15 / 19
第四章:陰謀と薬
罠
しおりを挟む
翌日の午後、ラインハルトと一緒に、ルナの屋敷へ向かった。
馬車が石畳の道を進み、揺れる車内で俺は窓の外を眺めていた。秋の空は高く澄み渡り、木々が色づき始めている。穏やかな午後の景色だ。
「まさか、シオンが選ばなかったほうのケアをするとはね。ちょっと驚いた」
ラインハルトが尋ねてくる。白銀の髪を束ね、氷のような青い瞳が俺を見つめている。
「ああ。ユーリが気にしていた」
「ユーリ君……ね。わざわざ医師を連れて見舞いに行くなんて、今までの君ならありえない」
ラインハルトが苦笑する。
「ユーリが手助けしてやれって」
「シオンって、ユーリ君の前にいるときと、全然態度が違うよね」
「お前に愛想良くする必要ないだろ」
屋敷に到着すると、ルナの父が出迎えてくれた。
「シオン様、わざわざお越しいただき感謝いたします。娘が婚約発表の日以来、部屋から出てこなくて……」
「昨日、聞いた。不安だろうから、ラインハルト先生に診てもらうといい」
俺はそう告げて、ルナの部屋へと案内される。
ルナはカーテンを閉め切った薄暗い部屋で、ベッドに横になっていた。オメガらしい甘い香りが室内から香ってくる。
ずっといるなら、匂いがこもっていてもおかしくはない――が、あまり長居したいとは思えない。
ルナにも、同じようにラインハルトを連れてきたことを告げてすぐに部屋を後にした。
診察が終わったら帰るつもりで、玄関ホールで待機した。調度品が並び、絵画が壁を飾る豪華な空間。時計の音だけが静かに響いていた。
しばらくして、二階からラインハルトが降りてきた。
「少しシオンと話したいって言ってる。僕は廊下で待ってるから」
(話すことなんてないのに)
俺はまた階段をあがる。
ルナの部屋に入る前にラインハルトが俺の肩を叩き、耳元で囁いてきた。
「僕に必死に隠していたが、彼女……ヒート中だ」
警告の言葉に、俺は眉を寄せた。
(ヒート中なのに、俺を呼んだのか)
あの甘い匂いは、部屋に閉じこもっているから香っていたわけではなく……ヒート中だから充満していただけ。
(わざとか?)
娘のヒートに合わせて、俺を呼び、番にさせようと計画しているのかもしれない。
扉をノックすると、か細い声が聞こえた。
「どうぞ」
部屋に入ると、ルナは椅子に座っていた。さっき訪ねたときはベッドに横たわっていたのに。テーブルには淹れたての紅茶が用意されており、湯気が立ち上っている。
「お紅茶でも飲みながらいかが?」
ルナが微笑みながら席を勧める。白いドレスに身を包み、銀色の髪を美しく結い上げている。頬は少し赤みがかっていて、確かによく見ればヒート中なのがわかる。
「ご厚意に感謝するが、すぐ帰るので紅茶はいらない」
俺は席には座らず、立ったままで対応した。ルナとの距離を保つ。扉の近くに立ち、いつでも出られる位置を確保する。
「随分と変わられてしまったのね」
残念そうにルナが呟いた。
「前は私と距離を詰めて、ユーリと距離をとっていたのに。遠くにいてもわかるわ、シオン様の身体からはユーリの匂いがぷんぷんします。私がもらっている報告とはかなり違う」
「報告?」
「見ます?」
ルナが立ち上がって、テーブルに置いてあった紙の束を手に持った。前に足を踏み出そうとして、突然ふらついて倒れそうになる。
俺は反射的に彼女に近づいて手を出して、ルナを支えた。
チクリと右肩に痛みが走った。
視線を落とせば、ルナが注射器で刺していた。透明な液体が俺の身体に注入されていく。
「何をして――」
「即効性のある発情誘発剤を入れました。私は今、ヒート中です。窓も閉め切って匂いを充満させておきました。すぐに辛くなるはずです。私を抱きたくて、たまらなくなる」
ルナの声が冷たい。さっきまでの弱々しさは消え、確信に満ちた響きだった。
俺は眉間に皺を寄せる。身体の奥から熱が湧き上がってくる。体内が燃え上がるように熱くなり、呼吸が荒くなる。血流が下半身に集中していき、ズボンが窮屈になるのが分かる。
「あの日も、こうやってユーリに薬を盛られたのでしょう?」
「そんなことされてない」
低く答える。
「じゃあ、どうしてユーリは今と同じ薬を手に入れていたのかしら。不思議ね。一時的にシオン様を発情状態にして、身体を使ったのでしょう? 無理やり抱かせておいて、脅されたのでしょう?」
「脅されていない」
むしろ、俺のほうが脅していたくらいだ。二階の窓から、危険を顧みずに逃げ出すくらいまで俺がユーリを追い詰めた。捕まえて、抱きしめて、離さなかった。
身体中から汗が吹き出してくる。シャツが肌に張り付き、額から汗が滴り落ちる。
「おかしいわね。シオン様とユーリは不仲だと聞いていたのに。私は嘘の情報をつかまされていたみたい。後に引けなくなったシオン様を屋敷に呼んだから、助けてあげるようにと父に言われていたのに。シオン様は律儀な人だから、手を出さなければ薬を使えばすぐに――というお話だったのに。予定と違うわ」
使用済みの注射器をテーブルに投げると、よろよろとベッドへと歩いていくルナ。目は虚ろで、正常な判断ができているようには見えなかった。まるで何かに憑かれたような、狂気じみた光を宿している。
「ルナの父の指示か?」
「父もそうですが、私もこうなってほしいと願っています」
ドレスを脱ぎ始めるルナ。肩紐を外し、布が滑り落ちていく。
俺は近づくと、腕を掴んで止めさせた。
「抱く気はない」
「抱いてもらわないと困ります。番にしてほしいです」
「番にはしない。抱きもしない」
きっぱりと告げる。どれだけ身体が苦しくても、ルナを抱くつもりはない。
「身体が辛くても?」
「ああ、どんなに辛くてもルナを抱くつもりはない」
フッと腕の力が抜け、ルナはドレスを脱ぐのをやめた。肩紐だけが外れた状態で、呆然と立ち尽くしている。俺は手を離して、ルナとの距離を保った。
「ユーリに虐められていると相談したときに信じてくれたのに。それにいつも抱きたそうに、私の身体に触れていたわ」
「過去の話だ」
恋愛対象は女だけだと思っていたし、三流の貴族が選ばれるために多少は悪どいことはするだろうという勝手な思い込みをしていたから、ルナの言葉を信じただけだ。
抱きたそうに触れていたかどうかは記憶にない。感情はなかったはずだが、ユーリとはあり得ないという差を見せつけるために、過剰な接触をしていたのは覚えている。
それを『抱きたい』と勘違いされてしまったのだろう。
「どうしてユーリを……私を好きだったはずでしょう?」
「好きではなかった。俺には二択しかなかったから、選ぶ予定だったにすぎない。だが、選ばなくてよかった。薬を盛るような女と一生を共にしたいと思わない。幻滅した。それ相応の処分を下す」
俺はルナの部屋を後にする。扉に手をかけ、開く。
「待って!」
背後で悲痛な声で呼び止められるが、聞かずに廊下に出た。
「お前……どうして。大汗で――」
廊下で待っていたラインハルトが驚きの表情となる。ハッとしてルナの部屋に目をやる。彼女はドレスを着たままでいるのを確認すると、ちょっとホッとした表情になっていた。
「誘発剤を打たれた。俺は父所有の別宅に薬が切れるまで籠る。ユーリには、今夜は帰れないと伝えておいてくれ」
「むしろ帰ったほうが――」
「この状態でユーリを抱くつもりはない。傷つけたくない」
身体は熱く、欲望が渦巻いている。ユーリを求める衝動が抑えきれない。だからこそ、近づいてはいけない。理性が効かない状態でユーリを抱けば、傷つけてしまう。優しくできない。
「――わかった」
ラインハルトが頷く。
「頼む」
俺は階段を降りて行き、玄関を出ていく。外で待機していた家臣に近づき、低く命令を下す。
「父と娘で結託して俺に薬を盛った。捕まえて、幽閉しろ」
家臣が驚愕の表情を浮かべるが、すぐに頷いて屋敷へ入っていった。
俺は馬車に乗り込み、別宅へと向かうよう御者に告げる。馬車が動き出すと、深いため息をついた。胸元のボタンを外し、滴り落ちてくる顔の汗を手の甲で拭う。
「きついな」
独り言が漏れる。身体が燃えるように熱い。下腹部が疼き、我慢できない。皮膚の下を熱い血液が駆け巡り、全身が火照っている。呼吸が荒く、喉が渇く。
馬車が揺れるたびに、ズボンの中で硬くなった熱が擦れて苦しい。
(屋敷まで――我慢できそうにないな)
ズボンをくつろがせると、硬く反り返った熱が解放される。先端から透明な液が滲み出し、血管が浮き上がるほど充血している。見ただけで、どれだけ昂ぶっているか分かる。
「ユーリ……」
名前を呟きながら、俺は自分の熱を握った。大きく、熱く、痛いほどに硬い。手を動かし始めると、すぐに快感が走る。
「はあ……っ」
荒い吐息が漏れる。馬車の中に自分の息遣いだけが響き、恥ずかしさと背徳感が交錯する。だが、止められない。
ユーリの顔が脳裏に浮かぶ。翡翠色の瞳が潤み、頬を赤く染めて俺を見上げる姿。白い肌に汗が滲み、甘い声で名前を呼ぶ姿。細い身体を抱きしめたときの感触。柔らかく、温かく、俺だけを受け入れてくれる中の熱さ。
「ああ……っ」
手の動きが速くなる。握る力を強め、上下に動かす。水音が響き、自分の行為を音が知らせる。恥ずかしいのに、快感が勝る。
ユーリを抱いたときの記憶が鮮明に蘇る。初めて繋がったときの、あの締め付け。何度抱いても飽きることのない、ユーリだけの感触。
「ユーリ……抱きたい……」
呻くように呟く。身体が、心が、全てがユーリを求めている。今すぐにでも抱きしめたい。キスをして、肌を重ねて、繋がりたい。
「くそ……っ」
歯を食いしばりながら、手を激しく動かす。快感が高まり、下腹部に熱が集中していく。もう限界だ。
「ユーリ……っ!」
名前を叫びながら、俺は達した。白濁した液が勢いよく飛び出し、手を汚す。
「はあ……はあ……」
荒い呼吸を繰り返しながら、俺は天井を見上げた。馬車が揺れ、外の景色が流れていく。汗が額から滴り落ちていった。
――全然すっきりしない。
手についた白濁の液を見つめる。一度出したというのに、反り返っている熱は全く衰えていない。むしろさらに硬くなっている気さえする。薬の効果が強すぎて、身体が休まる気配がない。
俺は再び自分の熱を握った。まだ濡れていて、手が滑る。
「ユーリ……」
名前を呟きながら、二度目の自慰行為を始めた。ユーリの妖艶な姿を思い出しながら、激しく手を動かす。
何度繰り返しても、欲望は消えない。ユーリを求める衝動だけが、ひたすら俺を支配していた。
別宅に着くまでの長い道のり。俺はただ耐えるしかなかった。馬車の中で、何度も自分を慰めながら、ユーリの名前を呼び続けた。
馬車が石畳の道を進み、揺れる車内で俺は窓の外を眺めていた。秋の空は高く澄み渡り、木々が色づき始めている。穏やかな午後の景色だ。
「まさか、シオンが選ばなかったほうのケアをするとはね。ちょっと驚いた」
ラインハルトが尋ねてくる。白銀の髪を束ね、氷のような青い瞳が俺を見つめている。
「ああ。ユーリが気にしていた」
「ユーリ君……ね。わざわざ医師を連れて見舞いに行くなんて、今までの君ならありえない」
ラインハルトが苦笑する。
「ユーリが手助けしてやれって」
「シオンって、ユーリ君の前にいるときと、全然態度が違うよね」
「お前に愛想良くする必要ないだろ」
屋敷に到着すると、ルナの父が出迎えてくれた。
「シオン様、わざわざお越しいただき感謝いたします。娘が婚約発表の日以来、部屋から出てこなくて……」
「昨日、聞いた。不安だろうから、ラインハルト先生に診てもらうといい」
俺はそう告げて、ルナの部屋へと案内される。
ルナはカーテンを閉め切った薄暗い部屋で、ベッドに横になっていた。オメガらしい甘い香りが室内から香ってくる。
ずっといるなら、匂いがこもっていてもおかしくはない――が、あまり長居したいとは思えない。
ルナにも、同じようにラインハルトを連れてきたことを告げてすぐに部屋を後にした。
診察が終わったら帰るつもりで、玄関ホールで待機した。調度品が並び、絵画が壁を飾る豪華な空間。時計の音だけが静かに響いていた。
しばらくして、二階からラインハルトが降りてきた。
「少しシオンと話したいって言ってる。僕は廊下で待ってるから」
(話すことなんてないのに)
俺はまた階段をあがる。
ルナの部屋に入る前にラインハルトが俺の肩を叩き、耳元で囁いてきた。
「僕に必死に隠していたが、彼女……ヒート中だ」
警告の言葉に、俺は眉を寄せた。
(ヒート中なのに、俺を呼んだのか)
あの甘い匂いは、部屋に閉じこもっているから香っていたわけではなく……ヒート中だから充満していただけ。
(わざとか?)
娘のヒートに合わせて、俺を呼び、番にさせようと計画しているのかもしれない。
扉をノックすると、か細い声が聞こえた。
「どうぞ」
部屋に入ると、ルナは椅子に座っていた。さっき訪ねたときはベッドに横たわっていたのに。テーブルには淹れたての紅茶が用意されており、湯気が立ち上っている。
「お紅茶でも飲みながらいかが?」
ルナが微笑みながら席を勧める。白いドレスに身を包み、銀色の髪を美しく結い上げている。頬は少し赤みがかっていて、確かによく見ればヒート中なのがわかる。
「ご厚意に感謝するが、すぐ帰るので紅茶はいらない」
俺は席には座らず、立ったままで対応した。ルナとの距離を保つ。扉の近くに立ち、いつでも出られる位置を確保する。
「随分と変わられてしまったのね」
残念そうにルナが呟いた。
「前は私と距離を詰めて、ユーリと距離をとっていたのに。遠くにいてもわかるわ、シオン様の身体からはユーリの匂いがぷんぷんします。私がもらっている報告とはかなり違う」
「報告?」
「見ます?」
ルナが立ち上がって、テーブルに置いてあった紙の束を手に持った。前に足を踏み出そうとして、突然ふらついて倒れそうになる。
俺は反射的に彼女に近づいて手を出して、ルナを支えた。
チクリと右肩に痛みが走った。
視線を落とせば、ルナが注射器で刺していた。透明な液体が俺の身体に注入されていく。
「何をして――」
「即効性のある発情誘発剤を入れました。私は今、ヒート中です。窓も閉め切って匂いを充満させておきました。すぐに辛くなるはずです。私を抱きたくて、たまらなくなる」
ルナの声が冷たい。さっきまでの弱々しさは消え、確信に満ちた響きだった。
俺は眉間に皺を寄せる。身体の奥から熱が湧き上がってくる。体内が燃え上がるように熱くなり、呼吸が荒くなる。血流が下半身に集中していき、ズボンが窮屈になるのが分かる。
「あの日も、こうやってユーリに薬を盛られたのでしょう?」
「そんなことされてない」
低く答える。
「じゃあ、どうしてユーリは今と同じ薬を手に入れていたのかしら。不思議ね。一時的にシオン様を発情状態にして、身体を使ったのでしょう? 無理やり抱かせておいて、脅されたのでしょう?」
「脅されていない」
むしろ、俺のほうが脅していたくらいだ。二階の窓から、危険を顧みずに逃げ出すくらいまで俺がユーリを追い詰めた。捕まえて、抱きしめて、離さなかった。
身体中から汗が吹き出してくる。シャツが肌に張り付き、額から汗が滴り落ちる。
「おかしいわね。シオン様とユーリは不仲だと聞いていたのに。私は嘘の情報をつかまされていたみたい。後に引けなくなったシオン様を屋敷に呼んだから、助けてあげるようにと父に言われていたのに。シオン様は律儀な人だから、手を出さなければ薬を使えばすぐに――というお話だったのに。予定と違うわ」
使用済みの注射器をテーブルに投げると、よろよろとベッドへと歩いていくルナ。目は虚ろで、正常な判断ができているようには見えなかった。まるで何かに憑かれたような、狂気じみた光を宿している。
「ルナの父の指示か?」
「父もそうですが、私もこうなってほしいと願っています」
ドレスを脱ぎ始めるルナ。肩紐を外し、布が滑り落ちていく。
俺は近づくと、腕を掴んで止めさせた。
「抱く気はない」
「抱いてもらわないと困ります。番にしてほしいです」
「番にはしない。抱きもしない」
きっぱりと告げる。どれだけ身体が苦しくても、ルナを抱くつもりはない。
「身体が辛くても?」
「ああ、どんなに辛くてもルナを抱くつもりはない」
フッと腕の力が抜け、ルナはドレスを脱ぐのをやめた。肩紐だけが外れた状態で、呆然と立ち尽くしている。俺は手を離して、ルナとの距離を保った。
「ユーリに虐められていると相談したときに信じてくれたのに。それにいつも抱きたそうに、私の身体に触れていたわ」
「過去の話だ」
恋愛対象は女だけだと思っていたし、三流の貴族が選ばれるために多少は悪どいことはするだろうという勝手な思い込みをしていたから、ルナの言葉を信じただけだ。
抱きたそうに触れていたかどうかは記憶にない。感情はなかったはずだが、ユーリとはあり得ないという差を見せつけるために、過剰な接触をしていたのは覚えている。
それを『抱きたい』と勘違いされてしまったのだろう。
「どうしてユーリを……私を好きだったはずでしょう?」
「好きではなかった。俺には二択しかなかったから、選ぶ予定だったにすぎない。だが、選ばなくてよかった。薬を盛るような女と一生を共にしたいと思わない。幻滅した。それ相応の処分を下す」
俺はルナの部屋を後にする。扉に手をかけ、開く。
「待って!」
背後で悲痛な声で呼び止められるが、聞かずに廊下に出た。
「お前……どうして。大汗で――」
廊下で待っていたラインハルトが驚きの表情となる。ハッとしてルナの部屋に目をやる。彼女はドレスを着たままでいるのを確認すると、ちょっとホッとした表情になっていた。
「誘発剤を打たれた。俺は父所有の別宅に薬が切れるまで籠る。ユーリには、今夜は帰れないと伝えておいてくれ」
「むしろ帰ったほうが――」
「この状態でユーリを抱くつもりはない。傷つけたくない」
身体は熱く、欲望が渦巻いている。ユーリを求める衝動が抑えきれない。だからこそ、近づいてはいけない。理性が効かない状態でユーリを抱けば、傷つけてしまう。優しくできない。
「――わかった」
ラインハルトが頷く。
「頼む」
俺は階段を降りて行き、玄関を出ていく。外で待機していた家臣に近づき、低く命令を下す。
「父と娘で結託して俺に薬を盛った。捕まえて、幽閉しろ」
家臣が驚愕の表情を浮かべるが、すぐに頷いて屋敷へ入っていった。
俺は馬車に乗り込み、別宅へと向かうよう御者に告げる。馬車が動き出すと、深いため息をついた。胸元のボタンを外し、滴り落ちてくる顔の汗を手の甲で拭う。
「きついな」
独り言が漏れる。身体が燃えるように熱い。下腹部が疼き、我慢できない。皮膚の下を熱い血液が駆け巡り、全身が火照っている。呼吸が荒く、喉が渇く。
馬車が揺れるたびに、ズボンの中で硬くなった熱が擦れて苦しい。
(屋敷まで――我慢できそうにないな)
ズボンをくつろがせると、硬く反り返った熱が解放される。先端から透明な液が滲み出し、血管が浮き上がるほど充血している。見ただけで、どれだけ昂ぶっているか分かる。
「ユーリ……」
名前を呟きながら、俺は自分の熱を握った。大きく、熱く、痛いほどに硬い。手を動かし始めると、すぐに快感が走る。
「はあ……っ」
荒い吐息が漏れる。馬車の中に自分の息遣いだけが響き、恥ずかしさと背徳感が交錯する。だが、止められない。
ユーリの顔が脳裏に浮かぶ。翡翠色の瞳が潤み、頬を赤く染めて俺を見上げる姿。白い肌に汗が滲み、甘い声で名前を呼ぶ姿。細い身体を抱きしめたときの感触。柔らかく、温かく、俺だけを受け入れてくれる中の熱さ。
「ああ……っ」
手の動きが速くなる。握る力を強め、上下に動かす。水音が響き、自分の行為を音が知らせる。恥ずかしいのに、快感が勝る。
ユーリを抱いたときの記憶が鮮明に蘇る。初めて繋がったときの、あの締め付け。何度抱いても飽きることのない、ユーリだけの感触。
「ユーリ……抱きたい……」
呻くように呟く。身体が、心が、全てがユーリを求めている。今すぐにでも抱きしめたい。キスをして、肌を重ねて、繋がりたい。
「くそ……っ」
歯を食いしばりながら、手を激しく動かす。快感が高まり、下腹部に熱が集中していく。もう限界だ。
「ユーリ……っ!」
名前を叫びながら、俺は達した。白濁した液が勢いよく飛び出し、手を汚す。
「はあ……はあ……」
荒い呼吸を繰り返しながら、俺は天井を見上げた。馬車が揺れ、外の景色が流れていく。汗が額から滴り落ちていった。
――全然すっきりしない。
手についた白濁の液を見つめる。一度出したというのに、反り返っている熱は全く衰えていない。むしろさらに硬くなっている気さえする。薬の効果が強すぎて、身体が休まる気配がない。
俺は再び自分の熱を握った。まだ濡れていて、手が滑る。
「ユーリ……」
名前を呟きながら、二度目の自慰行為を始めた。ユーリの妖艶な姿を思い出しながら、激しく手を動かす。
何度繰り返しても、欲望は消えない。ユーリを求める衝動だけが、ひたすら俺を支配していた。
別宅に着くまでの長い道のり。俺はただ耐えるしかなかった。馬車の中で、何度も自分を慰めながら、ユーリの名前を呼び続けた。
564
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした
うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。
獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。
怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。
「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」
戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。
獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。
第一章 完結
第二章 完結
執着騎士団長と、筋肉中毒の治癒師
マンスーン
BL
現代日本から異世界へ転生した治癒師のレオには、誰にも言えない秘密がある。
それは「定期的に極上の筋肉に触れて生命力を摂取しないと、魔力欠乏で死んでしまう」という特異体質であること!
命をつなぐため、そして何より己のフェティシズムを満たすため、レオがターゲットに選んだのは「氷の騎士団長」と恐れられる英雄ガドリエル。
「あぁっ、すごい……硬いですガドリエル様ッ!(大胸筋が)」
「……っ、治療中にそんな熱っぽい声を出すなッ」
生きるために必死で揉みしだくレオを、ガドリエルは「これほど俺の身を案じてくれるとは」と都合よく勘違い
触られたいムッツリ攻め×触りたい変態受け
抑制剤の効かない薬師オメガは森に隠れる。最強騎士団長に見つかり、聖なるフェロモンで理性を溶かされ、国を捨てた逃避行の果てに番となる
水凪しおん
BL
「この香りを嗅いだ瞬間、俺の本能は二つに引き裂かれた」
人里離れた森で暮らす薬師のエリアルは、抑制剤が効かない特異体質のオメガ。彼から放たれるフェロモンは万病を癒やす聖なる力を持つが、同時に理性を失わせる劇薬でもあった。
ある日、流行り病の特効薬を求めて森を訪れた最強の騎士団長・ジークフリートに見つかってしまう。エリアルの香りに強烈に反応しながらも、鋼の理性で耐え抜くジークフリート。
「俺が、貴方の剣となり盾となる」
国を救うための道具として狙われるエリアルを守るため、最強の騎士は地位も名誉も投げ捨て、国を敵に回す逃避行へと旅立つ。
シリアスから始まり、最後は辺境での幸せなスローライフへ。一途な騎士と健気な薬師の、運命のBLファンタジー。
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない
北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。
ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。
四歳である今はまだ従者ではない。
死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった??
十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。
こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう!
そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!?
クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる