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穏やかな時
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あれからというもの、セレンからの愛情表現はより激しく、分かりやすいものとなった。態度はより甘く、褒め言葉も前にも増して多くなり、私は受け止めるのに精一杯で、なかなかうまく返せない。
この前にいたっては屋敷内で抱き着かれて、それをヴィンス様に見られてしまった。固まる私に、ヴィンス様は生暖かい眼差しを向けると何も言わずにそっと去っていった。セレンは平気そうな顔をしていて、真っ赤な私の頬を指先でつついて楽しそうに遊んでいた。
……オリヴィア様はしばらく屋敷には来ていない。私にセレンから離れるよう言っていた彼女だが、こうも急に音沙汰が無くなると怖いものだ。またきつく何かを言いにくるのではと思っていたが……。
セレンが彼女に何かを言ったのだろうか。まあ、屋敷に彼女が来ない以上、顔を合わせる機会は無いだろう。そう思っていた矢先のこと。
セレンが私に、王女の主催するパーティーに着いてきてくれないか、と頼んできたのだ。
「そんな大きなパーティーに参加するなんて……」
「将来は当たり前になるかもよ?大丈夫、僕がしっかりエスコートするし、あまり連れ回しはしないよ。……挨拶をしなくちゃいけない人は決まっているから」
私は気後れしながらも、セレンの頼みならと承諾した。……確かに、将来妻として、こういった機会は沢山あるだろう。慣れておくことは大切だ。
「似合いそうなドレスを用意して置くよ。……それとも、一緒に選ぶ?何でも似合いそうだけど、好みもあるだろうから」
「ううん、セレンが選んで。私に着て欲しいと思うものを」
一緒に選ぶという言葉は魅力的だが、今回は自分で選ぶよりも彼に選んで欲しいと思った。単純に興味がある。彼はどういったものが好みなんだろうか。
幼い頃の私は、取り合えずフリルやレースのついたものが好きで、そういったものばかりを着ていた。今着るにしては幼すぎるというか、可愛らしすぎるようなデザインである。今着るなら、どういったものが良いのだろうか。
大人になった今、またドレスが着られると思うと胸が躍った。やはり今も、お洒落なものや華やかなものは好きだ。無くてはならないものではないけれど。
「……失敗しないといいけれど」
「失敗するも何も、そういうこと自体ないよ」
不安を隠しきれない私にセレンが優しく微笑みかける。杞憂……で済むといいのだが。
「パーティーには、セレンのお父様もいらっしゃるの?」
「あと兄さんもね。……母上は随分前に亡くなってしまったから、アルトには紹介できないな」
「そう……一度、お会いしたかったわ」
不意に鳥の鳴き声が聞こえてきたので、二人そろって窓の外を見る。透明なガラスの向こうに見える木々の中に、小鳥が二羽、仲睦まじく寄り添いあっているのが見えた。
「仲がいいね」
「ふふ、素敵」
セレンは窓枠に手を添えて、じっとその姿を見つめている。私は彼に近づき、彼の側に寄り添うようにして立った。肩と肩が触れ合う程にぴったりとくっつく。
「あの子たちの真似よ」
急にくっついて来たことに驚いたのか、一瞬目を丸くしてこちらを見た彼の顔に、赤みが差すのが分かった。
「急に可愛いことしないでよ」
「……照れてるの?」
顔を隠すように反対側に顔を背けてしまう。珍しく照れている彼に、私は少しいい気分になって彼の顔を覗き込んだ。
「ふふ、ほっぺが赤い」
セレンは眉を寄せて、少し悔しそうな、恥ずかしそうな表情をしている。だが不愉快ではなさそうで、私は調子に乗って彼の頬をつついた。
すると不意にキスをされ、唇が塞がれる。すぐに唇は離れたが、今度は私が真っ赤になってしまった。
「そっちから顔を近づけてくるなんて滅多にないから、ラッキーだったよ」
「き、キスは心臓に悪いわ……」
――穏やかな昼下がりの午後。まずはパーティーが無事に終わりますようにと願うばかりだった。
この前にいたっては屋敷内で抱き着かれて、それをヴィンス様に見られてしまった。固まる私に、ヴィンス様は生暖かい眼差しを向けると何も言わずにそっと去っていった。セレンは平気そうな顔をしていて、真っ赤な私の頬を指先でつついて楽しそうに遊んでいた。
……オリヴィア様はしばらく屋敷には来ていない。私にセレンから離れるよう言っていた彼女だが、こうも急に音沙汰が無くなると怖いものだ。またきつく何かを言いにくるのではと思っていたが……。
セレンが彼女に何かを言ったのだろうか。まあ、屋敷に彼女が来ない以上、顔を合わせる機会は無いだろう。そう思っていた矢先のこと。
セレンが私に、王女の主催するパーティーに着いてきてくれないか、と頼んできたのだ。
「そんな大きなパーティーに参加するなんて……」
「将来は当たり前になるかもよ?大丈夫、僕がしっかりエスコートするし、あまり連れ回しはしないよ。……挨拶をしなくちゃいけない人は決まっているから」
私は気後れしながらも、セレンの頼みならと承諾した。……確かに、将来妻として、こういった機会は沢山あるだろう。慣れておくことは大切だ。
「似合いそうなドレスを用意して置くよ。……それとも、一緒に選ぶ?何でも似合いそうだけど、好みもあるだろうから」
「ううん、セレンが選んで。私に着て欲しいと思うものを」
一緒に選ぶという言葉は魅力的だが、今回は自分で選ぶよりも彼に選んで欲しいと思った。単純に興味がある。彼はどういったものが好みなんだろうか。
幼い頃の私は、取り合えずフリルやレースのついたものが好きで、そういったものばかりを着ていた。今着るにしては幼すぎるというか、可愛らしすぎるようなデザインである。今着るなら、どういったものが良いのだろうか。
大人になった今、またドレスが着られると思うと胸が躍った。やはり今も、お洒落なものや華やかなものは好きだ。無くてはならないものではないけれど。
「……失敗しないといいけれど」
「失敗するも何も、そういうこと自体ないよ」
不安を隠しきれない私にセレンが優しく微笑みかける。杞憂……で済むといいのだが。
「パーティーには、セレンのお父様もいらっしゃるの?」
「あと兄さんもね。……母上は随分前に亡くなってしまったから、アルトには紹介できないな」
「そう……一度、お会いしたかったわ」
不意に鳥の鳴き声が聞こえてきたので、二人そろって窓の外を見る。透明なガラスの向こうに見える木々の中に、小鳥が二羽、仲睦まじく寄り添いあっているのが見えた。
「仲がいいね」
「ふふ、素敵」
セレンは窓枠に手を添えて、じっとその姿を見つめている。私は彼に近づき、彼の側に寄り添うようにして立った。肩と肩が触れ合う程にぴったりとくっつく。
「あの子たちの真似よ」
急にくっついて来たことに驚いたのか、一瞬目を丸くしてこちらを見た彼の顔に、赤みが差すのが分かった。
「急に可愛いことしないでよ」
「……照れてるの?」
顔を隠すように反対側に顔を背けてしまう。珍しく照れている彼に、私は少しいい気分になって彼の顔を覗き込んだ。
「ふふ、ほっぺが赤い」
セレンは眉を寄せて、少し悔しそうな、恥ずかしそうな表情をしている。だが不愉快ではなさそうで、私は調子に乗って彼の頬をつついた。
すると不意にキスをされ、唇が塞がれる。すぐに唇は離れたが、今度は私が真っ赤になってしまった。
「そっちから顔を近づけてくるなんて滅多にないから、ラッキーだったよ」
「き、キスは心臓に悪いわ……」
――穏やかな昼下がりの午後。まずはパーティーが無事に終わりますようにと願うばかりだった。
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