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再び魔法を手にした俺にとって、目の前のチンピラなど耳障りな蚊の様なものだ。
「事情を飲み込めていない所悪いけど、アンタはやり過ぎた。殺しはしないから安心して気絶してろよ」
俺は立てた右手の人差し指を男に向かってクイと倒した。
「何これ…… 風……?」
男のそばに居たゆっこの髪がふわりとなびく。なびいた髪がゆっくりと元に戻る間にそれは起きた。
「おごっ……!」
怒りに我を忘れた象の一撃を喰らったかのように、男の体がとんでもない速度で左に吹き飛んだ。壁に叩きつけられた反動で男の口から血飛沫が上がる。
「がっ……」
意味のない言葉を最後にピクリとも動かなくなる。どうやら気を失ったようだ。それを見届け事の終わりを確信したのち、俺はゆっこに近づきゆっくりと腰を下ろした。俺の姿を目で追っていたゆっこは、俺が隣に腰を下ろす瞬間、ビクッと体を震わせて縮こまる。
「怖がらせて悪かった」
逃げようとするゆっこの肩に手を回し、その動きを阻止する。
「……いやっ!」
その怯えた目は俺ではなく宙を彷徨い見ている様だ。
「ごめん、ちょっと我慢してくれ」
俺は震えるゆっこを無視して気付だらけの頬に手を近づけた。彼女は抵抗を一層激しくしたが、気にせず俺は近づけた手に魔力を込めた。淡い薄緑色の光がゆっこの顔を照らす。
「あっ…… な、に……?」
ゆっこが驚きの声を上げた頃には、彼女の顔は元の可愛らしい顔に戻っていた。
「ほら」
付近に散乱していた制服を拾い集めゆっこの体にそっと掛ける。そして俺はゆっこに背を向けてその場に胡坐をかいた。
「こいつらはそうそう目を覚まさないだろうから、ゆっくりと服来ていいぞ。まぁ目ぇ覚ましても大丈夫だし」
こんな時にかける言葉を俺は知らない。自己嫌悪を振り払うように、俺は倒れている三人の男に拘束魔法をかけた。
「鉄枷」
小さくそう呟くと男たちの両手首が鉄の鎖で縛られた。
五分程時間が流れただろうか。重苦しい空気にゆっこの弱々しい声が割って入った。
「瑛太、ありがと…… あと、ごめんなさい」
「ん、いいよ。俺こそ遅くなってごめん。あと、怖がらせてごめん」
背後で衣擦れの音がする。
「ううん、怖かったのは瑛太っていうより男の人。助けてくれたのに酷い態度とってごめんね」
「いやそれは当然の事だろ」
「うん……」
だけど、と続けようとしたゆっこの言葉を遮って俺は続けた。
「服、来たんだろ? とりあえずここから出よう」
「……そうだね」
俺たちは胸糞悪い部屋を後にした。
「待った?」
年季の感じる小さなアパートの一室からゆっこが出てきた。無理やり作ったであろう笑顔が痛々しい。
「いいや全然。てかさ、今日はもう家に帰ってもよかったんじゃない?」
「うん、でもおばあちゃん一人暮らしで寂しいだろうし、約束してたから」
普段より小さな声が彼女が普通の心情でない事を物語る。もっともそれは至極当然な事、むしろこうやって祖母の気持ちを考えてあげられている事の方が異常だ。
「そっか。じゃぁ…… 帰るか」
「うん」
俺たちは暫く無言で歩いていた。太陽は傾き、もうそろそろ夕焼けが街を覆うだろう。
「ゆっこは知ってたんだな。あの辺りの治安が悪い事」
「え? うん。だから一人で行くのはちょっと怖かったんだよね」
「そっか」
これ以上彼女に謝罪をしても意味はない。俺は心の中であの時一緒に帰らなかった事を再び謝罪した。
「助けに来てくれてありがとね」
「おう」
「また何かあったら、その時も瑛太が助けてね」
「おう」
俺の返事を聞いた彼女は少しだけ笑った。その笑顔は俺がよく知るものに随分近かったような気がした。
「そういえば……」
「ん?」
「あの不思議な力は何だったの?」
やはりというか案の定というか……。
「気になるよな。あれはまぁなんだ…… 魔法ってやつだ」
それを伝える事に少しの抵抗があった。
「そっか魔法かぁ」
「あれ、驚かないんだな」
「うん。だって見た時に魔法みたいだって思ってたもん。むしろ納得した感じかな」
「そんなもんか」
「うん、そんなもん」
日常的な会話に魔法という非日常的な単語が入っている状況に、俺は思わずクスッときてしまった。慌ててゆっこを見ると、彼女もクスクスと笑っていた。
「なぁ、ゆっこ。明日からしばらく学校休んでも良いと思うぞ」
俺の言葉に暫く考え込んだあと彼女は答えた。
「ううん、学校行くよ。顔の傷は治っちゃったからお母さんたちになんて言ったらいいかわからないし……」
「わからないし?」
「ここで家に閉じこもっちゃったら、なんか完全に負けちゃった気がするもん。そんなのは嫌だから」
そう言ったゆっこの目には、祖母の家を出た時の弱々しさは微塵も無いように感じた。
「それにさ、瑛太が私を守ってくれるんでしょ? 目一杯頼りにするね、魔法使いさん」
「……ああ! まかしとけ」
オレンジに染まる二人の歩幅がほんの少しだけ大きくなった気がした。
「事情を飲み込めていない所悪いけど、アンタはやり過ぎた。殺しはしないから安心して気絶してろよ」
俺は立てた右手の人差し指を男に向かってクイと倒した。
「何これ…… 風……?」
男のそばに居たゆっこの髪がふわりとなびく。なびいた髪がゆっくりと元に戻る間にそれは起きた。
「おごっ……!」
怒りに我を忘れた象の一撃を喰らったかのように、男の体がとんでもない速度で左に吹き飛んだ。壁に叩きつけられた反動で男の口から血飛沫が上がる。
「がっ……」
意味のない言葉を最後にピクリとも動かなくなる。どうやら気を失ったようだ。それを見届け事の終わりを確信したのち、俺はゆっこに近づきゆっくりと腰を下ろした。俺の姿を目で追っていたゆっこは、俺が隣に腰を下ろす瞬間、ビクッと体を震わせて縮こまる。
「怖がらせて悪かった」
逃げようとするゆっこの肩に手を回し、その動きを阻止する。
「……いやっ!」
その怯えた目は俺ではなく宙を彷徨い見ている様だ。
「ごめん、ちょっと我慢してくれ」
俺は震えるゆっこを無視して気付だらけの頬に手を近づけた。彼女は抵抗を一層激しくしたが、気にせず俺は近づけた手に魔力を込めた。淡い薄緑色の光がゆっこの顔を照らす。
「あっ…… な、に……?」
ゆっこが驚きの声を上げた頃には、彼女の顔は元の可愛らしい顔に戻っていた。
「ほら」
付近に散乱していた制服を拾い集めゆっこの体にそっと掛ける。そして俺はゆっこに背を向けてその場に胡坐をかいた。
「こいつらはそうそう目を覚まさないだろうから、ゆっくりと服来ていいぞ。まぁ目ぇ覚ましても大丈夫だし」
こんな時にかける言葉を俺は知らない。自己嫌悪を振り払うように、俺は倒れている三人の男に拘束魔法をかけた。
「鉄枷」
小さくそう呟くと男たちの両手首が鉄の鎖で縛られた。
五分程時間が流れただろうか。重苦しい空気にゆっこの弱々しい声が割って入った。
「瑛太、ありがと…… あと、ごめんなさい」
「ん、いいよ。俺こそ遅くなってごめん。あと、怖がらせてごめん」
背後で衣擦れの音がする。
「ううん、怖かったのは瑛太っていうより男の人。助けてくれたのに酷い態度とってごめんね」
「いやそれは当然の事だろ」
「うん……」
だけど、と続けようとしたゆっこの言葉を遮って俺は続けた。
「服、来たんだろ? とりあえずここから出よう」
「……そうだね」
俺たちは胸糞悪い部屋を後にした。
「待った?」
年季の感じる小さなアパートの一室からゆっこが出てきた。無理やり作ったであろう笑顔が痛々しい。
「いいや全然。てかさ、今日はもう家に帰ってもよかったんじゃない?」
「うん、でもおばあちゃん一人暮らしで寂しいだろうし、約束してたから」
普段より小さな声が彼女が普通の心情でない事を物語る。もっともそれは至極当然な事、むしろこうやって祖母の気持ちを考えてあげられている事の方が異常だ。
「そっか。じゃぁ…… 帰るか」
「うん」
俺たちは暫く無言で歩いていた。太陽は傾き、もうそろそろ夕焼けが街を覆うだろう。
「ゆっこは知ってたんだな。あの辺りの治安が悪い事」
「え? うん。だから一人で行くのはちょっと怖かったんだよね」
「そっか」
これ以上彼女に謝罪をしても意味はない。俺は心の中であの時一緒に帰らなかった事を再び謝罪した。
「助けに来てくれてありがとね」
「おう」
「また何かあったら、その時も瑛太が助けてね」
「おう」
俺の返事を聞いた彼女は少しだけ笑った。その笑顔は俺がよく知るものに随分近かったような気がした。
「そういえば……」
「ん?」
「あの不思議な力は何だったの?」
やはりというか案の定というか……。
「気になるよな。あれはまぁなんだ…… 魔法ってやつだ」
それを伝える事に少しの抵抗があった。
「そっか魔法かぁ」
「あれ、驚かないんだな」
「うん。だって見た時に魔法みたいだって思ってたもん。むしろ納得した感じかな」
「そんなもんか」
「うん、そんなもん」
日常的な会話に魔法という非日常的な単語が入っている状況に、俺は思わずクスッときてしまった。慌ててゆっこを見ると、彼女もクスクスと笑っていた。
「なぁ、ゆっこ。明日からしばらく学校休んでも良いと思うぞ」
俺の言葉に暫く考え込んだあと彼女は答えた。
「ううん、学校行くよ。顔の傷は治っちゃったからお母さんたちになんて言ったらいいかわからないし……」
「わからないし?」
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