リアル人狼ゲーム in India

大友有無那

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第8章 宣戦布告(新5日目)

8ー1 重い朝(新4日目深夜ー新5日目朝)

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 夢の中で、チャクラが水色の空を切って飛んでいた。
 ああチャクラが来たなら大丈夫と何故か思った。
 別の方向からハヌマーン・ジーが山を抱えて飛んで来る。何とありがたいことだろう。
 チャクラは金色に光りながら聞こえないほど高い音を立てて速度を増し山の方へ吸い込まれていく。
 薬草がある場所にぶつからないだろうか、ちょっと心配だ。
 そもそも私はどこから見ている? と思った途端足元が虚空となり吸い込まれて落ちる。姿勢を保てず慌てる間に、
 ボシャン。
 チャクラは予想外に小さな音を立て山の中腹に激突した。


『警告! 警告! ルール違反です!』
 ばっとベッドから身を起こす。
 もう朝か、生きている、けれどこの警告は? 
 夢を蹴散らしながらラクシュミが時計を見ると三時二十分。
(……)
 まだ夜の時間だ。時計が壊れたかと充電中のタブレットを開いても時刻は同じ。
(これは何?)
 用心深く部屋を見回す。変わった所はない。
 夜の「警告」はモニター表示だけで音声はないと聞いていた。と見ると足元方向のモニターも同じ文章を点滅させている。
 彼らは何で殺そうとしている?
 ぎゅっと身が縮み反射的にマントラを唱える。

『只今建物の損壊行為がありました。念の為プレイヤー全員の所在を確認します。ただちにベッドから出てドアの前に立ってください。繰り返しますー』

 「人狼」襲撃にも恥ずかしくないよう服のまま寝ていて問題はないが、髪と胸元をさっと手で整えサンダルを履いて自室のドアに近寄る。
 ライトスタンドに掛けた服はまだ乾き切っていないようだ。眉を寄せる。
 今度の建物は鉄筋コンクリート造でそう簡単には壊れない、前の館のようなことはないとファルハが言っていたが、
「この建物にいても安全ですか!」
 天井に向かい声を張り上げたが返事はない。

 アナウンスはしばらく繰り返された。
『今の時間ドアは開きません! 室内でドア前に立ってください』
『まだ戻らないでください。全員の所在を確認したら許可を出します。それまではドアの前に立っていてください。まだの者は速やかにドアの前に移動してください』
 何を手間取っているのだろうと考えてからはっとする。
 ラディカとトーシタはこの指示がわかるだろうか。
 放送の声はわりとはっきりしているので多分ラディカは大丈夫だ。だがトーシタはどうか。クリスティーナならすぐ彼女らに気を回しただろう、と湿った洗濯物のように胸がじくじく痛む。

『全員の所在が確認出来ました。ベッドへ戻って構いません』

 飽きるほど繰り返された後に許可が出された。
『建物を傷付けた人間については引き続き調査します。判明次第「処理」しますのでご安心を。では朝まで室内でお過ごしください』

(いったいどういうこと)
 時刻は三時半近い。まずは睡眠をとって考えよう、とベッドに入ったものの浅い眠りのまま朝の放送を迎え、頭がすっきりしないまま身支度をする。
 昨夜じっくりシャワーを浴びたので今朝は軽くていい。すぐに書きたい人もいるかもしれないのでまず爆弾魔との筆記を一階に戻したい。

 世界の全てはイーシュワラ、神の姿そのものである。
 よっていい加減に物を扱うことは好まない。
 布巾を覆っていたミラーワークの布を取り上げ、しわを延ばそうとまずふわっと空気を入れる。と、
(色が違う?)
 布の裏側、一部のミラーが反射しない。
 両手で持った布をピッと伸ばし顔を近づけ、ラクシュミは目を見開いた。



 倉庫棚の元の場所に爆弾魔との連絡用布巾を安置する。
 上にはミラーワーク布ではなく自室にあった未使用のタオルを掛けた。

 バサバサッ! ブワッ!
 続いて大テーブルを覆うミラーワークの布を片っ端からひっくり返す。
(全部同じだ!)
 水を使おう、と思い付いてから迷った。
 倉庫に近い普段掃除に使われている水場は使いたくない。
 だが台所で水を汲んだらその容器は使えなくなるー
(そちらでいい。台所に戻さなければいいのだから)

 金属の水差しからテーブル上に満遍なく水をかけて回る。我ながらシュールな光景だ。
 このまま放置するつもりはない。人が下りて来次第注意を促そうと考えていた。建物損壊とは何なのかも見て回りたい。だが、
(マーダヴァンに上に来てもらわなくては)
 これが一番急ぎだ。いつまでも死者を廊下に放置するのは良くない。
 頭の重さと慌ただしさに苛立ちが自分を支配し始めるのをラクシュミは感じていた。



<注>
・チャクラ ここではインド伝統の円形の投擲武器のこと
・ハヌマーン インド神話「ラーマーヤナ」に出てくる猿の姿の神
 負傷した味方に必要な薬草を持ってくるために、生えている山ごと持参したエピソードより
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