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28 寝ぼけてるって、ちゃんとそう言ってほしい事。 ~ 落ちこぼれの雀 緋色④ ~
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次の日は目が覚めたあと早々に起きだした。
オジサンなのに体力があるって褒めてやってもいい。
私がそれに付き合いたいと思わないでほしい。
シャワーを浴びて本当にスッキリしたし、目が覚めた。
朝からドロリとした何かが体から抜けた気がする。
そっと寝室に入り楽な部屋着を持ってリビングに行く。
創さんの大切な『礼儀』は飲む度に言われていた。
うるさいほど言うんだから。
だからたとえ寝坊しても朝ごはんは待っていてあげようと思った。
コーヒーをいれて小さくテレビをつけて、パソコンを引き寄せる。
私がうとうととして、その後バタバタとしてる間にも世の中の人はマメに画面に向かって何かをつぶやいていたらしい。
そんなフォロー中の人のつぶやきを見たり、話題の写真を見たり、ちょっとはニュースも見たりして。
本当に起きてこないんだけど。
いつも朝と夕方走ってるとか言って威張ってたのに。
ダラダラとは過ごしてない週末を自慢そうに言ってたのに。
お腹がすくくらいの時間。
あとどのくらい我慢できるだろうか?
切実なアラームを鳴らしそうなお腹を撫でながら寝室の方を見た。
まったく気配はない。
いるよね?
まさかシャワー浴びてる間に走ったりとか・・・・って。
部屋着を取りに行った時に、確かにこんもりとベッドに何かはいた気がする。
とうとう我慢できなくなった10分後。
寝室をそっと開けた。
別にドスドスと歩いてもいいんじゃない?
だって起こすつもりだしね。
それでもそっとベッドに近寄った。
布団がズレて足の先が出てる。
半分横向きのまま、普通に寝てる。
やっぱりおじさんだから疲れて起きれない?
ベッドに座り声をかけた。
「創さん、朝ですけど、起きませんか?」
ものすごく優しい声を出して起こしてあげたのに、軽い唸り声で答えられた。
起きたくないらしい。
うるさいと言いたいのかもしれない。
顔を近寄せて、キスをした。
つい目を閉じたけどすぐに開いてゆっくり離れた。
違和感には気が付いたらしくて、唸り声よりはため息のような反応があった。
そう思ったらぐるっと反転して、伸びた腕に抱え込まれた。
目を閉じてたと思うのに、しっかりと私の位置を把握してたみたいに巻き付いた腕。
どんなセンサーを持ってるの?
そのまま創さんの横にゆっくりと倒れこんだ。
狭いベッドの端っこ過ぎて、手を離されたらベッドから落ちるかもしれない。
布団の上から背中に手をまわした。
「創さん、まだ寝てますか?」
返事はなかったけど巻き付いた腕に力が入った。
「さ・・・り・・・・。」
顔は胸にくっつけていて、寝言のような声ははっきり聞こえなかった。
でも名前を呼んでくれた?
今まで緋色としか呼ばれてない。
会社では『さん』がついてるけど、二人でいても『緋色』だった。
名前で呼んでくれたの?
「創さん、お願いします。」
もう一度呼んで欲しい。
寝ぼけててもいいから、もう一度。
そっと顔をあげた。
だけど何も聞こえない。
脚を乗せられて腰が重くなった。
明らかに創さんの足先はベッドから落ちてると思う。
そして体はもっとくっついた。
布団に隠された部分と、明らかに布団から出て自由に動いた部分。
腰の部分から下が丸見えなくらいに布団から出てる。
それでも目が開かないらしい。
寝てるの?
最初の夜もそうだった。抱き枕が必要なタイプらしい。
今もどっしりと足の重みを乗せられて、くっついて。
頭の上でため息が聞こえた。
「さ・・・・・。」
それ以外は不明。
聞き耳を立ててても全然続かなかった。
お腹空いてるんだけど・・・・。
そっと手を伸ばして腰に置いたら、うっかり布団から出ていたらしくてもろ肌のお尻近くだった。
硬い骨が手首に当たる。
大きな骨だった。自分の体を想像すると本当に重たそう。
だって足一本でも結構重たい。
そっとその大きな骨の大きさをたどるように触った。
骨盤の骨だから太腿がくっつく骨。
ちょっと冷えた肌の下にある逞しい骨、体の中でも大きい方だろう。
その内にここにもぼってりと肉が乗るんだろうか?
分厚い大きなお尻になって、骨なんて深く埋没して分からなくなるんだろうか?
人差し指でなぞるようにして、親指で挟み込むように大きさを測るようにして、そんな事を思ってた。
「何・・・・。」
しばらく楽しんでたら声がした。
起きてくれたみたい。
「何でもないです。」
手の動きがちょっとだけ恥ずかしくなって小さく答えた。
そう言ったのに一層体が傾いて体重がかかってきた。
ベッドから落ちそう・・・・・。
急いでしがみつくようにした。
体の下にもぐり込んだみたいになった。
腰で休憩してた手をゆっくり前に運ばれた。
「して・・・。」
そっと身体を離された。
隙間ができたお腹のあたり。
どういうこと?そういうこと?
ちょっと腰の骨で遊んでただけなのに。
未来のブクブクとした腰回りを想像してただけなのに。
手を掴まれたまま、ゆっくりそこに体の中心が倒れてきた。
くるりと手を返して開いたら、そこにある・・・・あった。
見てるわけじゃない、ちょっとの感覚でなんとなく分かる。
それにはっきり誘導する手があった。
そのままゆっくり包み込んだ。
そっと動かすとため息が聞こえてきた。
そのまま握ったままゆっくりと刺激を続けた。
小さい声にため息が混じる。
顔は見てない、ただただ目を閉じて手の動きに集中してた。
でも創さんの漏らす声はしっかり耳が拾ってる。
いつもの声よりも細くて弱弱しい気がする。
手の中で存在感が大きくなり、思わず視線を下ろした。
二人の間の暗い中にあって、はっきりとは見えないけど、それがこっちを見てる気がして、気まずくて視線をまたまっすぐにした。
なんで私が恥ずかしいの?逆じゃない。
声が大きくなり、さらに高くなり。
「さおり・・・。」
名前を呼ばれたと喜んだあと・・・・・静かになった。
自分の手の中でどくどくと大きな鼓動を感じた。
あっさり終わった。
びっくりするほどあっさり。
いつもはもっと・・・・。
ゆっくり手を離した。
テイッシュでちょっと浴びた飛沫を拭く。
あとは洗濯でいい。
そして隣で動かないままの創さん。
体は仰向けになっていた。
寝た?
そっと覗くと目を閉じて大人しく呼吸を整えてるみたいにも見える。
私もちょっとだけ乱れた呼吸を整えながら、目を閉じて考えてた。
名前を呼んでくれるんだろうか?
あの部屋じゃあ無理でも、今日からは名前で呼んでくれるんだろうか?
私はもうバレてるから、『創さん』とずっと呼んでる。
野本さんが来たら・・・・きっとバレるから『創さん』のままだろう。
でも無駄話をしないと意外に名前を呼ぶ機会もない。
だけど私は呼ばれる事はあると思う。
仕事を依頼されるときに、必ず名前を呼ばれる。
『さん』付けで呼ばれる。
そこを名前で呼んでもらってもいいよね。
少しは優しい気持ちが乗るんじゃない?
でもやっぱり無理か・・・・あの部屋じゃダメだよね。
寝てたわけじゃないのに、目を閉じたままだったからそう思われたみたい。
やっと起きだすことにしたらしい創さんが挨拶をしてきた。
普通のあいさつでもいいのに残念ながら色気も優しさもないあいさつで。
「緋色、なんで着替えてるんだ?」
名前も普通に元に戻り、疑問というよりちょっと責めるような口調だった。
「創さんが寝坊するからです。とっくに走りに行く時間を過ぎてるのに、まだ寝てるんだから。せっかく優しく起こしてあげたら・・・あんな・・・・・。」
「なんだ?あんなって。」
普通に聞いてきた。
「だから起き抜けがおかしいです。今日は本当に・・・・。」
だから何で恥ずかしがってるのが私なの?
起き抜けエロって創さんだけだったのに。
私の骨盤探検は別にいいよね。
「何照れてんだよ。」
そう言いながらも結構な部分が布団からも出て冷えて来たのに気が付いたらしく、そっと布団を引っ張ってる。
「ああ、よく寝た。スッキリしてる。」
そう言って背伸びをする創さん。
「緋色、いつ着替えたんだ?寒かったのか?」
「朝です。さっきも私はこのまま着てましたよ。」
何度呼ばれても名前はやっぱり『緋色』のままだった。
なんでよって、ちょっと睨むようにした。
「なんだよ。もしかして全く俺が起きないからって拗ねてたのか?だからわざわざ着替えて隣にきての無言の圧をかけてるつもりか?」
また足をのせてきた。
にやにや笑いとともに。
そして本当に・・・・・さっきは寝てた?そう思い始めた。
「さっきは・・・・・寝ぼけてましたか?」
「どの『さっき』だ?」
私に説明させたいのか、本当に寝てたのか・・・・寝てたと分かった。
完全に夢の中だったんだろう。
そんな事ってあるんだろうか?
普通起きるよね?
睡眠薬でも飲んだ?
「もしかして寝起きが本当に悪いんですか?寝ぼけてやらかしたりする方なんですか?」
「・・・・おい、気になるんだが、何を言いたい?」
「恥ずかしくてとても・・・・私は言いたくありません。」
どう説明すればいいのか分からない。
だいたい寝ぼけた人に付き合って・・・・・そんな事をした私は何?
「もしかして寝てる俺にとろけるような甘い言葉で愛を告白してこれ以上ないくらい感動を伝えて、運命を喜び、褒めたたえてくれたのか?俺も面倒でつい返事してしまったかもしれないな。この間の事があるから、自信はない、分かってくれ。もう一度ちゃんと聞くが、どうする?」
完全に私がやらかしたと思ってるらしい。
私じゃないのに。
そう言ったのに。
にやにやしたその顔にムッと来る。
「そんな事じゃないです。まったく違います。恥ずかしがるのは創さんの方です。爆死必死ですよ。」
つい言ってしまった。
それはなんだって、聞かれるのに。
言いたいわけじゃないのに。
「・・・・なんだ?」
この間の朝だって、もしかしたら同じような寝ぼけ具合だったのかもしれない。
大丈夫なの?寝起きで・・・あんな・・・・。
「聞きたいような聞きたくないような、でも聞かないと気になる。言ってくれ、なんだ?何を隠してる?」
なかなか起きてこないから・・・・・・と話をし始めて、途中で耳を塞いで目をぎゅっと閉じた創さん。
でもまあまあ雰囲気だけで具体的なことは控えめに話をした。
私が話を終えた時に耳の手は外れた。
ちゃんと聞こえてるんじゃない。
しばらく空っぽな目をして、でも顔が赤い。
「今まで言われたことなかったんですか?」
「ない。」
夜を過ごした彼女もいただろうに。
彼女が深い睡眠だったのかもしれない。
若い創さんは寝起きが良かったのかもしれない。
目覚めも良かったんだろう。
成長するとそんな変化も出るらしい。
「・・・・すまなかった。」
反省の目になった。
「大丈夫です。途中ちゃんと名前を呼んでくれました。呼んだこともない私の名前を。それだけで許せます。」
無言。
「まさか同じ名前の人と付き合ったことがあるとか・・・。」
「ない、あるか・・・・そんな偶然。」
反応は早かったけど言葉に勢いはない。
やっぱり相当寝ぼけてのアレがショックだったらしい。
「創さん、時々はそう呼んでください。」
「今は何も逆らえない気分だ。他に言いたいことがあるなら今だぞ、怒らない呆れない許す受け入れる言うことを聞く、本当に何でもありだ。」
「思いつきません。他の人の名前じゃなったからいいです。」
そう言う意味では絶対忘れませんが。
首にくっついた。
「なんでだろう・・・・。」
「心残りだったかなあ?」
「それとも楽しみだったのかなあ。」
「満足したと思ったのにな。」
ぶつぶつ言いながら背中を抱き寄せらえた。
創さんの脚はとっくに腰から降ろされてる。
それでもひざ下が絡み合ってる。
一人は部屋着、一人は何も着てない状態で。
頭の上が暖かい。
背中の手も・・・・・背中の上を動く手も。
「緋色、横に来るなら脱いでからでもいいのに。」
そう言って背中からめくり上げられる。
さっきから背中を動いていた手が心地いい暖かさだけじゃない気がしてた。
半分捲られたら前に回る手。
顔を見上げてそっと身体の距離を離したのは自分で。
悪かったな・・・そう言いながらキスをしてくる。
謝罪の気持ちはいただきますよ。
ただ、過剰です。
お腹空いたんです。
起こしに来たんです。
ベッドの端にいた私をぐるりと反対側に運んで壁を向かされた。
狭いベッドで、やっぱり端っこに行ったけど本当に壁際だから落ちることはない。
壁を向いてしまった私の背中にぴったりとくっつかれて、耳元でまた謝罪をされた。
そう言いながら創さんの手は胸にある。
ゆっくり服の中でふくらみを確かめられて、少しだけ動かされてる。
なんでだろう・・・・・・・そんなつぶやきを繰り返して考えてるらしいけど、起きて着替えて、それからしっかり考えてもらってもいい!
やっぱりあれかな・・・・・・。
結論が出たらしいのに『あれ』じゃあ分からない。
そして手の動きも止まらず。
敏感に耳元に温かい息を感じて、胸はそっと頂に触れてきて。
私だって我慢できずに声が出る。
お尻をゆっくりなぞり始めた手は腰やお腹をうろうろとする。
邪魔な布を払うこともせずに、その上からサワサワと触ってる。
楽ちんパンツのゴムの中にするっと入ってきて、ゆっくりお尻から腿を触られる。
足先が絡み合い、時々私の片足を器用に動かしてくる。
後ろからゆっくりと手を入れて、湿った布越しにゆっくりと指を沿わせてくる。
「いやぁ」
足が絡まりながら、創さんの足一本分の隙間は作られてる。
ピタッと閉じることは出来ない。
「本当に・・・悪かったな。せっかく着替えたのに、また・・・・・こんなに・・・・。」
謝るポイントをずらさないで。
首を振るのに、顔も見れない、力も出ない。
「すごいな・・・・・。」
要らない感想を言いながらまた謝る。わざと謝ってない?
もう自分でも気持ち悪い。すごく反応してる。
方向がちょっと違うだけなのに、なんで・・・・。
「じゃあ、緋色も・・・・どうぞ。」
そう言われて指を動かされた。
そんなの頼んでないのに。
でもその手を払いのけることもできない。
自分から体を曲げその手を誘う。
大きな声を出して、壁に向かって叫んだ。
「こっちを向いて。」
そう言って向きを変えられた。
「可愛いなあ。本当に相性いいよな。な?」
目を閉じて聞こえないふりをする。
抱き寄せられて、体の上に乗せられてうつ伏せになった。
部屋着はそのまま、適当にめくれても脱がされることはない。
着替えたい・・・・・。
シャワー浴びたい。
上に乗せられてまたお尻を触られる。
楽ちんパンツの上から大きく円を描くように。
ぐっと骨盤に手を置かれて力を込められて、体がズレたら、ピタリと位置があって軽く悲鳴が出た。
「何だ、可愛い反応だな。寝ぼけてないから心配するな。」
布越しにもわかる逞しいものが揺れながら刺激を与えてくる。
下から突き上げるように動く創さんに揺すられて、声が揺れる。
急に動くをのやめた創さんが起き上がった。
いつもなら脚を開いて太ももに乗るのに、服が邪魔で動けない窮屈さ。
そのまま半端な姿勢でちょっとだけ体を起こした状態。
体重を支えるのは無理だから全部創さんに預けてる。
それなのに全然かまわないで動き始めた。
「しっかりつかまって。」
二人分の体重を創さんが腕で支えて、下から突き上げながら揺れる。
体にしっかり腕を巻き付けて言われたとおりにつかまる。
体が離れないように足もぴったりと閉じた。
「緋色・・・・・・もっと・・・しっかり力入れて・・・・。」
腕にも足にも力を入れて、しっかりと創さんにしがみつく。
かすかに漏れる音が小さい。
それでもどんどん溢れるものはあるみたい。
しっかりと足を閉じても滑って二人が離れてしまいそう。
もっとしっかりと力を入れてしがみついた。
胸に顔を埋めるのが苦しくて顔をあげた。
「ああっ、もう・・・・・」
「あと少し・・・・・。」
力を入れるのも限界で緩んでしまう。
途端に音が大きくなる。
「緋色・・・・・いい・・・。」
言葉にはならないけど、口が閉じないくらいにあえぐ息が漏れる。
「ああ・・・・いい・・・・。」
創さんがそう言って一層スピードを上げて、先に達した。
その後何度か突かれて創さんも終わりにした。
どくどくとさっきは手の中に感じた拍動をまた感じた。
そのまま横に降ろされた。
服はやっぱり中途半端なところにある。
そんなところにかまう気力もなく、そのままでいた。
結局二人ともそんな格好で空腹を忘れたまま。
飢餓感は食欲とも何かとも勘違いしやすいのだろうか?
ついでに睡眠欲も満たすようにちょっとだけうとうとして。
今度こそ二人でお腹が鳴って起きだすことにした。
「色気無し。」
そう言われたけど、輪唱のように後からついてきてお腹を鳴らしてたじゃない。
ちゃんと気がついてるんだから。
ただ私が二回くらいフライングしただけだ。
コンビニのTシャツとトランクスだけのマヌケな格好でソファに座って、朝ごはんを食べてる。
「創さん、アズルさんは美人だし、もし彼氏がいないと最初から分かってたら意識しましたか?」
白いTシャツの胸に顔をくっつけて聞いた。
誰だって好きになるくらいいい人。
すごくいい人。
女性も憧れるし、ちょっと年下でも創さんだって。
「どうだろう。緋色の失敗を笑ってる心の広い人だと思ってたし、異動前に想像してたのとは全く違う上司像に本当に感動はしたけど。美人は美人だな、男は皆そう思うよ。」
「だってアズルさんも寂しくて、創さんにも彼女がいないって分かったら、アズルさんだってちょっとは違う顔を見せてるかもしれないです。私がいなかったとしたら、二人であっという間に盛り上がったんじゃないですか?」
「そこは緋色もいたし、宗像さんには相手もいたし。仮定の話は難しい。でも誰もがそうなるだろうと思うことには抵抗したい気もする。下の階で勝手に噂されてそうじゃないか?」
「そうだと思います。だから余計に私は創さんの事を探られたんだと思います。アズルさん込みでどんな人なのかってランチの時に聞かれました。・・・・だから油断できないです。」
「他にも隠れファンがいるって野本さんが言ってたんですから、その数人と・・・・・同じ人かもしれませんが。」
「知らない。」
「もっと手伝います。他の人に書類を届けるくらいなら私が出来ます。他にも・・・・部屋から出る用事は、何でも言いつけてください。」
正直な心を仕事のやる気にすり替えて言った。
だけど当然バレる、そんな話の流れだし。
「よろしく・・・と言いたいところだけど、お前こそ誘われて嬉しそうに帰ってきそうだな。よく知りもしない男の誘いにのってたのは誰だ。」
「遅刻してきた女性にさらりと選ばれて近寄られたのは誰ですか?」
「お互い人気者で辛いな。」
揶揄うようにそう言われた。
余裕たっぷりのくせに。
「あんな寝ぼけた癖があるなんて知られたらドン引きされますよ。」
最終兵器を簡単に持ち出してしまった。
「そうだな、ドン引きせずに最後までつき合わせて悪かったな。せっかく着替えもしたのに誘ったみたいだしな。」
すっかり立ち直ったらしい。
つまらない。
両手を胸について離れた。
「宗像さんにはそんな質問するなよ。」
「当たり前です。笑われます。」
「あんまりいろいろ考えてると禿げるぞ。」
脳天に人差し指が突き刺さった。
「痛い。」
顔をあげてにらんだ。
これが乙女心だとなんで分からないんだ、本当におじさんは嫌になる。
「余計な気を回すな・・・早織。」
最後視線を外された。
あああ・・・・・赤い。
何で名前を呼ぶのにそんなに照れるの?
あっけにとられた後、今度は私がにんまりと笑った。
「そうします。あんな寝ぼけに付き合えるのは私だけです。」
自信をもってそう言った。
「『着物』と『寝ぼけ』を禁句にする。」
さっきはさらりと流したくせに、やっぱり恥ずかしいんじゃない。
さっそくもう一つ追加してきた。
それでも全く気にしない。
それを守るように気を付けるけど、創さんだってもっと気を付けた方がいい、そう言いたい。
オジサンなのに体力があるって褒めてやってもいい。
私がそれに付き合いたいと思わないでほしい。
シャワーを浴びて本当にスッキリしたし、目が覚めた。
朝からドロリとした何かが体から抜けた気がする。
そっと寝室に入り楽な部屋着を持ってリビングに行く。
創さんの大切な『礼儀』は飲む度に言われていた。
うるさいほど言うんだから。
だからたとえ寝坊しても朝ごはんは待っていてあげようと思った。
コーヒーをいれて小さくテレビをつけて、パソコンを引き寄せる。
私がうとうととして、その後バタバタとしてる間にも世の中の人はマメに画面に向かって何かをつぶやいていたらしい。
そんなフォロー中の人のつぶやきを見たり、話題の写真を見たり、ちょっとはニュースも見たりして。
本当に起きてこないんだけど。
いつも朝と夕方走ってるとか言って威張ってたのに。
ダラダラとは過ごしてない週末を自慢そうに言ってたのに。
お腹がすくくらいの時間。
あとどのくらい我慢できるだろうか?
切実なアラームを鳴らしそうなお腹を撫でながら寝室の方を見た。
まったく気配はない。
いるよね?
まさかシャワー浴びてる間に走ったりとか・・・・って。
部屋着を取りに行った時に、確かにこんもりとベッドに何かはいた気がする。
とうとう我慢できなくなった10分後。
寝室をそっと開けた。
別にドスドスと歩いてもいいんじゃない?
だって起こすつもりだしね。
それでもそっとベッドに近寄った。
布団がズレて足の先が出てる。
半分横向きのまま、普通に寝てる。
やっぱりおじさんだから疲れて起きれない?
ベッドに座り声をかけた。
「創さん、朝ですけど、起きませんか?」
ものすごく優しい声を出して起こしてあげたのに、軽い唸り声で答えられた。
起きたくないらしい。
うるさいと言いたいのかもしれない。
顔を近寄せて、キスをした。
つい目を閉じたけどすぐに開いてゆっくり離れた。
違和感には気が付いたらしくて、唸り声よりはため息のような反応があった。
そう思ったらぐるっと反転して、伸びた腕に抱え込まれた。
目を閉じてたと思うのに、しっかりと私の位置を把握してたみたいに巻き付いた腕。
どんなセンサーを持ってるの?
そのまま創さんの横にゆっくりと倒れこんだ。
狭いベッドの端っこ過ぎて、手を離されたらベッドから落ちるかもしれない。
布団の上から背中に手をまわした。
「創さん、まだ寝てますか?」
返事はなかったけど巻き付いた腕に力が入った。
「さ・・・り・・・・。」
顔は胸にくっつけていて、寝言のような声ははっきり聞こえなかった。
でも名前を呼んでくれた?
今まで緋色としか呼ばれてない。
会社では『さん』がついてるけど、二人でいても『緋色』だった。
名前で呼んでくれたの?
「創さん、お願いします。」
もう一度呼んで欲しい。
寝ぼけててもいいから、もう一度。
そっと顔をあげた。
だけど何も聞こえない。
脚を乗せられて腰が重くなった。
明らかに創さんの足先はベッドから落ちてると思う。
そして体はもっとくっついた。
布団に隠された部分と、明らかに布団から出て自由に動いた部分。
腰の部分から下が丸見えなくらいに布団から出てる。
それでも目が開かないらしい。
寝てるの?
最初の夜もそうだった。抱き枕が必要なタイプらしい。
今もどっしりと足の重みを乗せられて、くっついて。
頭の上でため息が聞こえた。
「さ・・・・・。」
それ以外は不明。
聞き耳を立ててても全然続かなかった。
お腹空いてるんだけど・・・・。
そっと手を伸ばして腰に置いたら、うっかり布団から出ていたらしくてもろ肌のお尻近くだった。
硬い骨が手首に当たる。
大きな骨だった。自分の体を想像すると本当に重たそう。
だって足一本でも結構重たい。
そっとその大きな骨の大きさをたどるように触った。
骨盤の骨だから太腿がくっつく骨。
ちょっと冷えた肌の下にある逞しい骨、体の中でも大きい方だろう。
その内にここにもぼってりと肉が乗るんだろうか?
分厚い大きなお尻になって、骨なんて深く埋没して分からなくなるんだろうか?
人差し指でなぞるようにして、親指で挟み込むように大きさを測るようにして、そんな事を思ってた。
「何・・・・。」
しばらく楽しんでたら声がした。
起きてくれたみたい。
「何でもないです。」
手の動きがちょっとだけ恥ずかしくなって小さく答えた。
そう言ったのに一層体が傾いて体重がかかってきた。
ベッドから落ちそう・・・・・。
急いでしがみつくようにした。
体の下にもぐり込んだみたいになった。
腰で休憩してた手をゆっくり前に運ばれた。
「して・・・。」
そっと身体を離された。
隙間ができたお腹のあたり。
どういうこと?そういうこと?
ちょっと腰の骨で遊んでただけなのに。
未来のブクブクとした腰回りを想像してただけなのに。
手を掴まれたまま、ゆっくりそこに体の中心が倒れてきた。
くるりと手を返して開いたら、そこにある・・・・あった。
見てるわけじゃない、ちょっとの感覚でなんとなく分かる。
それにはっきり誘導する手があった。
そのままゆっくり包み込んだ。
そっと動かすとため息が聞こえてきた。
そのまま握ったままゆっくりと刺激を続けた。
小さい声にため息が混じる。
顔は見てない、ただただ目を閉じて手の動きに集中してた。
でも創さんの漏らす声はしっかり耳が拾ってる。
いつもの声よりも細くて弱弱しい気がする。
手の中で存在感が大きくなり、思わず視線を下ろした。
二人の間の暗い中にあって、はっきりとは見えないけど、それがこっちを見てる気がして、気まずくて視線をまたまっすぐにした。
なんで私が恥ずかしいの?逆じゃない。
声が大きくなり、さらに高くなり。
「さおり・・・。」
名前を呼ばれたと喜んだあと・・・・・静かになった。
自分の手の中でどくどくと大きな鼓動を感じた。
あっさり終わった。
びっくりするほどあっさり。
いつもはもっと・・・・。
ゆっくり手を離した。
テイッシュでちょっと浴びた飛沫を拭く。
あとは洗濯でいい。
そして隣で動かないままの創さん。
体は仰向けになっていた。
寝た?
そっと覗くと目を閉じて大人しく呼吸を整えてるみたいにも見える。
私もちょっとだけ乱れた呼吸を整えながら、目を閉じて考えてた。
名前を呼んでくれるんだろうか?
あの部屋じゃあ無理でも、今日からは名前で呼んでくれるんだろうか?
私はもうバレてるから、『創さん』とずっと呼んでる。
野本さんが来たら・・・・きっとバレるから『創さん』のままだろう。
でも無駄話をしないと意外に名前を呼ぶ機会もない。
だけど私は呼ばれる事はあると思う。
仕事を依頼されるときに、必ず名前を呼ばれる。
『さん』付けで呼ばれる。
そこを名前で呼んでもらってもいいよね。
少しは優しい気持ちが乗るんじゃない?
でもやっぱり無理か・・・・あの部屋じゃダメだよね。
寝てたわけじゃないのに、目を閉じたままだったからそう思われたみたい。
やっと起きだすことにしたらしい創さんが挨拶をしてきた。
普通のあいさつでもいいのに残念ながら色気も優しさもないあいさつで。
「緋色、なんで着替えてるんだ?」
名前も普通に元に戻り、疑問というよりちょっと責めるような口調だった。
「創さんが寝坊するからです。とっくに走りに行く時間を過ぎてるのに、まだ寝てるんだから。せっかく優しく起こしてあげたら・・・あんな・・・・・。」
「なんだ?あんなって。」
普通に聞いてきた。
「だから起き抜けがおかしいです。今日は本当に・・・・。」
だから何で恥ずかしがってるのが私なの?
起き抜けエロって創さんだけだったのに。
私の骨盤探検は別にいいよね。
「何照れてんだよ。」
そう言いながらも結構な部分が布団からも出て冷えて来たのに気が付いたらしく、そっと布団を引っ張ってる。
「ああ、よく寝た。スッキリしてる。」
そう言って背伸びをする創さん。
「緋色、いつ着替えたんだ?寒かったのか?」
「朝です。さっきも私はこのまま着てましたよ。」
何度呼ばれても名前はやっぱり『緋色』のままだった。
なんでよって、ちょっと睨むようにした。
「なんだよ。もしかして全く俺が起きないからって拗ねてたのか?だからわざわざ着替えて隣にきての無言の圧をかけてるつもりか?」
また足をのせてきた。
にやにや笑いとともに。
そして本当に・・・・・さっきは寝てた?そう思い始めた。
「さっきは・・・・・寝ぼけてましたか?」
「どの『さっき』だ?」
私に説明させたいのか、本当に寝てたのか・・・・寝てたと分かった。
完全に夢の中だったんだろう。
そんな事ってあるんだろうか?
普通起きるよね?
睡眠薬でも飲んだ?
「もしかして寝起きが本当に悪いんですか?寝ぼけてやらかしたりする方なんですか?」
「・・・・おい、気になるんだが、何を言いたい?」
「恥ずかしくてとても・・・・私は言いたくありません。」
どう説明すればいいのか分からない。
だいたい寝ぼけた人に付き合って・・・・・そんな事をした私は何?
「もしかして寝てる俺にとろけるような甘い言葉で愛を告白してこれ以上ないくらい感動を伝えて、運命を喜び、褒めたたえてくれたのか?俺も面倒でつい返事してしまったかもしれないな。この間の事があるから、自信はない、分かってくれ。もう一度ちゃんと聞くが、どうする?」
完全に私がやらかしたと思ってるらしい。
私じゃないのに。
そう言ったのに。
にやにやしたその顔にムッと来る。
「そんな事じゃないです。まったく違います。恥ずかしがるのは創さんの方です。爆死必死ですよ。」
つい言ってしまった。
それはなんだって、聞かれるのに。
言いたいわけじゃないのに。
「・・・・なんだ?」
この間の朝だって、もしかしたら同じような寝ぼけ具合だったのかもしれない。
大丈夫なの?寝起きで・・・あんな・・・・。
「聞きたいような聞きたくないような、でも聞かないと気になる。言ってくれ、なんだ?何を隠してる?」
なかなか起きてこないから・・・・・・と話をし始めて、途中で耳を塞いで目をぎゅっと閉じた創さん。
でもまあまあ雰囲気だけで具体的なことは控えめに話をした。
私が話を終えた時に耳の手は外れた。
ちゃんと聞こえてるんじゃない。
しばらく空っぽな目をして、でも顔が赤い。
「今まで言われたことなかったんですか?」
「ない。」
夜を過ごした彼女もいただろうに。
彼女が深い睡眠だったのかもしれない。
若い創さんは寝起きが良かったのかもしれない。
目覚めも良かったんだろう。
成長するとそんな変化も出るらしい。
「・・・・すまなかった。」
反省の目になった。
「大丈夫です。途中ちゃんと名前を呼んでくれました。呼んだこともない私の名前を。それだけで許せます。」
無言。
「まさか同じ名前の人と付き合ったことがあるとか・・・。」
「ない、あるか・・・・そんな偶然。」
反応は早かったけど言葉に勢いはない。
やっぱり相当寝ぼけてのアレがショックだったらしい。
「創さん、時々はそう呼んでください。」
「今は何も逆らえない気分だ。他に言いたいことがあるなら今だぞ、怒らない呆れない許す受け入れる言うことを聞く、本当に何でもありだ。」
「思いつきません。他の人の名前じゃなったからいいです。」
そう言う意味では絶対忘れませんが。
首にくっついた。
「なんでだろう・・・・。」
「心残りだったかなあ?」
「それとも楽しみだったのかなあ。」
「満足したと思ったのにな。」
ぶつぶつ言いながら背中を抱き寄せらえた。
創さんの脚はとっくに腰から降ろされてる。
それでもひざ下が絡み合ってる。
一人は部屋着、一人は何も着てない状態で。
頭の上が暖かい。
背中の手も・・・・・背中の上を動く手も。
「緋色、横に来るなら脱いでからでもいいのに。」
そう言って背中からめくり上げられる。
さっきから背中を動いていた手が心地いい暖かさだけじゃない気がしてた。
半分捲られたら前に回る手。
顔を見上げてそっと身体の距離を離したのは自分で。
悪かったな・・・そう言いながらキスをしてくる。
謝罪の気持ちはいただきますよ。
ただ、過剰です。
お腹空いたんです。
起こしに来たんです。
ベッドの端にいた私をぐるりと反対側に運んで壁を向かされた。
狭いベッドで、やっぱり端っこに行ったけど本当に壁際だから落ちることはない。
壁を向いてしまった私の背中にぴったりとくっつかれて、耳元でまた謝罪をされた。
そう言いながら創さんの手は胸にある。
ゆっくり服の中でふくらみを確かめられて、少しだけ動かされてる。
なんでだろう・・・・・・・そんなつぶやきを繰り返して考えてるらしいけど、起きて着替えて、それからしっかり考えてもらってもいい!
やっぱりあれかな・・・・・・。
結論が出たらしいのに『あれ』じゃあ分からない。
そして手の動きも止まらず。
敏感に耳元に温かい息を感じて、胸はそっと頂に触れてきて。
私だって我慢できずに声が出る。
お尻をゆっくりなぞり始めた手は腰やお腹をうろうろとする。
邪魔な布を払うこともせずに、その上からサワサワと触ってる。
楽ちんパンツのゴムの中にするっと入ってきて、ゆっくりお尻から腿を触られる。
足先が絡み合い、時々私の片足を器用に動かしてくる。
後ろからゆっくりと手を入れて、湿った布越しにゆっくりと指を沿わせてくる。
「いやぁ」
足が絡まりながら、創さんの足一本分の隙間は作られてる。
ピタッと閉じることは出来ない。
「本当に・・・悪かったな。せっかく着替えたのに、また・・・・・こんなに・・・・。」
謝るポイントをずらさないで。
首を振るのに、顔も見れない、力も出ない。
「すごいな・・・・・。」
要らない感想を言いながらまた謝る。わざと謝ってない?
もう自分でも気持ち悪い。すごく反応してる。
方向がちょっと違うだけなのに、なんで・・・・。
「じゃあ、緋色も・・・・どうぞ。」
そう言われて指を動かされた。
そんなの頼んでないのに。
でもその手を払いのけることもできない。
自分から体を曲げその手を誘う。
大きな声を出して、壁に向かって叫んだ。
「こっちを向いて。」
そう言って向きを変えられた。
「可愛いなあ。本当に相性いいよな。な?」
目を閉じて聞こえないふりをする。
抱き寄せられて、体の上に乗せられてうつ伏せになった。
部屋着はそのまま、適当にめくれても脱がされることはない。
着替えたい・・・・・。
シャワー浴びたい。
上に乗せられてまたお尻を触られる。
楽ちんパンツの上から大きく円を描くように。
ぐっと骨盤に手を置かれて力を込められて、体がズレたら、ピタリと位置があって軽く悲鳴が出た。
「何だ、可愛い反応だな。寝ぼけてないから心配するな。」
布越しにもわかる逞しいものが揺れながら刺激を与えてくる。
下から突き上げるように動く創さんに揺すられて、声が揺れる。
急に動くをのやめた創さんが起き上がった。
いつもなら脚を開いて太ももに乗るのに、服が邪魔で動けない窮屈さ。
そのまま半端な姿勢でちょっとだけ体を起こした状態。
体重を支えるのは無理だから全部創さんに預けてる。
それなのに全然かまわないで動き始めた。
「しっかりつかまって。」
二人分の体重を創さんが腕で支えて、下から突き上げながら揺れる。
体にしっかり腕を巻き付けて言われたとおりにつかまる。
体が離れないように足もぴったりと閉じた。
「緋色・・・・・・もっと・・・しっかり力入れて・・・・。」
腕にも足にも力を入れて、しっかりと創さんにしがみつく。
かすかに漏れる音が小さい。
それでもどんどん溢れるものはあるみたい。
しっかりと足を閉じても滑って二人が離れてしまいそう。
もっとしっかりと力を入れてしがみついた。
胸に顔を埋めるのが苦しくて顔をあげた。
「ああっ、もう・・・・・」
「あと少し・・・・・。」
力を入れるのも限界で緩んでしまう。
途端に音が大きくなる。
「緋色・・・・・いい・・・。」
言葉にはならないけど、口が閉じないくらいにあえぐ息が漏れる。
「ああ・・・・いい・・・・。」
創さんがそう言って一層スピードを上げて、先に達した。
その後何度か突かれて創さんも終わりにした。
どくどくとさっきは手の中に感じた拍動をまた感じた。
そのまま横に降ろされた。
服はやっぱり中途半端なところにある。
そんなところにかまう気力もなく、そのままでいた。
結局二人ともそんな格好で空腹を忘れたまま。
飢餓感は食欲とも何かとも勘違いしやすいのだろうか?
ついでに睡眠欲も満たすようにちょっとだけうとうとして。
今度こそ二人でお腹が鳴って起きだすことにした。
「色気無し。」
そう言われたけど、輪唱のように後からついてきてお腹を鳴らしてたじゃない。
ちゃんと気がついてるんだから。
ただ私が二回くらいフライングしただけだ。
コンビニのTシャツとトランクスだけのマヌケな格好でソファに座って、朝ごはんを食べてる。
「創さん、アズルさんは美人だし、もし彼氏がいないと最初から分かってたら意識しましたか?」
白いTシャツの胸に顔をくっつけて聞いた。
誰だって好きになるくらいいい人。
すごくいい人。
女性も憧れるし、ちょっと年下でも創さんだって。
「どうだろう。緋色の失敗を笑ってる心の広い人だと思ってたし、異動前に想像してたのとは全く違う上司像に本当に感動はしたけど。美人は美人だな、男は皆そう思うよ。」
「だってアズルさんも寂しくて、創さんにも彼女がいないって分かったら、アズルさんだってちょっとは違う顔を見せてるかもしれないです。私がいなかったとしたら、二人であっという間に盛り上がったんじゃないですか?」
「そこは緋色もいたし、宗像さんには相手もいたし。仮定の話は難しい。でも誰もがそうなるだろうと思うことには抵抗したい気もする。下の階で勝手に噂されてそうじゃないか?」
「そうだと思います。だから余計に私は創さんの事を探られたんだと思います。アズルさん込みでどんな人なのかってランチの時に聞かれました。・・・・だから油断できないです。」
「他にも隠れファンがいるって野本さんが言ってたんですから、その数人と・・・・・同じ人かもしれませんが。」
「知らない。」
「もっと手伝います。他の人に書類を届けるくらいなら私が出来ます。他にも・・・・部屋から出る用事は、何でも言いつけてください。」
正直な心を仕事のやる気にすり替えて言った。
だけど当然バレる、そんな話の流れだし。
「よろしく・・・と言いたいところだけど、お前こそ誘われて嬉しそうに帰ってきそうだな。よく知りもしない男の誘いにのってたのは誰だ。」
「遅刻してきた女性にさらりと選ばれて近寄られたのは誰ですか?」
「お互い人気者で辛いな。」
揶揄うようにそう言われた。
余裕たっぷりのくせに。
「あんな寝ぼけた癖があるなんて知られたらドン引きされますよ。」
最終兵器を簡単に持ち出してしまった。
「そうだな、ドン引きせずに最後までつき合わせて悪かったな。せっかく着替えもしたのに誘ったみたいだしな。」
すっかり立ち直ったらしい。
つまらない。
両手を胸について離れた。
「宗像さんにはそんな質問するなよ。」
「当たり前です。笑われます。」
「あんまりいろいろ考えてると禿げるぞ。」
脳天に人差し指が突き刺さった。
「痛い。」
顔をあげてにらんだ。
これが乙女心だとなんで分からないんだ、本当におじさんは嫌になる。
「余計な気を回すな・・・早織。」
最後視線を外された。
あああ・・・・・赤い。
何で名前を呼ぶのにそんなに照れるの?
あっけにとられた後、今度は私がにんまりと笑った。
「そうします。あんな寝ぼけに付き合えるのは私だけです。」
自信をもってそう言った。
「『着物』と『寝ぼけ』を禁句にする。」
さっきはさらりと流したくせに、やっぱり恥ずかしいんじゃない。
さっそくもう一つ追加してきた。
それでも全く気にしない。
それを守るように気を付けるけど、創さんだってもっと気を付けた方がいい、そう言いたい。
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