1 / 9
プロローグ
しおりを挟む
立て肘に顔を預け、流し目を窓の外に向けながら俺は憂鬱な溜息を吐く。
視線の先では体育の授業が行われ、教師の笛に合わせて四人ずつ猛ダッシュしている。
「この世界の人間は大変だな」
そう呟くのと同時に、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
短い休憩時間の後、ホームルームの為に担任が登場する。些細な連絡事項を伝え、気ぃ付けて帰れよという言葉を残して担任は教室を後にする。
学生にとってのお勤めが終わり、生徒たちは談笑しながら一人、また一人と居なくなっていった。
俺もその例に漏れず教科書を鞄に詰め込んでいたのだが、ふと気配を感じて振り返る。
「よう瑛太、一緒に帰ろうぜ」
そこには案の定、よく知った顔が立っていた。隣のクラスの柳正司。向かいの家に住む、いわゆる幼馴染ってやつだ。こいつがどんな人間かわかりやすく表すなら、使う言葉は一つでいい。お調子者。その言葉だけで十分だ。
「はいよ…… おっし、オッケー」
帰り支度を素早く済ませ席を立つと、スマホとにらめっこしている正司に声をかけ、俺たちは家路についた。
俺たちは別段話すこともなく、もくもくと家を目指す。十年以上ほぼ毎日一緒に帰っていると、会話が弾む事もそうそう無くなってくるものだ。ましてや学生の身である。降りかかる出来事はほとんど一緒に経験するわけだから、その傾向は猶更だ。
「最近なんかおもしろい漫画とかねぇの?」
そら見た事か、全く同じ質問を三日前にされたぞ。
「あのなぁ、そう簡単に新たな出会いなんてないぞ」
手持無沙汰な右手をポケットに突っ込み、俺は面倒臭さを前面に押し出して答えてやった。
「まぁそうだよなぁ。でもな、実は俺は出会ったんだよ、めっちゃくちゃ面白ぇ漫画に」
教えて欲しいか? という気持ちがドヤ顔からひしひしと伝わってくる。まぁまだ暫くはこいつと一緒に居るわけだ。ここでシカトしたところで、さらに面倒な感じになることは目に見えている。
「ふーん、どんなジャンルの漫画なんだ?」
俺は正司の求めているであろう答えを返した。
「お、食いついた? いいじゃんいいじゃん! ジャンルは……」
お前は魚のアタりに興奮する釣り人か。
「異世界転生もの! まぁ信頼と実績の人気ジャンルだな。むしろ最近は作品が多過ぎて信頼に陰りが見えるくらいだ」
確かに。ここ数年の漫画やアニメに何度も見るジャンルだが…… やばいな。饒舌タイムの予感が……。
「ぐんゆうきゃっこ…… もとい! 群雄割拠するそのジャンルの中に、綺羅星の如く現れた新作!」
嗚呼、これはもう始まってるな。もう止まらない。
「主人公が不慮の事故で死んだと思ったら、死後の世界で神様的な存在が出てきて、なんやかんやあって冒険の香り半端ない世界に転生するという、あえてド王道の設定に挑んだ漫画、その名も……」
「あ、家に着いたから、それじゃ」
「ちょっと待てぇぇぃ!」
うわ、面白いくらいにビシッとこっち向いた。鼻息がフンスフンスなってるし。
「わかったわかった、聞くよ。で? その名も?」
一旦呼吸を整えた後、正司は目一杯息を吸い込んだ。
「なるほど・ザ・異世界」
本日最高のドヤ顔オブ正司。あー「決まった」とか思ってるんだろうなぁ。
「大丈夫なのかその名前。よくわからないけど危ない気がするぞ」
「何が? シンプルでいいじゃんか」
確かにシンプルではあるのだが…… なんだろう杞憂であってほしい。
「まぁ、なんにせよ面白いからさ、お前も一回読んでみろよ。んじゃぁ良いタイミングで家に着けて満足したし、また明日な!」
「マジでタイミング良すぎだろう。まぁ気が向いたら読んでみるよ。じゃぁな」
俺達はそれぞれの家の玄関を開けた。
視線の先では体育の授業が行われ、教師の笛に合わせて四人ずつ猛ダッシュしている。
「この世界の人間は大変だな」
そう呟くのと同時に、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
短い休憩時間の後、ホームルームの為に担任が登場する。些細な連絡事項を伝え、気ぃ付けて帰れよという言葉を残して担任は教室を後にする。
学生にとってのお勤めが終わり、生徒たちは談笑しながら一人、また一人と居なくなっていった。
俺もその例に漏れず教科書を鞄に詰め込んでいたのだが、ふと気配を感じて振り返る。
「よう瑛太、一緒に帰ろうぜ」
そこには案の定、よく知った顔が立っていた。隣のクラスの柳正司。向かいの家に住む、いわゆる幼馴染ってやつだ。こいつがどんな人間かわかりやすく表すなら、使う言葉は一つでいい。お調子者。その言葉だけで十分だ。
「はいよ…… おっし、オッケー」
帰り支度を素早く済ませ席を立つと、スマホとにらめっこしている正司に声をかけ、俺たちは家路についた。
俺たちは別段話すこともなく、もくもくと家を目指す。十年以上ほぼ毎日一緒に帰っていると、会話が弾む事もそうそう無くなってくるものだ。ましてや学生の身である。降りかかる出来事はほとんど一緒に経験するわけだから、その傾向は猶更だ。
「最近なんかおもしろい漫画とかねぇの?」
そら見た事か、全く同じ質問を三日前にされたぞ。
「あのなぁ、そう簡単に新たな出会いなんてないぞ」
手持無沙汰な右手をポケットに突っ込み、俺は面倒臭さを前面に押し出して答えてやった。
「まぁそうだよなぁ。でもな、実は俺は出会ったんだよ、めっちゃくちゃ面白ぇ漫画に」
教えて欲しいか? という気持ちがドヤ顔からひしひしと伝わってくる。まぁまだ暫くはこいつと一緒に居るわけだ。ここでシカトしたところで、さらに面倒な感じになることは目に見えている。
「ふーん、どんなジャンルの漫画なんだ?」
俺は正司の求めているであろう答えを返した。
「お、食いついた? いいじゃんいいじゃん! ジャンルは……」
お前は魚のアタりに興奮する釣り人か。
「異世界転生もの! まぁ信頼と実績の人気ジャンルだな。むしろ最近は作品が多過ぎて信頼に陰りが見えるくらいだ」
確かに。ここ数年の漫画やアニメに何度も見るジャンルだが…… やばいな。饒舌タイムの予感が……。
「ぐんゆうきゃっこ…… もとい! 群雄割拠するそのジャンルの中に、綺羅星の如く現れた新作!」
嗚呼、これはもう始まってるな。もう止まらない。
「主人公が不慮の事故で死んだと思ったら、死後の世界で神様的な存在が出てきて、なんやかんやあって冒険の香り半端ない世界に転生するという、あえてド王道の設定に挑んだ漫画、その名も……」
「あ、家に着いたから、それじゃ」
「ちょっと待てぇぇぃ!」
うわ、面白いくらいにビシッとこっち向いた。鼻息がフンスフンスなってるし。
「わかったわかった、聞くよ。で? その名も?」
一旦呼吸を整えた後、正司は目一杯息を吸い込んだ。
「なるほど・ザ・異世界」
本日最高のドヤ顔オブ正司。あー「決まった」とか思ってるんだろうなぁ。
「大丈夫なのかその名前。よくわからないけど危ない気がするぞ」
「何が? シンプルでいいじゃんか」
確かにシンプルではあるのだが…… なんだろう杞憂であってほしい。
「まぁ、なんにせよ面白いからさ、お前も一回読んでみろよ。んじゃぁ良いタイミングで家に着けて満足したし、また明日な!」
「マジでタイミング良すぎだろう。まぁ気が向いたら読んでみるよ。じゃぁな」
俺達はそれぞれの家の玄関を開けた。
0
あなたにおすすめの小説
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
異世界に無一文投下!?鑑定士ナギの至福拠点作り
花垣 雷
ファンタジー
「何もないなら、創ればいい。等価交換(ルール)は俺が書き換える!」
一文無しで異世界へ放り出された日本人・ナギ。
彼が持つ唯一の武器は、万物を解析し組み替える【鑑定】と【等価交換】のスキルだった。
ナギは行き倒れ寸前で出会った、最強の女騎士エリスと出会う。現代知識とチート能力を駆使して愛する家族と仲間たちのために「至福の居場所」を築き上げる、異世界拠点ファンタジーストーリー!
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる