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第1章 リアル人狼ゲームへようこそ(1日目)

1ー3 ルール

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『プレイヤー各自の配役と切り札は今晩23時からパソコン上で伝達されます。お楽しみに』
 流れていく説明が頭に入らない。
 殺害、処罰、処理ー物騒な言葉が続くがこれが「ゲーム」なら何か象徴のはずだ。本当に殺すはずもない。そうだよね?
(アディティ? ニルマラ? マヤ?)
 友人たちと肩を寄せ最後まだ見つからない彼女に呼びかける。

『説明だけではイメージが掴みにくいかもしれません。チュートリアルで実際のゲームを見てみましょう』
 その動画は各自のPCや会議室のタブレットにも入っていると説明された後に映像からヒンディー語が流れ出す。

 
Day1
「人が死んで良かったみたいなこと言うのどうかと思いますけど」
「明日になればわかる。静かな薬殺とは違う死体を見ればね」
「僕は皆さんが理解しないことを希望するな。『武士』が生き残って上手く守りが当たって、ここにいる全員が明日の朝、顔を揃えられる方がい」
 ここよりも殺風景な駐車場のような場所で人々が言い合う。

Day2
「あなたたちはこの女に騙されてきた……。私が『占星術師』。彼女は偽者」
 指を指された14番の腕章を付けた女性は、
「そうか。あなたが『狼』、または『象』か。命がけで嘘を吐くなんてそうでなきゃありえない。……やっと見つけた』
 穏やかな笑みを口元に浮かべる。

 出てくるのは大人の人、いや言い合いに戸惑う中には自分と同じ高校生くらいの顔も見える。皆首輪をしているが番号がなく代わりに腕章をしているのが自分たちと違う。

「つまりどちらかが嘘を吐いているってこと?」
「そうですね。遊びの『人狼』ではよくある話です」
「そういう時はどうしているの」
「真偽を定めます。本人たちに尋ね、今までの言動も吟味します。まずは占い結果からー」

Day3
「なあ、俺は不思議なんだが。あんた何で殺されてないんだ?」
「わからない。可能性としては今も生存しているかわからないけれどある時までは『武士』がいて、上手く守ってくれてたんではないかと思う」
 目がすわったちょっと恐い男の人が、先ほどの14番の腕章を付けた女の人を責めている。
「だったら××はどうして殺されたんですっ!」
 人名らしきところだけ音が消えた。男の子の勢いあるセリフには少し訛りがあり、ヒンディーが母語ではないように思えた。

Day4
「『ゲーム』にもならない」
 きりっとしていて優しそうなお兄さんが顔を引き締めて言えば、
「私は死にたくない!」
 12番の腕章を付けたどこかいい所ーデリーかムンバイのキラキラしたビルで働いていそうな女の人が吐き出す迫力に圧倒された。
「家に、職場に帰りたい。そのための発言だから怪しく思った人はその辺理解して」

(帰りたい……?)
 モニターの中の台詞でわかってしまう。
(私、お家に帰れないのかもしれないの?)
 咽びが漏れたシュルティに周りがどうしたのかと尋ね、帰れないのは嫌だと叫ぶとすすり泣きが女子に伝染する。画面には5日目との表示が出て、

Day5
「……昨夜『人狼』の被害は出ていないから『武士』の守りが有効に働いたと思われる。つまり今も『武士』がいるってこと。××の死亡時刻については××のー」
 音が長く消えた後12番の女性が続ける。
「投票について提案がある。××と××は、『人狼』の可能性のある人物を片っ端から処刑すれば残りの村人は安全になるとの戦法を教えてくれた。それを採用したい。正体不明の告発に名前の載った××と、私も入れていい」

 緊張に満ちた表情からカメラは切り替わって真上からの映像になり、シュルティは息を呑んだ。四角く囲まれた長机周りの座席はかなり空いていた。Day 1ではもっと詰まっていたはずだ。
(つまり?)


『雰囲気は掴めたでしょうか。この『リアル人狼ゲーム』は私共の顧客、観客の皆様にリアルタイムで中継されています。全て外国人ですので知り合いに見られる虞れはありません。安心して、全力投球のプレイで楽しいゲームを提供していただけることを期待します。なおー』

「ざけんなよ!」
 誰か男子が叫び、何人かの男子がパタパタとどこかへ出て行った。シュルティは多くのクラスメートたち同様キョロキョロと辺りを見渡した。カメラはどこにあるのか、天井のいくつかはそれらしく見えたがよくはわからない。

『これから部屋割りを伝えます。私共は各寝室やバスルームといった場所も全て監視していますが、』
 女子の部屋は女性監視員とプライベートな場所は同性が見ているので安心するようにと畳みかける。
『これらプライベートな映像は顧客の方々には提供されません。ただし、ルール違反があった場合それを明確にするため公開する可能性があります。どうか皆さん、くれぐれもルールをお守りください』
(脅しだ)
 濡れた目を擦りつつ今度は怒りを覚える。

 モニターに図面らしきものが現れた。この建物の見取り図だろうか。
 シュルティたちも柱近くに寄ってそれを確認する。
 この広間のある建物の左右に翼のような別棟があり、それぞれ男子と女子の宿泊棟にあてられている。
 四人部屋でシュルティの34番は1階奥の9号室だ。
 アディティは10号室、ニルマラは7号室と皆部屋が違う。変えてはいけないのだろうか?
『この図面にて自分の部屋を確認してください。各自カードキーはポケットなどに配布済みです。本日は初日ですので会議と投票は免除します。プレイヤーの次の義務は23時には各自の部屋に入りパソコンを確認することです。そこで皆様の配役と切り札が明かされます」
(切り札?)
 配役の説明で出てきた気がするが何だ?
 疑問に答えるようにアナウンスは説明する。

『切り札とは、配役とはまた別の権利です。行使する前に人に話してしまうと権利が失われてしまいますので注意してください。ただし、同じ切り札を持っているプレイヤー同士で話すのは問題ありません。同じ切り札を持つのは最大9人、最小は1人で様々な種類があります。ご期待ください』
 煽っているのかそれとも自分たちを見る「顧客」という人々に言っているのか。

『23時まであと3時間ほど、それまで自由に過ごしてください。ベジタリアンとノンベジタリアンの食堂にそれぞれ食材があります。シャワールームとトイレは男女各棟のフロアごとにあり、お湯が出るのは朝5時から7時、夕方17時から19時、夜は21時から翌1時までです。念のため各部屋には簡易トイレの用意があります。それから当ゲームの進行はこの広間の大時計が基準です」
 皆の視線に従って振り向くと、窓の反対側、白い壁が広がる上に濃い色の木で出来た一見古めかしい振り子時計がかかっていた。
『他の壁掛け時計とはデジタルで同期しています。寝室のパソコンとは最大1分ほどずれる可能性がありますが、その場合壁掛け時計の方で判断します。ではこれにてルールの解説は終了ー』
「待って! マヤがいないの! マヤはどこ!」
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