クールな見かけに惹かれましたが、何か間違いましたか?

羽月☆

文字の大きさ
10 / 40

10 自分らしく行動したはずが ~萩原~

しおりを挟む
人の個性というものは生まれ持ってのもので、創造主の親でさえいかんともしがたい。
それでも子供は環境という自分を包みこんでいる教科書を参考に、試行錯誤をくり返し自分らしさを育てていく。
多少の知恵がつくと表と裏と隠すことを覚え、嘘をついたり、演技をしたり、猫以上にしたたかな獣をかぶることもできる。

さて、自分が他人からどう見えているのか。
その印象はほとんど誰もが同じようにいい、自分でもその通りと納得できるものだ。
これは自然と振舞えてるということなのか?無理をせずに自分らしくいられるということなのか?
それなら自分はラッキーなんだろう。
ありのままを受け入れてもらえるなら、自分らしい自分、求められる自分に差がなくストレスもない。

子供の頃、自分の世界がほとんど家族中心だったころ。姉と妹に囲まれた一粒の男の子。
それなりにわがままで、元気な乱暴さで、世間が抱く男の子の範疇での活動的な自分だった気がする。
それでも上には上がいるもので。
自分なんて姉や妹の女の子の世界に触れていたせいなのか、まだまだ大人しいほうだったらしい。
父親の性格をなぞったせいか大きな動くもの、電車や飛行機、怪獣やヒーローなどといったものにさほどの執着も見せず、かといって妹に付き合って見ていたキャラクターの世界にも惹かれず。
実にさっぱりとした性格だった。

買い物で駄々をこねくり回して親を困らせるのは上下の女ども。
遠巻きに父親と階段脇のソファに座りその醜態を眺めていた。

「毎度毎度、欲しがりが過ぎるんだよなあ。」父親がぼやく。

そんな父親でも見上げられて欲しいと言われればダメだと諦めさせることはないのだ。
毎度毎度は父親にも言えた。

「巧は欲しいものない?」

結局いつものようにひと騒ぎした後、満足そうに戦利品を手にした姉と妹を見下ろして母親が自分に聞いてくる。

「うん?特に思いつかない。」

子供の多少のわがままが、結局親に満足感を与えるというねじれた心理をすでに読み切っていても、無理に欲しいものは作れない。

「何か欲しくなったら言うからその時は買ってね。」

子供らしくお願いをしておく。
必要なものとそうでないもの。男女の差以上に自分は思考がシンプルにできていた。
学習塾にも通わずスイミングだけは通ったけど特に目覚ましい才能もなく、ただ体が逞しく丈夫になっただけ。
近くの中学高校と進み大学受験も実力範囲でそつなくこなし。
自分で言うのもなんだが手のかからない子供だったと思う。

大学生になり一人暮らしを始める。
姉が先に一人暮らしをしていて何かと節約のコツを教えてもらって、母親には一通りの家事を指導されて。
バイトと大学を器用に行き来していた。
特定のサークルには入らなかったけどいろんなところに友達と顔を出して、声をかけられれば手伝い、打ち上げなどの飲み会などにも呼ばれた。

そんな中の一人の先輩に頼まれて引き継いだ居酒屋のバイト。
チェーン店でもなく変なテンション高めのルールもないのが良かった。
『笑顔と心遣い』オーナの座右の銘だった。
オーダーから会計から掃除まで。
客層も悪くなく絡まれることもない。
酔っぱらってふらつく人を支え、グラスを倒されて叫び声が上がると掃除に出向く。
忙しいとそれなりにうんざりする事もあったけど、笑顔と心遣い。
心で唱えてさっさと対処するに限る。

他の人より秀でてたと思うのは人の視線に敏感に反応できたこと。
これは自他ともに認める、自分でも初めて気がついた才能だった。
お客が店員を呼ぶのには注文以外にもいろいろあって。
それでも首をひょいと伸ばして手の空いた店員を探して気づいてほしそうにする動作。
はっきり声を出して呼ぶ人もいるけど、多くは気がついてくれるまで手を振ったりするパターンが多い。
この気配を察知する能力が磨きに磨かれ、御用聞き一番と言われるほどにいろんなテーブルを回っていた。
これは本当にお客さんにも褒められた。
当然悪い気はしない。

3年終わりになると先のことも考えなくてはいけない。
冗談でバイト先のオーナーに就職を打診されたこともある。
勿論きちんとお礼を言う。
大学生の小僧の自分をそれだけ評価してもらえたことはうれしい。

「ありがとうございます。ここで接客とサービスの経験もさせてもらいました。どちらかというと不愛想ぎみの自分にこんなに適性があったとは驚きなくらいです。どの業種を受けるかはここでの経験がなかったら変わってたと思います。」

それは嘘ではない。
執着の薄い自分は理系の研究職には程遠く、一般的な営業方面を目指すのに少し自信がついたところだった。
あとはどの業界にするか。
結局自分が就職先に決めたのは中堅の文具、オフィス用品販売の会社だった。
今後販路の開拓と扱うアイテムを増やしていこうという登り調子の会社だった。
就職して5年が過ぎた。営業部に所属して我ながらそつなくこなせていると思う。
ただ自分と同じくらいの能力なんてゴロゴロといるのも現実だった。

就職試験の時から目立った男が一人いた。
誰もが注目するようなきれいな男で、ひときわ女性の視線を集めていた。
ライバルとはいってもそんなに目の敵にすることもない。
気軽に話しかけられて、一緒にコーヒーを飲みながらお互いに就職活動のことを教え合った。
南田という名前は聞いていて一緒に働く気がするとまで言われて、話半分に聞いていたのに。
今ではすっかり会社にいる時の半分くらいは一緒に行動してる気さえする。
昼休みはもとより何故かトイレにまで誘われ、休憩に立てばついてくる。
周囲もそうだが自分もちょっと怪しみ始めた。

もしやそっちのほうか?

別に偏見もないがあまりはっきり聞けない。
だが自分が確かめない以上周りも聞けないらしい。
一年目の夏の暑気払いに、営業課と他課合同の飲み会で場が騒ぎ始めた時に探りを入れてみた。

「なあ、南田。そういえばさあ、彼女いるの?」

自分でもさりげなく聞けたと思う。
さっきまで他の同期ののろけ話をきいていたから、話の流れとしては自然だと思ったのだ。

「ああ、いるよ。」

普通に答えられた。
いるのか、・・・それは女か?

「高校の時から付き合ってんだよ。来年あたり一緒に暮らすかもな。」

とても濃い関係の彼女がいるらしい。なぜ今まで誰も聞かなかったんだ。
大体いないはずがない。

「皆、知ってる話か?」

「いや、初めて聞かれた。」

あっさりと言う。
こいつは俺との間に漂ううっすらとした疑惑の噂について全く知らないのか?

「いや~、面白い話になってるじゃん。ここは敢えてグレーにしとかない?」

俺の考えを読んだように言い、体を寄せて肩を叩く。
離れろ!だから疑惑が消えないんだ~。
距離を取り睨む。

「あ、もしかして社内に好きな子がいる・・・・とか?」

にやにやしながら俺を見る。

「いないよ。」

「じゃあさ、そうしよっ。」

ひときわ顔を近づけてくる。
彼女の存在を肯定され疑惑を否定されてもなお疑ってしまう振る舞い。
目的はなんだ?

「お前もしかしてちやほやされたいとか?」

昼休憩のたびにこいつの周囲にいろんな女性陣が集まる。
名前も知らない女たち。
1年目の自分達、当然先輩女性社員もいるのだ。
無駄に期待を持たせてるような気がするが。
彼女の存在を肯定すればまるっと収まる話じゃないか。

「ずばり言うと半分合ってる。」と言われた。

週末には合コンという名の飲み会にほいほいと参加する南田。
だからといって決して自分からは行動しない。
そしてたいてい付き合わされる俺。
そして隣の席なのだ。毎回。

「彼女のことは本当にきちんと考えてるけど、いろんな人を見るのは男女に限らず楽しくない?」

「お前はただの寂しがり屋か!」

「違うよ、人知りたい病って彼女は言うよ。」

どうやら彼女公認の一つの病らしい。
デートの待ち合わせでも平気で他の女性と話をしたり、デート先でもいろんな人に話しかけるらしい。
そんな特殊な病気に理解があるとはできた彼女だ。それこそ愛されてる自信なのだろうか。
今無性に腹が立ってきた。もはや彼女の話はどうでもいい。俺の立場はどうなる。
いや、言い方を間違えたか?うっすらと誤解されたままの俺の立場ということだ。

「頼むから彼女がいると言いふらしてくれ。」

「嫌かな~。」

「なぜ?」

「う~ん、面白いから?」

俺を指さす。殴りたい。

なんだかんだと就職活動からの付き合いでもう5年以上になる。
奴の予言通り一緒に仕事をしていると言える。
もはや噂は年々引き継がれ進展はしないまま、消えることもなく。
しかも南田は例の彼女と同棲しているが結婚はしていない

彼女もこいつもどういうつもりなんだろう?

あまりはっきりとは聞けないが何か問題があるのか?
今でも昼には周りに女性社員が集まる。
でもよく見ると少しずつ入れ替わっている。
俺の知らないところで告白して玉砕した子でもいるんだろうか?
さすがに今では大体が自分達より年下の女性になった。
自分はすっかりこの環境で食事をすることに慣れていた。
特に俺が加わらなきゃいけないということもない。
そんな役割を求められたら一人静かに離れて食事してやる。
トレーにのせられたメニューに集中するのみ。
バイトしていた時に思った。
食事一つとっても食材を作る生産者から調理して仕上がるまで多くの人の手が加わっている。

会社内のルールで、各課内で食事時間を2時間以内でずらしてとるようにして社食が込み合うのを避けている。
それは自分たちのためでもあるし、作ってくれるスタッフのためでもあるし、取引先のためでもある。
ゆっくりと選んで、会話しながら食事を手渡され、席を見つけるのに苦労もせずに過ごせる昼休み。
しかも味もよく、男女両方満足できるような工夫と安心の料金設定。
弁当派はいてもコンビニ派は少ない。

いつものように食事をしていたらいきなり甲高い声が聞こえた。
誰もがそちらに注目するくらい。
視線を集めた彼女が真っ赤になりながらペコペコと頭を下げて座る。
時々見かける二人組のの女性社員の一人。

その時はまさか・・・・その子をソファの上で組み敷き見下ろすことになるとは思いもしなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

処理中です...