年下αの一途な愛〜離さない、諦めない〜

ひなた翠

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第三章;別れのとき

オメガの反撃

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 土曜日の夜、僕は神宮寺とのデートの約束をしたバーに一人で座っていた。カウンター席ではなく、奥のボックス席を選んで背もたれに寄りかかる。グラスに注がれたウイスキーを口に含んで、喉を通る熱さを感じた。琥珀色の液体が氷に当たって音を立てて、僕は氷が溶けていく様子を見つめる。

 バーは落ち着いた雰囲気で、照明が暗めに設定されている。ジャズの音楽が静かに流れていて、大人の客が数人カウンターに座っていた。僕が選んだボックス席は壁際にあって、他の客から少し離れている。

 バーの入口のドアが開く音が聞こえて、僕は視線を向ける。鷲津が入ってきて、店内を見回した。僕を見つけると、鷲津の顔に勝ち誇ったような笑みが浮かぶ。意気揚々と歩いてきて、僕の座るボックス席に近づいてきた。

 鷲津が僕の正面ではなく、隣に座ってくる。身体を寄せてきて、肩が触れる距離まで詰めてくる。いやらしい笑みを浮かべて、鷲津の手が僕の肩に触れた。馴れ馴れしく撫でるように触れてきて、僕の身体が強張る。

(やっぱり気持ち悪い)

 鷲津に触れられると、嫌悪感が全身を駆け巡る。神宮寺に触れられる時とは全く違い、吐き気がする。皮膚が粟立って、触れられた場所が汚れた気がする。

「やっとその気になってもらえて嬉しいです」

 鷲津がそう言いながら、僕の手を握りしめてきた。大きな手が僕の手を包み込んで、強引に指を絡めてくる。僕は手を引こうとしたが、鷲津が離してくれない。鷲津の手のひらは湿っていて、気持ちが悪かった。

「先生、今夜は特別な夜になりますよ」
 鷲津が嬉しそうに言って、僕の耳元に顔を近づけてくる。

「この前は途中で邪魔が入ったから、今夜はゆっくりと過ごせしましょうね」

 鷲津が耳元で囁いて、吐息が首筋にかかる。アルファのフェロモンが鼻につき、僕は顔を背けた。
 鷲津の手が僕の太腿に伸びてきて、ゆっくりと撫で上げてくる。僕は鷲津の手を掴んで、太腿から離した。

「まだ話も聞いていないのに、焦りすぎじゃないですか」
 僕が冷たく言うと、鷲津が笑った。

「焦ってなんかいませんよ。ただ、先生がこんな夜に二人きりで会いたいって言うから、てっきり……ね」

 鷲津がバーテンダーを呼んで、ウイスキーを注文する。グラスが運ばれてきて、鷲津が一口飲んだ。僕を見つめて、欲望に満ちた目で僕を観察している。

「先生から連絡があって、すぐに近くのホテルを予約したんです。これを飲んだら移動しましょう」
「何をどう勘違いなさっているか知りませんが」

 僕が冷たい声で言うと、僕はカバンの中から封筒を取り出して、テーブルの上に置く。鷲津の視線が封筒に注がれた。

「これは?」
「開けて確認してください」

 僕が静かに言うと、鷲津が封筒を手に取った。封を開けて、中身を取り出す。

「何が入っているか知りませんが、こんなことをして――」

 鷲津が軽い調子で言いながら、封筒の中身を確認した瞬間、言葉が止まった。鷲津の顔が強張って、手に持った写真を凝視する。何枚かの写真と、探偵からの報告書に鷲津の顔から血の気が引いて、青ざめていった。

 僕は鷲津の反応を冷静に観察して、グラスのウイスキーを一口飲んだ。喉を通る熱さを感じながら、鷲津が写真を一枚一枚見ていく様子を眺める。

「あなたと神宮寺の父親が手を組んでいる証拠です。こんなに早く証拠が手に入るとは驚きでした」

 僕が静かに言うと、鷲津が写真から顔を上げて僕を見た。驚きと怒りが混ざった表情で、写真を握りしめている。

「先日、僕に乱暴なことをしながら口走った言葉がどうしても気になりまして」
 僕が静かに言葉を続けると、鷲津が僕を睨みつける。

「すぐには証拠を取れるとは思わなかったんですが――」
 僕がグラスを傾けて、ウイスキーを一口飲む。

「白昼堂々と僕の話をしていただきありがとうございます。おかげで、神宮寺院長とあなたの関係が簡単に手に入って、すぐに決着がつけられて安心しました」

 探偵が優秀だったおかげで、鷲津と神宮寺父の接触記録がすぐに集まった。レストランでの会話も録音されていて、僕の名前が何度も出てくる。神宮寺父が鷲津に「三浦を誘惑しろ」と指示している音声も入っていた。

 僕の言葉に、鷲津の拳がテーブルを叩いた。グラスが揺れて、中のウイスキーが波打つ。氷がグラスに当たって、カチンと音を立てる。

「お前……オメガのくせに」

 鷲津が低い声で呻いて、プライドを踏みにじられた怒りを僕にぶつけてくる。顔が怒りで真っ赤に染まって、目が血走っている。オメガに騙されたとあっては、アルファとしてのプライドが許さないのだろう。

「何が目的だ! 金か?」
「お金に興味はありません。この情報を使って、脅したりもしません。ただ僕の前を、金輪際うろつかないでください」

 僕は鷲津を見つめて、冷たく笑った。鷲津の怒りなど、どうでもいい。

「ここの支払い、あなたに任せますね」

 僕が席を立とうとすると、鷲津が僕の腕を掴んだ。強い力で引き戻されて、僕は鷲津を見下ろす。鷲津が僕を睨み上げて、怒りに染まった顔が醜く歪んでいた。爪が僕の腕に食い込んで、痛かった。

「離してもらえませんか」
「ふざけるな! オメガの分際で俺を嵌めやがって!」

(嵌めたのはそっち)

 鷲津が怒鳴って、周囲の客が振り返る。バーテンダーが心配そうにこちらを見ていて、僕は大丈夫だと手で合図した。

「あんたが単純に言い寄ってくる馬鹿だったら、僕は今夜一回くらいは寝たかもしれませんね」

 僕が冷たく言い放つと、鷲津の顔がさらに歪んだ。屈辱に満ちた表情になり、鷲津の手がさらに強く僕の腕を掴む。

 僕はテーブルの上のグラスを手に取って、中のウイスキーを鷲津の顔に浴びせた。琥珀色の液体が鷲津の顔にかかって、鷲津が驚いて目を閉じる。ウイスキーが顔から滴り落ちて、高級スーツを濡らしていく。氷がスーツに当たって、床に落ちた。

「優秀なアルファ様だからって、オメガがすぐに足を開くと思わないでください」

 僕が低い声で言い放って、鷲津の手を振り払う。鷲津が何か言おうとしたが、僕は足早にバーを出た。扉を開けて外に出ると、冷たい夜の空気が頬に触れる。深呼吸をして、僕は歩き出した。
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