが揺れて、美月の横顔を美しく彩る。
「遅くなったけど。美月、25歳の誕生日おめでとう」
デザートにバースデーケーキが運ばれてくると、優吾はピンクのバラの花束を差し出した。
「えっ、ありがとう! 嬉しい。お花をもらうなんて、初めてなの」
花束を胸に抱えた美月は更に綺麗で、優吾は改めて美月に恋をした。
翌日出社した優吾に、光太郎が嬉しそうに近づいて来て肩を抱く。
「久しぶりだが、君に言っておきたいことがある。男、立川 光太郎 29歳」
「あ、そう言えばお前の名字、立川だったっけ?」
「おい、話の腰を折るな。俺はついに人生の大きな決断を下したんだ」
「結婚おめでとう」
「ありがとう。って、なんで先に言う!?」
「前置きが長すぎて」
「言わせろよ!」
優吾は改めて光太郎に向き直った。
「おめでとう。良かったな、本当に」
「おう! ありがとう。お先にゴールを決めさせてもらったぜ」
「そうとも限らんぞ。まあ、同点ゴールかな」
「は? どういう意味だ?」
光太郎は虚を突かれたようにポカンとしてから、ハッと目を見開く。
「お前、まさか、つきちゃんと?」
「光太郎。美空ちゃんと結婚したら、美月はお前の義理の姉になるんだぞ? ついでに言うと、美月の夫は義理の兄だ。とくと覚えておくがいい」
「ちょっ、それって、おい、待て、優吾!」
優吾は涼しい顔でデスクに着き、早速仕事を始めた。
◇
「美月。今度休みが合う時に、旅行に行かないか?」
夕方になると帰宅し、美月と夕食を食べてから、オンラインミーティングまでの時間をゆったりと過ごしていた。
「旅行、ですか?」
「ああ。美月の誕生日もちゃんとお祝い出来なかったから」
「そんな、どうぞお気になさらず」
「俺が行きたいんだ。つき合ってくれる?」
美月は照れたような笑顔で頷く。
「はい、私も行きたいです」
「良かった。どこがいい? 美月の好きなところに行こう」
「じゃあ、またあの箱根の温泉宿は?」
「同じところでいいのか?」
「うん。だってあの時私は周りの目が気になってたし、あなたとも、その、まだこういう関係にはなってなかったから」
「そうか、分かった。じゃあ今度は恋人同士として、もっと楽しい思い出を上書きしよう」
はい、と美月は嬉しそうに微笑む。
早速二人で予定を見比べ、2週間後の平日に優吾が有給休暇を取って、美月の休みに合わせることになった。
無事に宿も予約を済ませ、楽しみ!と笑顔を浮かべる美月に優吾も目を細める。
そして優吾は、ある決意を固めた。
◇
「おはようございます。お待たせしました」
旅行の日。
マンションまで迎えに行くと、美月は珍しくワンピース姿でタタッと優吾に駆け寄って来た。
「おはよう。可愛いな、美月」
美月は照れくさそうにワンピースを見下ろす。
クラシカルなシルエットのネイビーのワンピースは、襟と袖口と腰のベルトがオフホワイトで、美月の雰囲気によく合っていた。
「ついうっかり、新しく買ってしまったの。あまりに楽しみで仕方なくて」
「ははは! そんな可愛いうっかりなんてあるのか」
笑いながら美月のバッグを受け取り、助手席のドアを開ける。
「ありがとう」
にこっと笑う美月は可憐で、箱根までの車内もおしゃべりしながら、前回よりも更に楽しいドライブになった。
「やったー、着いた! 私の心のオアシス」
「ははっ。ほら、早く中に入ろう」
優吾はさり気なく美月の手を繋いで歩き出す。
(そう言えば、デートらしいデートはこれが初めてか)
恥ずかしそうに視線を伏せて笑みを浮かべる美月に、優吾も思わず頬を緩めた。
(楽しい旅行になりそうだ。そして必ず美月にイエスの返事をもらう)
気持ちを込めて、美月と繋いだ手にキュッと力を込めた。
◇
「前は雲隠れ中だったから控えてたけど、今回はあちこち見て回りたいの」
「いいよ、そうしよう」
チェックインを済ませると、早速二人で館内を散策する。
「内装も和風で、ちょっとモダンなところもあって、素敵ですね」
「そうだな。前回は箱根の寄木細工を体験したけど、今回は別のイベントに参加しようか」
「はい!」
二人は茶室で、茶道と和菓子作りの体験に参加した。
日本庭園を眺めながら、作ったばかりの和菓子を味わい、また館内を見て回る。
「そうだ、お土産買わなきゃ。館長と桑原さんと、あと詩音ちゃん達にもお菓子と、タキさんには寄木細工の手鏡にしようかな。美空と光太郎さんには、このペアのぐい呑みとかどうですか?」
「へえ、寄木細工のぐい呑みなんてあるんだ。いいな。俺達もお揃いで買おうか」
「うん!」
無邪気な美月の笑顔に、優吾の表情もほころぶ。
「美月、寄木細工の栞もあるぞ?」
「わあ、綺麗! この小寄木の柄、素敵。柄違いで3種類買おうかな」
両手いっぱいにお土産を抱えて、二人は満足気に部屋に戻った。
◇
夕食は館内の洋食レストランに行くことにした。
斜めにデザインされた高い天井と、壁一面のガラス窓。
月の光が射し込む中、キャンドルの灯りが揺れて、美月の横顔を美しく彩る。
「遅くなったけど。美月、25歳の誕生日おめでとう」
デザートにバースデーケーキが運ばれてくると、優吾はピンクのバラの花束を差し出した。
「えっ、ありがとう! 嬉しい。お花をもらうなんて、初めてなの」
花束を胸に抱えた美月は更に綺麗で、優吾は改めて美月に恋をした。
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