年下αの一途な愛〜離さない、諦めない〜

ひなた翠

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第二章:神宮寺父の介入

父からの脅迫

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 午前の診察が終わり、昼休憩に入ろうとした瞬間、受付から内線が鳴った。受話器を取ると、受付の声が緊張している様子で「先生にすぐに会いたいとおっしゃってる方が……」と告げてくる。僕は時計を見て、予約外の訪問者に眉をひそめた。

「どなたですか?」
「神宮寺様とおっしゃっています」

 名前を聞いて、肩がびくっと跳ねた。

(神宮寺は外来の日で、ここに来れるはずがない)
 ――父親か。

「わかりました。診察室へ通してください」

 受話器を置いて、僕は白衣の襟を正す。診察室のドアがノックされ、僕は「どうぞ」と声をかけた。ドアが開いて入ってきたのは、高級なスーツを着こなし、オールバックに整えられた白髪混じりの黒髪で、神宮寺とよく似た男性だった。あいつと違うのは、明らかに威圧感を放ち、僕を蔑んだ目で見ていることだ。鋭い目つきが僕を捉えて、冷たい視線が刺さった。

「初めまして。神宮寺記念病院の院長、神宮寺拓郎です」
 男性が名刺を差し出して、僕は受け取る。
「当クリニックの院長の三浦誠です。お座りください」

 僕は椅子を勧めて、自分も向かい側に座った。神宮寺父が椅子に座り、僕を見つめる。威圧的な視線に僕は背筋を伸ばして、表情を変えないように努めた。

「息子が世話になっているようで」
「お世話になっているのは僕のほうです。カウンセリングの担当医師として大変助かっております」
「それだけですか」

 神宮寺父の声に棘があって、僕は警戒心を強める。神宮寺父がスーツの内ポケットから封筒を取り出して、机の上に置いた。封筒から写真を数枚取り出して、僕の前に並べる。

 写真を見た瞬間、僕の血の気が引いた。

 一枚目の写真は、クリニックの診察室で撮られたものだった。窓越しに撮影されていて、僕が診察用のベッドに押し倒されている姿が写っている。神宮寺が僕の上に覆い被さって、白衣を着たままの僕の首筋に顔を埋めている。僕の顔は真っ赤に染まっていて、神宮寺の肩に手を回している。

 二枚目の写真は、同じく診察室の窓から撮られたもので、神宮寺が僕にキスをしている瞬間が捉えられている。

 三枚目の写真を見て、僕は息を呑んだ。僕のアパートの寝室で撮られたものだ。カーテンの隙間から撮影されたらしく、ベッドの上で神宮寺と重なり合っている姿が写っている。二人とも裸で、神宮寺が僕の後ろから抱いている体勢だった。

 四枚目の写真は、同じくアパートの寝室で、僕が神宮寺の上に跨っている姿が写っている。

(――気づかなかった)
 僕は写真を見つめて、拳を握りしめる。

「僕にどうしろと?」
「ああ、話の早い方で良かった。息子に見合い話があります」

 神宮寺父が別の写真を取り出して、僕の前に置く。可愛らしい顔立ちの若い女性が写っていて、清楚な雰囲気を纏っている。オメガの女性だ。

「大手銀行の頭取の娘さんです。とても良いお話で、息子の将来にも相応しい」
 神宮寺父の声が冷たく響く。

「それはおめでとうございます」
「早急に息子との関係を断ってください」

 神宮寺父が写真を指差して、にやりと微笑んでくる。

「もし断らないなら、この写真を拡散します。院内でいかがわしいことをする医師だと、SNSに流したら、こんな小さなクリニック、すぐに潰せる」

(ああ、この感じ――)
 胸の奥がムカムカする。

「僕から関係を断つことは簡単ですが、あなたのご子息が勝手に出入りしてるんです。それを止めるのは父親であるあなたがやってください」

 僕が冷静に言うと、神宮寺父の顔が歪んだ。怒りが表情に浮かんで、机を叩く音が響く。

「生意気な口を利くな。いくらほしいんだ? 淫乱オメガめ」
(だから、金持ちアルファは嫌いなんだ)

 僕は立ち上がって窓を開け放つ。冷たい風が診察室に吹き込んで、僕は神宮寺父を見下ろした。

「お金はいりません。興味ないので。さっさと出て行ってもらえます? アルファの匂いを嫌がる患者もいるので、いち早く換気したい」

 僕の冷たい声に、神宮寺父が立ち上がる。近づいてきて、僕の腕を掴もうとした。

「そういう先生の身体からも、うちの息子のアルファの匂いがプンプンするが? ここで咥え込んでいるんだろう」
 神宮寺父の手が僕の尻に伸びてきて、僕は腕を振り払った。

「触るな」

 僕の低い声に、神宮寺父が鼻で笑った。馬鹿にしたような笑みを浮かべて、神宮寺父が見合い相手の写真をしまう。

「一ヶ月待ちます。新しいカウンセラーを探す時間も必要でしょう。それまでに息子との関係を断ってください。でないと、この写真が世間に出回ることになります」

 神宮寺父が診察室を出て行って、ドアが閉まる音が響いた。僕は窓に手をついて、深呼吸を繰り返す。
 怒りが込み上げてきて、僕は拳で机を叩いた。神宮寺父の侮辱的な言葉が頭の中で繰り返される。

彼からしたら僕は淫乱オメガで、息子を誘惑した下賤な存在なのだろう。オメガは一人の人間として扱う気はないのだ。ただの性欲処理の道具でしかない。

 住む世界が違う人間とは、必ず別れが来る。

(神宮寺との関係もこれで終わりか)

 僕は机に向かって座り、カウンセリングの予約表を開いた。一ヶ月分の予約が入っている、全て神宮寺が担当する予定だった患者たちだ。僕は電話を手に取って、患者に連絡を始める。

(新しい精神科医を探そう)

「申し訳ございません。担当のカウンセラーが都合により変更になりまして、別の日程に変更していただけますでしょうか」

 一人ずつ丁寧に説明して、予約を変更してもらう。患者さんたちは快く承諾してくれて、僕は予約表を修正していった。一ヶ月分の予約が全て別の日に移動して、神宮寺が来る理由はなくなる。

(――これで終わりだ)
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