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第三の石碑 レゴラントの町
08話 プレゼントの魔法
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こんな僕を、軽蔑しない方がおかしい。
ユーリエとの旅は、ここまでになるのかな。
そんなことを考えると、寂しくて、辛くて、涙が滲んできた。
でも、全ては僕の弱さが原因だ。
仕方ない。
と思っていた、その時。
ふわり、といい匂いがして、ほっぺたに柔らかな温もりが広がった。
気づくと僕は、ユーリエに包まれていた。
「ぜ~んぜん軽蔑しないよ。だって……カナクだから。わ、私は……うん、嬉しい!」
「えっ!?」
振り返りたかったけれど、強く抱き締められていて、動けない。
でも、紅潮する頬の熱は伝わってくる。
「カナク、好きだよ」
「僕も、ユーリエが大好き」
「だったら、いいんじゃない? 私も、カナクと、そういうこと、いっぱいしたいよ」
相変わらず……ユーリエは可愛すぎる。
しかし、僕がやったのは間違いなく罪だ。
ユーリエが眠っているのをいいことに……食べようとしたのだから。
「でもさ」
急にユーリエが声のトーンを落とした。
「私の意識がないときにえっちなことをするのは、ど~かなあ~」
「うぐ……」
ユーリエの腕が、僕の首にずれる。
し、締まる!
「ぞれは、ごべんなざい」
「ん~、許さな~い」
「ど、どうすれば?」
「そうねぇ、なにかプレゼントが欲しいな~」
こんな旅の真っ最中に!?
買い物もできないし……。
だったら――
「あ、でも“じゃあ僕で”とかは、なしね」
なしかー。そうだよね。
ユーリエは僕の首から腕を外し、解放する。
少し咳き込んで振り返ると、お尻をつけて座り、僕を笑顔で見上げていた。
うう、なにか期待している顔だ。
そんな……どうしよう。
「難しく考えることなんてないわ。誰がなんといおうと、カナクは魔法の天才よ。あのシャワーを浴びさせてくれた魔法とか、どんな書にも載っていないものをいっぱい持ってる。カナクだけの魔法を、私にもちょうだい」
「ああ、そっか。それなら、ちょうどいいのがあるよ!」
「うん?」
僕は周囲を見回し、茂みがある場所に向かうと、そこから草の葉をいくつかもいで、ユーリエの元へと戻った。
「葉っぱ?」
「うん。見てて」
草の山を地面に置き、腰からワンドを引き抜いて、緑と青と茶色のマナを集めると、大小二つの魔法陣を描いて詠唱する。
『草人交心の魔法』
ワンドを魔法陣に刺すと、一つの小さな魔法陣は僕の左手、甲の上で回転する。そして草の塊が、ひくひく、と震えて集まっていった。
やがて……ぽん、と音がして、草の小人を作り出した。
僕が青いローブを着ていたので、ちゃんと小人も同じものを身につけている。
そこは少し拘ってみた。
「なな、なにこれ! かぁああわいいいいいいい!」
ユーリエが目を輝かせて、小人を覗き込む。
そうか……ユーリエって、可愛いものが好きなんだ。
あんまりそういうイメージは、なかったなあ。
「これ、なんていうの?」
小人を手のひらに載せ、瞳の中に星を煌めかせて、僕に詰め寄ってくるユーリエ。
「あ、ああ、これは『草人交心の魔法』って名付けたんだ。そしてこの小人は、草人。魔法陣を二つ描いて、一つは僕とリンクしてる。そしてもう一つの魔法陣で、草に命の息吹を与えたんだ」
「ふぁああああ!? そんなことができるの!?」
「草人はこれ単体じゃあ活動できなかったんだけど、僕とリンクさせてマナを分け与えることで、動けるようになったんだ」
「そっか、だから魔法陣が二つ必要なのね。カナクのマナをこの草人ちゃんが受け取って、動いてるんだ」
「うん。これだけ小さいから索敵に使えるし、もっと小さなものなら持ってきてもらったりもでき――」
「ダメ!」
ユーリエが、何故か眉をつり上げた。
「え、え?」
「こんな可愛い草人ちゃんを働かせるなんて! そんな必要はないわ!」
「あ……でも、狭い場所に入れたり、その情報を魔法陣経由で受信したり、いろいろと便利な――」
「だ・か・ら、ちがーう!」
ユーリエは草人を肩に座らせ、更に顔を近づけてきた。
「この子はこれでいいの、このままでいいの! しかもカナクの格好までしてて……この魔法、最っ高のプレゼントだわ! ありがとう、嬉しい!」
まさか、こんなに喜んでくれるとは。
偵察用で作った魔法なのに。
でも、そんなユーリエに残念なお知らせをしなきゃならない。
「ユーリエ、僕からのプレゼントはその草人じゃないよ」
「はぇ?」
素っ頓狂な声だった。
「その草人は少ないマナで作ったから、あと数十ミンくらいで草に戻っちゃうんだ」
「えええ――――――!?」
驚きと悲しみが入り交じった、悲鳴だった。
「だ、だからね、僕の贈り物は、この『草人交心の魔法』そのものなんだよ」
「えっ、これを教えてくれるってこと!?」
「うん。そうしたらさ、その……僕とユーリエだけじゃなくて、草人たちを僕らの旅の仲間にできるかなあ、と思ってさ」
「カナク」
「うん?」
やっぱりこのくらいじゃ、プレゼントにならないよね……。
「それすごい! めちゃくちゃ嬉しい!」
あら?
「だって、この可愛い草人ちゃんと旅ができるんでしょう!?」
「まあ、マナの込め方しだいではかなりの時間、もつと思うけど……」
「こんなに嬉しくされちゃったら、仕方ないわね。私にいたずらしたことは許してあげるわ」
「いたずらはしてない!」
あ……いや、そうとも言い切れないかも。
普通の人間なら、やっていることは確実にいたずらだしなあ。
「じゃあ今夜のキャンプで教えてあげるよ。幸いここはまだ草が多いから、どこでも草人を作れるしね。だから行こうか」
「はああ、楽しみぃ!」
本当に気に入ってくれたんだ。
僕はほっとして、ユーリエとともに旅路へと戻った。
そして、あっという間に夜。
僕らは談笑しながら歩を進め、ほどよく草がある場所を見つけると『草壁円洞の魔法』を唱えて今日の寝床を確保した。そして、焚き火をたいて食事をした後、約束通り、僕はユーリエに『草人交心の魔法』を手ほどきした。
「おー、なるほど。魔法陣を複数使うのは結構あるけれど、二つの魔法陣をリンクさせるっていうのは、天才的な発想だわ」
「ま、まあ、試行錯誤の結果かな。『草人交心の魔法』もそうだけど、土巨人みたいなものでも、自分とリンクさせることで持続力や膂力が飛躍的に上がったしね。でもその分、結構、疲れちゃうんだけど、これくらい小さな草人くらいなら問題ないよ」
「凄いなあ……この仕組み、いろんなものに応用できそう」
「僕はどうも、こういうのは得意みたいでね」
「うん、本当に凄いよ。よーし、練習しよ!」
ユーリエが、草の山にワンドを向けた。
僕はあっさり言ったけれど、人間にこんな魔法の使い方はできないと思う。
大自然の力であるマナを外部から直接取り込むのは、凄く危険な行為だ。だから魔法使いはワンドを持ち、その先にマナを集めて魔法陣を描く。
どんな種族も必ず、マナを内包している。
そして銀獣人である僕は、あの身体に変身すると、際限なくマナを吸収できる。それを使って魔法を唱えてもいいし、そのままマナをぶつけてもいい。
そんなことができるのは銀獣人である僕だけだ。
つまりこの草人と名付けた小人をつくる魔法を編み出したのは、銀獣人の姿でマナを操る方法を模索していた時に、たまたまできた副生成物なんだ。
とはいえ、その習得には時間がかかると思う。
二つの魔法陣をリンクさせるのは、僕でも苦労した。
しかしこれが可能になると、魔法の可能性は大きく広がる。
石碑巡りが終わってセレンディアに戻ったら、もっと魔法を勉強――
「できたー!」
……は?
「見て、カナク! これが私の草人ちゃん!」
目を疑ったけれど、確かにユーリエの左手から魔法陣の力を感じるし、なにより、こちらにぴょこぴょこ歩いてくる小人は、間違いなく草人だった。
「かーわいい~~~~!」
草人がぴょん、と跳んでユーリエの手のひらに載ると、ユーリエがそれを僕に見せてきた。
確かに可愛い。おまけにユーリエの服装を忠実に再現している。
……僕のより出来がいいじゃないか。
「ねえ、カナクも草人ちゃんを出してよ。一人じゃ可哀想だよ」
「え、あ、うん」
僕は動揺しながら、草人を作る。
なんて才能だ、ユーリエって子は。超高難易度の魔法だから、旅をしながらゆっくり教えようと思ったのに、たった一日でマスターしてしまうとは。
おそろしいほどの才能。とても人間とは思えない。
などと考えているうちに、僕の草人ができた。
するとユーリエの草人は大喜びで、ユーリエの手から離れて僕の草人と抱き合った。
「あ……な、なんか、恥ずかしい、ね」
「うん、確かに」
草人らのそれは、完全に愛情表現だった。
「ちょっとおチビさんたち! 本人の前でいちゃつくな~!」
両手を振り上げ、理不尽に怒るユーリエ。
逃げ回る草人。
なんだろう、この幸せな光景は。
口許が自然に緩み、目が細くなる。
こんな時間が、ずっと続けばいいのにな。
いや、きっとこれからもユーリエと仲良くしていけるさ。
そのためにも僕はもっと成長して、銀獣人の欲望に打ち勝てるようにしないといけない。
逃げる二人の草人と、真っ赤になって追いかけるユーリエを目にして、心を新たにしていた。
ユーリエとの旅は、ここまでになるのかな。
そんなことを考えると、寂しくて、辛くて、涙が滲んできた。
でも、全ては僕の弱さが原因だ。
仕方ない。
と思っていた、その時。
ふわり、といい匂いがして、ほっぺたに柔らかな温もりが広がった。
気づくと僕は、ユーリエに包まれていた。
「ぜ~んぜん軽蔑しないよ。だって……カナクだから。わ、私は……うん、嬉しい!」
「えっ!?」
振り返りたかったけれど、強く抱き締められていて、動けない。
でも、紅潮する頬の熱は伝わってくる。
「カナク、好きだよ」
「僕も、ユーリエが大好き」
「だったら、いいんじゃない? 私も、カナクと、そういうこと、いっぱいしたいよ」
相変わらず……ユーリエは可愛すぎる。
しかし、僕がやったのは間違いなく罪だ。
ユーリエが眠っているのをいいことに……食べようとしたのだから。
「でもさ」
急にユーリエが声のトーンを落とした。
「私の意識がないときにえっちなことをするのは、ど~かなあ~」
「うぐ……」
ユーリエの腕が、僕の首にずれる。
し、締まる!
「ぞれは、ごべんなざい」
「ん~、許さな~い」
「ど、どうすれば?」
「そうねぇ、なにかプレゼントが欲しいな~」
こんな旅の真っ最中に!?
買い物もできないし……。
だったら――
「あ、でも“じゃあ僕で”とかは、なしね」
なしかー。そうだよね。
ユーリエは僕の首から腕を外し、解放する。
少し咳き込んで振り返ると、お尻をつけて座り、僕を笑顔で見上げていた。
うう、なにか期待している顔だ。
そんな……どうしよう。
「難しく考えることなんてないわ。誰がなんといおうと、カナクは魔法の天才よ。あのシャワーを浴びさせてくれた魔法とか、どんな書にも載っていないものをいっぱい持ってる。カナクだけの魔法を、私にもちょうだい」
「ああ、そっか。それなら、ちょうどいいのがあるよ!」
「うん?」
僕は周囲を見回し、茂みがある場所に向かうと、そこから草の葉をいくつかもいで、ユーリエの元へと戻った。
「葉っぱ?」
「うん。見てて」
草の山を地面に置き、腰からワンドを引き抜いて、緑と青と茶色のマナを集めると、大小二つの魔法陣を描いて詠唱する。
『草人交心の魔法』
ワンドを魔法陣に刺すと、一つの小さな魔法陣は僕の左手、甲の上で回転する。そして草の塊が、ひくひく、と震えて集まっていった。
やがて……ぽん、と音がして、草の小人を作り出した。
僕が青いローブを着ていたので、ちゃんと小人も同じものを身につけている。
そこは少し拘ってみた。
「なな、なにこれ! かぁああわいいいいいいい!」
ユーリエが目を輝かせて、小人を覗き込む。
そうか……ユーリエって、可愛いものが好きなんだ。
あんまりそういうイメージは、なかったなあ。
「これ、なんていうの?」
小人を手のひらに載せ、瞳の中に星を煌めかせて、僕に詰め寄ってくるユーリエ。
「あ、ああ、これは『草人交心の魔法』って名付けたんだ。そしてこの小人は、草人。魔法陣を二つ描いて、一つは僕とリンクしてる。そしてもう一つの魔法陣で、草に命の息吹を与えたんだ」
「ふぁああああ!? そんなことができるの!?」
「草人はこれ単体じゃあ活動できなかったんだけど、僕とリンクさせてマナを分け与えることで、動けるようになったんだ」
「そっか、だから魔法陣が二つ必要なのね。カナクのマナをこの草人ちゃんが受け取って、動いてるんだ」
「うん。これだけ小さいから索敵に使えるし、もっと小さなものなら持ってきてもらったりもでき――」
「ダメ!」
ユーリエが、何故か眉をつり上げた。
「え、え?」
「こんな可愛い草人ちゃんを働かせるなんて! そんな必要はないわ!」
「あ……でも、狭い場所に入れたり、その情報を魔法陣経由で受信したり、いろいろと便利な――」
「だ・か・ら、ちがーう!」
ユーリエは草人を肩に座らせ、更に顔を近づけてきた。
「この子はこれでいいの、このままでいいの! しかもカナクの格好までしてて……この魔法、最っ高のプレゼントだわ! ありがとう、嬉しい!」
まさか、こんなに喜んでくれるとは。
偵察用で作った魔法なのに。
でも、そんなユーリエに残念なお知らせをしなきゃならない。
「ユーリエ、僕からのプレゼントはその草人じゃないよ」
「はぇ?」
素っ頓狂な声だった。
「その草人は少ないマナで作ったから、あと数十ミンくらいで草に戻っちゃうんだ」
「えええ――――――!?」
驚きと悲しみが入り交じった、悲鳴だった。
「だ、だからね、僕の贈り物は、この『草人交心の魔法』そのものなんだよ」
「えっ、これを教えてくれるってこと!?」
「うん。そうしたらさ、その……僕とユーリエだけじゃなくて、草人たちを僕らの旅の仲間にできるかなあ、と思ってさ」
「カナク」
「うん?」
やっぱりこのくらいじゃ、プレゼントにならないよね……。
「それすごい! めちゃくちゃ嬉しい!」
あら?
「だって、この可愛い草人ちゃんと旅ができるんでしょう!?」
「まあ、マナの込め方しだいではかなりの時間、もつと思うけど……」
「こんなに嬉しくされちゃったら、仕方ないわね。私にいたずらしたことは許してあげるわ」
「いたずらはしてない!」
あ……いや、そうとも言い切れないかも。
普通の人間なら、やっていることは確実にいたずらだしなあ。
「じゃあ今夜のキャンプで教えてあげるよ。幸いここはまだ草が多いから、どこでも草人を作れるしね。だから行こうか」
「はああ、楽しみぃ!」
本当に気に入ってくれたんだ。
僕はほっとして、ユーリエとともに旅路へと戻った。
そして、あっという間に夜。
僕らは談笑しながら歩を進め、ほどよく草がある場所を見つけると『草壁円洞の魔法』を唱えて今日の寝床を確保した。そして、焚き火をたいて食事をした後、約束通り、僕はユーリエに『草人交心の魔法』を手ほどきした。
「おー、なるほど。魔法陣を複数使うのは結構あるけれど、二つの魔法陣をリンクさせるっていうのは、天才的な発想だわ」
「ま、まあ、試行錯誤の結果かな。『草人交心の魔法』もそうだけど、土巨人みたいなものでも、自分とリンクさせることで持続力や膂力が飛躍的に上がったしね。でもその分、結構、疲れちゃうんだけど、これくらい小さな草人くらいなら問題ないよ」
「凄いなあ……この仕組み、いろんなものに応用できそう」
「僕はどうも、こういうのは得意みたいでね」
「うん、本当に凄いよ。よーし、練習しよ!」
ユーリエが、草の山にワンドを向けた。
僕はあっさり言ったけれど、人間にこんな魔法の使い方はできないと思う。
大自然の力であるマナを外部から直接取り込むのは、凄く危険な行為だ。だから魔法使いはワンドを持ち、その先にマナを集めて魔法陣を描く。
どんな種族も必ず、マナを内包している。
そして銀獣人である僕は、あの身体に変身すると、際限なくマナを吸収できる。それを使って魔法を唱えてもいいし、そのままマナをぶつけてもいい。
そんなことができるのは銀獣人である僕だけだ。
つまりこの草人と名付けた小人をつくる魔法を編み出したのは、銀獣人の姿でマナを操る方法を模索していた時に、たまたまできた副生成物なんだ。
とはいえ、その習得には時間がかかると思う。
二つの魔法陣をリンクさせるのは、僕でも苦労した。
しかしこれが可能になると、魔法の可能性は大きく広がる。
石碑巡りが終わってセレンディアに戻ったら、もっと魔法を勉強――
「できたー!」
……は?
「見て、カナク! これが私の草人ちゃん!」
目を疑ったけれど、確かにユーリエの左手から魔法陣の力を感じるし、なにより、こちらにぴょこぴょこ歩いてくる小人は、間違いなく草人だった。
「かーわいい~~~~!」
草人がぴょん、と跳んでユーリエの手のひらに載ると、ユーリエがそれを僕に見せてきた。
確かに可愛い。おまけにユーリエの服装を忠実に再現している。
……僕のより出来がいいじゃないか。
「ねえ、カナクも草人ちゃんを出してよ。一人じゃ可哀想だよ」
「え、あ、うん」
僕は動揺しながら、草人を作る。
なんて才能だ、ユーリエって子は。超高難易度の魔法だから、旅をしながらゆっくり教えようと思ったのに、たった一日でマスターしてしまうとは。
おそろしいほどの才能。とても人間とは思えない。
などと考えているうちに、僕の草人ができた。
するとユーリエの草人は大喜びで、ユーリエの手から離れて僕の草人と抱き合った。
「あ……な、なんか、恥ずかしい、ね」
「うん、確かに」
草人らのそれは、完全に愛情表現だった。
「ちょっとおチビさんたち! 本人の前でいちゃつくな~!」
両手を振り上げ、理不尽に怒るユーリエ。
逃げ回る草人。
なんだろう、この幸せな光景は。
口許が自然に緩み、目が細くなる。
こんな時間が、ずっと続けばいいのにな。
いや、きっとこれからもユーリエと仲良くしていけるさ。
そのためにも僕はもっと成長して、銀獣人の欲望に打ち勝てるようにしないといけない。
逃げる二人の草人と、真っ赤になって追いかけるユーリエを目にして、心を新たにしていた。
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