リアル人狼ゲーム in India

大友有無那

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第10章 ムンバイへの道(新7日目)

10ー3 殺意(新7日目)

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「オイ、娘はどうした。便所にしては遅いぞ」
「とっくに戻しましたが」
「来てねえぞ!」
 眼鏡の警官に通信デスクの警官が返す。
 外来者も使える女性トイレは通信デスクすぐの扉から出て一度曲がった所にある。
「前で見張っていまして、それからここまで送ってドアを開けて入るように命じました。私はその後直接ロッカーに行きまして」
「どれくらい前だ」
「二時五十二分でした」
 ドン! 奥のデスクの警部が机を叩いた。
「なぜ部屋内に申し送らなかった」
「も、申し訳ありませんっ!」
「探せ!」
 直立した眼鏡の警官始め皆一斉に署内に散った。

「倉庫は俺たちが見た!」
「会議室だ!」

 外が騒がしい。
 プラサットと顔を見合わせて間もなく三人の警官が牢にやって来た。
「お前らと一緒にいた娘が逃げた。何か知らないか」
(!)
「知りません」
 ロハンが答えプラサットも頷く。
「こっちに寄ったりしてねえだろうな」
「いいえ」
「どうだろうな。オイ! 娘はどこに行った!」
 バシッ!
 小太りの警官がプラサットの頬を張った。
 バン、バン!
 顔を押さえてよろめいた彼に確か奥のデスクにいた階級上の白髪交じりの警官ー警部だろうーが今度は往復ビンタを喰らわせ、大袈裟に足を上げると蹴り倒した。
 後は三人でここぞと蹴りまくる。脇に尻にと入る靴先は見るだけで痛い。
(やべえよ)
「娘はどこだ!」
(……)
 止めろ、とロハンは言えなかった。
 年下のプラサットだけに暴力で向かったからには州知事閣下と自分の関係は確認されたのだろう。だが彼らの目は例の人を殺すことを厭わない、そして会議で女たちが見せたのと同様のものだった。
 邪魔をしたら自分も巻き込まれる。
 白髪交じりが落ちた制帽を取って被り直す。と丸くなって身をかばうプラサットの髪を引っぱって無理矢理立たせた。
「娘はどこへ逃げた」
「し、知りません」
 プラサットは前後にふらつく。顔には血、頬は一様に腫れている。
「本当に知らないんです……目標にしていたのはムンバイ市内の……」
「市内のどこだ」
「国道から入った最初の大きな署で……名前は……忘れました」
「ふざけるな!」
 小太りの警官が頬を殴ればびゅっと鼻から血が垂れる。
「○○署です」
 気力を振り絞ってロハンは答えた。
「それ以外に約束した場所はありません。レイチェルは臆病でこんな夜中にひとりで逃げ出すような子じゃない。あいつが『狼』だったってことはお話しましたよね」
「詰まらないゲームのことはどうでもいい」
 顔を近づけて白髪交じりが恫喝する。ぐっと耐えて、
「探す手がかりになるかと思ってですよ。あいつは『狼』のくせに他の男に頼って自分では何もしなかった。だから突発的に飛び出たとしてもひとりではそんな遠くにはいけないでしょう。そこらに隠れているのが関の山です」
 土地勘のない町、すぐ林が広がる中に分け入って、
「事故にも遭いかねません。面倒かけて申し訳ありませんが探してやってください、オフィサー」
 と頭を下げる。
 普段警官は使う側で頭を下げるなど虫唾が走る。
 だがこれで自分たちは逃亡をかくまう方ではなく警察の協力者の位置に変わるだろう。
「隠したらただじゃおかねえぞ」
 捨て台詞を吐き三人は出て行った。
 


 署に到着してすぐロハンとプラサットは留置場に入れられた。
 始めは他の収容者と一緒の牢だったが、首輪について説明すると爆弾あたりと勘違いされたようでそこから一つあけた今の牢に移された。
 精気なくしゃがみ込む汚らしい男たちの姿をロハンはよく覚えている。あのような連中と同じ所に入れられるなど理解出来ない。
 知事閣下のところに連絡が付き次第解放され待遇が変わると思っていたがー

「プラサット、大丈夫か」
 彼はゆるりと首を動かし、よりかかったままずるずると壁に沿って崩れ落ちた。
「うっ……ぐっ……」
 転がって奥の隅に行くと戻し出す。
(うわっ)
 ゆるゆる顔を上げるのを見ると血と痰を吐き出しただけで胃の中のものは吐いていないようだ。ほっとする。近寄って宥めてやりたいが血まみれの顔では、と思ううちに彼はTシャツの裾でざっと顔を拭った。
 ひとまずはいいだろうか。
「ここを枕にしろ」
 あぐらのひざを貸してやると、力なく顎を上げがくりとのけぞった。
「あまり頭を下げるな。鼻血が奥に詰まったら息出来なくなるぞ」
「鼻は今結構出したから大丈夫そうです」
 それでも調整しなるだけ頭を平行に寝かせる。
「痛えか?」
 コクンと頷く。
「……これで、ますます女の子にモテなくなりますね……」
「馬鹿! 男は中身だ。お前はいい男だぞ」
 視線を彷徨わせるプラサットの頭を何度も撫でた。
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