23 / 24
第六章:碧眼の光に導かれ
残り香を散らす熱
「――清めてくれ」
カイルが低く、掠れた声で告げた。エリオットの細い腰を強引に引き寄せ、額を合わせた至近距離で、碧い瞳が真っ直ぐに射抜いてくる。
「触れられた感触が、反吐が出るほどに気持ち悪い。あいつの匂いが、肌に纏わりついて離れない。お前の匂いで、すべてを跡形もなく塗り潰してくれ」
その瞳に、冗談の類を孕んだ色は微塵もなかった。本能に突き動かされた、切実なまでの懇願だった。
「……ここで、か」
「ここでだ」
場所は王宮の執務室であった。議会の開会までは、一刻の猶予もない。扉一枚を隔てた廊下の向こうでは、多くの官僚や貴族が行き交っているはずだった。
「……鍵は」
「かかっていない」
「かけろ」
カイルは即座に腰から手を離し、大股で扉へと向かった。金属質の硬い音がして錠が下ろされる。その間に、エリオットは部屋の奥に鎮座する重厚なソファへと身を沈めた。
戻ってきたカイルは、忌々しそうに軍服の上着を脱ぎ捨て、白いシャツ姿になっていた。レオンの移り香が染みついた上着が床に無造作に落ちる。カイルはその亡骸を見下ろし、不快そうに眉を寄せた。
「後で速やかに洗浄させる」
「大袈裟な男だな」
「大袈裟なものか。お前以外の匂いに汚された服など、一刻も身に纏いたくないのだ」
迷いのない言葉だった。この男は常に真っ直ぐで、その純粋な強さに、エリオットは幾度となく救われてきた。
カイルがソファに片膝を突き、エリオットを押し包むように覆い被さった。革張りのソファが重苦しく軋み、エリオットの背中が柔らかいクッションに深く沈み込む。カイルの大きな手がシャツの裾から滑り込み、熱を帯びた腹筋を撫で、脇腹を辿り、胸元へと這い上がってきた。
唇が重なった。自分自身の匂いでカイルのすべてを上書きするように、深く、貪るような口付けだった。侵入した舌が口腔の奥を執拗に舐め上げ、エリオットの舌と熱く絡み合う。肺の空気が尽き果てるまで唇を離さず、離れた瞬間にまた飢えたように重ねた。カイルの唾液の味がした。決して甘くはない。だが、それが愛するカイルの味であると認識するだけで、胸の奥で渦巻いていた不快な炎が、静かに鎮まっていくのを感じた。
「……っ、カイル、息が――」
「もう少しだけだ」
唇は顎のラインを滑り、剥き出しの首筋へと移った。鎖骨を愛しむように舐め上げながら、カイルの指先がエリオットのうなじへと回った。そこに刻まれた番の噛み痕――永遠の契約を証明する証を、指の腹で優しく、しかし執拗になぞる。舌が首筋を湿らせ、同時に指先が敏感な痕を撫でた瞬間、全身に電流のような戦慄が走った。
「あ――っ」
腰が不随意に跳ねた。前後の刺激が同時に脳を焼き、甘い痺れが背骨を駆け上がっていく。
「ここを愛でれば、お前の身体は即座に無防備な反応を示すな」
「分かっていて……弄んでいるだろう……」
「当然だ」
カイルの手がシャツを強引に捲り上げ、胸元まで押しやった。露わになった乳首に熱い唇が落ちる。舌先で転がされ、吸い上げられるたびに、下腹部の奥に甘美な痺れが溜まっていく。もう片方の先端も指先で執拗に弄られ、二箇所を同時に責め立てられる快感に、思考は白く霧散しかけていた。
カイルの手が、互いのベルトを外した。衣服が乱れ、肌と肌が直接触れ合う面積が広がっていく。執務室の空気は冷ややかであったが、カイルの体温が接している場所だけが、焦げるような熱を帯びていた。
「脚、開けるか」
「……このような場所で、それほど広げたら――」
「ソファの狭さは承知している。だが、もう一刻も猶予がない」
カイルの指が背後に回り込んだ。そこはすでに、溢れ出た蜜で湿り気を帯びていた。番のフェロモンに、本能が抗いようもなく反応したのだ。カイルの指が入口を優しく解しただけで、秘液が溢れ出し、容易に二本の指を飲み込んだ。
「もう、これほどまでに濡れている」
「口に出すな」
「俺が触れれば、すぐさまこうなるな」
「黙れと言っている……」
カイルは愉悦を湛えて笑い、指を動かした。粘膜の奥を擦り上げられるたびに、甘美な波紋が全身へと広がり、声を殺し続けるのが困難になっていく。執務室の壁は厚いが、声を荒らげれば廊下にまで響く恐れがあった。エリオットは唇を強く噛み締め、漏れ出る喘ぎを喉の奥で押し殺した。
三本目の指が加わり、十分に準備が整えられた頃、カイルは指を抜いてエリオットの腰を抱き上げた。ソファの上でエリオットの脚を自らの腰に回させ、硬く昂ぶった先端を入口へと押し当てる。
「入れるぞ」
「……早く、しろ」
一息に、最奥まで貫かれた。内壁が大きく押し広げられ、背中が革のソファに強く押しつけられる。クッションが悲鳴のような音を立て、エリオットの口から堪えきれない吐息が漏れた。
「ぁ――っ、あ……」
「声を出すなと言ったのは、お前だろう」
「……っ、お前が、躊躇いなく一気に入れるからだ……」
「我慢の限界だったのだ。お前が早くしろと誘うから」
(何という子ども染みた言い訳だ。王太子ともあろう男が……あ、動くな。まだ慣れていないうちに、動くな――)
エリオットの思考など構わず、カイルは腰を引き、再び深く突き入れた。ソファの脚が床を擦り、鈍い音が部屋に響く。エリオットは反射的にカイルの強靭な肩を掴み、歯を食いしばった。しかし、鼻を抜けていく甘い声までは制御しきれない。
「声など、我慢する必要はない」
「先ほど、出すなと――」
「撤回する。お前の声を、もっと聞かせてくれ」
(どちらなのだ。勝手すぎる……あ、そこ、だめだ、そこは――)
内壁の一点を正確に擦り上げられ、視界が白濁した。カイルの腰の動きが速度を増していく。ソファが激しく揺れ、革の擦れる音と肉体がぶつかり合う卑猥な音が執務室を満たした。窓の外では王宮の庭園が春の日差しを浴び、官僚たちが何食わぬ顔で議場へと向かっているはずだった。しかし、そのような外界の喧騒など、もはや意識の端にも留まらなかった。
「カイル……カイル……もっと……」
「もっと、か?」
「もっと深く……お前に残った残滓を、すべて、俺の匂いに変えてしまいたい――」
カイルの碧い瞳に、激しい情熱が灯った。突き込みはより深く、より狂おしくなり、ソファが壁に当たって大きな衝撃音を立てた。エリオットの脚がカイルの腰に縋りつくように巻き付き、踵がその背を強く押した。より深く、最深部へ。カイルの細胞に染みついた微かな残り香を、己の存在ですべて塗り潰したかった。
カイルがエリオットの両手を掴み、ソファの肘掛けの上で指を固く絡めた。指を繋いだまま激しく腰を叩きつけられ、繋ぎ合わせた指に力がこもる。互いの関節が白くなるほどに握り締め合いながら、カイルの動きは最終的な加速へと入った。
「一緒に――」
「ああ――っ!」
絶頂が訪れた。熱い内壁がカイルを狂おしく締め上げ、下腹部の奥で甘美な爆発が弾ける。声はもはや制御不能となり、カイルの肩に顔を埋めて叫んだ。カイルも同時に、熱い奔流を最奥へと注ぎ込んだ。体内に満たされる熱を感じながら、エリオットの肢体は長い間、快感の余韻に震え続けた。繋いだ指は、最後まで離れることはなかった。
ソファの上で汗ばんだ身体を重ね合わせたまま、荒い吐息が交錯する。エリオットはカイルの首筋に鼻を寄せ、深く、何度も息を吸い込んだ。
「……よし。俺の匂いしか、しない」
「清まったか」
「清まった。完璧だ」
満足げに告げたエリオットの声には、どこか誇らしげな響きがあった。呆れたい気持ちもあったが、全身を支配する心地よい痺れが、まともな反論を許さない。ソファの革は汗で湿り、床には乱雑に脱ぎ捨てられた衣服が散乱している。王太子の執務室とは到底思えぬ惨状であった。
窓から差し込む光の角度が、緩やかに変わっていた。
「……議会が、始まっているのではないか」
「とうに始まっている頃だろうな」
カイルの口調には、焦燥の欠片もなかった。ソファに深く身を委ね、エリオットの腰を抱き寄せたまま、穏やかな表情を浮かべている。
「もう、今日はこのままでいいだろう」
「よくない。俺は領地の復興計画を、今日中に承認させる予定だったのだ」
「明日出せ。俺が即座に承認する」
「王太子権限の、著しい私的利用ではないか」
「番としての特権だ」
「そのような特権は、法典のどこにも記されていない」
「今、俺が定めた」
もはや、反論する気力さえ湧かなかった。身体は鉛のように重く、カイルの心地よい体温に包まれたまま、このソファから動くことを拒んでいた。
「……お前、レオンの匂いを口実に、情事に及んだのではないか」
「口実などではない。俺は純粋に、お前を抱きたかっただけだ」
あまりにも直接的に言われ、エリオットは言葉を失った。頬が熱く焼けるのを感じたが、無表情を貫く鉄面皮だけが救いだった。
「……まだ、繋がったままだが」
「分かっている。中があまりに心地よくて、また昂ぶってきたのだ。もう一度してから、帰るとしよう」
(何を言っているのだ、この男は)
カイルの腰が再び蠢き始めた。結合したままの最奥で、硬度を取り戻した熱が内壁を押し広げる。エリオットの身体がびくりと跳ね、敏感になった粘膜が反射的に締めつけた。
「ま、待て。議会が――」
「もういいと言っただろう」
「俺が許していない……あ、動くなと言って……っ」
カイルの唇が、抗議の言葉を封じるようにエリオットの唇を塞いだ。舌が熱く絡み合い、エリオットの気力は甘やかな快楽の海へと沈んでいく。腰はゆっくりと、しかし確実に動き始め、先ほどの激情とは異なる穏やかで深い悦びが、腹の底から広がっていった。
もはや、議会のことなど、意識の彼方へと消え去っていた。
「……屋敷に帰れば、もっと激しく愛してやるからな」
耳元で囁かれた低い声が、鼓膜を心地よく震わせた。その響きに呼応するように、下腹部にまた新たな熱が灯る。
「……底なしの欲求か、お前は」
「お前が相手であれば、幾らでも湧いてくる」
カイルが笑った。それは王太子の冷徹な仮面を脱ぎ捨てた、エリオットの番としての、純粋で無邪気な笑顔であった。
カイルが低く、掠れた声で告げた。エリオットの細い腰を強引に引き寄せ、額を合わせた至近距離で、碧い瞳が真っ直ぐに射抜いてくる。
「触れられた感触が、反吐が出るほどに気持ち悪い。あいつの匂いが、肌に纏わりついて離れない。お前の匂いで、すべてを跡形もなく塗り潰してくれ」
その瞳に、冗談の類を孕んだ色は微塵もなかった。本能に突き動かされた、切実なまでの懇願だった。
「……ここで、か」
「ここでだ」
場所は王宮の執務室であった。議会の開会までは、一刻の猶予もない。扉一枚を隔てた廊下の向こうでは、多くの官僚や貴族が行き交っているはずだった。
「……鍵は」
「かかっていない」
「かけろ」
カイルは即座に腰から手を離し、大股で扉へと向かった。金属質の硬い音がして錠が下ろされる。その間に、エリオットは部屋の奥に鎮座する重厚なソファへと身を沈めた。
戻ってきたカイルは、忌々しそうに軍服の上着を脱ぎ捨て、白いシャツ姿になっていた。レオンの移り香が染みついた上着が床に無造作に落ちる。カイルはその亡骸を見下ろし、不快そうに眉を寄せた。
「後で速やかに洗浄させる」
「大袈裟な男だな」
「大袈裟なものか。お前以外の匂いに汚された服など、一刻も身に纏いたくないのだ」
迷いのない言葉だった。この男は常に真っ直ぐで、その純粋な強さに、エリオットは幾度となく救われてきた。
カイルがソファに片膝を突き、エリオットを押し包むように覆い被さった。革張りのソファが重苦しく軋み、エリオットの背中が柔らかいクッションに深く沈み込む。カイルの大きな手がシャツの裾から滑り込み、熱を帯びた腹筋を撫で、脇腹を辿り、胸元へと這い上がってきた。
唇が重なった。自分自身の匂いでカイルのすべてを上書きするように、深く、貪るような口付けだった。侵入した舌が口腔の奥を執拗に舐め上げ、エリオットの舌と熱く絡み合う。肺の空気が尽き果てるまで唇を離さず、離れた瞬間にまた飢えたように重ねた。カイルの唾液の味がした。決して甘くはない。だが、それが愛するカイルの味であると認識するだけで、胸の奥で渦巻いていた不快な炎が、静かに鎮まっていくのを感じた。
「……っ、カイル、息が――」
「もう少しだけだ」
唇は顎のラインを滑り、剥き出しの首筋へと移った。鎖骨を愛しむように舐め上げながら、カイルの指先がエリオットのうなじへと回った。そこに刻まれた番の噛み痕――永遠の契約を証明する証を、指の腹で優しく、しかし執拗になぞる。舌が首筋を湿らせ、同時に指先が敏感な痕を撫でた瞬間、全身に電流のような戦慄が走った。
「あ――っ」
腰が不随意に跳ねた。前後の刺激が同時に脳を焼き、甘い痺れが背骨を駆け上がっていく。
「ここを愛でれば、お前の身体は即座に無防備な反応を示すな」
「分かっていて……弄んでいるだろう……」
「当然だ」
カイルの手がシャツを強引に捲り上げ、胸元まで押しやった。露わになった乳首に熱い唇が落ちる。舌先で転がされ、吸い上げられるたびに、下腹部の奥に甘美な痺れが溜まっていく。もう片方の先端も指先で執拗に弄られ、二箇所を同時に責め立てられる快感に、思考は白く霧散しかけていた。
カイルの手が、互いのベルトを外した。衣服が乱れ、肌と肌が直接触れ合う面積が広がっていく。執務室の空気は冷ややかであったが、カイルの体温が接している場所だけが、焦げるような熱を帯びていた。
「脚、開けるか」
「……このような場所で、それほど広げたら――」
「ソファの狭さは承知している。だが、もう一刻も猶予がない」
カイルの指が背後に回り込んだ。そこはすでに、溢れ出た蜜で湿り気を帯びていた。番のフェロモンに、本能が抗いようもなく反応したのだ。カイルの指が入口を優しく解しただけで、秘液が溢れ出し、容易に二本の指を飲み込んだ。
「もう、これほどまでに濡れている」
「口に出すな」
「俺が触れれば、すぐさまこうなるな」
「黙れと言っている……」
カイルは愉悦を湛えて笑い、指を動かした。粘膜の奥を擦り上げられるたびに、甘美な波紋が全身へと広がり、声を殺し続けるのが困難になっていく。執務室の壁は厚いが、声を荒らげれば廊下にまで響く恐れがあった。エリオットは唇を強く噛み締め、漏れ出る喘ぎを喉の奥で押し殺した。
三本目の指が加わり、十分に準備が整えられた頃、カイルは指を抜いてエリオットの腰を抱き上げた。ソファの上でエリオットの脚を自らの腰に回させ、硬く昂ぶった先端を入口へと押し当てる。
「入れるぞ」
「……早く、しろ」
一息に、最奥まで貫かれた。内壁が大きく押し広げられ、背中が革のソファに強く押しつけられる。クッションが悲鳴のような音を立て、エリオットの口から堪えきれない吐息が漏れた。
「ぁ――っ、あ……」
「声を出すなと言ったのは、お前だろう」
「……っ、お前が、躊躇いなく一気に入れるからだ……」
「我慢の限界だったのだ。お前が早くしろと誘うから」
(何という子ども染みた言い訳だ。王太子ともあろう男が……あ、動くな。まだ慣れていないうちに、動くな――)
エリオットの思考など構わず、カイルは腰を引き、再び深く突き入れた。ソファの脚が床を擦り、鈍い音が部屋に響く。エリオットは反射的にカイルの強靭な肩を掴み、歯を食いしばった。しかし、鼻を抜けていく甘い声までは制御しきれない。
「声など、我慢する必要はない」
「先ほど、出すなと――」
「撤回する。お前の声を、もっと聞かせてくれ」
(どちらなのだ。勝手すぎる……あ、そこ、だめだ、そこは――)
内壁の一点を正確に擦り上げられ、視界が白濁した。カイルの腰の動きが速度を増していく。ソファが激しく揺れ、革の擦れる音と肉体がぶつかり合う卑猥な音が執務室を満たした。窓の外では王宮の庭園が春の日差しを浴び、官僚たちが何食わぬ顔で議場へと向かっているはずだった。しかし、そのような外界の喧騒など、もはや意識の端にも留まらなかった。
「カイル……カイル……もっと……」
「もっと、か?」
「もっと深く……お前に残った残滓を、すべて、俺の匂いに変えてしまいたい――」
カイルの碧い瞳に、激しい情熱が灯った。突き込みはより深く、より狂おしくなり、ソファが壁に当たって大きな衝撃音を立てた。エリオットの脚がカイルの腰に縋りつくように巻き付き、踵がその背を強く押した。より深く、最深部へ。カイルの細胞に染みついた微かな残り香を、己の存在ですべて塗り潰したかった。
カイルがエリオットの両手を掴み、ソファの肘掛けの上で指を固く絡めた。指を繋いだまま激しく腰を叩きつけられ、繋ぎ合わせた指に力がこもる。互いの関節が白くなるほどに握り締め合いながら、カイルの動きは最終的な加速へと入った。
「一緒に――」
「ああ――っ!」
絶頂が訪れた。熱い内壁がカイルを狂おしく締め上げ、下腹部の奥で甘美な爆発が弾ける。声はもはや制御不能となり、カイルの肩に顔を埋めて叫んだ。カイルも同時に、熱い奔流を最奥へと注ぎ込んだ。体内に満たされる熱を感じながら、エリオットの肢体は長い間、快感の余韻に震え続けた。繋いだ指は、最後まで離れることはなかった。
ソファの上で汗ばんだ身体を重ね合わせたまま、荒い吐息が交錯する。エリオットはカイルの首筋に鼻を寄せ、深く、何度も息を吸い込んだ。
「……よし。俺の匂いしか、しない」
「清まったか」
「清まった。完璧だ」
満足げに告げたエリオットの声には、どこか誇らしげな響きがあった。呆れたい気持ちもあったが、全身を支配する心地よい痺れが、まともな反論を許さない。ソファの革は汗で湿り、床には乱雑に脱ぎ捨てられた衣服が散乱している。王太子の執務室とは到底思えぬ惨状であった。
窓から差し込む光の角度が、緩やかに変わっていた。
「……議会が、始まっているのではないか」
「とうに始まっている頃だろうな」
カイルの口調には、焦燥の欠片もなかった。ソファに深く身を委ね、エリオットの腰を抱き寄せたまま、穏やかな表情を浮かべている。
「もう、今日はこのままでいいだろう」
「よくない。俺は領地の復興計画を、今日中に承認させる予定だったのだ」
「明日出せ。俺が即座に承認する」
「王太子権限の、著しい私的利用ではないか」
「番としての特権だ」
「そのような特権は、法典のどこにも記されていない」
「今、俺が定めた」
もはや、反論する気力さえ湧かなかった。身体は鉛のように重く、カイルの心地よい体温に包まれたまま、このソファから動くことを拒んでいた。
「……お前、レオンの匂いを口実に、情事に及んだのではないか」
「口実などではない。俺は純粋に、お前を抱きたかっただけだ」
あまりにも直接的に言われ、エリオットは言葉を失った。頬が熱く焼けるのを感じたが、無表情を貫く鉄面皮だけが救いだった。
「……まだ、繋がったままだが」
「分かっている。中があまりに心地よくて、また昂ぶってきたのだ。もう一度してから、帰るとしよう」
(何を言っているのだ、この男は)
カイルの腰が再び蠢き始めた。結合したままの最奥で、硬度を取り戻した熱が内壁を押し広げる。エリオットの身体がびくりと跳ね、敏感になった粘膜が反射的に締めつけた。
「ま、待て。議会が――」
「もういいと言っただろう」
「俺が許していない……あ、動くなと言って……っ」
カイルの唇が、抗議の言葉を封じるようにエリオットの唇を塞いだ。舌が熱く絡み合い、エリオットの気力は甘やかな快楽の海へと沈んでいく。腰はゆっくりと、しかし確実に動き始め、先ほどの激情とは異なる穏やかで深い悦びが、腹の底から広がっていった。
もはや、議会のことなど、意識の彼方へと消え去っていた。
「……屋敷に帰れば、もっと激しく愛してやるからな」
耳元で囁かれた低い声が、鼓膜を心地よく震わせた。その響きに呼応するように、下腹部にまた新たな熱が灯る。
「……底なしの欲求か、お前は」
「お前が相手であれば、幾らでも湧いてくる」
カイルが笑った。それは王太子の冷徹な仮面を脱ぎ捨てた、エリオットの番としての、純粋で無邪気な笑顔であった。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第3巻 - 甘美な檻と蹂躙の獣
大の字だい
BL
失われかけた家名を再び背負い、王都に戻った参謀レイモンド。
軍務と政務に才知を振るう彼の傍らで、二人の騎士――冷徹な支配で従わせようとする副団長ヴィンセントと、嗜虐的な激情で乱そうとする隊長アルベリック――は、互いに牙を剥きながら彼を奪い合う。
支配か、激情か。安堵と愉悦の狭間で揺らぐ心と身体は、熱に縛られ、疼きに飲まれていく。
恋か、依存か、それとも破滅か――。
三者の欲望が交錯する先に、レイモンドが見出すものとは。
第3幕。
それぞれが、それぞれに。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。