原作では幽閉される悪役Ωなのに、最強αに溺愛監禁されました

ひなた翠

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第四章:陰謀と薬

身を持って知れ

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 城の地下にある牢獄へと足を運んだ。

 石造りの廊下は冷たく、松明の炎が壁に揺れる影を作っている。湿った空気が肌にまとわりつき、カビの匂いが鼻をつく。足音が反響し、鉄格子の向こうから微かな呻き声が聞こえてくる。

 牢獄の前で立ち止まると、看守が頭を下げて扉を開けた。

 少し離れた位置に、一人がけの椅子が用意されていた。俺はそこに座り、足を組んだ。冷たい石の床、湿った空気、閉ざされた空間。ルナ親子を閉じ込めるには充分な場所だ。

 ヒート中で辛い身体のまま幽閉されたルナは、服が乱れた状態で横になっていた。白いドレスは汗で張り付き、銀色の髪が顔に貼りついている。荒い呼吸が聞こえ、身体が小刻みに震えている。

「随分と辛そうだな」

 俺が声をかけると、ルナがゆっくりと顔を上げた。紅潮した頬、涙で濡れた目、震える唇。苦しんでいる様子が一目で分かる。

「……シオン様、食事に何か……混ぜましたか?」

 か細い声で尋ねてくる。
 俺はニヤリと口元を緩めて、胸元から小瓶を取り出した。透明の液体を揺らしながら、ルナに見せる。

「見覚えは?」
「私が使った――」

 ルナの声が震える。

「厳密に言えば、ユーリが持っていたものだが。数滴だけ、飲み物に混ぜた」

 小瓶を指先で転がしながら答える。月明かりを反射して、液体が妖しく光る。

「助けてください」

 紅潮した顔でルナが辛そうに涙を流して懇願してくる。鉄格子に手を伸ばし、必死な表情で俺を見つめる。

「たった数滴でこれだけの効果があるんだ。お前は、俺に大量に注入してくれたな」
 俺の声は冷たい。感情を込めず、事実だけを告げる。

「抱かれたい……」
 ルナが呻くように呟く。

「抱くわけないだろう。人を陥れた女など」
 きっぱりと告げる。ルナの顔が絶望に染まり、涙が頬を伝って落ちる。

「ユーリだって同じ薬を持って……シオン様に使った、はず」
 最後の希望にすがるように言うルナ。

「使ってない。買ったままの状態で、ユーリの自室のクローゼットから押収したものだ」
「押収?」

「お前が言ったんだぞ? 忘れたのか? ユーリから執拗に虐められている、と。毎度、俺と会う時に変な薬を飲まされ、体調が悪くなるように仕組まれているから調べてほしいと泣きついたのを忘れたのか。お前の言葉を信じて、調べた。確かに購入していた」

 俺は小瓶を見つめた。透明な液体が揺れ、光を反射する。

「ユーリ本人は使う気はなかったみたいだが」
 俺は小瓶からルナへと視線を移した。

 ユーリの両親や親戚たちがいろいろと裏から手を回していたことは知っていた。ユーリが婚約発表の場で何かをやらかしたら、一族もろとも一気に始末する予定だった。まさかユーリが『運命の番』だとわかったときは驚いた。全ての計画が変わった。

「調べた結果、体調悪くなるように仕組んでいたのはユーリではなかった」

 ユーリの両親が金で買収した使用人がやっていた。ルナに体調不良を起こさせて心象が悪くなればユーリのイメージが良くなると思ってのことらしい。浅はかな考えだ。

「シオン様!」

 横から呼ばれて、顔を動かすと同じく別の部屋に閉じ込められているルナの父親が鉄格子を掴んでこちらを見ていた。顔色は悪く、目の下に隈ができている。

「娘を解放してください。悪いのは私です。すべて私が仕組んだこと。娘は何も知りません」
 必死に訴えかけてくる。

「仕組んだのはお前だろうな。だが、誘発剤とわかっていて刺したのはルナ本人だ。解放する気はない。それに俺の城に勝手に侵入した罪もある」

 冷たく告げる。感情を込めない。ただ事実だけを突きつける。

「――ユーリが……話した、の、ね」
 ルナが苦しそうに呟く。

「ユーリは言うつもりはなかったようだがな。言わなくても、知っていた。お前、誰の城に侵入したと思っている?」

 俺の城だ。俺の領地だ。全てが俺の支配下にある。侵入者を見逃すはずがない。

「申し訳、ありません」
 ルナが頭を下げる。

「俺を裏切ったらどうなるか――ユーリの一族の末路を見て、わかっていたのに、よく行動に移せたな」
「……番にならない、といけなかったから」

 ルナが震える声で答える。
 俺はルナの父親へと視線を動かした。

 ユーリもルナも、親の出世のために使われただけ。自分の意思ではない。ただ特異体質で、優秀な子をちょっとばかり産みやすいからと政治に使われた。

 気分が悪いな。

「理由はわかった。だが酌量の余地はないと思え。結果がわかっていて、行動を起こした罪は重い」
 立ち上がりながら告げる。椅子が石の床に音を立てる。

「――はい」
 ルナが力なく答える。

 俺が牢獄を後にしようとすると、ルナの父親が叫んだ。

「シオン様! どうか! どうか、娘だけは……」
 鉄格子を掴み、必死に訴えかけてくる。

「今更! ……今更、庇うくらいなら最初から我が子を追い詰めるな。利用するな。お前の浅はかな野望のせいで、負う罪だ」

 怒りを込めて告げる。自分の娘を道具として使い、追い詰め、最後に庇おうとする。そんな偽善は受け入れられない。

 俺は牢獄を後にする。重い鉄の扉が閉まり、鍵がかけられる音が響く。入れ替わるように、看守がルナに水を届けにいっていた。

 出口ではラインハルトが待っていた。白い医療官服を纏い、腕を組んで壁に寄りかかっている。

「シオン、言われた通りに薬の中和剤を入れた水を届けさせたけど、いいの?」
 氷のような青い瞳が俺を見つめる。

「ただでさえ、ヒートで辛いんだ。効果の辛さえわかればいい」
 俺は廊下を歩き出す。松明の炎が揺れ、影が壁を這う。

「優しいね。僕だったら、同量の誘発剤を飲ませたけどな」
 ラインハルトが苦笑しながら後を追ってくる。

「――ユーリが、気に病んでいる。なぜか自分のせいだと、思っているから」

 ユーリの顔が脳裏に浮かぶ。申し訳なさそうな表情。自分のせいだと思い込んでいる様子。あんな顔をさせたくない。

「ユーリ君のことになると、途端に甘くなるよね」
 ラインハルトが笑う。

「自分でも不思議だ」

 本当に不思議だ。今まで誰にも興味を持たなかった俺が、ユーリのことになると感情的になる。怒り、嫉妬、愛情。全てがユーリに向かっている。

 ラインハルトがフッと微笑んだ。優しい笑みだった。

「それが愛だよ、シオン」
 ラインハルトの言葉に、俺は何も答えなかった。ただ、胸の奥が温かくなるのを感じた。

(愛――か)

 ユーリへの愛が、俺を変えた。冷たかった心に、熱が宿った。誰にも興味を持たなかった俺が、ユーリだけは手放したくないと思うようになったのだろう。

 地下から地上へと続く階段を上る。冷たい空気から、温かい空気へと変わっていくの感じながら。
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