リアル人狼ゲーム in India

大友有無那

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第7章 混乱へようこそ(新4日目)

7ー3 天井裏の秘密2(下) (新4日目午後)

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 また男性たちの喧嘩だろうか。
『警告! 警告! ルール違反です! 警告! 警告ー』
 ベジタリアン食堂にて、ダルシカはラクシュミと並んで夕食の下準備をしていた。
 ダルシカの食事はベジタリアンの中でも一番制約が多い。
 ディヴィアがいなくなりまた自分が作らなければならなくなった。とはいえ毎度一品は食べられるものをラクシュミが作ってくれて、ついでに料理もあれこれ教えてくれる。緊張はするが意外と楽しい時間だ。
 前の邸宅とは違い洋風のキッチンに洋包丁が揃っているのもありがたい。

 遠くから聞こえるアナウンスに茄子を切っていた包丁を置く。布巾を掛けて動きだそうとすると、
「台所は寺院。料理中は出歩かない」
 厳かにラクシュミは言う。ボールの中で野菜を洗う手は勿論止めない。
「お寺にお参りしている時結婚式のパレードが通ったとしても走り出て見に行かないでしょう。ヒンドゥーでもジャイナでもそこは同じじゃないの?」
 ダルシカはまな板の前に戻った。

ーーーーー
「もう大丈夫です」
 濡れタオルでほとほと額を押さえてくれたマーダヴァンに断ると、彼は真面目な顔で頷く。
 小一時間ほど前にロハンを殴り付け、
『警告! 警告! ルール違反です!』
 暴力行為の警告で薬を刺されアビマニュは床に倒れた。


 ベジタリアン食堂から出て来たロハンがこちらを見るや否や、
『残念だったなあ。一番の巨乳がいなくなって』
 反射的に手が出た。

 ロハンは巨木のように動かず、殴った手の痛みに加え薬の注入で意識があやふやになった。ふらつき首をぐるぐる回すだけの自分にマーダヴァンが駆け寄った。
『お前、あの女とやったの?』
 辺りに女性がいないからと下品極まりないセリフだ。
『そんなことしか考えられないのか。このいつ死ぬかわからない状況で』
 見上げてゆっくりと話した。 
 大テーブルの椅子ににじり上がる自分をかばうようにマーダヴァンが前に出て、向こうではプラサットがロハンの腕を抱えて引き止める。
『くだらない。クリスティーナさんとそういうのは全くない。あの人にも失礼だ。「人狼ゲーム」の経験者だから共に働いたってそれだけだ』
 声がしんみりとし過ぎるのが嫌だ。
『それにあの人はずっと年上だ』
 姉さんより上はそういう対象じゃない、という端からリビングでチャイカップを握り込む姉の姿を思い出す。
(……)

『男と女にそんなー』
『止めないか!』
 マーダヴァンが鋭く投げつけた。
『亡くなった人にそこまで失礼なことよく言えたもんだね。夕食まで出て来ないでくれないか! プラサット頼む』
 見張りを立てる余裕はないがプレイヤー間の申し合わせで今もロハンは食事と会議以外自室に籠もらされている。
 俺を殺そうとしたから死んだんだと捨て台詞を吐くロハンを、
兄貴バーイ!』
 宥めつつプラサットが階段に引っ張って行った。

 怒りが様々な感情に変わって胸で吹き荒れ、やがて砂が落ちるように収まっていく。
 ロハンの憎悪が自分の命を守るためだったのはその通りだろうし、悪意に満ちた攻撃への反論を誤りクリスティーナは処刑の罠に落ちた。
 先ほど布の下の「爆弾魔」の問いかけを見た。誰かわからないが動いてくれるのなら希望になる。
 クリスティーナが望んだように流れが変わった時にはロハンも戦力になるー
『警告! 警告! ルール違反です! 警告! 警告ー』
 身が縮んだが今度は自分ではない。上階か。

 マーダヴァンと共に階段を駆け上がる。二階廊下にいたプラサットが三階のようだと言い三人で女性フロアへ走り込む。廊下でレイチェルとラディカが困り顔でうろうろしている。
『警告! 警告! ルール違反です! 他人の部屋に入ってはなりません! 警告! 警告ー』
 アナウンスは続く。ウルヴァシも部屋から出て来たが同じくさっぱりだと頼る目だ。彼女らにまず自分の部屋に侵入者がいないか確かめてもらい、その後皆の所在を確認する。
「ラクシュミさんとダルシカはキッチンです」
「ノンベジもアンビカさんとファルハさんが」
 再びマーダヴァンと一階に降りベジ・ノンベジの台所を回る。

ーーーーー
 マーダヴァンが去った後、ダルシカは今度こそ包丁を置いてボールに布巾をかけた。
「ダルシカ、」
「寺院でも火事になれば逃げると思います!」
 台所を飛び出した背を見送り、
「だからどこにも火はついてないでしょうが。近頃の若い者は、って言っていい?」
 ため息と共にラクシュミは呟いた。

ーーーーー
 ファルハはまだ台所に顔を出していないとアンビカは言った。
 所在がわからないのは彼女だけとなり、私室のドアを繰り返しノックし声をかけたが反応はない。
 上がってきたスンダルも合わせて名前を呼んで回り、レイチェルなど洗濯機や乾燥機まで開けて探している。その洗濯機側の階段からダルシカが上ってきて、話を聞きファルハの部屋のドアを叩く。反応がないとみると、
「!」
 ドアレバーを握りざっと扉を引く。
「開いた」
 思わず声に出していた。

 ダルシカは半歩、一歩と部屋に足を踏み入れ、完全にファルハの部屋の中に入る。何事もない。
「そんな……」
 イムラーンが棒立ちになりラジェーシュが眉を寄せる。
 開け放たれたドアの向こう、ダルシカと後に続いたレイチェルがベッド下、クローゼット内と探し始める。
「いない、どこにもいないよぉファルハさん」
 泣きそうなレイチェルの声に続き、
「シャワーの上、天井点検口が開いています!」
 ダルシカが叫んだ。


 このバスルーム天井を経由してスンダルとイムラーンが天井裏に上がった。
 イムラーンが洗濯機方面、スンダルが反対側へと一回りすると決め、補佐としてプラサットがイムラーンと共に廊下を移動して場所を確認、アビマニュはスンダルに着いた。
 私室が開き中へ入れることの意味はわかっている。
(どうして……今はまだ「昼間」だぞ!)
 ファルハが無謀な脱出や建物・備品損壊をやらかすとも思えない。アナウンスの「他人の部屋に入る」とはどういうことだ?

「アビマニュいる?」
 固い声が天井から降ってきた。
「今17号室のドアの前です」
 上に向かって声を張る。天井裏の姿の見えない人とやりとりをするのは妙な感覚だ。
「俺もそこ。ファルハさんが倒れている。…………」
 続く言葉がくぐもる。
「聞こえません!」
「脈が取れないんだっ!」
(……っっ)

「マーダヴァンです。ファルハさん下ろせそうですか。わたしが診ます!」
 寄ってきて上に叫ぶ。
 結局ウルヴァシの協力で向かいの部屋からファルハを下ろすこととなった。

 準備を待つ間にイムラーンが反対側から駆け付けた。
 スンダルは自分の三倍以上のスピードでモグラもかくやという突進をタブレットの光で合図し迎えた。後からイムラーンが手首や肘を擦り出血していたことがわかるが、とにかく狭い天井裏とは思えない速度で駆け付けた彼にファルハを照らして見せる。
「膝から下だけが廊下側に、後は梁の向こうに入っていたのを俺が引き出した」
 梁のすぐこちら側、つまり廊下部分の上に彼女は横たわっている。
「脈を取ってくれ」
 スンダルのかざすタブレットの光ににじり寄ったイムラーンが手首を、耳下から首を、そして遠慮がちに首から左胸に手のひらを下ろし、耳を付けた。
「ファルハさん?」
 身を起こし彼女の肩を掴んで揺さぶる。

「ファルハアッカお姉さんあああああああっっっっ!!」

 絶叫が天井裏から三階廊下に響き渡った。


 何とか自室のバスルーム上に上ったウルヴァシが梁下を通してスンダルたちへシーツを寄越し、そこに乗せたファルハを男たちがウルヴァシの部屋側に押し込んだ。彼女はバスルームに敷いたマットレスの上にファルハを落として挟み、自分の部屋を引きずって廊下に出す。
 レイチェルやラディカと共にアビマニュもシーツを廊下に引き出すのに協力した。
 黒いカーディガンを羽織り白手袋を付けた姿でファルハは倒れていた。
 好奇心旺盛でよく動いた目は少しばかり瞼が下りて虚ろに、口も軽く開いたままだ。マーダヴァンが死亡を宣告すると少女たちが泣き叫びだす。その後ろでやりきれない表情をしているウルヴァシに彼女の遺体を改めることを頼みアビマニュたち男は一度ロビーまで下がる。
 その後シーツに包んだファルハをイムラーン先頭に広間まで運んだ。
 彼が頭の側、マーダヴァンが足元を中はアビマニュが抱えた。「風の部屋」の前に新しいシーツを敷いて寝かせるとイムラーンは枕元に座り込み、両手を顔の前にかざし祈り始めた。


 イムラーンは食堂に姿を見せなかった。
 夜の会議のため人がテーブル周りに集まり始めても彼はまだファルハの亡骸の横に添い座っていた。
「イムラーン。キチュリ作ったの。あとブーナ・ムールガを少しだけお鍋に残してある。就寝の十分前、十時五十分に片付けるからそれまでによければ食べて」
 アンビカは少し離れた所から声を掛けた。耳を澄ますと、
「アッラー……アッラー アクバル……アッラー……」
 小さく少し大きくと呟くのが聞こえる。
 神の名を唱えている人に話しかけるのは失礼だと引き下がりかけたところ、
「アンビカさん済みません。食べられるようだったら食べます」
 イムラーンは真っ直ぐこちらを見た。そうしてねと答えアンビカはすぐに背を戻し、パラヴィで零れそうになった涙を押さえた。



<注>
・ブーナ・ムールガ ペパーメント風味のチキンカレー
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