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第4章 繰り返しへようこそ(新1日目)
4ー6 夜 ハリー(新1日目)
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銃の扱いは事前によく調べた。
右ポケットに差したリボルバーも滑らかなゴム張りでカーペットでの音を消す靴も「人狼」部屋共通の備品だ。
〇時三五分。
他の「狼」との議論を半ば打ち切り強引に今夜の仕事に出た。チャンドリカからの情報を生かした選択は説明出来ないから、説得力に欠けるのは仕方ない。
プレイヤーたちは襲撃に対して様々な工夫をしている。
くじで当てた包丁を枕の下に入れる者、チリパウダーを準備している者、ドア内側に首を引っ掛ける仕掛けを作っている者……今夜の標的のそれは「石鹸水」だ。
シャワールームのバケツに湯で石鹸をまるごとひとつ潰して溶かした。ベッドすぐの場所に置き、ドアが開いたら投げつける用意らしい。
良いアイデアだとは思う。濃い石鹸水が顔にかかれば目はしばらく開けられない。視界を奪えばイニシアチブを取ることが出来る。
(こちらは、そこまで全部見ているんだがな)
夜の廊下は昼間からひとつおきの照明しか点けていない。
コンクリート打ちっぱなしの柱と天井、左右に並ぶパネルの壁の無機質さがちょっとしたホラー風味で、文句を言っていた顧客も見直すのではないかと少し自慢に思う。
カードキーをドアの電子錠に近づけるとカチッと小さな解錠音がした。
ここからは間髪を入れず行動する。
後ろに身を隠してドアを引くと予想通り水が飛んで来た。開いたドア部分を遠回りに歩くともう一度水が飛ぶ。二段階で攻撃を準備しているのも悪くない。
ダン!
壁に背を付けドア枠で銃を固定し身を翻して一発。
ダン、ダン!
後手にドアを閉め、先ほど廊下の薄明かりで見当を付けたベッド下左右に二発。
こいつはベッドの上に服で膨らみを作ってシーツを掛け、寝ているふりで実はベッド下に逃げ込んでいる。映像で確認済みだ。
二発目の時、奥の方に何か動きがあった。身をかがめ、膝を着き両手で銃を握ってベッド下、頭部に近い方へもう一発。
この銃の弾数は六発。残りは二発と思えば慎重になる。
(やったか?)
首から垂らした懐中電灯に手を寄せた直後、背後に気配を感じ、
「っっ!」
首の衝撃に倒れた。
気付いた時には右手の銃が取り去られようとしている。仰向けに倒れたまま銃を握り込もうとすると、
ガンッッッ!
左頬に拳を喰らった。反動で転がったところ銃が蹴り飛ばされ、右からも拳で一発。
「いつっ!」
次に、鼻の上をまともに殴り付けられた衝撃でまたも意識を飛ばした。
とっさにぎゅっと目をつぶったのは割れた眼鏡で目を傷付けるのを恐れたからだ。その眼鏡も殴られてどこかで飛んでいったらしい。
気が付くと場が静かになっていた。
(ようやくか。遅いぞ!)
監視員が相手に薬を入れたのだろう。だがあれで麻痺するのはせいぜい五秒。ライトで床を照らすがうつ伏せに倒れる相手の周りに銃が見当たらない。ベッド下、テーブル下……
(こいつ、持ったままか)
焦りに襲われつつ奴の右手を探ると、
(!!)
彼は胸から身を起こし真っ直ぐこちらにー
「うぎゃああああああっっっっっ!!」
(痛い、痛いっ!)
耐えられない痛みに遠慮会釈なく絶叫した。
視界が黒い。何が起こっているのか。だが身を守らなくては、ここには銃がある!
そうだ! 一般プレイヤーがこの時間部屋の外に出るのは禁止だ。
「あああっ、あううううっ!」
思い付いて床を転がり、テーブルの脚らしい所、クローゼットとぶつかってドアにたどり着き足で蹴って開けて廊下に転がる前に唇をしっかりと噛んだ。
また蹴りでドアを閉め、声を抑えながら廊下を四つん這いで進む。
(つうううううっ……ううううっ……)
「狼」仲間のドアを小さくノックする。
何かあったらと言われていた通りすぐ出て来たので後始末を頼む。了承しただけでなく心配してハリーの部屋まで送ってくれた。
「ぐわああああんん!」
自室に入り奥に転げ込むと堪えていた悲鳴を容赦なく放つ。
パネルに貼った防音シートは正確には音量を下げる程度で、騒音レベルなら外に漏れてしまうと知っている。音量を抑えようとは努めてはいるが、未経験の激痛に耐えることの方で精一杯だ。
床を転がり、もがき、脚をたどってベッドに這い上がりまた叫ぶ。
(見えない。見えねえよ!)
「人狼」打合せへは電気を点けたまま部屋を出たはずだがただ暗い。が視界右の隅でだけわずかに光を感じる。
(目を突かれた……)
奴の部屋で起こった一部始終はモニター室でも見ているはずだ。
チャンドリカから、またモニター室から何かメッセージが来ているかもしれないが、見えなければ確認出来ない。タブレットを潜ませた上の枕を叩く。
「あああああっ!」
これからどうなるんだ、まさか失明してしまうのか?
(早く病院へー)
何とか手配して、カメラの隙を縫って救助に来ないのか。モニター室は何をやっている。奴に薬を入れるのが遅れた監視員は許さん! 戻ったらビルの上から叩き落としてやろうか!
そして。
救助されこの場から逃げられても、このまま朝を迎えるにしろ、
(明日どうすればいいんだ……)
激痛にいたる所を掻きむしり唸りつつ、今後するべきことを必死で絞り出す。
トン、トン
(助けか!)
小さなノックにハリーはベッドを転がり降りた。
ーーーーー
「銃の扱いも知らねえ素人が……」
チッと唾を吐き出す。
薬の麻痺からまともに体が動かせるようになった時、「人狼」らしき男は部屋を転がりドアを蹴り開けたところだった。倒れた時に銃を胴の下に放り込んでおいて良かった、と手に取ると既に奴はドアを叩き閉めていた。
ここから狙ってももう当たらない。
舌を打って手元のリボルバーに触れる。悪くない品のようだ。
奴は銃の構えも何もなっていなかった。ベッド下に潜みつつ、襲撃があったら入口側に抜けかつ服のボタンを奥に投げる。案の定引っかかって奥にふらつく銃を構えたところ首を上から打ち、殴りまくった。
銃どころか喧嘩もしたことがないようなのに、殺すことにはためらいが見えなかった。
(気持ち悪ぃんだな「人狼」って)
ボスの会社と自宅の警備に抜擢されたのは評価されているということだが、若造の自分にまだ銃は与えられない。兄貴分たちに練習だけさせてもらっている。
その分銃撃された時の対処経験は積んでいた。
(銃は、奪うもんなんだよ)
彼らはそう簡単には引かないだろう。今度は仲間の「人狼」も連れて銃を取り返しに来るか。
「シャワールームで待ち受けよう」
と視界の端に点滅するものがある。モニターに、
『警告! 警告! ルール違反です!』
と続けて
『プレイヤーへの肉体的攻撃が許されるのは「夜」の時間の「人狼」のみです。重大な「ルール」違反とみなし排除します』
(ずるい……)
首に刺さった一撃が全てを止める前、最後に思った。
右ポケットに差したリボルバーも滑らかなゴム張りでカーペットでの音を消す靴も「人狼」部屋共通の備品だ。
〇時三五分。
他の「狼」との議論を半ば打ち切り強引に今夜の仕事に出た。チャンドリカからの情報を生かした選択は説明出来ないから、説得力に欠けるのは仕方ない。
プレイヤーたちは襲撃に対して様々な工夫をしている。
くじで当てた包丁を枕の下に入れる者、チリパウダーを準備している者、ドア内側に首を引っ掛ける仕掛けを作っている者……今夜の標的のそれは「石鹸水」だ。
シャワールームのバケツに湯で石鹸をまるごとひとつ潰して溶かした。ベッドすぐの場所に置き、ドアが開いたら投げつける用意らしい。
良いアイデアだとは思う。濃い石鹸水が顔にかかれば目はしばらく開けられない。視界を奪えばイニシアチブを取ることが出来る。
(こちらは、そこまで全部見ているんだがな)
夜の廊下は昼間からひとつおきの照明しか点けていない。
コンクリート打ちっぱなしの柱と天井、左右に並ぶパネルの壁の無機質さがちょっとしたホラー風味で、文句を言っていた顧客も見直すのではないかと少し自慢に思う。
カードキーをドアの電子錠に近づけるとカチッと小さな解錠音がした。
ここからは間髪を入れず行動する。
後ろに身を隠してドアを引くと予想通り水が飛んで来た。開いたドア部分を遠回りに歩くともう一度水が飛ぶ。二段階で攻撃を準備しているのも悪くない。
ダン!
壁に背を付けドア枠で銃を固定し身を翻して一発。
ダン、ダン!
後手にドアを閉め、先ほど廊下の薄明かりで見当を付けたベッド下左右に二発。
こいつはベッドの上に服で膨らみを作ってシーツを掛け、寝ているふりで実はベッド下に逃げ込んでいる。映像で確認済みだ。
二発目の時、奥の方に何か動きがあった。身をかがめ、膝を着き両手で銃を握ってベッド下、頭部に近い方へもう一発。
この銃の弾数は六発。残りは二発と思えば慎重になる。
(やったか?)
首から垂らした懐中電灯に手を寄せた直後、背後に気配を感じ、
「っっ!」
首の衝撃に倒れた。
気付いた時には右手の銃が取り去られようとしている。仰向けに倒れたまま銃を握り込もうとすると、
ガンッッッ!
左頬に拳を喰らった。反動で転がったところ銃が蹴り飛ばされ、右からも拳で一発。
「いつっ!」
次に、鼻の上をまともに殴り付けられた衝撃でまたも意識を飛ばした。
とっさにぎゅっと目をつぶったのは割れた眼鏡で目を傷付けるのを恐れたからだ。その眼鏡も殴られてどこかで飛んでいったらしい。
気が付くと場が静かになっていた。
(ようやくか。遅いぞ!)
監視員が相手に薬を入れたのだろう。だがあれで麻痺するのはせいぜい五秒。ライトで床を照らすがうつ伏せに倒れる相手の周りに銃が見当たらない。ベッド下、テーブル下……
(こいつ、持ったままか)
焦りに襲われつつ奴の右手を探ると、
(!!)
彼は胸から身を起こし真っ直ぐこちらにー
「うぎゃああああああっっっっっ!!」
(痛い、痛いっ!)
耐えられない痛みに遠慮会釈なく絶叫した。
視界が黒い。何が起こっているのか。だが身を守らなくては、ここには銃がある!
そうだ! 一般プレイヤーがこの時間部屋の外に出るのは禁止だ。
「あああっ、あううううっ!」
思い付いて床を転がり、テーブルの脚らしい所、クローゼットとぶつかってドアにたどり着き足で蹴って開けて廊下に転がる前に唇をしっかりと噛んだ。
また蹴りでドアを閉め、声を抑えながら廊下を四つん這いで進む。
(つうううううっ……ううううっ……)
「狼」仲間のドアを小さくノックする。
何かあったらと言われていた通りすぐ出て来たので後始末を頼む。了承しただけでなく心配してハリーの部屋まで送ってくれた。
「ぐわああああんん!」
自室に入り奥に転げ込むと堪えていた悲鳴を容赦なく放つ。
パネルに貼った防音シートは正確には音量を下げる程度で、騒音レベルなら外に漏れてしまうと知っている。音量を抑えようとは努めてはいるが、未経験の激痛に耐えることの方で精一杯だ。
床を転がり、もがき、脚をたどってベッドに這い上がりまた叫ぶ。
(見えない。見えねえよ!)
「人狼」打合せへは電気を点けたまま部屋を出たはずだがただ暗い。が視界右の隅でだけわずかに光を感じる。
(目を突かれた……)
奴の部屋で起こった一部始終はモニター室でも見ているはずだ。
チャンドリカから、またモニター室から何かメッセージが来ているかもしれないが、見えなければ確認出来ない。タブレットを潜ませた上の枕を叩く。
「あああああっ!」
これからどうなるんだ、まさか失明してしまうのか?
(早く病院へー)
何とか手配して、カメラの隙を縫って救助に来ないのか。モニター室は何をやっている。奴に薬を入れるのが遅れた監視員は許さん! 戻ったらビルの上から叩き落としてやろうか!
そして。
救助されこの場から逃げられても、このまま朝を迎えるにしろ、
(明日どうすればいいんだ……)
激痛にいたる所を掻きむしり唸りつつ、今後するべきことを必死で絞り出す。
トン、トン
(助けか!)
小さなノックにハリーはベッドを転がり降りた。
ーーーーー
「銃の扱いも知らねえ素人が……」
チッと唾を吐き出す。
薬の麻痺からまともに体が動かせるようになった時、「人狼」らしき男は部屋を転がりドアを蹴り開けたところだった。倒れた時に銃を胴の下に放り込んでおいて良かった、と手に取ると既に奴はドアを叩き閉めていた。
ここから狙ってももう当たらない。
舌を打って手元のリボルバーに触れる。悪くない品のようだ。
奴は銃の構えも何もなっていなかった。ベッド下に潜みつつ、襲撃があったら入口側に抜けかつ服のボタンを奥に投げる。案の定引っかかって奥にふらつく銃を構えたところ首を上から打ち、殴りまくった。
銃どころか喧嘩もしたことがないようなのに、殺すことにはためらいが見えなかった。
(気持ち悪ぃんだな「人狼」って)
ボスの会社と自宅の警備に抜擢されたのは評価されているということだが、若造の自分にまだ銃は与えられない。兄貴分たちに練習だけさせてもらっている。
その分銃撃された時の対処経験は積んでいた。
(銃は、奪うもんなんだよ)
彼らはそう簡単には引かないだろう。今度は仲間の「人狼」も連れて銃を取り返しに来るか。
「シャワールームで待ち受けよう」
と視界の端に点滅するものがある。モニターに、
『警告! 警告! ルール違反です!』
と続けて
『プレイヤーへの肉体的攻撃が許されるのは「夜」の時間の「人狼」のみです。重大な「ルール」違反とみなし排除します』
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