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29 ファルサス王と謁見
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王城につくと、一旦二人と別れ、控室に入った。
この後国王と謁見があるから。といっても主にヴィルフリートとエフィーの帰還を知らせるためのものだから、わたしはそのオマケといった感じだった。
「まあ、見分けるにはちょっと短いけど、雰囲気はある程度はつかめるでしょ」
あくまでも今回は敵情視察ーーーは言葉が悪いか。えーと、観察?と割り切っていくことにする。あまりよろしくなければ手を結ぶのは控えて、エフィーたちとの個人的な交流だけにとどめておこう。
「ここまでエフィーが慕っているのだから、そうではないと思いたいな········」
「名君ではあるかと。少なくとも愚王ではありますまい」
「たしかにね。まあ全部会ってから考えればいいかな」
時間までリグルスと暇つぶしに情報交換を行う。といっても大したものじゃなくて、噂レベルのものばかりなんだけど。それでも<陽炎>たちがこっちにいない今は、かなり重宝する。
「シルトフォード姫王様。準備が整いましたのでお迎えに上がりました」
王城のメイドが呼びに来た。
一度深く呼吸をし、お腹に力を入れる。
「ーーいくよ。リグルス」
「はっ」
さて、初めての王の称号を持つ者との顔合わせだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「シルトフォード姫王陛下及び、ヴィルフリート王太子殿下、エフィーリア王女殿下、御入来!」
巨大な細やかな装飾のされた大扉が開かれる。
「····おお」
「これは·······美しい娘だな」
「あの歳で王位につくとは」
「傑物か、傀儡か。さてさて·····」
中の人間たちの値踏みの視線がわたしに突き刺さる。
促されて赤の絨毯を進むと、正面に豪華な玉座と両脇に控えるたくさんの貴族たちが見えた。国の顔だけあって彫刻、宝石、調度品、すべてがパッと見てわかるほどの超一級品ばかり。天井のシャンデリアもあれ一つだけで城一つを買えてしまうかもしれない。
「大丈夫?シオリ」
わたしがこういう場に不慣れなことを気遣って声をかけてくれた。
大丈夫、と頷き、前に進んだ。
スッとヴィルフリートとエフィーが跪く。
わたしは一度軽く、一礼しただけ。
一応立場的には同格という建前があるからね。これをないがしろにするというのは、国のメンツが立たなくなってしまうし。
「お初お目にかかる。ファルサス王国国王ベルトラム・フィン・ファルサスだ」
「これは丁寧に。シルトフォード神聖皇国姫王シオリ・スメラギ・フィン・シルトフォードと申します」
とりあえず、愛想笑い全開にする。
感情を見せるのはこういう権力闘争の場では最悪。基本中の基本だからわたしでもできる。
一応わたしも皇家の孫というわけで簡単な基本的なことは習っことがある。本当に基本的なことだけど、無いよりはいくらかマシだと思う。
「遠路はるばるよく来られた。我が子らを助けていただいたこと誠に感謝する」
ベルトラム王が玉座から頭を下げた。
どよどよと貴族たちからどよめきが発せられる。
かくいうわたしも、ベルトラム王が礼を言うだけでなく、頭まで下げてみせたことに驚いていた。礼を言うのに頭を下げるのは当然のように思えるけれど、この世界ではかなり珍しいことだったから。
「いえ、よいご縁を結べたことですし、わたしとしても益がありましたから」
「ありがたい」
ベルトラム王が顔を上げた。
「二人も無事で何よりだ」
「姫王様がいらっしゃらなければ、今このようにして戻っては来れなかったでしょう」
「ひとえに、わたしたちのために尽力してくれた姫王様のおかげです」
ベルトラム王は、そうか、とうなずくと、改めてわたしに向き直った。
「我が国の王太子と王女を救ってもらったのに対して、口頭での礼のみではこの恩は返しきれぬ。なにか要望は無いだろうか?」
要するに、貸し借りをできるだけ無くしたいというわけね。まあ、確かに国同士の貸し借りは個人の貸し借りとは訳が違う。下手をすれば他の国の戦争に巻き込まれる可能性まであるから。
ま、だからといって遠慮する気はサラサラないんだけど。せっかくだし、思いっきり吹っ掛けてみよう。
「それでは、我が国と同盟を結んでいただけますか?」
「······同盟か」
むぅ、と髭を撫でつけながら考え込んだ。
元々は通商条約でも結べれば御の字だと思っていたんだけどね。せっかくなんだし北方の安全は確保しておきたい。
ただでさえ南方に帝国が仮想敵国としてあるのだから、これ以上敵は増やしたくない。
「こちらも南側にグオルジス帝国という敵国を抱えていまして、こちら側まで相手にする余力はあまりないのです」
「ーーーなるほど。そういうできまことか」
「はい。そういうことです」
わたしと同じ考えにたどり着いたベルトラム王がうなずいた。
聞けば、ここファルサス王国でも、北にカルヴィリオス大帝国が何度も侵入し、撃退こそできているけれど、かなり疲弊しているらしい。
そもそも国土、国力共に十倍以上の超大国を撃退できているだけでも十分すごいこと。コレへの対抗策が欲しいのは分かりきっていた。
「分かった。流石にこの場では決められぬゆえ、返答はまた話し合ってからで、よろしいか?」
「はい。それで問題ありません」
うむ、と一つうなずくとベルトラム王が、ここまで空気同然だったヴィルフリートとエフィーを見た。
「王太子ヴィルフリート、エフィーリア。よく無事で戻った。これを良き経験とできるよう励むといい」
「はい。これからも精進してまいります」
「かならずやものにしてみせましょう」
二人が淡々とした感じで答えた。
完全に仕事モードっぽい。公私を混同させないのは素直にすごいなぁと思った。
その後、ベルトラム王が合図して、謁見が終了した。
この後国王と謁見があるから。といっても主にヴィルフリートとエフィーの帰還を知らせるためのものだから、わたしはそのオマケといった感じだった。
「まあ、見分けるにはちょっと短いけど、雰囲気はある程度はつかめるでしょ」
あくまでも今回は敵情視察ーーーは言葉が悪いか。えーと、観察?と割り切っていくことにする。あまりよろしくなければ手を結ぶのは控えて、エフィーたちとの個人的な交流だけにとどめておこう。
「ここまでエフィーが慕っているのだから、そうではないと思いたいな········」
「名君ではあるかと。少なくとも愚王ではありますまい」
「たしかにね。まあ全部会ってから考えればいいかな」
時間までリグルスと暇つぶしに情報交換を行う。といっても大したものじゃなくて、噂レベルのものばかりなんだけど。それでも<陽炎>たちがこっちにいない今は、かなり重宝する。
「シルトフォード姫王様。準備が整いましたのでお迎えに上がりました」
王城のメイドが呼びに来た。
一度深く呼吸をし、お腹に力を入れる。
「ーーいくよ。リグルス」
「はっ」
さて、初めての王の称号を持つ者との顔合わせだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「シルトフォード姫王陛下及び、ヴィルフリート王太子殿下、エフィーリア王女殿下、御入来!」
巨大な細やかな装飾のされた大扉が開かれる。
「····おお」
「これは·······美しい娘だな」
「あの歳で王位につくとは」
「傑物か、傀儡か。さてさて·····」
中の人間たちの値踏みの視線がわたしに突き刺さる。
促されて赤の絨毯を進むと、正面に豪華な玉座と両脇に控えるたくさんの貴族たちが見えた。国の顔だけあって彫刻、宝石、調度品、すべてがパッと見てわかるほどの超一級品ばかり。天井のシャンデリアもあれ一つだけで城一つを買えてしまうかもしれない。
「大丈夫?シオリ」
わたしがこういう場に不慣れなことを気遣って声をかけてくれた。
大丈夫、と頷き、前に進んだ。
スッとヴィルフリートとエフィーが跪く。
わたしは一度軽く、一礼しただけ。
一応立場的には同格という建前があるからね。これをないがしろにするというのは、国のメンツが立たなくなってしまうし。
「お初お目にかかる。ファルサス王国国王ベルトラム・フィン・ファルサスだ」
「これは丁寧に。シルトフォード神聖皇国姫王シオリ・スメラギ・フィン・シルトフォードと申します」
とりあえず、愛想笑い全開にする。
感情を見せるのはこういう権力闘争の場では最悪。基本中の基本だからわたしでもできる。
一応わたしも皇家の孫というわけで簡単な基本的なことは習っことがある。本当に基本的なことだけど、無いよりはいくらかマシだと思う。
「遠路はるばるよく来られた。我が子らを助けていただいたこと誠に感謝する」
ベルトラム王が玉座から頭を下げた。
どよどよと貴族たちからどよめきが発せられる。
かくいうわたしも、ベルトラム王が礼を言うだけでなく、頭まで下げてみせたことに驚いていた。礼を言うのに頭を下げるのは当然のように思えるけれど、この世界ではかなり珍しいことだったから。
「いえ、よいご縁を結べたことですし、わたしとしても益がありましたから」
「ありがたい」
ベルトラム王が顔を上げた。
「二人も無事で何よりだ」
「姫王様がいらっしゃらなければ、今このようにして戻っては来れなかったでしょう」
「ひとえに、わたしたちのために尽力してくれた姫王様のおかげです」
ベルトラム王は、そうか、とうなずくと、改めてわたしに向き直った。
「我が国の王太子と王女を救ってもらったのに対して、口頭での礼のみではこの恩は返しきれぬ。なにか要望は無いだろうか?」
要するに、貸し借りをできるだけ無くしたいというわけね。まあ、確かに国同士の貸し借りは個人の貸し借りとは訳が違う。下手をすれば他の国の戦争に巻き込まれる可能性まであるから。
ま、だからといって遠慮する気はサラサラないんだけど。せっかくだし、思いっきり吹っ掛けてみよう。
「それでは、我が国と同盟を結んでいただけますか?」
「······同盟か」
むぅ、と髭を撫でつけながら考え込んだ。
元々は通商条約でも結べれば御の字だと思っていたんだけどね。せっかくなんだし北方の安全は確保しておきたい。
ただでさえ南方に帝国が仮想敵国としてあるのだから、これ以上敵は増やしたくない。
「こちらも南側にグオルジス帝国という敵国を抱えていまして、こちら側まで相手にする余力はあまりないのです」
「ーーーなるほど。そういうできまことか」
「はい。そういうことです」
わたしと同じ考えにたどり着いたベルトラム王がうなずいた。
聞けば、ここファルサス王国でも、北にカルヴィリオス大帝国が何度も侵入し、撃退こそできているけれど、かなり疲弊しているらしい。
そもそも国土、国力共に十倍以上の超大国を撃退できているだけでも十分すごいこと。コレへの対抗策が欲しいのは分かりきっていた。
「分かった。流石にこの場では決められぬゆえ、返答はまた話し合ってからで、よろしいか?」
「はい。それで問題ありません」
うむ、と一つうなずくとベルトラム王が、ここまで空気同然だったヴィルフリートとエフィーを見た。
「王太子ヴィルフリート、エフィーリア。よく無事で戻った。これを良き経験とできるよう励むといい」
「はい。これからも精進してまいります」
「かならずやものにしてみせましょう」
二人が淡々とした感じで答えた。
完全に仕事モードっぽい。公私を混同させないのは素直にすごいなぁと思った。
その後、ベルトラム王が合図して、謁見が終了した。
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