リアル人狼ゲーム in India

大友有無那

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第4章 繰り返しへようこそ(新1日目)

4ー1 既視感(新1日目夕)

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(鶏の声、じゃない)
 はっと目を開ける。
『ナマスカール、ナマスカール、ナマスカール』
 繰り返されるのも、
『「リアル人狼ゲーム」プレイヤーの皆さまを心から歓迎いたします。全員お目覚めになったようですので、早速ルールの説明を開始します。最初に、ゲームが終了するまでこの建物から出てはなりません。次にこの建物や備品は一切傷付けてはなりませんー』
 14番の番号札の前、理容室のような白い椅子にカフスで手足を拘束されているのも、様々な言語で抗議の叫びが行き交うのも同じだ。
 テーブル回りに座っている人々を見ると6番札の前のアビマニュと目が合い、互いに小さく頷く。ラクシュミもアンビカも前と同じ席、同じ番号に座っている。
 ちらりと覗いた11番席には少年がぐたりと座っていた。シヴァムより背は高そうで、きちんと梳かされた髪に汚れのない白いシャツが育ちの良さを感じさせる。
 シヴァムはもういない。
(あの子の遺体は今頃ー)
『複数の言語での説明をとのご希望がありました。当方ではヒンディー語以外に英語の用意もございますのでこれから加えます。なお説明の内容は全てこちらのモニター』
 英語以外の多言語での要望を無視するのも同じ。殺してやると向こうで男が叫んだ直後に首が熱せられ悲鳴があがる。今更動揺しない。薬の方でなくてよかったと胸をなで下ろす。テーブル回りはショックを受ける人々と、せいぜい首輪に手をやるくらいの見知った人たちと反応が明確に別れる。
 説明の終了が告げられ手足の戒めが外れた途端に、
「待ってくれ!」
 叫んだアビマニュの警告も聞かず走り出し、木で覆われた壁や部屋を分けるプラスチックパネルを壊し始めた者たちが倒れる。悲鳴があがり逃げようとドアに体当たりした者らもまた殺された。
 今回は合計五人だ。
(全部わかってやっていたのか)
 二十七人と多過ぎる「プレイヤー」数はルール違反での処刑者を見込んで。ヒンディー語と英語だけで多言語の案内をしないのも、不利になる人々が出ることを、
(多分、ゲームのスパイスとして面白がってる!)
 怒りで目の裏が熱くなる。

 前と同じ二十七番までの番号札、違うのは木のテーブルを組み合わせて四角いテーブルが作られていること。ミラーワークがほどこされオレンジや緑の太い縞の派手な布がテーブルクロスがわりに掛けられていること。
 柱は剥き出しのコンクリートで、上下の段差もなくだだっ広い無機質な空間だ。
(前の邸宅がPRDPやデーブダースの縮小版なら、ここはヴィクラムとヴェーダやマジックで容疑者が尋問を受けていそうな場所だ)
 窓は全て板が打ち付けられていて外は見えない。
 床は辛うじて薄緑色のユニットカーペット敷きだがコンクリートすぐ上に貼られているようで硬い。
「僕が言いたかったのはこういうことです。無駄に命が失われるところなんて見たくないのでー」
 腕章2番、見覚えのない口ひげの男に詰め寄られていたアビマニュが遠くに目を遣る。
 ルールを守れ、殺されると叫んだアビマニュに男はどういう意味だと食ってかかった。すぐにラジェーシュが、続いてマーダヴァンとスンダルがかばって手を広げた時に最初の犠牲者が出た。

「僕たちもあなたがたと同じ、誘拐されてきた被害者です。ですがここにいるうちの十六人は既にこのゲームをやらされていて、だから知っていたんです!」
 2番の腕章の男が一歩下がる。
 ルールを守るように呼びかけたアビマニュが誘拐犯側に見えてしまったらしい。
 天井に今度はシャンデリアはないので落ちてこないだろう。裸電球に黒い笠をかけただけの照明が等間隔に並んでいる。外光の入らない室内でこの照明、当然ながら広間はほの暗い。近視の人間には余計物が見づらく、言葉にならない不安が胸に膨らむ。
 照明の間に回る天井扇風機は前と同じだ。天井が高くないためか黒いスピーカーが前より大きく見える。
(そうだ!)
「もう一つ経験者より警告! 自分の役は言わないで!」
 叫んだ途端に咳き込んだ。回りの目が自分に集まる。
 天井が低い分空調がよく効いているのか寒い。自分の服装は三日目の晩の会議のまま。あの時カーディガンを羽織っていなかったのが悔やまれる。
「これも命に関わるの! 最初は言わないで! この後様子がわかったら『村人』なら言っていい時もある。『人狼』と『象』陣営はバレたら殺されるからね、っ」
 胸を押さえて叫んだがまた咳が出る。
 暗い中柵に引っかかって揺れたシヴァムの亡骸が脳裏をよぎる。
「死ぬの殺されるのって何言ってんだ? ……何だよこれ」
 15番の男の呟きが空間に響いた。彼の目はクリスティーナを離れ、木壁の前に倒れている男の亡骸に移り、凍り付く。
「だから『リアル人狼ゲーム』だそうだ。それ以外、俺たちも知らねえよ!」
 ロハンが毒づく。
(生きてたか)
 そちらはともかく隣にプラサットの顔が見えたのにはほっとした。連中は約束通り彼の手当をしたのだろう。傷は大丈夫だろうか。
 すぐさまラクシュミが、
「私はラクシュミ。このゲーム開始が二度目の十六人のひとり。女子に言っておく。その24番の『ロハン』は女の子に悪さしようとした極悪人だから注意すること! 男の人たち、約束通り奴を監視して!」
 アビマニュは頷いてマーダヴァンらと共に向き直り、ロハンは青ざめた。
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