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第5章 疑惑へようこそ(新2日目)
5ー6 新2日目会議(中)
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「あなた、ベッドから落ちて顔に怪我をしたって言ったでしょう? ディヴィアとウルヴァシも聞いたはず」
ラクシュミが言えばふたりも顔を見合わせて頷く。
ゴパルの昼食は様子見も兼ねてラクシュミら三人とマーダヴァンで運んだ。
「誰が『狼』の仲間がわからないからだ。殺されかけたんだぞ! 警戒して当然だろう? サラージが死んでいたのはようやくあの時知ったんだし」
「そう、伝えた。なら何故その場で訂正しなかったの?」
「何でもかんでも理屈通りにものが言える訳じゃないよ! 目は見えないし、痛みに耐えるので精一杯だったんだ!」
わめき散らす。
ゴパルの言い分は三回ころころと変わった。
朝は発熱で具合が悪いと病状を訴え、昼はベッドから落ちて怪我をした、そして今は「人狼」サラージに襲われただ。さすがに説得力がない。
(今日の投票は決まりだろうな)
ディヴィアとの投票合戦を先送り出来るのはありがたい。
この人が死ぬ、と思うのに保身もあって同情心が薄れていることが恐い。心が壊れていく。それこそまた「連中」の思う壺だ。
「光が刺さるそうだけど見ること自体に支障はないの?」
ファルハが乗り出した。
「かなり良くなって来ました。殴られた直後は本当に真っ暗で、このまま見えなくなったらどうしようって考えていました」
朝には全体に網が張られた程度の見え方に、今は格子柄のように縦横に黒い部分が残るだけでかなり見えやすくなったという。
「ここで皆さんの様子はだいたい見えます」
顎下で布を押さえたまま顔を上げる。
「仮病じゃないかって疑っている人もいるみたいだけど、ゴパルさんの怪我と熱は本当だ。さっきは37℃代だった」
今朝は38℃以上あったから回復途上だとマーダヴァンが加える。
「サラージさんがあなたの部屋に来た時、銃を持っていましたか」
イムラーンは問う。
「ああ。だからとにかく必死だった」
「あなたの部屋で発砲はありましたか」
「いいや」
発砲しそうになる度に飛びついて止めた。
「おかしいですよね。もみ合いになったら銃を持っている側は撃つんじゃないですか?」
「そう簡単に銃なんて撃てないよガキ!」
罵りにイムラーンも目を剥く。
「銃弾の数が限られているなら簡単には撃てないと思う」
ウルヴァシが例の深みのある声で呟き、
「私もそう思います。それならゴパルさんの部屋には銃跡はないんですね」
「当たり前だ」
「ではどうしてサラージさんの部屋にいくつもの銃痕があったんでしょう」
ダルシカが追及した。
「ぼくに他人の部屋のことなんて聞いてどうするの? 何の疑いをかけたいんだ」
「あなたが『人狼』ではないか、疑わしいので調べているところです」
声は震えたものの真っ直ぐにゴパルの視線を受け止めた。
「ならゴパルさんはクリスティーナさんとグルってこと?」
言ったディヴィアをぎろりと睨んだが誰も後を拾わなかった。
「ぼくはこの偽『占星術師』とは違う。襲われた被害者だ、っっ!」
叫んだ拍子に咳き込む。わざとではないようだが見守るテーブルの視線は冷たい。
(無駄だよ。何をわめいても)
この人だって同じ誘拐被害者だろうにとの悲しみの内に呟く。
「発砲がなかったこと自体はおかしくないぞ、イムラーン。条件が揃えば」
ロハンが低く口を挟んだ。
「実力にかなり差があって、強い方が意識して銃と相手を接触させないようにすれば可能だ。サラージは仕事柄強かったようだし、ゴパルは多分鍛えていない」
椅子の上で身を縮めるゴパルを見る。
「ぼくはオフィス・ワーカーだ。現場の人間とは差があるだろうよ」
目を落としたままぼやく。
「ゴパルさん。眼鏡がなくなったことに気付いたのはいつでしたか」
アビマニュの丁寧な口調は多分意識してのものだ。
「ずっと気が付かなかった。見えなくなることが恐くてそれどころじゃなかった」
「朝食は少しとっていましたね」
ドアからすぐの所に放置した食事を食べたのだから、歩ける程度まで視力は回復していたはずだ。先ほど本人も網がかかった程度には見えるようになったと言ったばかりだ。
「食事もほとんど零れていませんでした」
ここぞとクリスティーナは口を挟む。
「……普段眼鏡を掛けている人間なら、歩き回る時になければすぐ気付くものだよ」
と自分の眼鏡を外して見せる。
「具合悪かった、熱があったってマーダヴァンも言っただろうが、この『狼』!」
隣から噛み付かれる。
「眼鏡がどこにあるかは探しましたか」
アビマニュが穏やかな質問に戻す。実際には丁寧な「尋問」だ。
「いや。だから眼鏡のことなんて考えなかった」
「これですよね」
席の前にかぶせた布巾の下から赤い弦の眼鏡を取り出しレイチェルの方に手渡す。回ってきたそれをゴパルの目の前に差し出すと、
「……ぼくのだ」
認めて手元に引き取る。
「どこにあったかわかりますか」
「サラージの部屋にあったってんだろ? 聞いたよ。あいつに奪われたんだ」
「眼鏡のレンズらしい破片がサラージさんの部屋のベッドから入口の間の床に散乱してました。ロハンとマーダヴァンさんがちょっとですが踏んでしまって怪我をしています」
確認しますかと尋ねるとゴパルは否定した。
「別にいい。そこであんたたちが嘘を言うとは思わない」
大きく頷くとアビマニュはゴパルに向けていた顔を戻した。
「現場はサラージさんの部屋だったと僕には思えます。他人の部屋に侵入出来るのはその時間の『人狼』だけです」
穏やかさを変えずに告げる。
「『ルールブック』には、『人狼』が夜にひとりも殺すことが出来なければ全員が殺されるとある」
「武士」や「聖者」の仕事で守られたり「象」を襲ってしまったりすれば例外となるにしても、
「サラージさんが『狼』だったら、あなたを殺し損なって放置すれば『狼』は全滅、『リアル人狼ゲーム』は終わります」
「村人」「象」どちらかの勝利で。
「だから相手の動きだの何だのぼくにはさっぱりわからない。皆もそうだろう! この異常な場で自分以外の人間の行動や、まして動機なんぞしたり顔で説明出来る方がおかしいよ」
落ち着いて考えてくれ、と咆吼するとまた咳き込む。
腹の底は今や川のような悲しみに覆い尽くされる。
「……ぼくがサラージを殺したとでもいうのか? さっきロハンも言ったように力の差が問題だ。メタクソにやられたぼくが奴を殺やったと?」
「薬の注射や吹きつけなら可能でしょう」
「非現実的なことを言わないでください。触れることも出来ずに殴られ続けたぼくが注射とか、論理的ではないですよ?」
ラクシュミに皮肉を効かせれば、
「触れることも出来なかったあなたが銃の発砲を押さえられたのよね」
彼女も叩き返す。
「そ……。仕方ない」
ゴパルは唾を飲み込み、言葉をためる。
「人狼」だと白状するつもりかと握った手の内に汗を感じたが、
「ぼくを処刑したら『村人』は損をする。ぼくは『タントラ』だ」
(そう来たか!)
ラクシュミが言えばふたりも顔を見合わせて頷く。
ゴパルの昼食は様子見も兼ねてラクシュミら三人とマーダヴァンで運んだ。
「誰が『狼』の仲間がわからないからだ。殺されかけたんだぞ! 警戒して当然だろう? サラージが死んでいたのはようやくあの時知ったんだし」
「そう、伝えた。なら何故その場で訂正しなかったの?」
「何でもかんでも理屈通りにものが言える訳じゃないよ! 目は見えないし、痛みに耐えるので精一杯だったんだ!」
わめき散らす。
ゴパルの言い分は三回ころころと変わった。
朝は発熱で具合が悪いと病状を訴え、昼はベッドから落ちて怪我をした、そして今は「人狼」サラージに襲われただ。さすがに説得力がない。
(今日の投票は決まりだろうな)
ディヴィアとの投票合戦を先送り出来るのはありがたい。
この人が死ぬ、と思うのに保身もあって同情心が薄れていることが恐い。心が壊れていく。それこそまた「連中」の思う壺だ。
「光が刺さるそうだけど見ること自体に支障はないの?」
ファルハが乗り出した。
「かなり良くなって来ました。殴られた直後は本当に真っ暗で、このまま見えなくなったらどうしようって考えていました」
朝には全体に網が張られた程度の見え方に、今は格子柄のように縦横に黒い部分が残るだけでかなり見えやすくなったという。
「ここで皆さんの様子はだいたい見えます」
顎下で布を押さえたまま顔を上げる。
「仮病じゃないかって疑っている人もいるみたいだけど、ゴパルさんの怪我と熱は本当だ。さっきは37℃代だった」
今朝は38℃以上あったから回復途上だとマーダヴァンが加える。
「サラージさんがあなたの部屋に来た時、銃を持っていましたか」
イムラーンは問う。
「ああ。だからとにかく必死だった」
「あなたの部屋で発砲はありましたか」
「いいや」
発砲しそうになる度に飛びついて止めた。
「おかしいですよね。もみ合いになったら銃を持っている側は撃つんじゃないですか?」
「そう簡単に銃なんて撃てないよガキ!」
罵りにイムラーンも目を剥く。
「銃弾の数が限られているなら簡単には撃てないと思う」
ウルヴァシが例の深みのある声で呟き、
「私もそう思います。それならゴパルさんの部屋には銃跡はないんですね」
「当たり前だ」
「ではどうしてサラージさんの部屋にいくつもの銃痕があったんでしょう」
ダルシカが追及した。
「ぼくに他人の部屋のことなんて聞いてどうするの? 何の疑いをかけたいんだ」
「あなたが『人狼』ではないか、疑わしいので調べているところです」
声は震えたものの真っ直ぐにゴパルの視線を受け止めた。
「ならゴパルさんはクリスティーナさんとグルってこと?」
言ったディヴィアをぎろりと睨んだが誰も後を拾わなかった。
「ぼくはこの偽『占星術師』とは違う。襲われた被害者だ、っっ!」
叫んだ拍子に咳き込む。わざとではないようだが見守るテーブルの視線は冷たい。
(無駄だよ。何をわめいても)
この人だって同じ誘拐被害者だろうにとの悲しみの内に呟く。
「発砲がなかったこと自体はおかしくないぞ、イムラーン。条件が揃えば」
ロハンが低く口を挟んだ。
「実力にかなり差があって、強い方が意識して銃と相手を接触させないようにすれば可能だ。サラージは仕事柄強かったようだし、ゴパルは多分鍛えていない」
椅子の上で身を縮めるゴパルを見る。
「ぼくはオフィス・ワーカーだ。現場の人間とは差があるだろうよ」
目を落としたままぼやく。
「ゴパルさん。眼鏡がなくなったことに気付いたのはいつでしたか」
アビマニュの丁寧な口調は多分意識してのものだ。
「ずっと気が付かなかった。見えなくなることが恐くてそれどころじゃなかった」
「朝食は少しとっていましたね」
ドアからすぐの所に放置した食事を食べたのだから、歩ける程度まで視力は回復していたはずだ。先ほど本人も網がかかった程度には見えるようになったと言ったばかりだ。
「食事もほとんど零れていませんでした」
ここぞとクリスティーナは口を挟む。
「……普段眼鏡を掛けている人間なら、歩き回る時になければすぐ気付くものだよ」
と自分の眼鏡を外して見せる。
「具合悪かった、熱があったってマーダヴァンも言っただろうが、この『狼』!」
隣から噛み付かれる。
「眼鏡がどこにあるかは探しましたか」
アビマニュが穏やかな質問に戻す。実際には丁寧な「尋問」だ。
「いや。だから眼鏡のことなんて考えなかった」
「これですよね」
席の前にかぶせた布巾の下から赤い弦の眼鏡を取り出しレイチェルの方に手渡す。回ってきたそれをゴパルの目の前に差し出すと、
「……ぼくのだ」
認めて手元に引き取る。
「どこにあったかわかりますか」
「サラージの部屋にあったってんだろ? 聞いたよ。あいつに奪われたんだ」
「眼鏡のレンズらしい破片がサラージさんの部屋のベッドから入口の間の床に散乱してました。ロハンとマーダヴァンさんがちょっとですが踏んでしまって怪我をしています」
確認しますかと尋ねるとゴパルは否定した。
「別にいい。そこであんたたちが嘘を言うとは思わない」
大きく頷くとアビマニュはゴパルに向けていた顔を戻した。
「現場はサラージさんの部屋だったと僕には思えます。他人の部屋に侵入出来るのはその時間の『人狼』だけです」
穏やかさを変えずに告げる。
「『ルールブック』には、『人狼』が夜にひとりも殺すことが出来なければ全員が殺されるとある」
「武士」や「聖者」の仕事で守られたり「象」を襲ってしまったりすれば例外となるにしても、
「サラージさんが『狼』だったら、あなたを殺し損なって放置すれば『狼』は全滅、『リアル人狼ゲーム』は終わります」
「村人」「象」どちらかの勝利で。
「だから相手の動きだの何だのぼくにはさっぱりわからない。皆もそうだろう! この異常な場で自分以外の人間の行動や、まして動機なんぞしたり顔で説明出来る方がおかしいよ」
落ち着いて考えてくれ、と咆吼するとまた咳き込む。
腹の底は今や川のような悲しみに覆い尽くされる。
「……ぼくがサラージを殺したとでもいうのか? さっきロハンも言ったように力の差が問題だ。メタクソにやられたぼくが奴を殺やったと?」
「薬の注射や吹きつけなら可能でしょう」
「非現実的なことを言わないでください。触れることも出来ずに殴られ続けたぼくが注射とか、論理的ではないですよ?」
ラクシュミに皮肉を効かせれば、
「触れることも出来なかったあなたが銃の発砲を押さえられたのよね」
彼女も叩き返す。
「そ……。仕方ない」
ゴパルは唾を飲み込み、言葉をためる。
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