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第2章 これは生き残りのゲーム(2日目)
2ー3 殺人者
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ラジューが首輪をずり下げると赤い跡が露わになった。
ハルジートの遺体を囲み息を呑む。
「奴らは僕たちを薬で殺す」
火葬室前、スティーブンは静かに自分の首輪に手をやった。
「先生とマヤは違う。シャンティも少し疑問がある。こちらはどう思う?」
クラスメートたちの顔を見渡す。驚きや緊張、理解できないと首を傾げる者もいる。
「彼の顔は少し赤黒い。膨れてもいる」
死に方が他の者と違う。
「『人狼』が殺したってことか?」
沈黙を破ったのはナラヤンだった。
「誰がかはわからない」
小さく首を横にふる。
「首を紐みたいなもので絞められたようには見えるよね」
サントーシュが小声で呟く。
ハルジートの隣に寝かせているのはラーフルの遺体だ。
こちらはナラヤンたち同室者の証言で時間までに戻らなかったこと、直前に心配して叫んだところもうすぐだと返事があったことがわかっている。彼は男子棟への渡り廊下の中程で見つかった。
火葬室前に今朝ディーパックの遺体がなかったことから、親しかった彼を昨夜のうちに葬ろうと居残り、ぎりぎりで火葬室に送ったものの時間に戻れなかったのだろうと推測されている。
先に送った女子ふたり、パドミニとガヤトリについても同室のカマリの証言がある。
就寝時刻からそこまで過ぎない頃突然ドアが開いた。いけない! と叫んだのが多分パドミニで続いて足音がした。
奥のベッドからカマリが降りて部屋の電気を点けたところ、開いたままのドアからガヤトリの膝から下が室内に出ていた。引き寄せたところ彼女は死んでいた。今朝になってドア外にパドミニが倒れているのも見つかった。
これも、もうひとりの同室者が初日の切り札とやらを持っていたらしいシャンティであること、同じ切り札を持ち最後に部屋へ生還したサントーシュの証言を考え合わせれば想像はつく。
切り札の権利を行使しようと部屋を抜けたシャンティを、そうは知らないガヤトリとパドミニが止めようと飛び出し夜間外出禁止のルール違反を取られた。
ここまでをスティーブンは簡単に説明した。
「ハルジートの殺され方だけが異質なんだ」
「……」
「彼は昨日ひとりで2号室に寝ていた」
悔しい思いでクラスメートの亡骸を見下ろす。
同室のラケーシュ・ガーラブ・ディーパックは既に死んでいた。だから彼に昨夜何が起こったのか証言はない。
今朝、スティーブンとアッバース、ナラヤンとで男子の各部屋を確認して回った時反応がなかった。ドアプレートに点いているはずのランプは消えていて、押せばドアは開いた。
ハルジートはベッドの上掛け布団の上、仰向けで死亡していた。
「ハルジートに何が起こったのかはわからない。はっきりしているのはこの建物の中に殺人者がいるってこと。首輪で殺す人たちとは別に」
ナイナが髪を振って天井を仰いだ。
「気を付けよう」
隣のカマリをはじめ女子の方を向いていう。
「身を守らなきゃ」
彼女らの顔に恐怖が次々と浮かぶ。
「用心にこしたことはないな」
ダウドも低く言う。
「私は負けないから。あの人のために生き延びなきゃならないんだもの」
くるりと踵を返し、白い壁に向かってナイナは宣言した。
熱い空気だけは残るが先の遺体の燃え残り一つない綺麗な火葬室へハルジートとラーフルを送る。各々の祈りの後に広間の中央窓の前に戻り、7時となってシャッターが降りていく中最後の別れを口々に叫んだ。
朝食について言及した男子へカマリが、
「この状況でご飯を作れっていうの」
と返し、スティーブンは、
「そうだね」
と脱力するしかなかった。
空気が変わったのはまずラジューがチャイを持ってきたこと。
「寮でお出ししていますのでー」
アッバースたち寮生からもいつも朝7時にチャイが配られることが説明される。続いていい香りが漂ってきたかと思えばルチアーノが籠にチャパティを重ねて広間に戻って来た。
「ノンベジ食堂で焼いた。食べたい人食べて」
そしてナイナが、これはもう大きく、
「仕方がないなあ」
とため息を吐きながらもコマラと連れ立ってベジタリアン食堂へ向かいこちらもチャパティを焼いて戻ってくる。ラジューに持って来させた布巾を敷き、チャパティとチャイだけの朝食を広間の思い思いの場所で食べた。ほとんど黙ったままだった。
一晩寝かせたためか昨夜よりチャパティはおいしいとスティーブンは思った。チャイもいつも通りという感じの安心出来る味だ。
静かな時間は、それなりにでも腹が満たされると破られた。
ハルジートの遺体を囲み息を呑む。
「奴らは僕たちを薬で殺す」
火葬室前、スティーブンは静かに自分の首輪に手をやった。
「先生とマヤは違う。シャンティも少し疑問がある。こちらはどう思う?」
クラスメートたちの顔を見渡す。驚きや緊張、理解できないと首を傾げる者もいる。
「彼の顔は少し赤黒い。膨れてもいる」
死に方が他の者と違う。
「『人狼』が殺したってことか?」
沈黙を破ったのはナラヤンだった。
「誰がかはわからない」
小さく首を横にふる。
「首を紐みたいなもので絞められたようには見えるよね」
サントーシュが小声で呟く。
ハルジートの隣に寝かせているのはラーフルの遺体だ。
こちらはナラヤンたち同室者の証言で時間までに戻らなかったこと、直前に心配して叫んだところもうすぐだと返事があったことがわかっている。彼は男子棟への渡り廊下の中程で見つかった。
火葬室前に今朝ディーパックの遺体がなかったことから、親しかった彼を昨夜のうちに葬ろうと居残り、ぎりぎりで火葬室に送ったものの時間に戻れなかったのだろうと推測されている。
先に送った女子ふたり、パドミニとガヤトリについても同室のカマリの証言がある。
就寝時刻からそこまで過ぎない頃突然ドアが開いた。いけない! と叫んだのが多分パドミニで続いて足音がした。
奥のベッドからカマリが降りて部屋の電気を点けたところ、開いたままのドアからガヤトリの膝から下が室内に出ていた。引き寄せたところ彼女は死んでいた。今朝になってドア外にパドミニが倒れているのも見つかった。
これも、もうひとりの同室者が初日の切り札とやらを持っていたらしいシャンティであること、同じ切り札を持ち最後に部屋へ生還したサントーシュの証言を考え合わせれば想像はつく。
切り札の権利を行使しようと部屋を抜けたシャンティを、そうは知らないガヤトリとパドミニが止めようと飛び出し夜間外出禁止のルール違反を取られた。
ここまでをスティーブンは簡単に説明した。
「ハルジートの殺され方だけが異質なんだ」
「……」
「彼は昨日ひとりで2号室に寝ていた」
悔しい思いでクラスメートの亡骸を見下ろす。
同室のラケーシュ・ガーラブ・ディーパックは既に死んでいた。だから彼に昨夜何が起こったのか証言はない。
今朝、スティーブンとアッバース、ナラヤンとで男子の各部屋を確認して回った時反応がなかった。ドアプレートに点いているはずのランプは消えていて、押せばドアは開いた。
ハルジートはベッドの上掛け布団の上、仰向けで死亡していた。
「ハルジートに何が起こったのかはわからない。はっきりしているのはこの建物の中に殺人者がいるってこと。首輪で殺す人たちとは別に」
ナイナが髪を振って天井を仰いだ。
「気を付けよう」
隣のカマリをはじめ女子の方を向いていう。
「身を守らなきゃ」
彼女らの顔に恐怖が次々と浮かぶ。
「用心にこしたことはないな」
ダウドも低く言う。
「私は負けないから。あの人のために生き延びなきゃならないんだもの」
くるりと踵を返し、白い壁に向かってナイナは宣言した。
熱い空気だけは残るが先の遺体の燃え残り一つない綺麗な火葬室へハルジートとラーフルを送る。各々の祈りの後に広間の中央窓の前に戻り、7時となってシャッターが降りていく中最後の別れを口々に叫んだ。
朝食について言及した男子へカマリが、
「この状況でご飯を作れっていうの」
と返し、スティーブンは、
「そうだね」
と脱力するしかなかった。
空気が変わったのはまずラジューがチャイを持ってきたこと。
「寮でお出ししていますのでー」
アッバースたち寮生からもいつも朝7時にチャイが配られることが説明される。続いていい香りが漂ってきたかと思えばルチアーノが籠にチャパティを重ねて広間に戻って来た。
「ノンベジ食堂で焼いた。食べたい人食べて」
そしてナイナが、これはもう大きく、
「仕方がないなあ」
とため息を吐きながらもコマラと連れ立ってベジタリアン食堂へ向かいこちらもチャパティを焼いて戻ってくる。ラジューに持って来させた布巾を敷き、チャパティとチャイだけの朝食を広間の思い思いの場所で食べた。ほとんど黙ったままだった。
一晩寝かせたためか昨夜よりチャパティはおいしいとスティーブンは思った。チャイもいつも通りという感じの安心出来る味だ。
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