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Mixed Fleet Flight
そしてやってきたMixed Fleet Flightの日。
オフィスで社員の皆に「行ってらっしゃい!」と見送られ、空港ではグランドスタッフに「いよいよですね」と声をかけられ、CAとのブリーフィングではチーフパーサーの佐々木が満面の笑みを浮かべる。
その流れがもはや恒例となっていた。
「まさかまたお二人のフライトシリーズに乗務出来るなんて! しかもドリームライナーとトリプルセブンの両方で! ああ、もう私、感無量です。お客様より興奮してるかも」
両手を組んでうっとりする佐々木に苦笑いしつつ、恵真は頭を下げる。
「トリプルセブンに関しては、皆さんの方が大先輩です。どうぞよろしくお願いいたします」
CAにも『機種資格』なるものがあり、それぞれの機種に合わせた座学やドアの操作方法、緊急脱出訓練などを受けなければならない。
だがパイロットと違って、CAは複数の機種資格を同時に持てる為、佐々木は既にB787と777を両方乗りこなしていた。
「お任せください。二刀流のお二人を、私達もしっかりサポートいたします」
頼もしい言葉に、恵真と大和も安心してキャビンを任せられた。
まずはいつものごとく、二人はB787を息の合ったコンビネーションで離陸させる。
空も穏やかで、気持ちの良いフライトだった。
「こんなに真っ青に晴れ渡った空、雨女の私にしては珍しいです」
「俺の恵真への愛情が勝ったからだな」
「なんですか、それ。ふふっ」
巡航中、佐々木に届けてもらったコーヒーを飲みながら、笑い合う。
「そう言えば、恵真。那覇で行きたいところがあるって言ってたよな?」
「はい、あの。首里城のライトアップを観に行きたくて」
「首里城か、いいな。ライトアップってことは、夜?」
「そうです。いつも那覇ステイの時に一人で行こうかなって思ってたんだけど、出来れば大和さんと一緒に行きたいなって……」
「夜に恵真一人でなんて、ダメだ! 分かった、今夜レンタカーで一緒に行こう」
すると恵真は、パッと表情を輝かせた。
「はい! 嬉しい」
大和も顔をほころばせる。
(俺は一体、あと何度恵真に恋をするのだろう。きっといつまでも、だな)
恵真の魅力は尽きることがない。
操縦桿を握る時の、キリッとした横顔。
翼と舞に向ける、優しい母の眼差し。
何気ない日常の中で見せる、無邪気で明るい笑顔。
真っ直ぐに自分を見つめてくれる、澄んだ瞳。
抱きしめると、恥じらって赤く染まる頬。
どれだけ二人の時間を重ねても、いや、重ねるからこそ、もっと深く愛おしさが込み上げてくる。
(那覇ステイも楽しみだな)
嬉しそうに微笑んでいる恵真の横顔に、大和も笑みを浮かべてから、また前を見据えた。
◇
無事に那覇に着陸し、ステイ先のホテルに移動して少し休憩すると、早速レンタカーを借りてドライブに出かけた。
「やっぱり沖縄は暖かいな」
「ええ、もう桜の見頃も終わってしまったくらいですもの。前回那覇フライトの時に、ちょうどカンヒザクラが満開だったんですよ。大和さんと一緒に見たかったなあ」
恵真は、行きたいところや見たいものがある時は、必ず「大和さんと一緒に……」と口にする。
そのことが大和は嬉しかった。
「恵真、いつか一緒に見よう」
「はい! それに今夜は、一緒に首里城に行けるから嬉しいの」
「俺もだよ」
互いに見つめ合って微笑む。
夕食は地元の定食屋でソーキそばやラフテー、チャンプルーを味わってから、日が暮れた首里城へ車で向かった。
小高い丘をくねくねと曲がりながら走っていると、ふとハンドルを切った瞬間、暗闇に朱色の美しい城が浮かび上がった。
「わあ、きれい!」
「おお、すごいな」
思わず二人同時に感嘆の声を上げる。
「夜空に朱色が映えて、なんて幻想的なの。まるで琉球王国時代にタイムスリップしたみたい」
「ああ、そうだな。ここだけが別世界のようだ」
駐車場に車を停めると二人でゆっくりと首里城公園を散策し、ライトアップされた守礼門や城郭に言葉もなく魅了された。
「とっても静かで厳かな雰囲気ですね。すてき……」
「ああ、昼間とは別の表情だな。夜にこそ首里城らしさを感じるよ」
「私もです。大和さんと一緒に見られて良かった」
そう呟いてうっとりと首里城を見上げる恵真の美しい横顔に、大和はまた恋に落ちた。
◇
翌日は朝から美ら海水族館に出かけ、恵真は子どものようにジンベイザメやイルカに目を輝かせた。
夜には乗務が控えている為のんびりは出来なかったが、お土産を買うのだけは外せない。
「大和さん、このグラスをペアで買ってもいい? 琉球ガラスなの」
「もちろん。イルカのぬいぐるみは?」
「えー、もう子どもじゃないから買わない」
だが大和がこっそり会計してから手渡すと、恵真は「わあ!」と嬉しそうな笑顔で受け取った。
「それから、これも恵真に。ホタルガラスだって」
そう言って大和は、銀箔を閉じ込めた藍色のネックレスを恵真の胸元に着けた。
「きれい……。まるで夜空に輝く星みたい」
ホタルガラスに手を添えて、恵真は優しい微笑みを浮かべる。
「ありがとう、大和さん」
「どういたしまして」
さり気なく手を繋いで歩き出すと、恵真は頬をほんのりピンクに染めてうつむいていた。
◇
ホテルに戻るとチェックアウトし、二人で空港に向かう。
折り返し便のB777は恵真が離陸を、大和が着陸を担当することになった。
定刻にブロック・アウトすると、恵真は大和が管制官とやり取りするのを聞きながら地上走行し、機体を滑走路に正対させる。
「Notify Cabin」
大和がポーン……とチャイムを鳴らして、キャビンに離陸を知らせた。
「Cleared for takeoff. よし、行こう」
「はい。Runway clear. Cleared for takeoff」
恵真はスラストレバーをしっかりと握る。
手順はB787と同じ。
だが染みついた感覚に惑わされてはいけない。
大和と息を合わせ、計器の数値を確かめながらコールし合って、無事に機体を離陸させた。
巡航に入ると、二人でふうと肩の力を抜く。
「やっぱりかっこいいな、恵真は」
「え? なにがですか?」
大和の思わぬ言葉に、恵真は首をひねった。
「だってこんな大きな機体を細い腕で操って、いとも簡単にスッと離陸させてみせるんだから」
恵真は思わず苦笑いする。
「すごいのは飛行機の性能であって、私の握力ではないですよ?」
「ははは! まあ、そうだけどさ。やっぱりかっこいいよ、恵真は。俺の自慢の女」
またそういうことをコックピットで……と、恵真は眉根を寄せた。
「かっこいいのに、困った顔は可愛い。最高だな」
「もう、キャプテン!」
真顔で怒ってみるが、やはり大和は笑っている。
「ふくれっ面も可愛い」
「キャプテン! 変なことばかり言ってないで、PA入れてくださいね。I have」
ツンと澄ましてそっぽを向く恵真に、大和は苦笑いした。
「分かったよ。でもなにを言っても知らないぞ?」
そう言ってMICボタンを押した。
「ご搭乗の皆様に、コックピットよりご案内申し上げます。
この度はMixed Fleet Flightにご搭乗いただき、誠にありがとうございます。
昨日のB787に続き、本日のB777も、機長の佐倉 大和と佐倉 恵真が操縦を担当しております。
B777でも、このように機内アナウンスで皆様にご挨拶が出来ますことを、心より嬉しく思います。
思い返せば1年前、フルムーンフライトでフライトシリーズは締めくくられたとばかり思っておりました。
そこからまさかMixed Fleet Pilotを目指し、1年後の今日、このように皆様と2つの機種でご一緒に飛べる日が来るとは夢にも考えておりませんでした。
人生というのは思いも寄らないことばかりで、この歳になっても日々挑戦と成長の連続です。
先が読めないからこそ、楽しい。目標があるからこそ輝ける。
そんな人生をこれからも楽しみつつ、皆様とこうして空の旅をご一緒出来る喜びを噛みしめたいと思います。
どこまでも続く青空に颯爽と羽ばたく飛行機のように、私達もいつまでも夢と希望を持って、輝かしい人生を歩んで参りましょう。
このフライトの実現に心より感謝し、また次の旅でもお会い出来ますことを楽しみにしております。
どこかの空で、再びご一緒出来ますように。
皆様のご多幸を心よりお祈りいたします。
それではこの先も、ごゆっくり空の旅をお楽しみください。
We hope you enjoy the flight with us.
Thank you.
Have a good day! 」
キャビンから大きな拍手が起こり、コックピットにも聞こえてきた。
大和は恵真に、ふっと笑いかける。
「なんかもう、我ら皆ファミリーって感じだな」
「ふふっ、そうですね。この便は単なる移動手段ではない気がします」
「ああ。パイロットになって、こんなにも幸せな気持ちを味わえるとは思ってもみなかった。恵真と出会えたから、この幸せはある。ありがとう、恵真」
「いいえ。私の方こそ、大和さんに全て教えてもらいました。パイロットとしての在り方、子ども達に見せる背中、人生の歩み方、そしてたくさんの幸せを。大和さん、本当にありがとう」
「恵真……」
感動と喜びと、幸せと感謝。
たくさんの想いを伝えるように、大和と恵真は互いに見つめ合っていた。
やがて羽田が近づき、着陸態勢に入った。
次は大和が操縦桿を握る。
着陸決心高度の100フィート手前に到達すると、恵真がコールした。
「Approaching minimum」
「Checked」
大和も確認して呼応する。
「Minimum」
「Landing」
B777は、B787と比べて機体が大きく重い。
揚力を維持する為、その分スピードを落とさず着陸しなければならない。
B777にもかなり慣れたとは言え、やはりB787と比べると緊張感が違う。
恵真がグッと前を見据える中、大和は軽やかに滑走路にギアを接地させた。
(えっ、すごい! なんてソフトなランディング)
心の中で感心しつつ、計器類に目を走らせてコールする。
「Speed brakes up」
「Reverse normal」
機体はスラスト・リバーサーで一気にスピードを落としていく。
「Sixty knots」
管制官から指定された誘導路を通ってスポットに到着し、無事に車輪がブロック・インされた。
「ナイスランディング! お疲れ様でした」
恵真が満面の笑みで大和に声をかける。
「お疲れ様。ん? なんでそんなに嬉しそうなの?」
「だってキャプテンのランディング、とっても素晴らしくて! トリプルセブンでも涼しい顔してスッと下りるなんて、本当にすごいです」
目を輝かせる恵真に、大和は頬を緩める。
思わず手を伸ばして肩を抱き寄せようとすると、恵真にグイッと押し返された。
「チェッ。ちょっとくらいいいだろ?」
「ダメです! ほら、見て」
「ん?」
恵真の視線を追うと、パッセンジャーボーディングブリッジを渡る乗客が、コックピットに向かって手を振っているのが見えた。
皆、立ち止まり、ガラス越しに二人に嬉しそうな笑顔を向ける。
恵真と大和も、会釈して手を振り返した。
「わあ、皆様ありがとうございます。お気をつけて。またお会いしましょう」
恵真は両手を振りながら、一人一人を笑顔で見送っていた。
「佐倉キャプテン、恵真キャプテン、2日間お疲れ様でした!」
乗客の降機が完了し、コックピットから出ると、佐々木達CAが拍手で迎えてくれた。
「ありがとうございす。皆様のおかげで、無事にフライトを終えることが出来ました。2日間お疲れ様でした」
「お客様も、皆様本当に嬉しそうでしたよ。見ず知らずのお隣の方と、これまでのフライトシリーズの話で盛り上がったり。終始賑やかで笑顔が溢れる幸せなフライトでした。そして、はい! こちらが搭乗証明書でございます」
「はあ、これが……」
受け取った大和は、おお!と目を見張る。
「かっこいい。飛行機のシルエットがプリントされてる」
どれ?と、恵真も覗き込んだ。
「わあ、本当。すてきなデザインですね」
すると佐々木達も、嬉しそうに手にしていた搭乗証明書を開く。
「私達も記念にいただいたんです。宝物にします」
「佐倉キャプテン、恵真キャプテン。お二人の大切なフライトシリーズに乗務出来て、本当に光栄でした」
「ありがとうございました!」
声を揃えるCA達に、大和も恵真も、こちらこそと笑いかけた。
オフィスで社員の皆に「行ってらっしゃい!」と見送られ、空港ではグランドスタッフに「いよいよですね」と声をかけられ、CAとのブリーフィングではチーフパーサーの佐々木が満面の笑みを浮かべる。
その流れがもはや恒例となっていた。
「まさかまたお二人のフライトシリーズに乗務出来るなんて! しかもドリームライナーとトリプルセブンの両方で! ああ、もう私、感無量です。お客様より興奮してるかも」
両手を組んでうっとりする佐々木に苦笑いしつつ、恵真は頭を下げる。
「トリプルセブンに関しては、皆さんの方が大先輩です。どうぞよろしくお願いいたします」
CAにも『機種資格』なるものがあり、それぞれの機種に合わせた座学やドアの操作方法、緊急脱出訓練などを受けなければならない。
だがパイロットと違って、CAは複数の機種資格を同時に持てる為、佐々木は既にB787と777を両方乗りこなしていた。
「お任せください。二刀流のお二人を、私達もしっかりサポートいたします」
頼もしい言葉に、恵真と大和も安心してキャビンを任せられた。
まずはいつものごとく、二人はB787を息の合ったコンビネーションで離陸させる。
空も穏やかで、気持ちの良いフライトだった。
「こんなに真っ青に晴れ渡った空、雨女の私にしては珍しいです」
「俺の恵真への愛情が勝ったからだな」
「なんですか、それ。ふふっ」
巡航中、佐々木に届けてもらったコーヒーを飲みながら、笑い合う。
「そう言えば、恵真。那覇で行きたいところがあるって言ってたよな?」
「はい、あの。首里城のライトアップを観に行きたくて」
「首里城か、いいな。ライトアップってことは、夜?」
「そうです。いつも那覇ステイの時に一人で行こうかなって思ってたんだけど、出来れば大和さんと一緒に行きたいなって……」
「夜に恵真一人でなんて、ダメだ! 分かった、今夜レンタカーで一緒に行こう」
すると恵真は、パッと表情を輝かせた。
「はい! 嬉しい」
大和も顔をほころばせる。
(俺は一体、あと何度恵真に恋をするのだろう。きっといつまでも、だな)
恵真の魅力は尽きることがない。
操縦桿を握る時の、キリッとした横顔。
翼と舞に向ける、優しい母の眼差し。
何気ない日常の中で見せる、無邪気で明るい笑顔。
真っ直ぐに自分を見つめてくれる、澄んだ瞳。
抱きしめると、恥じらって赤く染まる頬。
どれだけ二人の時間を重ねても、いや、重ねるからこそ、もっと深く愛おしさが込み上げてくる。
(那覇ステイも楽しみだな)
嬉しそうに微笑んでいる恵真の横顔に、大和も笑みを浮かべてから、また前を見据えた。
◇
無事に那覇に着陸し、ステイ先のホテルに移動して少し休憩すると、早速レンタカーを借りてドライブに出かけた。
「やっぱり沖縄は暖かいな」
「ええ、もう桜の見頃も終わってしまったくらいですもの。前回那覇フライトの時に、ちょうどカンヒザクラが満開だったんですよ。大和さんと一緒に見たかったなあ」
恵真は、行きたいところや見たいものがある時は、必ず「大和さんと一緒に……」と口にする。
そのことが大和は嬉しかった。
「恵真、いつか一緒に見よう」
「はい! それに今夜は、一緒に首里城に行けるから嬉しいの」
「俺もだよ」
互いに見つめ合って微笑む。
夕食は地元の定食屋でソーキそばやラフテー、チャンプルーを味わってから、日が暮れた首里城へ車で向かった。
小高い丘をくねくねと曲がりながら走っていると、ふとハンドルを切った瞬間、暗闇に朱色の美しい城が浮かび上がった。
「わあ、きれい!」
「おお、すごいな」
思わず二人同時に感嘆の声を上げる。
「夜空に朱色が映えて、なんて幻想的なの。まるで琉球王国時代にタイムスリップしたみたい」
「ああ、そうだな。ここだけが別世界のようだ」
駐車場に車を停めると二人でゆっくりと首里城公園を散策し、ライトアップされた守礼門や城郭に言葉もなく魅了された。
「とっても静かで厳かな雰囲気ですね。すてき……」
「ああ、昼間とは別の表情だな。夜にこそ首里城らしさを感じるよ」
「私もです。大和さんと一緒に見られて良かった」
そう呟いてうっとりと首里城を見上げる恵真の美しい横顔に、大和はまた恋に落ちた。
◇
翌日は朝から美ら海水族館に出かけ、恵真は子どものようにジンベイザメやイルカに目を輝かせた。
夜には乗務が控えている為のんびりは出来なかったが、お土産を買うのだけは外せない。
「大和さん、このグラスをペアで買ってもいい? 琉球ガラスなの」
「もちろん。イルカのぬいぐるみは?」
「えー、もう子どもじゃないから買わない」
だが大和がこっそり会計してから手渡すと、恵真は「わあ!」と嬉しそうな笑顔で受け取った。
「それから、これも恵真に。ホタルガラスだって」
そう言って大和は、銀箔を閉じ込めた藍色のネックレスを恵真の胸元に着けた。
「きれい……。まるで夜空に輝く星みたい」
ホタルガラスに手を添えて、恵真は優しい微笑みを浮かべる。
「ありがとう、大和さん」
「どういたしまして」
さり気なく手を繋いで歩き出すと、恵真は頬をほんのりピンクに染めてうつむいていた。
◇
ホテルに戻るとチェックアウトし、二人で空港に向かう。
折り返し便のB777は恵真が離陸を、大和が着陸を担当することになった。
定刻にブロック・アウトすると、恵真は大和が管制官とやり取りするのを聞きながら地上走行し、機体を滑走路に正対させる。
「Notify Cabin」
大和がポーン……とチャイムを鳴らして、キャビンに離陸を知らせた。
「Cleared for takeoff. よし、行こう」
「はい。Runway clear. Cleared for takeoff」
恵真はスラストレバーをしっかりと握る。
手順はB787と同じ。
だが染みついた感覚に惑わされてはいけない。
大和と息を合わせ、計器の数値を確かめながらコールし合って、無事に機体を離陸させた。
巡航に入ると、二人でふうと肩の力を抜く。
「やっぱりかっこいいな、恵真は」
「え? なにがですか?」
大和の思わぬ言葉に、恵真は首をひねった。
「だってこんな大きな機体を細い腕で操って、いとも簡単にスッと離陸させてみせるんだから」
恵真は思わず苦笑いする。
「すごいのは飛行機の性能であって、私の握力ではないですよ?」
「ははは! まあ、そうだけどさ。やっぱりかっこいいよ、恵真は。俺の自慢の女」
またそういうことをコックピットで……と、恵真は眉根を寄せた。
「かっこいいのに、困った顔は可愛い。最高だな」
「もう、キャプテン!」
真顔で怒ってみるが、やはり大和は笑っている。
「ふくれっ面も可愛い」
「キャプテン! 変なことばかり言ってないで、PA入れてくださいね。I have」
ツンと澄ましてそっぽを向く恵真に、大和は苦笑いした。
「分かったよ。でもなにを言っても知らないぞ?」
そう言ってMICボタンを押した。
「ご搭乗の皆様に、コックピットよりご案内申し上げます。
この度はMixed Fleet Flightにご搭乗いただき、誠にありがとうございます。
昨日のB787に続き、本日のB777も、機長の佐倉 大和と佐倉 恵真が操縦を担当しております。
B777でも、このように機内アナウンスで皆様にご挨拶が出来ますことを、心より嬉しく思います。
思い返せば1年前、フルムーンフライトでフライトシリーズは締めくくられたとばかり思っておりました。
そこからまさかMixed Fleet Pilotを目指し、1年後の今日、このように皆様と2つの機種でご一緒に飛べる日が来るとは夢にも考えておりませんでした。
人生というのは思いも寄らないことばかりで、この歳になっても日々挑戦と成長の連続です。
先が読めないからこそ、楽しい。目標があるからこそ輝ける。
そんな人生をこれからも楽しみつつ、皆様とこうして空の旅をご一緒出来る喜びを噛みしめたいと思います。
どこまでも続く青空に颯爽と羽ばたく飛行機のように、私達もいつまでも夢と希望を持って、輝かしい人生を歩んで参りましょう。
このフライトの実現に心より感謝し、また次の旅でもお会い出来ますことを楽しみにしております。
どこかの空で、再びご一緒出来ますように。
皆様のご多幸を心よりお祈りいたします。
それではこの先も、ごゆっくり空の旅をお楽しみください。
We hope you enjoy the flight with us.
Thank you.
Have a good day! 」
キャビンから大きな拍手が起こり、コックピットにも聞こえてきた。
大和は恵真に、ふっと笑いかける。
「なんかもう、我ら皆ファミリーって感じだな」
「ふふっ、そうですね。この便は単なる移動手段ではない気がします」
「ああ。パイロットになって、こんなにも幸せな気持ちを味わえるとは思ってもみなかった。恵真と出会えたから、この幸せはある。ありがとう、恵真」
「いいえ。私の方こそ、大和さんに全て教えてもらいました。パイロットとしての在り方、子ども達に見せる背中、人生の歩み方、そしてたくさんの幸せを。大和さん、本当にありがとう」
「恵真……」
感動と喜びと、幸せと感謝。
たくさんの想いを伝えるように、大和と恵真は互いに見つめ合っていた。
やがて羽田が近づき、着陸態勢に入った。
次は大和が操縦桿を握る。
着陸決心高度の100フィート手前に到達すると、恵真がコールした。
「Approaching minimum」
「Checked」
大和も確認して呼応する。
「Minimum」
「Landing」
B777は、B787と比べて機体が大きく重い。
揚力を維持する為、その分スピードを落とさず着陸しなければならない。
B777にもかなり慣れたとは言え、やはりB787と比べると緊張感が違う。
恵真がグッと前を見据える中、大和は軽やかに滑走路にギアを接地させた。
(えっ、すごい! なんてソフトなランディング)
心の中で感心しつつ、計器類に目を走らせてコールする。
「Speed brakes up」
「Reverse normal」
機体はスラスト・リバーサーで一気にスピードを落としていく。
「Sixty knots」
管制官から指定された誘導路を通ってスポットに到着し、無事に車輪がブロック・インされた。
「ナイスランディング! お疲れ様でした」
恵真が満面の笑みで大和に声をかける。
「お疲れ様。ん? なんでそんなに嬉しそうなの?」
「だってキャプテンのランディング、とっても素晴らしくて! トリプルセブンでも涼しい顔してスッと下りるなんて、本当にすごいです」
目を輝かせる恵真に、大和は頬を緩める。
思わず手を伸ばして肩を抱き寄せようとすると、恵真にグイッと押し返された。
「チェッ。ちょっとくらいいいだろ?」
「ダメです! ほら、見て」
「ん?」
恵真の視線を追うと、パッセンジャーボーディングブリッジを渡る乗客が、コックピットに向かって手を振っているのが見えた。
皆、立ち止まり、ガラス越しに二人に嬉しそうな笑顔を向ける。
恵真と大和も、会釈して手を振り返した。
「わあ、皆様ありがとうございます。お気をつけて。またお会いしましょう」
恵真は両手を振りながら、一人一人を笑顔で見送っていた。
「佐倉キャプテン、恵真キャプテン、2日間お疲れ様でした!」
乗客の降機が完了し、コックピットから出ると、佐々木達CAが拍手で迎えてくれた。
「ありがとうございす。皆様のおかげで、無事にフライトを終えることが出来ました。2日間お疲れ様でした」
「お客様も、皆様本当に嬉しそうでしたよ。見ず知らずのお隣の方と、これまでのフライトシリーズの話で盛り上がったり。終始賑やかで笑顔が溢れる幸せなフライトでした。そして、はい! こちらが搭乗証明書でございます」
「はあ、これが……」
受け取った大和は、おお!と目を見張る。
「かっこいい。飛行機のシルエットがプリントされてる」
どれ?と、恵真も覗き込んだ。
「わあ、本当。すてきなデザインですね」
すると佐々木達も、嬉しそうに手にしていた搭乗証明書を開く。
「私達も記念にいただいたんです。宝物にします」
「佐倉キャプテン、恵真キャプテン。お二人の大切なフライトシリーズに乗務出来て、本当に光栄でした」
「ありがとうございました!」
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★他サイト様にも投稿しています!
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