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第4章 繰り返しへようこそ(新1日目)
4ー5 夜 チャンドリカ(新1日目)
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二十三時。変声器を通しているとはいえ、シタールの音と共に流れる自分の声を聞くのは妙な感覚だ。粗が多々見えて耳障りでもある。戻ったら対応が必要かー
シャワーを済ませると白いうさぎが全面に散ったピンクのパジャマに着替える。
「……」
クローゼットの服は自分好みの品で揃えたがパジャマは人任せだった。似合わない可愛らしさは「演技」の一貫と見なせばいい。
タブレットを抱え、上掛けシーツの下に潜り込むがこれにも細心の注意を払っている。
人はカメラとは上やせいぜい横に仕掛けられるという思い込みがある。実際には広間のテーブルや私室のベット下には上下共にカメラが付く。
誰もがここなら安全だと思う場所には勿論仕掛ける。先日、これに気付かず馬鹿をやらかしたプレイヤーが出て面白い展開となったのはシャワールームだ。
上から布を掛ければ見えない、というありがちな発想に対してシーツにも、例えば今自分が潜り込んでいる所ならブランドタグの縫い付け部分に小型カメラが仕込まれている。
さりげなくそこを外側に折り込んだ後に頭からシーツを被りタブレットに暗証番号を入力する。とモニター室のチーフ席PCと繋がった。これで全プレイヤーの動きが観察可能となる。
役柄付きのプレイヤーが何を選択するかしないかも一目瞭然だ。
占星術師は早々と「占い」を終えている。
「……」
今夜初めて、直に14番プレイヤーを見た。
クリスティーナという女は思った以上に感情的で思考に緻密さが欠ける。敵にもならない。顧客を楽しませるための仕込みは済ませてあるからせいぜい踊らせよう。
前回「会場」の被害は莫大だった。
インドの伝統的な邸宅はエキゾチズムを誘い海外顧客から好評だったが、建築屋プレイヤーが指摘した通り構造の根幹部分を破壊され復旧が難しい。可能ではあるが工事金額は膨大になり、放棄した方がマシか検討中だ。
お陰で準備中だった廃棄建物を急ごしらえで整備して移動・再開の羽目となった。
前の邸宅から一転しての殺風景さに一部顧客は文句を言っているそうだが、それは乱暴なプレイヤーに言ってほしい。
どのプレイヤーが爆弾犯なのかまだわかっていない。
三名ほど候補はいるが、仕掛けられたらしい場所が倉庫下部と多くの人間が出入りした場所で、直接確認出来る映像も見当たらない。技術部に分析を依頼したら、
『映像観察はそちらの仕事だ』
と突っ返されたのも腹立たしかった。それでもアドバイスはもらったが。
ボスからは非常に厳しい叱責を食らった。
『こういうことのないように目を配るのが君たちの仕事だ』
『誰が爆弾を仕掛けたのかわからない? 監視カメラの設置計画も君たちだろう』
『田舎の小娘やガキと一緒にぼーっと映像を眺めていればいいと思っていたのか!』
会社と顧客たちとの間で話がついたのが、スタッフをプレイヤーとして参加させるというアイデアだった。こちらは大歓迎されたという。ブックメーカー部でも、
・潜入スタッフは勝利出来るか
・潜入スタッフ二名は誰か(三日目終了時点で賭ける)
を追加で受け付け、前者だけでも資金がどんどん流れ込んできたとほくほく顔だ。
(私たちが勝たないはずはないのに。馬鹿な奴ら)
デスゲーム(というのだそうだ)の素材にされる時点でしょせんウジ虫だ。
州知事の後援者がどうのとほざくガキがいるがその程度が何だというのか。
(さすがに現首相の息子とかなら何とかしただろうけど)
「悔しければ上ってくることね」
この賭けは、顧客への説明通り潜入スタッフの情報量は他のプレイヤーと同じで、監視カメラの場所も自分以外の役柄も知らず、「リアル人狼ゲーム」進行中は外部との連絡は断つ、という条件が前提だ。
(冗談じゃない。それじゃ命が幾つあっても足りない!)
カメラを含む建物設備全ての手配も、役柄の割り当ても自分たちで行っている。
ハリーと自分はそれを映像から顧客に気付かせてはならない。
顧客への詫びとしての「見世物」扱い、失敗の詰め腹を切らされたというのが実情だろう。仕掛けがいつか不明なのに、たまたま爆発時のシフトだった自分とハリーが指名されたことに当初納得いかなかった。
だが、プレイヤーのふりをしてみると面白いことこの上ない。
新しいアイデアがたくさん浮かび、チャンドリカはむしろ興奮していた。
戻ったら自分はもっと上質な「ゲーム」の企画をあげられる。チーフの中では頭一つ上のハリーたちと同格になれるかもしれない。潜入指名はむしろ僥倖だ。
今夜モニター監視人に呼びかけを行ったガキ(本当に最年少のお子ちゃまだ)には肝を冷やしたが、彼らが逃げられるわけもない。自分とハリーが無事生還しモニター室に戻れば人殺しの監視だの何だのという噂は霧散、までいかなくてもまことしやかに語られることはなくなるだろう。
チーフ席PCからの今夜の情報をまとめてハリーに送るとチャンドリカは目を閉じた。「狼」たちの時間まで仮眠しよう。
シャワーを済ませると白いうさぎが全面に散ったピンクのパジャマに着替える。
「……」
クローゼットの服は自分好みの品で揃えたがパジャマは人任せだった。似合わない可愛らしさは「演技」の一貫と見なせばいい。
タブレットを抱え、上掛けシーツの下に潜り込むがこれにも細心の注意を払っている。
人はカメラとは上やせいぜい横に仕掛けられるという思い込みがある。実際には広間のテーブルや私室のベット下には上下共にカメラが付く。
誰もがここなら安全だと思う場所には勿論仕掛ける。先日、これに気付かず馬鹿をやらかしたプレイヤーが出て面白い展開となったのはシャワールームだ。
上から布を掛ければ見えない、というありがちな発想に対してシーツにも、例えば今自分が潜り込んでいる所ならブランドタグの縫い付け部分に小型カメラが仕込まれている。
さりげなくそこを外側に折り込んだ後に頭からシーツを被りタブレットに暗証番号を入力する。とモニター室のチーフ席PCと繋がった。これで全プレイヤーの動きが観察可能となる。
役柄付きのプレイヤーが何を選択するかしないかも一目瞭然だ。
占星術師は早々と「占い」を終えている。
「……」
今夜初めて、直に14番プレイヤーを見た。
クリスティーナという女は思った以上に感情的で思考に緻密さが欠ける。敵にもならない。顧客を楽しませるための仕込みは済ませてあるからせいぜい踊らせよう。
前回「会場」の被害は莫大だった。
インドの伝統的な邸宅はエキゾチズムを誘い海外顧客から好評だったが、建築屋プレイヤーが指摘した通り構造の根幹部分を破壊され復旧が難しい。可能ではあるが工事金額は膨大になり、放棄した方がマシか検討中だ。
お陰で準備中だった廃棄建物を急ごしらえで整備して移動・再開の羽目となった。
前の邸宅から一転しての殺風景さに一部顧客は文句を言っているそうだが、それは乱暴なプレイヤーに言ってほしい。
どのプレイヤーが爆弾犯なのかまだわかっていない。
三名ほど候補はいるが、仕掛けられたらしい場所が倉庫下部と多くの人間が出入りした場所で、直接確認出来る映像も見当たらない。技術部に分析を依頼したら、
『映像観察はそちらの仕事だ』
と突っ返されたのも腹立たしかった。それでもアドバイスはもらったが。
ボスからは非常に厳しい叱責を食らった。
『こういうことのないように目を配るのが君たちの仕事だ』
『誰が爆弾を仕掛けたのかわからない? 監視カメラの設置計画も君たちだろう』
『田舎の小娘やガキと一緒にぼーっと映像を眺めていればいいと思っていたのか!』
会社と顧客たちとの間で話がついたのが、スタッフをプレイヤーとして参加させるというアイデアだった。こちらは大歓迎されたという。ブックメーカー部でも、
・潜入スタッフは勝利出来るか
・潜入スタッフ二名は誰か(三日目終了時点で賭ける)
を追加で受け付け、前者だけでも資金がどんどん流れ込んできたとほくほく顔だ。
(私たちが勝たないはずはないのに。馬鹿な奴ら)
デスゲーム(というのだそうだ)の素材にされる時点でしょせんウジ虫だ。
州知事の後援者がどうのとほざくガキがいるがその程度が何だというのか。
(さすがに現首相の息子とかなら何とかしただろうけど)
「悔しければ上ってくることね」
この賭けは、顧客への説明通り潜入スタッフの情報量は他のプレイヤーと同じで、監視カメラの場所も自分以外の役柄も知らず、「リアル人狼ゲーム」進行中は外部との連絡は断つ、という条件が前提だ。
(冗談じゃない。それじゃ命が幾つあっても足りない!)
カメラを含む建物設備全ての手配も、役柄の割り当ても自分たちで行っている。
ハリーと自分はそれを映像から顧客に気付かせてはならない。
顧客への詫びとしての「見世物」扱い、失敗の詰め腹を切らされたというのが実情だろう。仕掛けがいつか不明なのに、たまたま爆発時のシフトだった自分とハリーが指名されたことに当初納得いかなかった。
だが、プレイヤーのふりをしてみると面白いことこの上ない。
新しいアイデアがたくさん浮かび、チャンドリカはむしろ興奮していた。
戻ったら自分はもっと上質な「ゲーム」の企画をあげられる。チーフの中では頭一つ上のハリーたちと同格になれるかもしれない。潜入指名はむしろ僥倖だ。
今夜モニター監視人に呼びかけを行ったガキ(本当に最年少のお子ちゃまだ)には肝を冷やしたが、彼らが逃げられるわけもない。自分とハリーが無事生還しモニター室に戻れば人殺しの監視だの何だのという噂は霧散、までいかなくてもまことしやかに語られることはなくなるだろう。
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