現世転生 -異世界から来た魔法使い-

瓢箪独楽

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「そうか…… うん… わかった。じゃぁまた明日な」
 スマホを枕元に投げ捨て、ベッドに体を預け自室の天井を眺める。電話の相手は正司だった。風邪でダウンしていたが、症状も収まったので明日は登校するつもりらしい。
「ったく、一言でいいからメッセージしとけっつーの」

 時計は二十二時。俺は今日の出来事を思い出していた。
「そういえば、前の世界の言葉じゃなくても魔法は発動するんだな」
 宙に右手を伸ばしながら気づけばそう呟いていた。疑問を抱いた俺は、早速前世の言語で飛翔呪文を唱えてみる。
「…………ん、上手く発音できないな」
 その後何度か挑戦してみるも、結局一度も上手く発音できなかった。難しい事はわからないが、まぁそんなものなんだろうと俺はこの件を気にしない事にした。
 次に気になったのは魔法陣だ。小さい頃に何度か試してみたが、当時はうんともすんとも言わなかった。発動に要する魔力を持たなかったのだから当然の結果である。
「ちょっとやってみるか」
 俺はのそりと起き上がりテーブルを部屋の隅に寄せ、すっきりした床にマジックで陣を描く。魔法陣とは、魔法本来の効果時間を延ばすためや、効果そのものをブーストするために使うもの。今回はこの家を対象にした結界魔法用の魔法陣を描く。
「……こんなもんか。んでこっちの言葉で表現するなら…… 四方結界しほうけっかい…… って感じでどうよ」
 膝をつき魔法陣に手を触れ魔力を流しこむ。するとブンッというテレビの起動音の様な音を上げて陣が白く輝く。それに伴い家自体も同じように輝き始めた。
「あ、やばっ!」
 慌てて結界を解いたが、よくよく考えれば魔力を持たない普通の人間には見えない光。そんな初歩的な事すら忘れて取り乱した事が、十七年というブランクの長さを感じさせた。
 これは人目につかない所で少しずつサビを落とさないとなぁ。
 そんな事を考えながらぼーっと魔法陣を眺める。魔法陣…… 床に魔法陣…… マジックで……
「あっ!! やっちまった!」
 俺の脳裏に、部屋に来た正司の生暖かい視線が浮かぶ。
 これは―― 絶対ネタにされる!
 反射的にそう考えた俺は、すぐさま勉強机の上のペットボトルを取り中の緑茶を魔法陣にかける。次いで数枚取り出したティッシュでそれを死ぬ気でこする…… 何度もこする! しかし、何度こすっても魔法陣は消えない。ハッとして俺はマジックに目をやる。
「よりにもよって油性ですかっ!!」
 ツッコミも程々にマジックを投げ捨て、スマホをいじる。
『油性マジック 落とし方』

「――!?」
 検索結果を流し見していた俺の体がふいにこわばる。嫌な予感が体中を巡り、全身から汗が噴き出す。
 この感覚は間違いない。
「誰かが魔法を――」
 しかもその魔力量は今さっき自分が魔法陣で使った魔力量の比じゃない。
 次の瞬間、轟音と共に家が揺れ始めた。揺れは瞬く間に大きくなり、すぐに立っている事がままならなくなる。
「一体何がっ……」
 なんとかベッドのへりに掴り窓の外に目をやると、正司の家の屋根瓦が崩れているのが見えた。
「……ってそんなはっきり見えるわけあるか! なんでそんなに明るいんだよ!」
 外が昼間の様に明るい。そればかりかどんどん光が強くなっている。
 これは本気でヤバイやつだ。
 俺は急いで魔法陣に両手で触れ、さっきよりも大量の魔力を流し込む。魔力を受けた魔法陣が強い光を放ち、家の外と内で発生する強い光が視界を埋め尽くしていく。
 四方結界は東西南北から迫る災いから結界内を守るもの、しかし今回の六方ろっぽう結界はそこに天地からの災いに対する拒絶を組み込んだ高位の結界魔法だ。
「間に合えええぇぇっ―――」 

 ……。

 …………。

「瑛太! おい瑛太!!」
 俺は身体をゆすられ目を覚ました。
「親父…… 母さんも……」
 心配そうに俺を見下ろす両親の顔が目に入る。良かった、結界は間に合ったみたいだ。
 電気が来ていないのか、部屋は真っ暗で親父が手にした懐中電灯の明かりだけが辺りを照らしていた。
「二人ともケガしてない?」
「それはこっちのセリフだ。バカでかい地震が収まって様子を見に来てみたら、お前が倒れてて…… すぐに気絶してるだけだと分かったが、最初見た時は生きた心地がしなかったぞ」
「瑛太、本当によかった……」
 母さんが泣きながら俺を抱きしめる。その上から親父が俺たちを抱きしめた。
 魔法が使えて良かった。今回ばかりは神の手抜きに感謝しないと。

 三人無事を喜び合って、それから俺たちは現状確認のため外に出てみる事にした。二階の俺の部屋から玄関までの約三十秒の間に見たのは、散乱した家具とヒビの入った壁。揺れによってもたらされた被害までは結界でも防げなかったようだ。
 軸が傾いたせいなのか開けづらくなった玄関を親父と二人で押し開けると、その先は屋内と一緒で真っ暗な世界だった。その暗闇に、ぽつぽつと小さな灯りが見える。同じように外に出てきた住民のスマホや懐中電灯の光だろう。
「瑛太お前ん所も無事だったか!」
 向かいに住む正司も無事だったようで、俺が外に出るやすぐさま声をかけてきた。
「ああ、お互い無事で何よりだ」
 親友と呼べる親しい人間の無事は想像以上に俺を安心させる。お互いの親同士も少し離れた所で無事を喜びあっているようだ。
「なぁ瑛太、うちの親が言ってたんだけどさ、さっきのって普通の地震じゃないよな? 普通の地震であんなに空が明るくなるわけないだろう? それとも地震光ってやつか」
「いや、地震光なんて科学的根拠のないものは考えるだけ無駄だ。ただたしかに普通じゃなかったよな」
 魔力の存在を確認した今、科学的根拠もなにもあったもんでもないが。
「おーい」
 正司の家の玄関近くで集まって話していた親たちから声がかかる。聞いてみると、避難所である俺達の学校に向かうらしい。たしかに、電気も来ていない、壁にヒビのはいった家で居るのは得策ではない。俺たちは貴重品と戸締りの為に一旦それぞれの家に戻った。

 俺は自分の部屋にスマホを取りに行く。正直必要なものと言われてもそれくらいしか思い浮かばなかった。
 「つーか、俺の結界魔法、意味なかったんじゃ……」
 結界に守られていた我が家と、近所の家の被害状況がほぼ一緒であった事実に若干のがっかり感を覚えたが、今はそれどころじゃないと頭を振って一階に降りた。

「俺も何か持ってくよ。って、これ? ……うわ、重っ!」
 玄関前に置かれたリュックを持ち上げるとズシッと肩に負荷がかかる。
「それには飲料水が入ってるからな。まぁ、がんばれ若者よ」
「子供と若者を上手く使い分けやがって…… まぁいいけどさ。他は大丈夫?」
「ああ、あとは俺と母さんが持っていく」
 そういって親父は俺の倍ほどもある荷物を両手と背中に背負った。やだ親父…… かっこいい。

 再び外に出ると、既にいくつかの家族が学校の方に向かって歩き出していた。その流れに乗るように、少し遅れて出てきた正司の家族と共に俺達も学校を目指す。
 月明りでもあれば良かったのだが、今夜は生憎あいにくの曇り空で月は姿を隠している。皆、手に持った灯りだけを頼りにいつもより慎重に歩いていた。俺達の住む住宅地は結構な高台にあるので、こう暗いと下り坂が危険なのだ。
 暫く歩くと、幾つかの家族が立ち止まり近くの住宅を見上げていた。この辺りは街へ続く坂道の中腹で、日中は崖側のガードレールの向こうに街並みを一望できる、ちょっとした休憩所の様な場所になっている。
 遅れて到着した俺達も、先に着いていた家族が灯りを向ける先に同じように視線を向けた。

「な、んだ、これ……」

 続く言葉が出てこない。
 細い光に照らされた住宅は、ここまでに目に入った家々とは全く別物の姿をしていた。
 大人三人分ほどの太さの花の無い植物十数本に持ち上げられた家。そのうねる職種の様な植物のうち、いくつかは家を貫き窓や天井からその先端が派手に飛び出している。
 ――何故この家だけ…… この家だけ? こうなってるのはこの家だけなのか……?
 その時、今まで隠れていた満月が姿を現し、闇に塗りつぶされていた街並みを徐々に照らし始めた。

 そして俺達は知った。

 見下ろした街並みは俺達の知るそれではなかった。
 無理やりそこにを放り込まれたような、文明と自然がごちゃ混ぜになった常識外の風景。
 巨大なツタの様な植物が絡みつき傾いたビルや、下から突き出たのであろう先の尖った巨大な岩に、半分に分断されたまま立つマンション。車など到底進めない程好き勝手に隆起した道路。
「嘘…… だろ……」
 力なく正司が膝を付く。当たり前だ。こんなおかしな状況を受け入れられる人間など存在するわけがない。皆同じように泣くことも忘れて呆然としている。
 人が呆然となるのは主に理解の外側で起きた不幸に巻き込まれた時だ。俺も魔法の知識が無ければ同じように呆然としていただろう。
 そうこれは魔法だ。この世界の言葉で言うならば地滅反魂ちめつはんごんという魔法。指定した範囲を壊滅させ新たに作り替えるというモノだ。

「――!?」

 ふいに流れ込む知らない記憶。それと共に脳が弾けた様な気がした。
 フラッシュバックしたこの記憶は……

 ――ああ、そうか。俺が世界を滅ぼしたのもこの魔法だったか。
 そう理解した瞬間、形容しがたい黒い気持ちに顔が歪む。この感情は不満か、それとも後悔か……

「一体どこのどいつがこんな事を……」
 そう呟いた俺の隣で正司が言った言葉が、目の前の惨状とそれを照らす月明りと相まって、俺の脳裏にこびり付いた。

「俺達の生きていた世界は、さっき終わったんだな……」
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