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第5章 疑惑へようこそ(新2日目)
5ー6 新2日目会議(下)
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「なら昨夜のアルジュンは占った?」
聞くと、
「ああ。『村人』って出たよ」
答えにダルシカが両手で口を覆った。
「既にひとり『村人』を殺してしまった。その上でぼくも殺すのか? 君たちは生き延びたくないのか」
「アルジュンを『村人』だと確認した方法を教えてください」
「だから『タントラ』として……。ああ方法のこと?」
アビマニュに問い返し、
「やり方はないんだ。十一時が過ぎたら部屋のモニターに、
『今日の処刑者11番は『村人』でした』
って文章が出ただけだから」
ダルシカは小さく震え出す。
「これはゴパルの言い分。彼が正しいかどうかはまだ不明、落ち着いて!」
ダルシカに向かって伝えれば、
「あんた、自分が嘘を吐いたからって人も同じだと決めつけるのは止めろよ」
睨む目は視線が合った途端に避けられる。
「うーん」
アビマニュは鼻の下を擦って首を傾げた。
「クリスティーナさんともディヴィアさんとも方法が違いますね。『タントラ』は選ぶ必要がないからと言えばそれまでですが……」
「そこまで難癖を付けるのか? 暴力にさらされて痛みに耐え続けて、挙げ句の果てに人殺し扱いとかぼくにはもう理解出来ない!」
体が辛いのは大変だと思いますが、と前置きしてからアビマニュは一気に畳みかけた。
「割れたレンズや眼鏡そのもの、銃痕もサラージさんの部屋だけにあったという事実は解決していません。僕は覗いただけですがゴパルさんの部屋は荒れた様子はなかった。サラージさんの部屋はテーブルが少しズレていました。どちらで乱闘があったかと言えばサラージさんの部屋の方と考えるのが自然です。一方で『タントラ』だとの主張はわかりました」
処刑された者が「人狼」かどうか識別出来る「タントラ」は村人にとって大切な役だ、とアビマニュは説明する。
「残りの『狼』のカウントは重要だからね」
ラクシュミが拳を頬に当てて考えこむ。彼女がそうなら多くの者が迷うだろう。
偽「占星術師」と同じで窮地に陥った「人狼」が偽「タントラ」COをしただけだろうが、そう理解しているのはアビマニュくらいだろう。
彼は新入り組への配慮もあり全員を平等に扱おうとしているし、自分は偽物と訴えられた当事者だ。指摘は得策だろうか。
「あの、『タントラ』はこの中にひとりだけってことでいいんだよね」
タブレットを確認しながらマーダヴァンが聞く。アビマニュが肯定すると、
「それなら、ゴパルさんは何か間違っているか勘違いしていると思う。わたしが『タントラ』なんだ。前からずっと」
言った時、
『投票の五分前になりました。皆さん、考えは決まりましたか。投票の五分前ー』
アナウンスが流れた。
(え?!)
「何で今まで言ってなかったの?」
詰問するディヴィアに、役を明かすと『人狼』に襲われる可能性が高くなると繰り返されたからと答える。
「今まで占い、つまり処刑者の正体は見ましたか」
「していない」
アビマニュの問いを否定する。
「『タントラ』のような禍々しい力を利用することは、わたしには正しいことだと思えなかった」
吸った息がため息になる前にがくりと首が落ちた。
「タントラ」と言えば、修業で手にした超自然的な力を悪い方に依頼者のために使う黒魔術的な呪術師、あさましい存在を思い浮かべる。大部分の人間は関わりたくないだろう。
(「マッキー」や「bhool bhulaiyaa2」みたいな感じだよね)
だがこれは違う。
「マーダヴァン。あなたの教法を守ろうとする意志は大切なもの。けれどこれは全く別の話」
ラクシュミがその辺りを説く。
「『ゲーム』の運営者に与えられた権利を行使するだけで、悪しき存在を利用するとかーまあ『連中』とこの『ゲーム』のお膳立て自体が悪しき場所ではあるけどー怪しげな生け贄を捧げて時空もカルマもねじ曲げる訳じゃない。クリスティーナやディヴィアがクンダリーを作ったりダシャーを読んだりしているんじゃないってのと同じ」
頷いた自分にマーダヴァンの目が留まる。とラクシュミに目を移し、
「……バガヴァーンに恥じることではない、とラクシュミさんは思いますか」
「全く問題ない、私が思うに」
次に彼が目を動かした先でロハンも頷く。
(信仰心が裏目に出たのか……)
マーダヴァンは深く俯いて考え込む。
「だったら、マーダヴァンさんのモニターには処刑された人の正体が自動的に表示されなかったってことですか?」
ダルシカが尋ねたのにラクシュミがはっと目を開く。
「そうだね」
十一時になると「タントラ」として処刑された者の正体を見るかと尋ねる文章が出現し、無視していると十二時には消えると答えた。
(私の「占い」方法と同じだ)
やはりマーダヴァンが本物でゴパルが偽物だ。
だがカミングアウトが遅れたのはともかく、占ってすらいなかったのは正直痛い。実際、
「口では何と言っても、今までの記録が出せないのなら意味がないと思いますが」
ウルヴァシが言い募る。
「今夜からは見て」
命じるラクシュミに頭を下げマーダヴァンは応じた。
アビマニュが少し声を張る。
「もし『武士』がいるなら言っておく。『タントラ』は『人狼』に狙われる可能性が高い。かと言ってここで必ず『タントラ』を守ってくれと言えば、今度は『占星術師』や他の『村人』らしい人たちが危なくなる。だから『武士』は、これらを理解した上で自分の判断で守ってくれ。もし何らかの理由で今まで守りを付けていなくても今夜は必ずやってください。それから『聖者』は今まで通り『祝福』を使わないように」
理解を確かめるように皆をゆっくりと見渡す。
「ぼくが『タントラ』だ。何を目的にしているのかはわからないけれど彼は偽物だ」
主張するゴパルにマーダヴァンが大きく首を横に振り、
「『タントラ』主張ふたり、『占星術師』主張ふたり、計四人についてという意味で僕は話している」
アビマニュは落ち着いたものだ。
「言い難いかもしれないから私が言う。『人狼ゲーム』には、占いの出来るふたつの役を名乗った人間を片っ端から処刑するという手法がある。なぜなら中には必ず偽物が含まれているから」
村人が敵を確実に葬る方法のひとつだと言えばテーブルの視線が自分に集まる。
緊張に満ちた目と目ー
「こっちは僕が言おう。『占星術師』と『タントラ』では『タントラ』優先で吊……処刑することが多い。それからこの方法には大きな難点がある。もし先に本物の『占星術師』『タントラ』を処刑してしまった場合、『ゲーム』は一気に「村人」を潰す方向に流れてしまう」
「狼」らに都合の良い偽情報で場が操られる、と重く告げる。若干早口だったのは、
『二十二時半、投票の時刻になりました。今から一分間の間に今夜処刑したいと思う人の番号を入力してください』
残り時間を把握していたからだろう。
書いたメモをエクジョットに寄せてすぐ、クリスティーナはテンキーに手を動かした。
<注>
・ダシャー 西洋占星術にはないインド占星術のシステム。時期を解読する。
聞くと、
「ああ。『村人』って出たよ」
答えにダルシカが両手で口を覆った。
「既にひとり『村人』を殺してしまった。その上でぼくも殺すのか? 君たちは生き延びたくないのか」
「アルジュンを『村人』だと確認した方法を教えてください」
「だから『タントラ』として……。ああ方法のこと?」
アビマニュに問い返し、
「やり方はないんだ。十一時が過ぎたら部屋のモニターに、
『今日の処刑者11番は『村人』でした』
って文章が出ただけだから」
ダルシカは小さく震え出す。
「これはゴパルの言い分。彼が正しいかどうかはまだ不明、落ち着いて!」
ダルシカに向かって伝えれば、
「あんた、自分が嘘を吐いたからって人も同じだと決めつけるのは止めろよ」
睨む目は視線が合った途端に避けられる。
「うーん」
アビマニュは鼻の下を擦って首を傾げた。
「クリスティーナさんともディヴィアさんとも方法が違いますね。『タントラ』は選ぶ必要がないからと言えばそれまでですが……」
「そこまで難癖を付けるのか? 暴力にさらされて痛みに耐え続けて、挙げ句の果てに人殺し扱いとかぼくにはもう理解出来ない!」
体が辛いのは大変だと思いますが、と前置きしてからアビマニュは一気に畳みかけた。
「割れたレンズや眼鏡そのもの、銃痕もサラージさんの部屋だけにあったという事実は解決していません。僕は覗いただけですがゴパルさんの部屋は荒れた様子はなかった。サラージさんの部屋はテーブルが少しズレていました。どちらで乱闘があったかと言えばサラージさんの部屋の方と考えるのが自然です。一方で『タントラ』だとの主張はわかりました」
処刑された者が「人狼」かどうか識別出来る「タントラ」は村人にとって大切な役だ、とアビマニュは説明する。
「残りの『狼』のカウントは重要だからね」
ラクシュミが拳を頬に当てて考えこむ。彼女がそうなら多くの者が迷うだろう。
偽「占星術師」と同じで窮地に陥った「人狼」が偽「タントラ」COをしただけだろうが、そう理解しているのはアビマニュくらいだろう。
彼は新入り組への配慮もあり全員を平等に扱おうとしているし、自分は偽物と訴えられた当事者だ。指摘は得策だろうか。
「あの、『タントラ』はこの中にひとりだけってことでいいんだよね」
タブレットを確認しながらマーダヴァンが聞く。アビマニュが肯定すると、
「それなら、ゴパルさんは何か間違っているか勘違いしていると思う。わたしが『タントラ』なんだ。前からずっと」
言った時、
『投票の五分前になりました。皆さん、考えは決まりましたか。投票の五分前ー』
アナウンスが流れた。
(え?!)
「何で今まで言ってなかったの?」
詰問するディヴィアに、役を明かすと『人狼』に襲われる可能性が高くなると繰り返されたからと答える。
「今まで占い、つまり処刑者の正体は見ましたか」
「していない」
アビマニュの問いを否定する。
「『タントラ』のような禍々しい力を利用することは、わたしには正しいことだと思えなかった」
吸った息がため息になる前にがくりと首が落ちた。
「タントラ」と言えば、修業で手にした超自然的な力を悪い方に依頼者のために使う黒魔術的な呪術師、あさましい存在を思い浮かべる。大部分の人間は関わりたくないだろう。
(「マッキー」や「bhool bhulaiyaa2」みたいな感じだよね)
だがこれは違う。
「マーダヴァン。あなたの教法を守ろうとする意志は大切なもの。けれどこれは全く別の話」
ラクシュミがその辺りを説く。
「『ゲーム』の運営者に与えられた権利を行使するだけで、悪しき存在を利用するとかーまあ『連中』とこの『ゲーム』のお膳立て自体が悪しき場所ではあるけどー怪しげな生け贄を捧げて時空もカルマもねじ曲げる訳じゃない。クリスティーナやディヴィアがクンダリーを作ったりダシャーを読んだりしているんじゃないってのと同じ」
頷いた自分にマーダヴァンの目が留まる。とラクシュミに目を移し、
「……バガヴァーンに恥じることではない、とラクシュミさんは思いますか」
「全く問題ない、私が思うに」
次に彼が目を動かした先でロハンも頷く。
(信仰心が裏目に出たのか……)
マーダヴァンは深く俯いて考え込む。
「だったら、マーダヴァンさんのモニターには処刑された人の正体が自動的に表示されなかったってことですか?」
ダルシカが尋ねたのにラクシュミがはっと目を開く。
「そうだね」
十一時になると「タントラ」として処刑された者の正体を見るかと尋ねる文章が出現し、無視していると十二時には消えると答えた。
(私の「占い」方法と同じだ)
やはりマーダヴァンが本物でゴパルが偽物だ。
だがカミングアウトが遅れたのはともかく、占ってすらいなかったのは正直痛い。実際、
「口では何と言っても、今までの記録が出せないのなら意味がないと思いますが」
ウルヴァシが言い募る。
「今夜からは見て」
命じるラクシュミに頭を下げマーダヴァンは応じた。
アビマニュが少し声を張る。
「もし『武士』がいるなら言っておく。『タントラ』は『人狼』に狙われる可能性が高い。かと言ってここで必ず『タントラ』を守ってくれと言えば、今度は『占星術師』や他の『村人』らしい人たちが危なくなる。だから『武士』は、これらを理解した上で自分の判断で守ってくれ。もし何らかの理由で今まで守りを付けていなくても今夜は必ずやってください。それから『聖者』は今まで通り『祝福』を使わないように」
理解を確かめるように皆をゆっくりと見渡す。
「ぼくが『タントラ』だ。何を目的にしているのかはわからないけれど彼は偽物だ」
主張するゴパルにマーダヴァンが大きく首を横に振り、
「『タントラ』主張ふたり、『占星術師』主張ふたり、計四人についてという意味で僕は話している」
アビマニュは落ち着いたものだ。
「言い難いかもしれないから私が言う。『人狼ゲーム』には、占いの出来るふたつの役を名乗った人間を片っ端から処刑するという手法がある。なぜなら中には必ず偽物が含まれているから」
村人が敵を確実に葬る方法のひとつだと言えばテーブルの視線が自分に集まる。
緊張に満ちた目と目ー
「こっちは僕が言おう。『占星術師』と『タントラ』では『タントラ』優先で吊……処刑することが多い。それからこの方法には大きな難点がある。もし先に本物の『占星術師』『タントラ』を処刑してしまった場合、『ゲーム』は一気に「村人」を潰す方向に流れてしまう」
「狼」らに都合の良い偽情報で場が操られる、と重く告げる。若干早口だったのは、
『二十二時半、投票の時刻になりました。今から一分間の間に今夜処刑したいと思う人の番号を入力してください』
残り時間を把握していたからだろう。
書いたメモをエクジョットに寄せてすぐ、クリスティーナはテンキーに手を動かした。
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