魔王の娘は学園最強を目指す

佐藤 れなる

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6話 恩師


「イグニルとセボルトって同じ師匠に教えて貰ったのに全く違う魔術を使うよね」

 勉強していた手を止めそう呟くとセボルトは読んでいた本から目を離し、エレメスの手も止まった。
 今は図書館にいるためいつもより声のボリュームを落とす。

「どうした急に」
「基本から本格的な魔術までセボルトは難なくこなせるでしょ?だけどイグニルは本格的な魔術の方が得意みたいだから」
「確かにそうですね。同じ師を持てばどこか似る魔術がありそうですが、おふたりは全くありませんよね」
「…あいつがサボっていたからだろうね」

 そう言われるとすぐに納得出来てしまう。けれど、基本を身に付けなくとも本格的な魔術を扱えるという事は天才であるという事。セボルトはもちろん、イグニルを育てた師匠は凄い人なんだろうな。私の師匠はシュウだから叶わないけれど教えて欲しいぐらいだ。

「会えないさ」

 セボルトの言葉に少しばかり驚き顔を見た。心を読む魔法が発動された形跡は無いのに私の心を簡単に読んでしまうセボルトは何者なんだ。

「会えないというのはお亡くなりになったという事ですね」
「嗚呼、魔王討伐で指揮を執っていたんだ。その際に魔王の手で死んだよ」

 魔王の手で…。
 そう言えば前に私が拉致された時に私のパパと戦って敗れたって言っていたっけ。ならセボルトにとって私は憎いんじゃ…。
 セボルトを見ると目が合い思わず逸らした。

「心配せずとも4代目魔王の時代。君の叔母に当たる魔王さ」

 おばあちゃん…パパから話だけは聞いたことがある。魔王という立場に誇りを持ち厳しい方だったと。
 パパじゃない事を知って安心した私は開きかけの本を閉じた。

「どんな人だったのですか?」
「…一言で言えば蛇みたいなやつだったね。人を簡単に騙し飲み込む悪い女だった」
「蛇…」

 師匠のことを語るセボルトからは温かさを感じられる。セボルトがこれほど気を許す人が居ると思うと何故だか不思議な感じ。
 何か今チクッて…。

「ボア・ゼナですか」
「…なぜ知っているんだい」
「魔王討伐に参加した者の名前、全員の情報を把握してます」

 2人の間に冷たい空気が流れ、私はその雰囲気に入る事も出来ずコーヒーを一口飲み込んだ。
 魔王討伐は私が生まれるより前で魔王を討伐すべく人々が立ち上がったという話を聞いた事がある。今ではパパの代は魔王らしさを発揮すること無く、大人しくしているため討伐は一度も無いらしい。でも、魔王討伐と言うことは少なからず50年は前の話?ならセボルトは今何歳なんだ?
 何だか頭が混乱してきた。

「ボア・ゼナがセボルトの師だったと言うのは驚きではありますが、セボルトが強い理由も分かりました」
「ボア・ゼナはそれほど強かったの?」
「当時は最強の魔法使いと言われてました。まぁ、かなり前の話ではあるので私はその時代には居ませんでしたが」

 セボルトに目を向けると私が気になったことを察したのだろう話を続ける。

「ボアは3代目魔王に引けを取らない強さを持ってたのさ。でも討伐に行って帰っては来なかったよ」

 自分の親族がセボルトの大切な人を殺してしまったと思うと苦しくなる。
 確か3代目魔王は人々に裏切られた恨みと共に魔王になったと聞いている。人類最強とも言われた2代目魔王との強さはほぼ同格だったって、きっとボア・ゼナは……。
 私が考え込んでいると強い魔力に気が付き顔を上げた。キラキラとした魔法が発動しセボルトの手に卵形の箱が現れる。

「それは?」
「ボアの魔石さ」

 箱の中を開け私たちにも見せてくれた。見た事が無いほど綺麗で大きな濃い紫色の魔石は目を奪われてしまうほどだ。

「今はこれだけが残ってる」
「これほどの魔石は見た事ありませんね。それにしても死して尚魔石が残るとは思わなかったです」
「これは魔石は魔石でもコアだからね」

 コアという言葉に私たちはその場に固まるように目を見開いた。
 コアは私たち魔法使いが生まれ持ち、魔力を産む核となる心臓のようなものだ。コアが無くなれば人は死ぬ、それと同時にコアは灰と化す、そう見られるものでは無い。

「なぜこのコアは朽ち果てて居ないのですか」
「私たちが魔力を逃がさないようにしてるからね」
「狂ってます」

 コアが朽ちることで新たな人生を歩むことができると、この世界ではそう語り継がれている。魂を閉じ込めたままにする人はそう居ないだろう。

「どうとでも言うといい」
「えぇ、言わせてもらいます」
「ちょっと!」

 今にもキレそうなエレメスを抑え込むと落ち着かせた。セボルト達の気持ちも分からなくは無いから。
 それにしても目の前のコアから何故か目が離せなくて……

「まぁ良いです。それよりも、今も魔王を恨んでいるのですか」
「恨んでいないと言えば嘘になる」

 セボルトの言葉に私はコアから目を離しセボルトを見た。私と目が合うと申し訳なさそうな顔をする。
 そうだよね、私も大事な人が殺されたのなら恨みどころか殺したいと思ってしまう。
 
「サーシャが居るからですね。それなら問題無いです」

 エレメスの言葉にしばしの間考えると理解をし顔が赤くなるのを感じた。
 そう言えばセボルトは私が好きだと言ってくれてたんだった。エレメスもそれを知っているのは意外だったけれど、私がセボルトの復習を止めていた原因?
 
「復習のためにサーシャに近づいたとは思わないのかい?」
「そうならば既に最終試験の時に殺しているでしょう。それに、貴方には利用価値があると思ってます。確かに私は魔王様に忠誠を誓ったサージェストの一人ですが、私が一番に忠誠を誓っているのはサーシャです。サーシャのためなら何でも利用します。もちろんサーシャを傷付けるものなら私はこの命を捨てても貴方を殺します。もちろん悲しませるのも許しません」

 エレメスが私のことを大切にしてくれているのは知っているけれど、目の前で言われると少し恥ずかしく私は顔を逸らすように本を読む振りをした。
 エレメスの忠誠は固いものだ。だからこそ、私の護衛としてこの学園に送り込まれた。実のところ私はエレメスの強さは知らないんだよな。

「そうかい。流石にサージェストを敵に回そうとは思ってないさ」
「えぇ、良かったです」

 何やら2人の中で話が固まったらしく2人は勉強モードに戻る。今ここで喧嘩にならなかったのは良かったが、なんかムズムズとする。

「あら、ここに居たのね!」
「シー!」

 エレメスの注意にシャルティアは口を塞ぎ図書館の司書であるテスラに目を向けた。口の前でバッテンを作り人差し指を口に近付けた。

「それで、話があるのでは?」
「そうよ!転入生が来るらしいのよ」

 また大きな声を出しかけたシャルティアの声はだんだん小さくなる。
 2学期のこの時期に転校生とは珍しい。それも、この厳しい学園への入学。それはもう天才と言ってもいいのでは無いだろうか。
 セボルトに目を向けても知らないとばかりに首を横に振る。セボルトにも知らされていない転校生?

「本当に存在するのですか?ただの噂では?」
「そう思ったわよ。でも明日来るらしいのよ」
「明日?急ですね」

 何か違和感を感じるが、転校生が来たとして関わることも無いだろう。それに、セボルトの魔力を前に耐えられる人はそう居ないから、セボルトとよく一緒にいる私たちに関わるもの好きはいないはずだ。

「それより、それを言うためだけに私たちを探していたのですか?」
「あ、そうよ。サーシャ、校長室に呼ばれていたわよ」
「私が?」
「えぇ、じゃあ私はユグ様を探しに行って来るわ!」
「シャルティアさん!走らない!」
「は、はい……」

 本当に元気がいい事だ。
 それよりもなぜ私が校長室に呼ばれてるのか気になるが行かないと分からないか。
 何かやらかした覚えは無いが、実はこの学園に来て使ってしまった禁術を使った事がバレたのではないかとハラハラしながら向かう。
 
 ――

「失礼します」

 校長室の扉を叩き中に入ると、見慣れた優しげな老人が私に笑顔を向ける。
 
「ほぉほぉ、大きくなったのぉ。挨拶が出来んですまんのぉ」
「シュウ!」
「これこれ、老体に突進は良くないぞ」

 シュウに飛び付くと軽々と私を抱えられてしまう。シュウは老人のような姿をしていても体は成人並みの健康体だと言うことをよく知っている。昔はよく私が起こす爆発に巻き込まれていたものだ。
 校長だと言うこともあって、あまり今まで通り会えないのかなと思っていたけれど、シュウはいつも通り私に接してくれるから嬉しくなる。

「ママから聞いてたけど本当にサレンティスの校長だったんだね」
「黙っていて申し訳ないのぉ」
「ううん、校長がシュウで良かった」

 サレンティス学園の校長は姿を見せないという事で有名で、どんなに偉い人でも会うことはないと聞いたことがあった。そんなシュウが私に魔法を教えてくれていたなんて驚きだ。

「それにしても、よく入学を決めてくれたのぉ」
「うん、大精霊王様に勧められて」
「それはそれは…何かを察したのじゃろうな」
「何か?」
「うーむ、これは話すべきか」

 私を降ろすとソファに座り込み深く考え込む。
 極秘の任務とか言うやつだろうか。

「いや、いつかは分かることだろう。最近この世界に異変が多発しておるのだよ」
「異変?それってどんな」
「つい最近じゃとドラゴン達の動きが活発になっておる。今年の冬は特に冷え込むじゃろうな」

 この世界の四季は主にドラゴンや精霊によって季節が巡っている。春は精霊が目を覚ます、夏はファイヤードラゴンが目を覚ます、秋は精霊が眠りにつく、冬はアイスドラゴンが目を覚ます、そうして四季が巡っている。そのためドラゴンや精霊の動きにより四季の気温などが変わってくるのだ。

「何とかなる物なの?」
「そうじゃな、今は原因の究明を急いでいるが冬は間に合わぬだろうね」

 そう言ってシュウは窓の外を見つめる。もう季節は秋だ、やっと暑さが落ち着き過ごしやすい気温になってきた。今年の冬は寒さ対策しとくか。
 どうやら世間話がしたかっただけのようで、その後シュウと様々な話をし校長室を後にした。
 セボルトから師匠の話を聞いた後だからか、久しぶりにシュウと話せて凄く嬉しい。
 校長室の塔を降り、校門辺りが騒がしい事に気が付いた私は歩みを止め外へと足を進める。なぜか、見なくてはならない、そんな気がした。

「あれが転校生?」
「なんか、ねぇ?」

 人集りから聞こえたその話し声に首を傾げ隙間から注目を浴びる人達を見た。
 その人たちに思わず息が止まりそうになる。

「そんな……」

 隙間から見えたキレイな女の子は珍しいピンク髪に桃色の瞳を持っていた。周りにはその娘を守るように数人の男が居る。
 なんで……逃げられたと思ったのに。
 全てを諦めたくなるような絶望に私はその場に座り込むように膝をついた。

「サーシャ?」
 
 私を探していたのか私を見つけたセボルトは様子がおかしいことに気が付き駆け寄ってきてくれる。
 逃げられると思ったのに、生きられると思ったのに。
 
「…助けて…セボルト」

 その後の記憶はあんまりない。残っているのはセボルトが私を呼ぶ声だけ。
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