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第10章 ムンバイへの道(新7日目)
10ー3 炎(新7日目)
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「っざけんなよ……」
ジャキッ。
ロハンがライフルを上げた。
スンダルは既に銃口をロハンの体に定めている。
軽トラックのライトがふたりの影を大きく作り、周りで戸惑う影が揺れるのもどこか禍々しい。
銃口と銃口の間は1銃身ほど。
肩が上がったロハンの目には憤怒、対するスンダルは異様なほど色のないガラス玉の目で彼を見返す。
「お願いやめてっ!」
アンビカが近かったスンダルの腕に飛びついた。脇に挟み込んだライフルの銃口はまだロハンの方を向いている。
「私達やっと生き延びてここまで逃げてきたんだよ! なのにこんなことで殺し合うなんて馬鹿げてる!」
一息の後、
「もう『人狼ゲーム』は終わったんだよ」
声を震わせる。
とライフルを挟んだままぐいと身をロハンに向け、左腕はスンダルをかばうように開いた。
スンダルに照準を合わせた銃口が枝がしなるように下がる。
「あなたたちのお父さんやお母さんはきっと眠れないほど心配してる。無事に帰らなきゃ駄目だよ! 私は母親だからー」
「そういうの、いいから」
スンダルはざっと足元を蹴り、土がアンビカのサンダルとカミーズにかかる。
食事の恩がなかったらカミーズごとその足を蹴っているところだった。
自分より弱い者に暴力を振るうのは法に背く。
だから女を蹴ったり殴ったりしてはならないが、ならば大人も子どもに暴力は駄目だろう。親がかりでしか食っていけない子どもは、絶対的な弱者だ。
(俺が強くなったら)
一度。
一度でいいから打ち据えてやりたい。
憎悪がスンダルの胸の中で火をともす。
偽善者は胸糞悪い。
だがアンビカは違い、おそらく本気で親は子どもが大事だと思っている。
それがスンダルを傷付ける。
「こんなことじゃないです。ひとつひとつの選択に俺たちが生きて戻れるかがかかっています。ことは重大です」
「ごめんなさい」
アンビカは首をすくめる。そして、
「とにかく銃を下ろそう。ね? 同時にー」
「お断りします。『奴ら』が襲ってきた時対処が遅れます」
冷たく斬る。
自分が握る銃ごとアンビカは体を揺らし、
「……だったらイムラーン。あなたが周りを警戒して」
「はい」
銃口を上に後方で立ち尽くしていたイムラーンが国道方面にライフルを構える。アンビカはさっと距離を取った。
「ほらThree、Two、One」
ガタン!
スンダルとロハンは同時にライフルを地に落とした。
「で? 何のつもりだよ」
開口、精一杯凄みを利かせた。
ロハンは町の警察署へ逃げようと力説した。
「こんな調子で二時間以上もなんて無理に決まってんだろうが」
「ここからなら二時間はないよ」
「そういうことじゃねえっ!」
一度は落ち着いたロハンがまた激高する。
「奴らが、奴らの手先が次々に現れて……」
車は痛んでいき反撃手段も枯渇する。
「アンビカさんも限界だろうよ。……俺だってな、女の人のことを心配もするんだよ!」
「わかってるよ。Thank you」
アンビカが小さく礼を言いロハンは露骨に照れる。
断続的に攻撃されたら持ちこたえられるのかとの危惧はスンダルにも刺さった。ただ、
「これがインターネット経由でコントロールされているってことは説明しただろ」
首輪を指す。
「俺はネット上でその繋がりを切った。一時的な処置だとも言ったよな」
これだけ時間があれば向こうの技術者が復旧可能だ。
「出来る限りネットを拾わないで夜が明けるまでに警察署に駆け込まなきゃならない。爆発事件とかも担当しているムンバイの警察なら頼れるだろう。だけど、」
町の警察署で対処出来るのか。
「警察はインターネットを使っている。その全部が有線か? 警官の使うスマホは?」
風に乗り草と自分の汗の匂いが鼻をかすめる。忌々しい。
「一時的にネットに繋がるのはいい。長く安定して繋がったなら連中は薬を俺たちに打ち込める。即座にあの世行きだ!」
両手を広げる。
「下手をしたらネットに繋がった瞬間に毒針を打ち込むプログラムを走らせているかもな。それぐらい俺だって組める」
「っっ」
アンビカが首を押さえてしゃがみ込んだのを冷たく横目で見る。
「だったらムンバイの方が余計危ねえだろっ! 行くまでにもいつどのネットに繋がるかわからねえ!」
正直そこは運だ。ただこちらの言い分を理解して適切に配慮する能力の点でムンバイ警察は確実に上、と確信している。
(出来れば市警本部がいいかもな)
レイチェルがアンビカの隣にしゃがみ肩を抱く。
「ラクシュミさんも言ってただろ。時間を無駄にする余裕はないって」
武器の少なさと人の組み合わせからあの人たちーコンパクトカー組はもう駄目かもしれない。スンダルは思った。ともかく。
「ここで時間を食えば連中が有利になるだけだ。どうする? お前らそんなにすぐそこに逃げ込みたい」
「当たり前だろっ!」
ロハンは怒鳴りプラサットも頷く。
肩を寄せ合うアンビカとレイチェルも同様のようだ。イムラーンは背を向けているので読めない。
「いいよ。俺は歩くから。勝手にしろ」
荷台には「仕掛け」がまだあるがイムラーンには使い方を説明してある。自分ほどスムーズにはこなせないだろうが無いよりはましだ。
「歩くって……」
「丸二日あれば十分でしょう」
声をあげたアンビカに笑い含みで返す。
「ロックダウンの時なんか州をまたいで歩いてたじゃないですか。マハーラーシュトラ州内ですよ! 楽勝です」
感染対策初期のロックダウンで仕事場が閉鎖され、生きる糧を失った人々が延々連なり行き倒れが続出したことは大きな問題になった。それを思えば何と言うこともない。
「昼間歩いたら死んじゃうよ」
そこはアンビカが正しい。
デカン高原から海岸のムンバイに徐々にでも近づいたためか夜の帳にも暑さを感じるようになってきた。日中彷徨うのは自殺行為だ。
「夜だけなら二倍で四日。行けるでしょう」
闇の向こうに目を馳せる。
暗い荒原をひとり歩く。孤独が自分らしい。
世界は全て敵、自分をあの家から救い出してくれなかった。
回りの住宅全てに火を付けて知っている人も知らない人も無差別に殺してやりたかった少年の頃ー寮住まいになるまでのことだ。
今夜軽トラックで轢き殺し、爆弾で燃やし殺した。
すぐそこには今もライフルがある。
俺は殺せるぞ! という万能感は殺害後の「たいしたことねえや」との気落ちにすぐ変わった。
胸の小さな憎悪の火は野焼きのように大地に広がる。
太陽が正に沈む時、黄金の光が地平線をなめ蛇のように這い進んであふれだし世界を染めるように。
それは破壊の炎、ドゥルガーやカーリー神像の背後に輝く黄金。
破壊の神ならロード・シヴァもそうだがスンダルには女神の力でイメージされた。
カーリー女神を殺したと騒いでいたのはアンビカだったか。最初の夜血まみれの刀を抜いたクリスティーナを例えた話だ。
あの人は家族の話をしなかった。そこが安心出来た。留学時代のことを除けば友達のこともしゃべらなかった。
その孤独が彼女の背負ったカーリーの輝きだったのかもしれない。
炎が内に燃え盛る。ひとり、歩こう。
(ってタゴール気取りかよ)
自嘲が頬を微笑ませる。
(でも何か格好よくないか)
「ライフルは置いていく。銃……ピストルの方をくれ。あとは水ね」
徒歩の方が奴らに見つかりにくいかも、何もかも最高だ!
「僕も同行させてもらってもいいでしょうか」
イムラーンが半身警戒を続けつつ申し出た。
「へっ?」
「何で?」
ロハンとスンダルは同時に素っ頓狂な声をあげた。
「いいのか」
プラサットも気づかう。
「はい。話を聞いていて、僕も首輪を確実に処理するなら大きな署がいいと思ったからです」
学校行事で長く歩くのはやっているので慣れていると明るく言う。
(子守りは勘弁)
解放気分が一気に萎えた。
だがミネラルウォーターは分担すればもっと持てる。警戒に隙も減る。
ロハンと違い馬鹿な真似はしない男でもあり、
(まあいいか)
「運転出来ない私が言うのもどうかと思うんだけど……」
アンビカが立てばレイチェルも続く。
「私達を警察の近くまで送って、そうしたら軽トラックはスンダルたちに使ってもらいたい。遠くに行く人が車を使った方がいいと思うの」
「時間のロスが」
アンビカの提案に頭を押さえる。
「さっきの角に警察署と町役場の標識があったぞ」
ロハンの言う距離を聞くに10分強。往復30分弱か。
「全部歩いたらもっとかかるし大変だよ」
アンビカの声は無邪気だ。それがまた癇に障る。
「ってか運転出来るのかよ」
不機嫌なロハンに、
「痛みはあるけどいけそうかも」
ゆっくりと右腕を回す。
「あ、そっか。スンダルは早く病院に行かないとー」
「今これだけ動くなら残らないんじゃないかな」
前後に振り、左右へと肘を張る。
「署の近くまで運転を試す。駄目なら俺は歩きだ。それでいいか?」
「助手席もう恐くて。荷台でいい?」
アンビカが荷台に上るのをイムラーンが手伝う。
やがて運転席にスンダル、隣の助手席にレイチェルが付き、荷台にアンビカとロハン、プラサットにイムラーンが乗り込めば軽トラックはごとごと動き始めた。
(運転大丈夫そうだね)
木箱を背に座りアンビカはため息をつく。
『我々は相互不信、あまり話さないし何かと部屋に籠もる』
偽装方針はチャットで話が付いた。
「彼ら」を油断させるのと、各自の部屋で時間にモニターを見るのも自然に出来るからだ。
(だけど)
今は本当に、目に見えて皆の心がバラバラになっていく。
仕方がない。自分の命の問題だ。アンビカもここは妥協出来ない。
もう一度息子や夫、家族と会うためにー
恐怖で消耗し意識もあやふやに泳いでいた中、願いは炎となってアンビカに力を与え始めた。
<注>
・ドゥルガー 戦いの女神。シヴァ神の妃。
・タゴール ラビンドラナート・タゴール
インドの著名な詩人。アジア人初のノーベル文学賞受賞者にしてインドとバングラデシュ二つの国の国家の作詞者となった唯一の人。
「ひとり歩め(Ekla Chalo Re)」は彼の著名な歌
ジャキッ。
ロハンがライフルを上げた。
スンダルは既に銃口をロハンの体に定めている。
軽トラックのライトがふたりの影を大きく作り、周りで戸惑う影が揺れるのもどこか禍々しい。
銃口と銃口の間は1銃身ほど。
肩が上がったロハンの目には憤怒、対するスンダルは異様なほど色のないガラス玉の目で彼を見返す。
「お願いやめてっ!」
アンビカが近かったスンダルの腕に飛びついた。脇に挟み込んだライフルの銃口はまだロハンの方を向いている。
「私達やっと生き延びてここまで逃げてきたんだよ! なのにこんなことで殺し合うなんて馬鹿げてる!」
一息の後、
「もう『人狼ゲーム』は終わったんだよ」
声を震わせる。
とライフルを挟んだままぐいと身をロハンに向け、左腕はスンダルをかばうように開いた。
スンダルに照準を合わせた銃口が枝がしなるように下がる。
「あなたたちのお父さんやお母さんはきっと眠れないほど心配してる。無事に帰らなきゃ駄目だよ! 私は母親だからー」
「そういうの、いいから」
スンダルはざっと足元を蹴り、土がアンビカのサンダルとカミーズにかかる。
食事の恩がなかったらカミーズごとその足を蹴っているところだった。
自分より弱い者に暴力を振るうのは法に背く。
だから女を蹴ったり殴ったりしてはならないが、ならば大人も子どもに暴力は駄目だろう。親がかりでしか食っていけない子どもは、絶対的な弱者だ。
(俺が強くなったら)
一度。
一度でいいから打ち据えてやりたい。
憎悪がスンダルの胸の中で火をともす。
偽善者は胸糞悪い。
だがアンビカは違い、おそらく本気で親は子どもが大事だと思っている。
それがスンダルを傷付ける。
「こんなことじゃないです。ひとつひとつの選択に俺たちが生きて戻れるかがかかっています。ことは重大です」
「ごめんなさい」
アンビカは首をすくめる。そして、
「とにかく銃を下ろそう。ね? 同時にー」
「お断りします。『奴ら』が襲ってきた時対処が遅れます」
冷たく斬る。
自分が握る銃ごとアンビカは体を揺らし、
「……だったらイムラーン。あなたが周りを警戒して」
「はい」
銃口を上に後方で立ち尽くしていたイムラーンが国道方面にライフルを構える。アンビカはさっと距離を取った。
「ほらThree、Two、One」
ガタン!
スンダルとロハンは同時にライフルを地に落とした。
「で? 何のつもりだよ」
開口、精一杯凄みを利かせた。
ロハンは町の警察署へ逃げようと力説した。
「こんな調子で二時間以上もなんて無理に決まってんだろうが」
「ここからなら二時間はないよ」
「そういうことじゃねえっ!」
一度は落ち着いたロハンがまた激高する。
「奴らが、奴らの手先が次々に現れて……」
車は痛んでいき反撃手段も枯渇する。
「アンビカさんも限界だろうよ。……俺だってな、女の人のことを心配もするんだよ!」
「わかってるよ。Thank you」
アンビカが小さく礼を言いロハンは露骨に照れる。
断続的に攻撃されたら持ちこたえられるのかとの危惧はスンダルにも刺さった。ただ、
「これがインターネット経由でコントロールされているってことは説明しただろ」
首輪を指す。
「俺はネット上でその繋がりを切った。一時的な処置だとも言ったよな」
これだけ時間があれば向こうの技術者が復旧可能だ。
「出来る限りネットを拾わないで夜が明けるまでに警察署に駆け込まなきゃならない。爆発事件とかも担当しているムンバイの警察なら頼れるだろう。だけど、」
町の警察署で対処出来るのか。
「警察はインターネットを使っている。その全部が有線か? 警官の使うスマホは?」
風に乗り草と自分の汗の匂いが鼻をかすめる。忌々しい。
「一時的にネットに繋がるのはいい。長く安定して繋がったなら連中は薬を俺たちに打ち込める。即座にあの世行きだ!」
両手を広げる。
「下手をしたらネットに繋がった瞬間に毒針を打ち込むプログラムを走らせているかもな。それぐらい俺だって組める」
「っっ」
アンビカが首を押さえてしゃがみ込んだのを冷たく横目で見る。
「だったらムンバイの方が余計危ねえだろっ! 行くまでにもいつどのネットに繋がるかわからねえ!」
正直そこは運だ。ただこちらの言い分を理解して適切に配慮する能力の点でムンバイ警察は確実に上、と確信している。
(出来れば市警本部がいいかもな)
レイチェルがアンビカの隣にしゃがみ肩を抱く。
「ラクシュミさんも言ってただろ。時間を無駄にする余裕はないって」
武器の少なさと人の組み合わせからあの人たちーコンパクトカー組はもう駄目かもしれない。スンダルは思った。ともかく。
「ここで時間を食えば連中が有利になるだけだ。どうする? お前らそんなにすぐそこに逃げ込みたい」
「当たり前だろっ!」
ロハンは怒鳴りプラサットも頷く。
肩を寄せ合うアンビカとレイチェルも同様のようだ。イムラーンは背を向けているので読めない。
「いいよ。俺は歩くから。勝手にしろ」
荷台には「仕掛け」がまだあるがイムラーンには使い方を説明してある。自分ほどスムーズにはこなせないだろうが無いよりはましだ。
「歩くって……」
「丸二日あれば十分でしょう」
声をあげたアンビカに笑い含みで返す。
「ロックダウンの時なんか州をまたいで歩いてたじゃないですか。マハーラーシュトラ州内ですよ! 楽勝です」
感染対策初期のロックダウンで仕事場が閉鎖され、生きる糧を失った人々が延々連なり行き倒れが続出したことは大きな問題になった。それを思えば何と言うこともない。
「昼間歩いたら死んじゃうよ」
そこはアンビカが正しい。
デカン高原から海岸のムンバイに徐々にでも近づいたためか夜の帳にも暑さを感じるようになってきた。日中彷徨うのは自殺行為だ。
「夜だけなら二倍で四日。行けるでしょう」
闇の向こうに目を馳せる。
暗い荒原をひとり歩く。孤独が自分らしい。
世界は全て敵、自分をあの家から救い出してくれなかった。
回りの住宅全てに火を付けて知っている人も知らない人も無差別に殺してやりたかった少年の頃ー寮住まいになるまでのことだ。
今夜軽トラックで轢き殺し、爆弾で燃やし殺した。
すぐそこには今もライフルがある。
俺は殺せるぞ! という万能感は殺害後の「たいしたことねえや」との気落ちにすぐ変わった。
胸の小さな憎悪の火は野焼きのように大地に広がる。
太陽が正に沈む時、黄金の光が地平線をなめ蛇のように這い進んであふれだし世界を染めるように。
それは破壊の炎、ドゥルガーやカーリー神像の背後に輝く黄金。
破壊の神ならロード・シヴァもそうだがスンダルには女神の力でイメージされた。
カーリー女神を殺したと騒いでいたのはアンビカだったか。最初の夜血まみれの刀を抜いたクリスティーナを例えた話だ。
あの人は家族の話をしなかった。そこが安心出来た。留学時代のことを除けば友達のこともしゃべらなかった。
その孤独が彼女の背負ったカーリーの輝きだったのかもしれない。
炎が内に燃え盛る。ひとり、歩こう。
(ってタゴール気取りかよ)
自嘲が頬を微笑ませる。
(でも何か格好よくないか)
「ライフルは置いていく。銃……ピストルの方をくれ。あとは水ね」
徒歩の方が奴らに見つかりにくいかも、何もかも最高だ!
「僕も同行させてもらってもいいでしょうか」
イムラーンが半身警戒を続けつつ申し出た。
「へっ?」
「何で?」
ロハンとスンダルは同時に素っ頓狂な声をあげた。
「いいのか」
プラサットも気づかう。
「はい。話を聞いていて、僕も首輪を確実に処理するなら大きな署がいいと思ったからです」
学校行事で長く歩くのはやっているので慣れていると明るく言う。
(子守りは勘弁)
解放気分が一気に萎えた。
だがミネラルウォーターは分担すればもっと持てる。警戒に隙も減る。
ロハンと違い馬鹿な真似はしない男でもあり、
(まあいいか)
「運転出来ない私が言うのもどうかと思うんだけど……」
アンビカが立てばレイチェルも続く。
「私達を警察の近くまで送って、そうしたら軽トラックはスンダルたちに使ってもらいたい。遠くに行く人が車を使った方がいいと思うの」
「時間のロスが」
アンビカの提案に頭を押さえる。
「さっきの角に警察署と町役場の標識があったぞ」
ロハンの言う距離を聞くに10分強。往復30分弱か。
「全部歩いたらもっとかかるし大変だよ」
アンビカの声は無邪気だ。それがまた癇に障る。
「ってか運転出来るのかよ」
不機嫌なロハンに、
「痛みはあるけどいけそうかも」
ゆっくりと右腕を回す。
「あ、そっか。スンダルは早く病院に行かないとー」
「今これだけ動くなら残らないんじゃないかな」
前後に振り、左右へと肘を張る。
「署の近くまで運転を試す。駄目なら俺は歩きだ。それでいいか?」
「助手席もう恐くて。荷台でいい?」
アンビカが荷台に上るのをイムラーンが手伝う。
やがて運転席にスンダル、隣の助手席にレイチェルが付き、荷台にアンビカとロハン、プラサットにイムラーンが乗り込めば軽トラックはごとごと動き始めた。
(運転大丈夫そうだね)
木箱を背に座りアンビカはため息をつく。
『我々は相互不信、あまり話さないし何かと部屋に籠もる』
偽装方針はチャットで話が付いた。
「彼ら」を油断させるのと、各自の部屋で時間にモニターを見るのも自然に出来るからだ。
(だけど)
今は本当に、目に見えて皆の心がバラバラになっていく。
仕方がない。自分の命の問題だ。アンビカもここは妥協出来ない。
もう一度息子や夫、家族と会うためにー
恐怖で消耗し意識もあやふやに泳いでいた中、願いは炎となってアンビカに力を与え始めた。
<注>
・ドゥルガー 戦いの女神。シヴァ神の妃。
・タゴール ラビンドラナート・タゴール
インドの著名な詩人。アジア人初のノーベル文学賞受賞者にしてインドとバングラデシュ二つの国の国家の作詞者となった唯一の人。
「ひとり歩め(Ekla Chalo Re)」は彼の著名な歌
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