アグリメント

佐藤 れなる

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一章 契約者とアグリメント

2話 王-1

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「王よ、どうか私らを捨てお逃げくだされ」
「お前らを置いて逃げろと申すか」
「はい、私らは所詮駒にすぎませぬ。王のご無事が何よりもの幸せにございます」
「ほう、そうか...ならばここはお主らに任せようぞ。お主らの無事を祈る」


 そう私に告げた王は一人で敵陣に乗り込み相打ちとなり命を落とした。王の補佐だった私らは王という心の拠り所を無くし途方に暮れた。自分らの居場所を無くしてしまった。
 しかし、王は最後に私らに国という居場所を残してくださった。ならば、王の期待に添えねばならぬ、王が愛したこの国を私らの手で守り続ける。











「雪って何も教えてくれないんですよね」


 私は目の前のお茶を飲み干すとそう呟いた。
 雪と出会い早一年。今でも雪と出会った事が奇跡だと思ってしまう。


「美優ちゃん、講義に集中出来ないのであれば講義はここで終わりだよ」
「そんな...篠さん、見捨てないで...」


 私は篠さんの前で手を合わせた。
 今は、大学の自習室で篠さんから契約者とアグリメントについての講義を受けている最中だ。
 幼い頃から契約者の証を持ちながら最近までアグリメントとの契約をして来なかったため詳しい事は未だに分からない。


「それにしても、美優ちゃんって幸運の持ち主よね。普通、契約者は常に狙われるものよ。それなのに雪實ちゃんに会うまでアグリメントの存在すら知らなかったなんて驚きよ」
「それは私もですよ。まず、契約者同士の争いと言うのも凄く不思議ですし」
「そうね...この話はまだして無かったのよね」


 今まで、篠さんがこの手の話をすることは無かった。そのため、契約者同士が何故争うのかすら未だに知らないのだ。


「そろそろ話す頃合かもね。まず、指輪がどれ程大事な物なのかは知ってる?」
「いえ、契約の証だって言うのは知ってますが」
「そうね。簡単に言えば契約の証よ。それと同時にアグリメントの魂とも言えるのよ」
「アグリメントの?」
「えぇ、指輪が壊れればアグリメントは消滅するわ」
「消滅って...」


 ふと、昨日の事を思い出した。雪に怒って指輪を置いて勝手にしろとか言ってしまった。
 そんな大事な物を手放すなんて...恐ろしい事を。


「消滅と言っても完全な消滅では無いわ。アグリメントにとって主との時間は大切な時間と言えるのその記憶が全てきえてしまう」
「記憶が無くなるんですか?」
「えぇ、アグリメントは次の契約者と契約しなければならない。その時に前の契約者との記憶は障害になってしまうわ」
「でも、それと狙われる理由に何の関係が?」


 ずっと立っていたもので疲れたのか篠さんは椅子に座ると大きく息をついた。


「指輪を壊さずに他の契約者に渡ればそれも契約解除になり新たな主となる。好きなアグリメントと契約する事は何よりも難しい事よ。そこで、強いアグリメントを持つ契約者の指輪を奪えば簡単じゃない?」
「つまり、アグリメントの奪い合いをしているって事ですね?」
「そうね。強いアグリメントと契約してる者は狙われやすいわ。それと、もう1つ大事な事があるのよ」
「まだあるんですか?」


 ここまで多くなってくると外に出て行くのでさえ恐怖になってしまいそうだ。
 ふと、今まで以上に篠さんが険しい顔をしている事に気が付いた。


「指輪の固有能力よ。一つ一つの指輪に違った様々な能力があるの。例えば、私の指輪はアグリメントへ魔力を流す能力、言ってしまえば枯渇を知らない魔力源よ」
「それって凄い物なんじゃ...」
「えぇ、だから私は凄く狙われやすいわ。テリトリーを持っているから尚更狙われやすいの。美優ちゃんの指輪はまだ分かってないのよね?」
「はい...どうしたら分かるんでしょうか?」
「そうね...私にも分からないわ」


 ふと、何やら外から音がする事に気が付き窓に目を移すと雨が降り始めていた。


「雨?!」
「あら、予報見てなかったの?」
「今日は寝坊して忙しくて」
「そうだったの...入れてあげたいところなのだけど、逆方向なのよね」
「大丈夫ですよ!これでも風邪引いたこと無いので」
「でも心配よ...」
「心配しなくても大丈夫ですよ。何かあれば雪だって来てくれますし」
「...それもそうね。じゃあ私はセールもあるから先に失礼するけど」
「少し落ち着いたら私も帰ります」
「じゃあまた明日ね」
「はい!」


 篠さんが部屋から出て行くと静かな時が流れた。雨の音がよく聞こえる...。
 ふと、扉を開ける音に驚き扉の方を見た。忘れ物でもして戻ってきたのかと思ったが、立っていたのは暗い雰囲気の青髪の男の子...?


「貴方が美優ちゃんやな?」
「えっと...そうですが」
「思っていたよりも可愛らしい子なんやな。王様も隅に置けへんわ」
「王様?」
「ちょっと着いてきて貰うてもええやろか。手伝って欲しいことがあるんよ」
「手伝い?」


 手伝いという事はここの学生だろうか。人付き合いが無くて知らない人ばかりなんだよな...。
 この雨だったらそのうち弱くなるかもしれないし少しぐらいなら大丈夫かな。


「雨が弱くなるまでなら良いですけど...」
「ほな、着いてきてくれへんか?」
「何処に?」
「裏や」


 異変に気が付いた時にはもう遅かった。男の子は部屋を出て行こうとした私の背中を押し扉を閉めた。
 綺麗な学校には絶対無いような部屋。それも、洋風でも和風でも無く中華。確実にダメなやつだ。


「私の部屋や」
「貴方の...って、誰?!」
「少し姿を変えたぐらいで忘れてしもうたんか?」


 コロコロと笑った男の子は私の目の前にある椅子に座った。
 さっきの男の子とは姿が違い、大きな角2本と尻尾が付いている。偽物とは思えないクオリティ...いや、人間じゃないんだ。アグリメントでは無さそうだけど…。


「そう見られると恥ずかしいんやけど...こっちに来てはくれへんか?」
「遠慮しておきます...」


 男の子から距離を取り離れようとしたが気が付けば捕まってしまい膝の上に座らせられる。
 てっきり殺されたりするのかと思ったのだがそんな素振りは無い。これはどういう状況なんだろうか。


「なぜ膝の上?」
「私達の王様の主人やからしっかり接待せなあかへんのや」
「王の主人...?さっきからなんの事を...」
「...知らへんの?お前、雪實さんの主やろ?」
「確かにそうだけど...って言うことは雪が王様?!」


 確かに自分の事を王と言っていたけどまさか本当に王だとは思いもしなかった。
 私無礼な事沢山してる気が…。


「雪實さんの事を雪と呼んでいるんやな。椿さんに無惨な姿で殺されそうや。にしても、ほんま可愛らしいの。食ってしまいたいぐらいやわ」
「く、食って...」


 なんだこの男の子は...さっきから訳の分からない事を言っているし挙句の果て私を食べたいとまで。
 身の危険を感じて逃げようとするが見た目の割には力が強く抵抗すらさせてくれない。


「あ、あの!帰りたいんだけど?!」
「帰る?雪實さんのところに?そりゃ無理やろな。今、椿さんが雪實さんのところに行っとるんやから、邪魔はあかへんわ」
「邪魔って...雪の想い人?!」
「...そうやそうや。だから、捨てられてしもうた美優ちゃんは雪實さんとの契約を辞めて私にしたらええやろ?」
「それは、駄目...」


 雪との契約は切りたくない。雪がそう望むのなら仕方ないけど。
 雪のことを考えていると、男の子は私を押し倒し私の唇に重ね口付けをした。契約をするにはアグリメントの許可と体のどこかへの口付けが必要。
 まさか、雪との契約を切るために上から書き換えるつもりじゃ…。私は男の子を蹴るとすぐに離れた。契約完了してしまったのか、今まで赤かった指輪が水色に変化する。


「これで君は私のものやんな」
「...最低」
「最低...?君のアグリメントだよ?王のことは忘れて、これからは私が君の事を守ると誓うよ」
「だから、それが最低だって言ってんの。わ、私のファーストキスを簡単に奪って...」
「え、そこなん?」
「私のファーストキスを返せー!」
「えあ、いや、ま、待って!」


 私は男の子を押し倒すと脇腹をくすぐり倒した。人外のくせにくすぐりには弱い様で笑って何度も辞めてと言いながら涙を流す。
 あら、思っていたよりも可愛い一面が...。


「美優!」


 突然扉が開かれたと思うと、雪と目が合う...後ろに綺麗な女の人もいる...。この人が男の子が言っていた椿さんだろうか。


「えっと、どう言う状況?」
「それは我が聞きたい所なのだが」
「あ、えっと...罰を与えてた...?」
「罰?」


 ふと、雪が指輪に気が付いたようで辺りを照らしていた炎が全て消し去り冷たい冷気なようなものが部屋全体に広がる。


「ゆ、雪實様...」


 くすぐりの刑で伸びていた男の子がこの状況を察知したのか、雪實の前に行くと跪く。


「尚吾、お主のした事は大罪にあたるぞ。分かってやっておるのか」
「確かめたかったんや。この娘が雪實さんに見合う主なのかと」
「確かめたい?我が決めた主が劣っていると言いたいのか。死を覚悟しての虚言だろうな」
「えぇ、私の命は雪實さんのもの、この命どうなっても悔いはありません」


 暗い部屋...目が慣れ始め、微かに今の状況が見える。
 ふと、雪が刀を振りおろそうとしている事に気が付きすぐに止めに入った。


「雪、まっ...い、痛った...!」


 しかし、止めに入ろうとするとテーブルを蹴ってしまい、上に乗っていたものが足にクリンヒット。
 靴を履いているのに物凄く痛いのです...。


「美優?!」
「わ、私は大丈夫。その...その子悪い子じゃないから許してあげて」
「我が居ながら他の者と...待て、何故契約が出来るのだ」
「確かに…」


 ふと、大事なことに気が付き痛みを忘れハッとする。
 てっきり雪との契約を破棄し上書きしたのかと思っていたが、どうやらまだ雪との契約は続いているようだ。男の子との契約もしっかり結ばれている。


「多分指輪の能力だと思うんやけど...」
「指輪の?」


 まさか、ここに来て指輪の能力が分かるなんて...にしても、1人どころか2人のアグリメントと契約ができるなんてこれって凄い指輪なんじゃ...。


「知られてはならぬな…。なに、心配するでない、お主の命は我が守り抜こう」


 私が露骨に不安な顔をしていたからか、雪はそう言って私の頭を撫でた。おかげで髪はボサボサだと思う。


「それよりも早くここを出ようぞ。人間にとってこっちは毒だ」
「毒?」
「ここは妖の住まう世界やから、妖気が濃いんや。人間は妖気に弱いんよ」
「そうなんだ...。えっと…それじゃあ帰ろうか」
「帰る...それは私も着いて行って良いってことやろか?!」


 そう言えば契約の問題はまだ解決していないのだった。
 自分のアグリメントを置いて行くことも出来ないし…。


「うん、でもまだ許してないからね」
「私も罪深いやんな」
「ほらほら、詳しい話は後で早く帰るよ」
「ほな、着いていくわ」


 そうして私達は無事家に帰ったのだが、それまで共に居た椿さんの姿が無いと言う事が気になった。
 雪の想い人ならもっと一緒に居れば良かったのに。

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