真訳・アレンシアの魔女 下巻 石碑巡りたち

かずさ ともひろ

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第四の石碑 ディゴバ

07話 陽と闇が混じる町

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「な、な!?」

 困惑する僕。

「なるほどね、そういうことかぁ」

「なにがそういうことなの!?」

 ユーリエは僕ににっこりと微笑ほほえんで、ネウと同じように壁に向かい、そのまま通り抜けた。

「…………?」

 僕は違和感を抱いて、足を止めた。

 今のユーリエの表情……。
 子供をでる母親のように微笑ほほえましくて。
 大切なものをいつくしむように優しげで。
 それでいて、なんだか悲しげだった。

 あんなユーリエを今まで見たことがない。
 ユーリエは今、なにを思い、なにを感じてるんだろう。
 僕はそんなことを考えつつ、壁に向かって歩を進める。
 すると、壁からぬっ、と腕が出てきた。

「わっ!」

 その白くて細い腕が、僕を引き寄せる。
 不意を突かれて前のめりになると、ぽふ、と、ほおに柔らかなものが当たった。

「ちょ、カナクったら!」

 頭上から声が降ってくるということは……。
 僕は、ユーリエの胸の中にいた!
 慌てて離れて、宙に放り出された草人を手のひらで受け止める。

「ご、ごめん! だって壁だったから、なんにも見えなくて」

 顔を熱くしながらそう言うと、ユーリエが微笑んで僕の後ろを指さす。
 そちらに目を向けて、また驚かされた。

 壁の向こう側が、透けている。つまりこれは、外側からは岩壁に見えるけれど、内側からは外の光景を映すというものなんだ。

「上級魔法『幻覚壁の魔法』に似てるけれど……ちょっと違うかもしれない。だって魔法陣がないし、マナも感じないからね」

 ユーリエに言われて、改めて辺りを見渡す
 確かにこれは……魔法に似ているけれど。

「さあさあ、こちらへ」

 ネウは少し誇らしげに、僕らを案内してくれた。
 なるほど、だからディゴバの“アンダーグラウンド”なのか。
 これじゃあ、普通の旅人にはわからない。

 僕とユーリエが、静かにネウの後ろを歩く。
 辺りはかなり広めの洞窟になっており、馬車三台が楽に通れるほどの道幅があった。固い岩盤をくり抜いてつくられたこの通路なら、落石の心配もなさそうだ。

 やがて、目の前が明るくなってきた。

「お、おお……」「わぁあ……」

 僕とユーリエが、同時に驚嘆の声をあげる。
 洞窟を抜けた先は、巨大なドームになっていた。天井までどれくらいあるだろうか。
 首が痛くなるまで見上げなければならないほど高い。

 目の前には高さ五メル程度の、簡素ではあるが煉瓦造れんがづくりの城壁があり、その門には、ドワーフがやりを持って立っていた!
 ドワーフは陽種族ロウレイスであり、ネウは闇種族エヴイレイスのダークエルフだ。
 このままだと……!

「ん?」

 城門まで接近しすぎた!
 ネウと僕らは、すぐに険しい顔をした門番のドワーフに見つかった。

「ネウ!」

 僕は叫びつつ、ワンドを腰から抜いて構える。
 ところがユーリエは、草人をでているだけで、涼しい顔をしていた。
 なんで、と思っていると、ドワーフの顔がほころんだ。

「おー、なんじゃい、ネウちゃんか」

「エルガーさん、なんとか戻ってこられました」

 ん?
 ネウちゃん?

「そこの若いの、ここを通りたければ物騒なもんは腰に差しとけ。あんたらじゃろ? ネウちゃんがわざわざ迎えに行ったという石碑巡りは」

「え、あ、はい」

 僕は大人しく、ワンドを腰に戻す。

「良し、なら通れ。ネウちゃん、みんな君を心配していたぞ。なんせ君は、魔法の腕こそたいしたもんじゃが、なにせおっちょこちょいじゃからなあ。道中でログナカンやトロルに食われていないか、はらはらしておったわ」

「あ、ええ、ここのお二人のお陰で、全部は食べられずにすみました」

「なぁにぃ!?」

 エルガーというドワーフから、力があふれる。
 これは、強烈な怒気だ。

わしらのネウちゃんになにかあったら、アンダーグラウンドは決起するぞい!」

「ああ、あの、落ち着いてエルガーさん、結果的に大丈夫でしたから。ですので、このお二人はたいせつなお客さまであり、あたしの恩人なのです」

「……そうか、ネウちゃんがそう言うなら、仕方ないのう」

 エルガーというドワーフから放たれた力が薄らいでいく。
 城門は開いており、エルガーさんは顎で「ほれ通れ」と雑に促す。
 ネウとは随分な差だね。

「行きましょう、カナクさん、ユーリエさん。私はこれから聖神殿の司教さまに、お二人のことを伝えて参ります。ここには宿屋が一つしかありませんので、明朝、お二人をお迎えにあがります」

「そっか。なにからなにまでありがとう。助かるよ」

 僕がネウにお礼を言うと、ネウは「えへへ、そんな」と言い残し、顔を赤くして町の中へ消えていった。

「さあ、僕らも行こうかユーリエ」
「むー……」

 何故なぜかユーリエの機嫌は、悪くなっていた。
 本当になんで?


 こうして僕らは石碑巡り最後の地であるディゴバ・アンダーグラウンドの町に入った。

 最初に驚いたというか信じられなかったのは、スペースに限りがあるせいか、こぢんまりとした町並みの中で、あらゆる種族が普通に会話を交わし、生活しているということだった。

 その中にはネウを襲ったログナカンやトロルもいるし、北方にしか住んでいないはずのフロージアという種族もいたし、ダークエルフもいる。彼らと陽種族ロウレイス側である人間、ハーフエルフ、ドワーフ、フォレストエルフらが、全く争わず談笑しているという、まるで奇跡のような光景に、僕は胸が熱くなった。

「ここは種族なんか関係なくて、等しくマール信徒の町なのね」

 ユーリエも、目を細めて言葉を漏らす。

「うん……すごいよ。こんな光景が目にできるなんて……やっぱりマールは、偉大だ」

「そうね。もしアレンシアを一つにできるとしたら、マールみたいな人なんだろうなあ、きっと」

「アレンシアを一つに、かあ。考えたこともなかった」

「ねえカナク、こんな素敵な町を散策できる機会は中々ないわ! 早く宿を取って、いろんなところに行ってみようよ!」

「今回ばかりは、大賛成!」

 僕らは笑みを交わし、手をつないで、町に向かった。

 ディゴバ・アンダーグラウンドの宿屋はすぐ見つかった。
 その名も“マールの恵み亭”。
 そのままの名前だった。

 僕はお金を払おうと思ったけれど、既にディゴバ・マール聖神殿が根回しをしていたらしく、腕輪を見せてくれと言われたので、二人で腕輪を見せると、すぐ部屋に通された。
 今回も一部屋だ……。
 ま、まあいいか。

 ここまでの石碑巡りで感じたのは、ベッドで眠れること、屋根があること、シャワーを浴びられることの有り難みだ。この二つがそろっている宿屋に泊まれるなんて、贅沢ぜいたくなのだと痛感した。

 宿が用意してくれた部屋は二階の奥の部屋で、ベッド、ソファ、そして大きな硝子がらす窓が一つと、テーブルの上に、意匠を凝らしたランタンが置かれており、部屋を明るくしていた。

「わぁ……素敵な部屋」

 ユーリエも、この部屋を気に入ったらしい。

「さあユーリエ、荷物を置いて外に行こう! きっと楽しいよ!」

「うん!」

 僕らはまた視線を交わすと、鞄をベッドに投げて、草人らを吹き飛ばさないよう気をつけながら宿を飛び出した。

 ディゴバ・アンダーグラウンドは、本当に不思議な町だった。
 市場に行くと、ここで採れたのであろうキノコ類が並んでいただけでなく、旅の商人が運んできたと思われる芋や玉葱たまねぎ、野菜類まで売っていた。
 そうかと思えば、その隣には宝石類が並ぶ。
 一つの宝石で店を丸ごと買えるんじゃないかという額がついている。その隣の店にはドワーフが作った木工品や楽譜が、更にその隣には何本もの剣を売っている店があった。

 つまり、とんでもなく雑多なのだ。
 でも、この感じがここの魅力なのかもしれない。

 きっとマールは、アレンシアが闇種族エヴイレイス陽種族ロウレイスで争っているのを苦々しく思っていたんじゃないだろうか。だからえて、ジェド連邦のお膝元にこんな町ができるよう、敢えて陽種族ロウレイスを呼び込むために石碑を建てたに違いない。

 ほんとにそうであれば、やはりマールは偉大すぎる。

「ねえねえカナク、これどうかな!」

 はっ、と思考を止めて目をユーリエに向けると、にんまりと笑ってブルーの石がまったネックレスを見せてきた。僕の中ではユーリエのイメージカラーはブルーだったので、素直に「うん、いいね」と言うと、ユーリエは猫のように目を細めた。

 そういえば僕って、ユーリエに贈り物をしたことがない。桃を多めにあげたことはあるけれど、そういうのではなくて……。

 気がつけば、雑貨屋の主人にユーリエのペンダントを指さして「これ下さい!」と叫んでいた。
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