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第1章 リアル人狼ゲームへようこそ(1日目)
1ー7 警告1
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夕食は散々だった。
まず女子の多くはパニックに陥っていて、それでも動き出した者たちは慣れない台所、各自違う食事の条件、普段とは違う大人数の調理にベジ・ノンベジ双方共失敗した。
ディーパックが聞いたのはベジのダルは煮崩れ過ぎているのに芯が残ったといい、ノンベジの方では煮具合は普通だったが煮詰め過ぎてグレービーがなく豆のカレーにならなかった。水を加えスパイスを加えを繰り返すごとに味が悪化ーノンベジのキッチンに男子でただひとり入ったルチアーノの証言である。
『修道会のイベントでよく手伝うから』
と力仕事のチャパティのタネ作りと焼きに参加し、焼き加減は女子が一切文句を言わない腕であったが寝かせもしないチャパティが美味しい訳もない。
チキンカレーはこれまたダル同様に調整を繰り返したそうでカルダモンだけが効き過ぎて他の味がわからなかった。
それでもノンベジ食堂はスティーブンやアッバースがとりなして「無事」だったが、ベジ食堂では文句を言う男子と女子の間でいさかいが起こり、喧嘩のうちはまだ良かったがそのうち女子が泣き出し始末が付けられなくなったと聞いた。
誰にとっても「母さんの味」が一番、この短い間に女子は良くやったと思う。
(自分が出来ないことで文句言うんじゃねえよ)
パソコン回りをチェックしながらディーパックは思う。
こうなるとジャイナ教徒故におそらく一番食事条件が厳しいバーラムが、
『僕の食べられるものは君たちには作れないと思う』
と最初から断り、食材庫を片っ端から漁った上でレトルトカレーと瓶詰めのアチャールを選びチャパティだけもらって済ませたのは賢かった。
学生寮のチャイ配りをしているという雑役夫は料理もと期待されたが、出来るのはチャイ作りだけだそうでベジ組は落胆していた。今頃彼は皿洗いをしているはずだ。
一方ノンベジ食堂では誰が皿を洗うかで多少もめたがディーパックは気にせず自分の分を洗うとさっさと自室へ向かった。
割当られた部屋は寮生曰く「寮の三人部屋の二倍以上」というほどに広かった。
木製のしっかりしたベッドの横にモニターが乗った机と椅子があり、古い映画で写真屋が被るような黒い幕で覆われている。めくれば黒布は左右に立てたアクリル板に乗せてモニターを隠している、とやたら仰々しい。モニター枠の上部には首輪と同じ数字8の大きなシールが貼ってある。
(なら、コレは持って行った方が良さそうだな)
隣の3号室に友人のラーフルがいて、向こうにはこっちの部屋のハルジートと馬が合うダウドがいる。部屋を交換しようと決め今準備している。もう少しすれば10時半、広間で例の説明がある時間だ。
床をたどってパソコン本体を見つけ、
ブチっ!
コンセントを引き抜く。PCの上にモニターを乗せて歩きだすと、
「落とすなよ」
ハルジートが声をかけた。
面倒と言えばゲームを知っていると手を挙げたことで食事中もその後も質問攻めに合ったのには参った。「汝は人狼なりや」はアメリカかヨーロッパかで人気のカードゲーム、とどこかの動画で聞いただけで自分はそれ以上何も知らない。
ベッドは頭を壁に付ける方向に並び隣にPC机、その横の幅広の白いクローゼットには服や下着がかなり豊富に揃っている。これが四方に配置され、窓側はここだけ妙に安っぽい黄色のカーテンで仕切られている。
広間の床より少し灰味がかった寝室の床石はカーテン向こう奥行き1メートルほどではセピア色の石に変わっている。中の中央には四角い簡易トイレが鎮座していた。年寄りが使う類のものだろう。
端の窓下には小さな手洗い用の洗面があり、お祈りの前にお浄めが出来るとムスリムのダウドが喜んでいた。窓はご丁寧にも並んだ鋼板で外から塞がれている。どこまで逃したくないのかとこれまた異常だ。
おかしいと言えばモニターだ!
四人部屋の廊下側、ここではハルジートのスペースとドアをはさんで向かいのラケーシュが寝るはずだった場所の壁にそれぞれ大き目のモニターが掛けられている。おまけに天井にまでだ!
アルミ枠のより大きなモニターが白い天井の中央近くに下を向いて付いている。
部屋に三つとは何のつもりだろう。
そもそも、どこかわからない場所に監禁されクラスメートが次々と殺される異常事態の下、女子なら料理をしたり自分が明日の着替えを考えたりと普通の日常が入ることに違和感がある。
(……)
廊下側のドア横、肩より少し下の高さに手のひらより小さい銀色のプレートがあり四方に小さな赤いランプが光っている。各自ポケットなどに勝手に押し付けられたカードキー(シルバーの金属製で片面に大きく首輪数字のシールが貼ってある)を近づけるとランプが緑に変わり、ドアが開く。
自分の部屋だけで人の部屋には当てても開かない。何人もが試してそう結論付けた。だから今は隣の部屋のドアを椅子で開けっ放しにしてもらっている。
3号室へ足を踏み入れ奥へ進むと、
『Warning! Warning! Out of rules!』
部屋のモニターが点灯し、黄色い画面の上で黒い文字がおどろおどろしく点滅し始めた。例のサイレンの上に重なる女の声も繰り返される。
ディーパックは天井のモニターを眺めた。
(何だ?)
『Warning! Warning! Out of rules!』
2回目のそれがディーパックには生涯最後に聞いた音となった。
〈注〉
・ダル 豆(ダル)のカレー
・チャパティ 全粒粉などをこねて伸ばしたタネを焼いて作る平たいパン
まず女子の多くはパニックに陥っていて、それでも動き出した者たちは慣れない台所、各自違う食事の条件、普段とは違う大人数の調理にベジ・ノンベジ双方共失敗した。
ディーパックが聞いたのはベジのダルは煮崩れ過ぎているのに芯が残ったといい、ノンベジの方では煮具合は普通だったが煮詰め過ぎてグレービーがなく豆のカレーにならなかった。水を加えスパイスを加えを繰り返すごとに味が悪化ーノンベジのキッチンに男子でただひとり入ったルチアーノの証言である。
『修道会のイベントでよく手伝うから』
と力仕事のチャパティのタネ作りと焼きに参加し、焼き加減は女子が一切文句を言わない腕であったが寝かせもしないチャパティが美味しい訳もない。
チキンカレーはこれまたダル同様に調整を繰り返したそうでカルダモンだけが効き過ぎて他の味がわからなかった。
それでもノンベジ食堂はスティーブンやアッバースがとりなして「無事」だったが、ベジ食堂では文句を言う男子と女子の間でいさかいが起こり、喧嘩のうちはまだ良かったがそのうち女子が泣き出し始末が付けられなくなったと聞いた。
誰にとっても「母さんの味」が一番、この短い間に女子は良くやったと思う。
(自分が出来ないことで文句言うんじゃねえよ)
パソコン回りをチェックしながらディーパックは思う。
こうなるとジャイナ教徒故におそらく一番食事条件が厳しいバーラムが、
『僕の食べられるものは君たちには作れないと思う』
と最初から断り、食材庫を片っ端から漁った上でレトルトカレーと瓶詰めのアチャールを選びチャパティだけもらって済ませたのは賢かった。
学生寮のチャイ配りをしているという雑役夫は料理もと期待されたが、出来るのはチャイ作りだけだそうでベジ組は落胆していた。今頃彼は皿洗いをしているはずだ。
一方ノンベジ食堂では誰が皿を洗うかで多少もめたがディーパックは気にせず自分の分を洗うとさっさと自室へ向かった。
割当られた部屋は寮生曰く「寮の三人部屋の二倍以上」というほどに広かった。
木製のしっかりしたベッドの横にモニターが乗った机と椅子があり、古い映画で写真屋が被るような黒い幕で覆われている。めくれば黒布は左右に立てたアクリル板に乗せてモニターを隠している、とやたら仰々しい。モニター枠の上部には首輪と同じ数字8の大きなシールが貼ってある。
(なら、コレは持って行った方が良さそうだな)
隣の3号室に友人のラーフルがいて、向こうにはこっちの部屋のハルジートと馬が合うダウドがいる。部屋を交換しようと決め今準備している。もう少しすれば10時半、広間で例の説明がある時間だ。
床をたどってパソコン本体を見つけ、
ブチっ!
コンセントを引き抜く。PCの上にモニターを乗せて歩きだすと、
「落とすなよ」
ハルジートが声をかけた。
面倒と言えばゲームを知っていると手を挙げたことで食事中もその後も質問攻めに合ったのには参った。「汝は人狼なりや」はアメリカかヨーロッパかで人気のカードゲーム、とどこかの動画で聞いただけで自分はそれ以上何も知らない。
ベッドは頭を壁に付ける方向に並び隣にPC机、その横の幅広の白いクローゼットには服や下着がかなり豊富に揃っている。これが四方に配置され、窓側はここだけ妙に安っぽい黄色のカーテンで仕切られている。
広間の床より少し灰味がかった寝室の床石はカーテン向こう奥行き1メートルほどではセピア色の石に変わっている。中の中央には四角い簡易トイレが鎮座していた。年寄りが使う類のものだろう。
端の窓下には小さな手洗い用の洗面があり、お祈りの前にお浄めが出来るとムスリムのダウドが喜んでいた。窓はご丁寧にも並んだ鋼板で外から塞がれている。どこまで逃したくないのかとこれまた異常だ。
おかしいと言えばモニターだ!
四人部屋の廊下側、ここではハルジートのスペースとドアをはさんで向かいのラケーシュが寝るはずだった場所の壁にそれぞれ大き目のモニターが掛けられている。おまけに天井にまでだ!
アルミ枠のより大きなモニターが白い天井の中央近くに下を向いて付いている。
部屋に三つとは何のつもりだろう。
そもそも、どこかわからない場所に監禁されクラスメートが次々と殺される異常事態の下、女子なら料理をしたり自分が明日の着替えを考えたりと普通の日常が入ることに違和感がある。
(……)
廊下側のドア横、肩より少し下の高さに手のひらより小さい銀色のプレートがあり四方に小さな赤いランプが光っている。各自ポケットなどに勝手に押し付けられたカードキー(シルバーの金属製で片面に大きく首輪数字のシールが貼ってある)を近づけるとランプが緑に変わり、ドアが開く。
自分の部屋だけで人の部屋には当てても開かない。何人もが試してそう結論付けた。だから今は隣の部屋のドアを椅子で開けっ放しにしてもらっている。
3号室へ足を踏み入れ奥へ進むと、
『Warning! Warning! Out of rules!』
部屋のモニターが点灯し、黄色い画面の上で黒い文字がおどろおどろしく点滅し始めた。例のサイレンの上に重なる女の声も繰り返される。
ディーパックは天井のモニターを眺めた。
(何だ?)
『Warning! Warning! Out of rules!』
2回目のそれがディーパックには生涯最後に聞いた音となった。
〈注〉
・ダル 豆(ダル)のカレー
・チャパティ 全粒粉などをこねて伸ばしたタネを焼いて作る平たいパン
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