星占いは時々当たりますが信じますか?

羽月☆

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6 今日はどんな日?寝坊したから、テレビは遠いから分からない。②

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「なあ、さすがにまた寝るとは思ってなかったけど。」

いつの間にか茅野は着替えてベッドの横に立ち私を見下ろす。
顔も洗ってるみたいで髪型もきちんとなってる。寝起き感なし。

「ううっ。」また寝たの?私。

「もうさすがにキスで起こす気にもならない。」

「1人で寝てたの、私?」

「そうだよ。」

「俺が離れてもスーピースーピー寝てた。」

「え~。」

一緒に起こしてくれてもいいのに。ちょっと思っただけなのにバレたみたい。

「起こしました。起こしたけど無反応。」

「あの、今何時でしょうか?」

「10時半。」ひえ~。

「起きます。すみませんでした。昨夜もベッドまで運んでいただいてどうもでした。」

バタバタと起き上がろうとするけど視線を感じて見ると入り口で待ってる。
私は一旦停止。

「唯、1日が終わっちゃうよ。」

動こうとしない茅野。
立ち上がりながら聞いた。

「なんでそこにいるの?」寝起きでぼさぼさだし見られたくないんだけど。

「素顔なら昨日ソファで堪能したけど?」

「寝起きは別、さらにひどい。」

「可愛いのに。じゃあ、洗面台のところに新しいタオル置いてあるから。」

何から何までマメだ。リビングからはコーヒーの香りが漂ってきている。
とりあえず洗面台で顔を洗い化粧水などつけて、髪を手ぐしでとかす。
ちらりと見て水はねとか髪の毛とかチェックしてリビングへ。

「唯、これ持って行って。」

渡されたカップとお皿を運ぶ。
トーストの香りにお腹が正直な反応を見せる。

「聞こえたのはモグラのいびき?」

「そうだと思う。最近ダイエットのお供に一匹飼ってます。」

「今寝てたら戦力外だね、どうりで。」

うぅ~、悔しい。
お腹空いたんだもん。
一緒にソファの前に座り朝ごはんを食べる。

「ねえ、茅野はあんまりテレビ見ないの?」

「見るよ。平日の朝は時計代わりだし。」

「リモコンいちいちあそこに置くの?」

「うん、そう。」

「テーブルに置くと際限なく置いちゃうから何も置かないようにしてる。」

「ふ~ん。」

言うは易し、行うは・・・・無理、絶対無理。
テーブルのものをどこかに置いたら今度はそのどこかに置いてたものが違うどこかに・・・・エンドレス。

「今のでやっぱり唯の部屋の状況が分かった。手の届く距離で済ませたい人の典型だね。」

「・・・・そう。便利に生きたい。」

「『怠惰に』じゃないの?」

「いろんな言い方があるじゃない。」

「それを『方便』という、一般論。」

「あっ。」

「何?」

「今日平日なのに、占い見てない。」

「『乙女座は常識を見直す日です。ラッキーアイテムは黄色い花柄のハンカチ。』だったよ。」

「見てくれたの?」

「残念だけど番組終わってたから調べたよ。一人で起きてもつまらないし、まさか1時間以上も朝ごはんを食べずに待つことになるとは思わなかった。つい、堪えられなくて起こしたけど。」

恨みがましく言われる。話題を変えよう。

「ねえ、おいしいね、パン。」

「だろう?商店街のパン屋のおすすめの食パン。」

「ご飯作ったりするの?」

「いや、作らない。夜はちょっとつまめば食べなくてもいい。たまに外で食べるくらい。」

なんと。そんな人間がいるとは。だからお腹も皮だけなんだ。

「あ、さっき。」

触ったよね、明らかに私の腰と背中の肉触ったでしょう。うぅぅぅ。
忘れてた。ちょっとつまめるくらいに乗っかってる肉。
自分は板みたいな胸の癖に。

「なんか体をじろじろと見られてますが。何か御用でしょうか?」

「さっき触ってボヨボヨとか思わなかった?昨日の、その・・・お姫様抱っこだって重くて落としたんじゃないの?」

茅野が上を向いて思い出す。

「う~ん。ボヨボヨは・・・・唯がじっとしてなかったからあんまり覚えてない。」

言わなきゃよかった。絶対。今度触られたら、今度こそ・・・。
って、だから今度って何よ・・・・。

「もういい。」

「言っただろ、別に何とも思ってないって。」

思ってなくても思われたくないという思いがあるの。

「『常識を見直す日』でしょう。」

「茅野もでしょう!」

「そんなこと言ってたら終わらないよ。」

「確かに。二人とも常識人か非常識人ってところしか議論にならない。」

「で、唯は料理するの?」

「出来ないと思って聞いてるでしょう?」

「うん、そうだな。あんまり器用そうには見えないけど。鷹の爪タイプ?」

「ふふふふふ~、実はそうなのだ。お菓子だけじゃない、ちゃんと一応はできるのだ、人並みだけど。」

「確かに人並み以下に不器用そうだもんな。絵を描いたり意外に手先が器用なんだな。」

「なんか引っかかるけど。」

「今度作って。実力のほどを披露したまえ!」

「えらそうな奴には作らない。」

「そのうち作るよ、唯は。楽しみにしようっと。和洋中なんでもいけるの?」

「普通レベル。」なんて素直に答える自分・・・・。

「行けるってことだね。いろいろ揃えようっと。俺もモグラ飼わないと太るかもなあ~。」

さっさと立ち上がり私の分もお皿とカップを持っていく。
その後ろ姿にお礼を言う。

「ご馳走様でした、昨日から。」

「うん、いいよ。いつでもどうぞ。」

さらりとそう返された。時々優しい。時々より頻繁に揶揄う。
言葉のやり取りは多いのに肝心の事はすっぽり抜けている感じ。
それなのに未来が見えてるようなことを言う。
そして同じ未来を見てるだろうと当たり前のように話す。
背中を見ていたら、いきなり振り向いた。

「ね、姿勢も良くてすっとしててかっこいい剣士の後ろ姿に惚れる?」

「ばっ・・・か。」

恥ずかしい、そんなことを自分で言うの?
何で見てたのバレたんだろう。
まさかスプーンとかに映して見てたとか?キッチンがピカピカで見えるとか?
そう言われるとついついそんな目で見てしまう。
足が長く見えるし、バランスよくて確かにすっとしている。姿勢もいい。
もてる要素はあるけどいかんせん性格が歪んでる。
見てるだけではそこまでは分からないか。
でも、もしかしてもてるの?
視線を外し考える。社内の噂は私の耳に入るのにずいぶんとタイムラグがある。
時々他の課の同期の子とランチをする。
外に出ることが多いその時にいろいろと話を聞く、毎回驚くほど社内の人間関係は進んでいる。
時々聞いた的場さんの話。でも茅野の話は聞いたことがない。
ひそかに動いていたか、まったく噂のタネがなかったか?
気がつくと緑茶をいれてカップを持ってきた茅野。

「何か考え中?」

「べ、別にっ。」

そんな焦って答えたらバレるし。
カップを置きながらフッと鼻で笑われた気がする。
隣に座り、ソファに肘をついて顔をのせたくつろいだ姿勢でこっちを向く。
体育座りの私は何故か小さくまとまってしまう。

「ねえ、新人研修覚えてる?」

「え、4月の頃のでしょう?」

「うん、会社の会議室で緊張していろんな偉い人の話を聞いたり、事務手続きしたり、眠さと戦いながら先輩の話を聞いたり。その後2週間合宿したじゃん。」

「したした~、懐かしい。」

「途中一人いなくなったの知ってる?」

「なんだか辞めた人がいたとは聞いたけど、よく分からない。覚える間もなくって感じで。」

「そうかもね。俺はグループ面接が一緒でさ、まあ、いろいろ話して就職した時見つけたから一番に声かけたんだ。もし一緒にいたら唯の事、あいつに真っ先に相談してたと思う。」

「そんなに気が合ってたの?」

「なんとなくね。まあ、今年違う会社受けて就職したってメールが来た。その内。飲もうって言ってるんだ。」

「ふ~ん、よかったね。」

「ああ、潔いいよな、違和感を感じたからってすぐに辞めるなんて。多分俺にはできないな。」

「そんな・・・・考えたことないから・・・・。嫌なの?会社?違うよね?」

「ああ、違うよ。別に問題ないと思ってる。途中そいつがいなくなって残りの研修中今の営業の奴らと一緒にいたんだ。なんだか学生のノリでさ。グループワークとか室内以外はほとんど放し飼いだったよね?」

「放し飼い?」

「唯、知ってた?女子の一部と結構な密度で一緒にいたの?」

「誰が?」

「一部の男子。俺とか、的場とか他の営業部全員入ってたかな。」

的場さん・・・・営業は女子の同期でも華やかで話し上手な人が配属された。
希望するくらいだから対人関係にも自分にも自信がある人なんだと思う。
私は全く適正はない。すくなくとも居酒屋で迷子になるような人はいないだろう。

「ねえ、結構な密度って・・・・。何?」

「なんだか毎夜ごと部屋に来て話したりしてたけど・・・・、いろいろと・・・あったんだ。」

いろいろって何?

「まあ、途中で消える奴らがいたりする訳で。」

本当ですか? 
私が部屋でお菓子を食べて泣き言を言ってた間にそんなことが起こっていた?
だいたい、どこで・・・・・。
部屋を出たら気まずい場面とか見てたかもしれないの?
そんな違う研修が毎夜繰り広げられて・・・・おおおおおお・・・・。

待って、茅野もそんな『研修』してたの? ギロッと見てしまう。
やわらかい顔をして私を見てたのが一瞬引きつる。

「何だよ、その顔。何を思ったんだ?」

「・・・茅野も・・・・したの?」

こんな・・・悲しい声で聞きたいわけではない・・。

「そんな訳あるかっ。お前の想像力凄い。もしそんなことしてたら、今馬鹿正直に言うと思うか?同期の誰かと寝たとか、だいたい誰なのか気になるだろう?候補もそうは多くないんだから。」

それでもまだ疑うような視線を送ってしまう。

「がぁっ。だからちょっと逸れたけどそんな研修期間だったけど・・・俺はその時から気になる女がいたって話がしたかったんだよ。」

さっきの話、的場さんもそんなことしてたの?でも聞けない。

「聞いてるか?唯。」

「へ?ええっと聞いてます、か?」

「俺に聞くな!・・・とりあえず話は聞け。」

「はい。」

「だからそんな夜のイベントありの研修にうんざりしてたんだよ。で、そんな時おかしな奴を発見したんだよ。大人しそうなのに食事の時だけ元気で。食堂のおばちゃんにかなり懐いてて、楽しそうに話し込んでたり、ホームシックになって泣きながら相談してたり、で、最後の日はかなり馬鹿みたいに縋りついて泣きついてた変な奴。」

「そ、それって私?」

「この流れで誰の話をしてんだよ。お前だよ。佐川唯。他にそんな変な奴何人もいるか!」

「やっぱり・・・でも・・・・見られてたなんて。」

「グループワークで一度だけ一緒になったんだけど、覚えてるか?」

「ん?・・・ごめん、思い出せない。」

「まあ、いいよ。俺はすごく楽しみで近くで見てたのに、一言も声聞かなったくらい、大人しかったよ。今なら起きてるかって聞いたかも。」

「起てました!ただたくさんいると他の人が勝手に進めてくれるから。楽してました。」

「そうだろうな。まあ、そんなことでその子が配属されたのが隣の課で会話も筒抜けで。俺は楽しみにしてたよ、もっと近づけるんじゃないかって。それで夏の納涼会を期待してたのに風邪をひいて参加できなくて。どんなに悔しい思いをしたか。」

知らない。まったく初耳。ついでに納涼会の記憶も特にない。
井田君がいたんだよなってくらい。私、寝てた?

「初めて指導係から離れて一人で取引先に行くときに、たまたま思い出したんだ。朝に乙女座の運勢の良さを喋ってる唯の声を。

『夏、今日はお昼はうどんを食べたい!』

『だと思った。今日はハードルが低くてよかったね。』

『うん、うどんでラッキーな日になるなら安い安い。』

「その会話を思い出して、お昼はうどんにして一人で原稿持って向かったんだ。」

「まあ、その日はいい感じに終わって。大したことじゃないけどいつかお礼を言いたいって思ってた。」

「そんな・・お役に立てて何よりで。・・・でもいつもバカにされてた気がする。」

「あんなに毎日やってるのにあんまりラッキーなニュース聞かないからさぁ。安心してたよ、ある意味。」

「何でよ?」

「唯、お前のラッキーってなんだよ?」

ラッキーっていえば的場さんに会えるとか?他には美味しいかお得か?
なんて低いラッキーライン。
もっと現実的に、高い目標を持って良かったの?

「社食でもよく見てた。近くに行けたらとか思ってたんだ。井田がもっといい加減にチャラい奴だったら行けただろうな。唯を見てると時々橋本と目が合った。だから変な奴って思われてるか、気がついてるかどっちかかもなって思ってた。」

「夏?まったく聞かれたことないし、話題にも出なかった。」

「そんなに断言しないでくれ。」ガックリと首を折る茅野。

「ごめん。」

顔を上げて真面目な顔をしている茅野。

「なあ、会社の人間だろう?唯の好きな奴。お前いつも社食でキョロキョロしてたよな?誰か探してるみたいだった。俺と井田が目の前にいてもさりげなく。昨日までは気のせいだと思ってたけど。でも、そうなんだろう?俺は目の前にいるし、誰だろうって、でも俺じゃないんだなあって思ってがっかりした。」

そんなこと夏にもバレてないと思ってる。
だってもし的場さんの姿を見るなら社食かなって思ってた。
でも今まで本当に数回しかない、外派かお弁当派か。でももういい、それも止める。
もう探さない。そう決めたし、そうするし。

「悪い、別に・・・いいんだ、答えて欲しいわけじゃないから。」

落ち込んでる風に見えたのか、そう言われる。
そんな傷つけて悪いみたいな目で見られても。
私は昨日から何度こんな顔を、目をさせたんだろう。
私は首を振る。そんな、謝る必要はないよ。
本当に運命と思った入職日。だけどただの偶然と幸運が重なっただけ。しかも私だけに。
的場さんはもっといろんな会社受けたかもしれないし。

あの日から1ミリも関係は動いてなくて、これが運命なら今世でのご縁じゃなさそう。
いくらなんでも私もそこまで気は長くない。
ただ今まで忘れるきっかけがなかっただけ。もっともっといろんな人から声をかけられてたら私だって現実的に生きていけた。残念ながらそんなことが私に起こらなかっただけ。

じゃあ、今は・・・・。
茅野は、・・・なんで私なの?研修中の夜に誘われたようなことも言ってたし。
美人でスタイルもよくて賢くて、そんな人たくさんいるし。年上の先輩でもいいじゃない。
ちらりと見るとぼんやり私を見てる。

「茅野は・・・年上の人とかは? 会社にたくさんきれいな人いるし。エレベーターでは他の会社の人にも会うし。」

「はぁ?別にこだわらないけど。好きならいいんじゃないのか?どのくらい上までいいかは相手にもよるけど。まあ、不倫はちょっと覚悟いると思うけどな。」

「覚悟?」

「そりゃあそうだ、バレたら嵐が吹き荒れる。誰もが傷つくだろう。・・・唯、なあ既婚者なのか?好きな奴?」

「へ?キコン?キコン・・・・既婚・・・なんの話してるのよっ、誰がそんなこと言った?」

「誰って、唯だろ。年上を好きになったって告白じゃないのか?」

「誰が?」

「唯だよ。」

「なんで?」

「知るか!なあ、普通に会話が続かないのは何でだ?話の流れってあるだろう?会社の中の誰かを好きになった、唯が年上はどうかと俺に意見を求めてくる。その流れだと相手は年上って思うだろう?で、不倫の話に反応したら既婚者なのかと思うだろう?」

「私の話じゃない。今は茅野の話をしてたでしょう?」

「俺の話?なんだ?年上がどうしたって言うんだよ。」

「だから茅野は年上の先輩とかには声かけられないのかなあって話。」

「かけられない、以上終わり。」

あっさりと話を終わらせて憮然とした顔をする。

「なあ、何が聞きたいんだ?まさかこの期に及んで俺に先輩を紹介する気とか言うなよ。」

「はぁ?なんでそうなるの?そんなことしません。」

「そりゃあ、どうも。で、何を思ったらそんな疑問が出るんだ?」

・・・・・・・。
自分でも分からなくなった。何でだったかな??

「あ、茅野は会社の人と付き合ったことあるのかなあって考えてたんだ!」

なんとなく思い出せてスッキリ。

「お前、さっきから俺の話聞いてたんだよな。耳から入っても脳まで届かないのか?瞬間的に忘れるとか?・・・1年前からずっとお前が好きだったと何度言わせたいんだ??まさかわざとじゃないよな。嫌がらせか?」

「だからそれは・・・それは聞いたけど、それでも・・・・。」

「それでも誰かを誘ったり、声かけられればホイホイついて行ったんじゃないかとか?そんな奴に見えるのか?そんな器用だったらもっと早く唯をどうにかしてるよ。今だって。今日の朝の時だって。」

とっくに甘い声では無くなり、いつものような怒った顔と声。
違和感がないのにこの部屋で私だけに向けられてると思うと怖いような悲しいような気分。

「もういいか?そろそろ必要十分理解してくれても良くないか?ずっと唯だけが好きで一切疑われるようなフラフラとしたことはしてない!」

怖い顔で言われる。やっぱり怒ってる?

「頼むから、そこは分かってくれ。」

一転困った顔になる。怒ってはいないみたい。ちょっとだけ緊張した体がゆるむ。

「・・・あの、」

「何?」でも目つきは相変わらず。

「電話してきていい?・・・・夏に・・・。」

「ああ、寝室でも洗面所でもバスルームでもどうぞ。ああ、ちなみに告白して部屋まで連れてきて話を聞いてもらおうと思ったのに菓子を買い込んでおいて一人で勝手に寝たから俺はソファに寝る。ってところまでは報告してる。」

洗面所を借りようと思って行きかけた体が止まる。
ぎぎぎぎぎぃ・・・ゆっくり、ぎこちなく首を回して、振り向く。

「報告って・・・夏に?」

「井田経由で橋本にも。」しれっと言う茅野。

この時はっきり覚えたのは殺意と羞恥心。

「何で、ねえ、何で言ったの?二人に。」

涙が出る。嘘、ひどい、何で、そんな個人的なこと。自分でもよく分からない感情だったのに。

「何でって、二人とも心配してただろうし、ちゃんと責任もって送り届けたって言わないと。」

「じゃあ、大丈夫って言えばよかったじゃない。なんで部屋に連れ込んだなんて言ったの?絶対誤解される。二人とも・・・。」

「唯、何でそんなに嫌がるんだ?もしそうなっても二人とも喜ぶよ。」

「ばっか~。茅野のバカ。もう、馬鹿っ。」

「だから、ちゃんとソファで寝たって言ったし、無理やり俺がどうかしたなんてあいつら思わないって。ゆっくり待つってちゃんと付け加えたよ。ほらっ。」

携帯を差し出された。何故かお菓子の写真が添付されてる。

夏からは『お手数かけますが、長い目で一つ。』と井田君からは『佐川さんならあり得るような、落ち。(笑)』って返事が。

勝手に操作して2人に送られたメールまでちゃんとチェックした。
その前後で気になるメールがあったけどそこまでは勝手に開けない。
ちゃんと茅野が言ったように書かれていた。
それでも・・・・・。

すくっと立ち上がり洗面所に行く。

『夏、今話しできる?』

ラインで送るとすぐに電話がかかってきた。

『唯、おはよう。いい天気だね?気分はどう?』

「夏・・・・。」

『何?』

「何だろう、どうしていいか分からない。」

『まだ彼の部屋?』

「・・・・うん。洗面所借りた。」

『どう初めてのお泊り。』

「夏、ちゃんとメール行ったんだよね。ぐっすり眠ったんだよ、私。」

『知ってる。まあ、そうだろうなとは思ったし。茅野も押しが弱そうというか、気が長いというか、優しいじゃん、唯には特に。』

「ちゃんとわかってくれてる?井田君も分かってる?」

『十分わかってる。茅野が気の毒でこっちは胸が痛い。』

「夏・・・どうしよう。」

『それは唯が決めることでしょう?茅野にはきっかけ作りの協力はできても、あとは2人の気持ち次第。特に唯の気持ち次第。ねえ、茅野はモテるよ。新人が配属されるまでに何とかしないとライバルが増えるからね。逃した魚は戻ってこないよ。』

「・・・・やっぱりモテるの?」

『うん。噂は聞いたことあるけど未確認。その辺気になるなら本人に聞いて。茅野は誠実に対応してたみたい。女の子の方から言わせれば玉砕だったらしいけど。まあ、だいたい皆唯の事をそうだと思って見てたみたいだけどね。』

「そうって?」

『だから唯以外は茅野の気持ちを薄々感づいてたってこと。はぁ~、本当に誰かさんだけが鈍感なせいで無駄に討ち死にした女の子がいたって話。』

「どうしよう・・・。」

『あ~、もう。いっそ寝ちゃってもいいかもよ。言わないつもりだったけど・・・、唯は茅野が好きなんだから。私が言わないと自分の気持ちにも気がつかない鈍感さんには教えてあげる。それは間違いないね。そうじゃなきゃいくら茅野の為とはいえ昨日唯を託さなかったから。ちなみに井田君も同じ意見ね。二人して気持ちを隠してじゃれ合ってるだけで、もうイライラしてるこっちの身にもなって。唯、試しに茅野にもたれて、嫌な気がするかどうか。胸を借りて見て、行くところまで行っちゃえ~。報告は言いたいと思った時でいいから。ね、じゃあ、行ってこい!!健闘を祈る、バイバイ。』

勝手に切られた。
夏・・・もっと相談に乗って欲しいのに・・・。
言いたいことだけ言って。それにとっくに胸は借りてる。
確かに嫌な気持ちはしなかった、どころか縋りついて先を望んだのも本当のところ。
でもそれにストップをかけたのは茅野だし。中途半端じゃ嫌だと言ったのは茅野だから。
だからこそ、そんな体当たりみたいなこともうできないし。
また断られたら、本当に恥ずかしくて立ち直れない。


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